異世界探求伝 第八十四話 ブートキャンプ後半ー境界の森の魔物たち
今回のお話は、かづき達の狩りが中心となります。
いざ、境界の森へ
かづきたちの隊は、それぞれ三方向に分かれて合流地点へと向かっていた。
進行方向から向かって左翼にビームス率いる白赤隊、そして右翼はバーミヤン率いる黄緑隊であった。 かづきらは進行方向の真ん中を直進しているが、これは左右どちらにでも援護に行ける位置であるからだ。 何かトラブルがあれば、即座に信号弾が打ち上がる手はずは整っている。
自称紅隊の皆も、伸び伸びと狩りを楽しんでいるようだ。 特にモモとミクの二人は山賊たちと出会った冒険が、本格的な魔物狩りでありその時の楽しさが忘れられないようで、まるで遠足のように楽しんでいるかのように見える。 これまで仕留めた獲物は、ダイアウルフ五頭、ルビ・スネイク一尾、ボアハッグ七頭、カルチャーグ三尾ラビホーンF九尾だが、かづきが初見の未知の獲物が三種類も混じっている。
結局ルビ・スネイクと、カルチャーグの戦闘には混ぜてもらいたかったが、初見の獲物はラビによる情報の開示を即座に行いつつ、見てる間に戦闘は終了していく。 ディアンヌというと、彼女は我が道を行くかのように、ゴーレムのアロンを従えて黙々と採取に勤しんでいるようだ。 アロンが付いていれば特に問題は無いが、アロンの背負子の籠が満タンにならなければ戻って来ないのは、心配なので勘弁して欲しいところだ。
かづきもラビを使い気配探知を行っているので、特に問題が起こる事も無いだろうと安心している。 まずはダイアウルフとの戦いだが、ランクDの魔物であり、体長二メートルほどの灰色狼で、強靭なあごと脚力を持ちスタミナは抜群である。 集団戦が得意で、血の匂いをかぎ分けどこまでも得物を追いつめる執念深さを持つので、仲間を呼ばせずに素早く倒すのがコツだろう。
「ジュリナ! 左右を遮蔽するから受け止めて頂戴、モモ、ミクは左右からの攻撃よ」
「任せてミシー! さあ、かかってらっしゃい、ヘシキリの露にしてやるわ」
「モモっ、マモリガタナの出番よっ」
「あいっ、けがわ、けがわっ」
『大地に眠る土粒の落としもよ・山肌を這い上り屈強な防波堤となりて・汝が獲物の左右を妨げよ』
『マッド・ウオール!』
紅隊の四人は実にうまく戦闘をこなしていた。 ミシェータがガーディアン役であるジュリナの前方に、ハの字の土壁を作り出したおかげで、ダイアウルフが囲めずに直線上で来るしかないように仕向けている。 ジュリナは注意深く前進しながら、ダイアウルフの鼻先を左右に上手くいなすと、ジュリナの背後にいるモモとミクが、同じく左右に分かれて喉笛だけを狙って仕留めている。
「カルチャーグが居るよ。 いち、に、三匹」
「今度は一人づつやってみようかしら、わたし試したいことがありますの」
「いいよ、ミシー。 守るから障壁だけ頂戴」
―カルチャーグ― ランクc
フロッグ系のモンスターは通常、この脚力を飛ぶ事に使っているのだが、こいつの筋力は凄まじいものだ。
蹴り蛙とも呼ばれ、後ろ足の踵に棘が無数に在り、蹴り上げる、薙ぎる、等の攻撃を仕掛けて来るのである。 森林に住み着き、その棘は丈夫な革鎧をも簡単に引き裂く力を持っている。
素材部位:皮、腱、棘足
可食部位:腿肉
ミシェータは頭部ほどある水球を作ると、カルチャーグに向かってゆっくりとその水球を押し出していくようだ。 同時に愛刀であるライキリに魔力を込めると、風魔法を使い瞬時に水球目がけて投げ放ったのだった。 カルチャーグは水球に気を取られていたが、水球が破裂した時には既に彼女のライキリが魔物の眉間に深く突き刺さり、込めておいた魔法が炸裂し電撃による火花がかすかに見えたのだった。
「凄い凄い、ミシーねえ様 あたしたちも使いたーい」
「ふぅ、破壊力充分ってとこね。 わかったわ、残りはモモとミク頑張って」
「はい! モモ、私があっちあなたはこっちね。 グルグルしたらトーンとしてバーンと飛んで、ドーンって殺っちゃいましょ」
「あいあいー」
さすが二人の会話はへんてこりんだが、息が合うのか比喩だけで理解できるようだ。 ジュリナは盾役で、カルチャーグの気を引く作戦の様で、魔物が後ろを向いた瞬間にミクがモモとの連携で上手くタイミングを合わせ、愛刀シャボンを頭部に突き立て瞬殺していた。 気が付くと三頭目はモモが同様に、愛刀サザレイシによる一撃で倒していた。 俺もと思っていたが、全く出番は無いようである。
「えっとー、蛇いちだよ。 目が綺麗なの」
「うん、ルビ・スネイクだわ。 任せて」
「毒吐きに、お気を付けなさいジュリナ」
―ルビ・スネイク― ランクC
赤い目が特徴で、体長が七m、太さは三mとずんぐり体形の大蛇で非常に獰猛なうえ、敵の目に毒の液を吹きかけひるんだ隙に強靭なあごで噛みつき攻撃する。 毒は弱いが視界を阻害させる効果がある。
素材部位:毒腺は薬効 肉は美味 赤い目のレンズ部分は宝石に使われる
ルビ・スネイクは、障壁を掛けてもらったジュリナがソロで挑んでいた。 盾で顎を前後左右に殴りつけながら、ひるんだ隙に顎から頭部に突き抜ける一撃の破壊力には恐れ入る。 さてさて獲物も貯まり、ディアンヌも戻ってきたようなので、休憩がてら解体作業に入る事にした。
「よし、俺はディアンヌの仕分けの手伝いをしよう。 アロンは見張りを頼むな」
『ンガー』
「野草が多いのよ。 根っこは切らないで濡れた苔で覆って下さいませ。 砦村で色々育ててみますわ」
「オッケー、これはセリだな、こっちはクンクン、パクチーみたいだな。 おっ、これってマンドラゴラ?」
「それは、ブルガリスね。 かじってみると甘いのですわ」
「モグモグ、おお、中は人参みたいで甘いな。 砂糖が作れるぞ」
「標高の高い山でしか育ちませんのよ。 品種改良で量産できるかもしれませんわ」
「ふむ、それはいいな。 ヤム芋も大量だな」
「ふふっ、オコノミヤキに必要なのでしょ。 これは切って増やせますわ」
「ハハハ、いいな。 おっ、この白いのは違う種類の芋だな」
「カズキ様、こちらの袋は木の実で、こちらはキノコ入りですわ。 もう入らないので、お願いします」
「ああ、んと、ハイ袋空いたよ」
「カヅキ様の袋は、どのくらい入るのですか?」
「ん、特別製だからな、わかんないや」
「残念ですわ、売ってないのですね」
「カヅキ、こっちも解体終わったから、お願い」
「ああ、ジュリナか、すぐ行く」
「キャハハ、おもろーい」
「何やってんだ、モモ、ミク」
「これこれ、面白いのよ、にゅーんってなるの」
「なんだそれ?」
「カルチャーグの足の腱よ。 魔力に反応するわよ」
「へーっ、伸びたり縮んだりすんのか。 ミシェータ、何に使うんだ?」
「そうね、色々使い道はあるけど、馬車の連結部とか、魔力封じの首輪に使われてるのも有名ね」
「成程ね、でも切れないのか?」
「魔力が通っていたら、切るのは難しいわね。 だからこうやって素材段階で加工するのよ」
「へー、カニカマみたいに細く裂けるんだ」
「何? カニカマって」
「ハハハ、こっちの話さ、で細く裂いてどうするんだ」
「好みの太さに裂いたら、糸みたいに縒るか編み込みするのよ。 丈夫になるわ」
「成程、人形作りに使えそうだな」
「ああ、良いかもしれないわね。 早速試してみるわ。 ミク来て頂戴」
「いやいや、後にしてくれ。 先へ進もう」
「はーい」
こうして探索再開をしたのは良かったが、再び希少な魔物を見つけると、かづきは見逃さずにはいられなかったのだ。
「あっちで凄んごい、良い香りがするんだけど」
「ミクが見てきますわ」
「成程、気に登った方が早いってわけか」
「んと、こっちですわ、おねえ様たち」
あまり警戒せずに進んでいるので、危険な生物ではなさそうだが、近づくにつれかづきもその匂いがフルーツの香りである事がわかってきた。 森が開けた場所だが、そこだけはまるで別世界のような光景が広がっている。 その開けた場所一面には、大小さまざまな花が咲き乱れており、その中でも一段と大きな花が、その香りを辺り一面に放っているのが即座に理解できたのだ。
「凄い、大きな花だな」
「あっ、近づいてはなりません。 カヅキ様」
ディアンヌが言うのが早かったのか遅かったのか、かづき達は好奇心一杯にその花に向かって、走り出してしまったのだった。
―ワーム・ラフレシア― ランクC
オレンジ、赤、黄色のひまわりのような大輪の花は上を向いており、実は食虫植物で花芯に見えるのがこの花の実である。
香り高い実は鳥や獣、虫などを誘い、花の部分に触れると花托ごと巻き込まれ、そのまま包み込まれる。
根に見える部分は土に隠れており、周囲の振動を感知し触手でからめとり花のような胃袋に放り込まれる。
素材部位:触手は傷口貼り薬となる
可食部位:花芯果実
『きゃっ、やーっ』
モモとミクそしてジュリナの三人は、地面から延びてきた触手で、その足をからめとられてしまっていた。 かづきは瞬時に背後へと飛びのき、ミシェータは足が遅いのが幸いしてか、瞬時に踏みとどまって難を逃れていた。 武器も持たずに飛び出してしまった三名は、その触手が全身に巻き付いて身動きが取れない。
「で、燃やすのか?」
「何をおっしゃいますカヅキ様、ワーム・ラフレシアはランクCながら、花芯は一本だけでも金貨で売られるほどですわ」
「へぇ、希少種なんだな。 じゃ取り敢えず触手を切ればいいな」
かづきは、大刀セセラギを柄を握りしめ、ゆるりと刀身の棟を鞘に滑らせるようにして、刃を引き出すとその刀身は濡れたように青白い輝きを見せていた。 カヅキは地面から突き出している触手を手早く切りながら、ミク、モモ、ジュリナの順番に相手を受け止めて、こちらへとポイと転がしたのだった。
「ひどーい」
「乱暴!」
「愛が無いわ」
「おいおい、折角助けてやったのに、酷い言われようだな。 それともあのまま喰われちまったほうが良かったのか?」
「ワーム・ラフレシアに飲み込まれたら最後、骨も残りませんわよ」
『ヒィイ』
「第一、お前達が武器も持たずに近づくのがいけないんだぞ、少しは反省しろ!」
「そうよ、わたくしはいつもライキリを携えていますわよ」
『はーい』
「それはそうと、その触手鮮度の良いうちにカヅキ様が保管を」
「うん? 何に使うんだ」
「えっと、ジュリナさん膝を少し擦りむいていますわ」
「ははーん、大したことないわ。 直ぐに治るもの」
「いいからお見せなさい」
ディアンヌは、触手を筒切りにすると縦に開いて平らにすると、内側の薄い膜を器用に剝がし取って、ジュリナの傷口に貼り付けると、ヒールの魔法を唱えて見せたのだった。
「へっ! 傷が消えた」
「ええ、正確には修復が行われたのですわ。 これを使うと即効性がありますのよ」
「んと? 絆創膏かな」
「いいえ、正確には皮膚に同化するのですわ」
「ふむ、そうなのか・・・アロン、こっちへ来い」
「ンガ」
「手を出してみろ」
「何をなさるおつもりですの?」
「実験だな」
興味深そうに周囲が見守る中、かづきは触手に一連の作業を行いアロンの手に乗せると、ヒールを唱えて見せた。
「駄目だな、もう一度」
再度同じように、加工した薄い膜をアロンの手に乗せ、今度はヒールでは無く魔力を注ぎ込んでみたのであった。
「おっ、良い感じだな」
「カヅキ・・・これって」
「おにいさま・・・」
「うんうん」
三人は見つめ合い、直ぐに誰ともなく抱き合ってしまっていた。
「これで、人形製作がさらに加速だわ」
「そうだな、皮膜と腱を組み合わせれば、声帯も作れるぞ」
「えっ! お兄様それって」
「ああ、喋る事もできるようになる」
『きゃー、やった』
人形制作に携わっていないジュリナ、モモ、ディアンヌは何やらきょとんとしていたが、事の次第を細かく教えると、それぞれ目を輝かせていたのだった。
「じゃ、触手を取れるだけ取って行こうか」
「ああ、カヅキ様くれぐれも希少種ですので、取り過ぎないように、捕食できなくては枯れてしまいますわ」
「ああ、わかったディアンヌ、まずはお前から協力して貰おうか」
「え? えっ、きゃ止めてくださいまし」
「ふふふ、触手が沢山絡みつくまでの我慢だぞ」
「い、いやぁー!」
「ふふっ、じゃこっちも始めますか、ミシェータ」
「えっ! ま、まさか」
「ええ、そのまさかよ。 貴女も協力しなさいな」
「い、いやぁー! 助けてカヅキ」
「すまん、これも人形制作の為だ、頑張って絡まれて来い」
「ふふーん♪ えい!」
「ぎゃー」
「さぁ、ジュリナ、お前もだ」
「え、えっ!? なんで」
「モモとミクは小さいから触手も少ないんだ。 行ってこい!」
「いっやぁー!」
「さてさて、モモとミク触手カットは任せた、俺は回収係に専念する」
『あーい!』
こうして、ジュリナ、ミシエータ、ディアンヌ達大人の女性たちを餌に、触手の回収が始まった。 勿論高価だと言われる花芯も、ついでにちゃっかりと回収したのは言うまでもない。
ジュリナ:もっと食べたかったわ
ミシェータ:そうねぇ、あんな美味しい果物がこの世にあるのね
ディアンヌ:カヅキ様の事だから、何かまたお考えなのですわ。 それよりも・・・
ジュリナ:そうね、お仕置きが必要だわよね
ミシェータ:ふふ、覚悟なさいモモ、ミク!
『ひぃ』




