異世界探求伝 第八十一話 閑話-レディメシアふたたび
大和メシア目線の閑話入ります。
タウルス冒険譚は七話のネット配信放送も無事終了し、おおむね好意的に受け取られていた。
しかし、やはり一番目を引いていたのは金銀財宝の類であり、ネット局に沢山の問い合わせが来るのはそのせいであったのだろう。 いつの世も金に目がくらむのは人の道理であり、男は財力と権力欲そして色気で、女は財と名声そして美貌というのは、いつの世も定番なのだ。 そしてその財力さえあれば、たいていのものが手に入るのも間違いのない事であった。
人は愛さえあれば、他に何も要らないとは言うが、残念ながらそれは永遠にという意味ではない。 短い恋だからこそ美しく映えるものであって、数十年も男女が夫婦生活を送ると、そのほとんどはどこか破たんしているものだ。
レディ・メシアは、そんな人間の生活に虚しさなどは、一つも感じてはいないかった。 彼女の存在理由はただ一つ、争いの無い人類の幸せを維持する事なのだ。 これは彼女を産み出した『大和武博士』の意思であり、彼の最大の願いでもあった。 いつの世も争いの種になるものは、技術力とエネルギーである。
この世から争いを無くすことは出来ないのだろうが、戦争を無くす事は可能だった。 それは大和武の娘的存在であるメシアの動向次第である。 彼女は真っ先にこの技術力の抑制を図ると共に、化石由来のエネルギーである、石油や天然ガスや石炭がこれにあたるが、酸性雨やスモッグなどの原因にあたる窒素酸化物や硫黄酸化物の問題で、使用には制限設けられているのだ。
現在エネルギーは、ほぼ電気エネルギーに限られている。 電気は西暦1700年代にフランクリンが凧と雷によってその証明をし、1800年に乾電池が発明されると、その需要は飛躍的に伸びたのだった。 現在化石燃料の使用は、制限があるがそれは燃焼システムと排煙脱硝法による削減が義務付けられており、これに違反すると利用できないようになっている。
もう一つの懸念であった二酸化炭素やメタンガスも、メシアの作った回収システムによって回収され、二次エネルギーとして活用されている。 二十世紀では地球温暖化の温床とされてきたが、Co²は藻類を育て光合成を行う作業に利用され、その藻類も食料や肥料に飼料など、多方面で使われている。
またメタンガスは、Co²の4倍もの温暖化作用がある事でも知られ、危険視されていたがこれも回収する事で再生エネルギーとして活用されている。 現在ニ十三世紀の地球では、すべてがリサイクルの輪にはめられており、生産力の向上と共に同じく再生利用の輪が決められているのだった。
当然ごみの分別も、かなり細かく行われているのだが、ごみ箱自体に分別能力がある為に、人間が手を取る事も無いのだが、逆にポイ捨てはいかなる場合にも、厳しい罰則が適応されている。 これはどの国も同じで、それは二十世紀で一番厳しいとされてきたシンガポーの国並みの厳しさである。
こうしてメシアはエネルギー問題と共に、技術力の抑制を行った為、兵器を使った大きな戦争は無くなって行った。 また大きな兵力を持っても、メシアの抑止翼の方が大きく先頭不能状態にされるだけなのだ。
また、最新のロボット生産もメシアの受注によって賄われており、どのような産業であってもこうしたロボット技術が使われている為、メシアに反抗する事はすなわち生産力がほぼ0と、無力化されてしまうのであった。
こうして考えると、マザーコンピューターの支配者である大和メシアは、神のような存在なのかの知れない。 いや、神よりももっとたちの悪い存在が、大和メシアの存在そのものなのだろう。 なぜならば、現実に存在するからだ。 しかし、基本的には個人的に動く事は無いので、各国が戦々恐々と知る事はまずないのだが。
世界平和連合には、ほとんどの国々が参加しており、この連合国の相談役という役目が大和メシア事、レディメシアの役回りだ。 この会合によって論議が交わされ、結果としてメシアの元に情報が流れて来るが、その情報やメシアの招集を行えるのは、常任理事国筆頭のジャパンと言うわけだ。
しかし、世界ポリスという存在である世界平和連合にも敵が存在する。 それは民衆という名の世論であったり、地下に潜むテロリストというものだ。 反社会的なものには、テロリストの名前が付くのだが、事はそんなに簡単なものではない。
考え方は同じ日本人でも違うのが当たり前の事で、ましてや思想やお国が変われば、反乱分子というものは星のあまたの如く増え続けるのも道理である。 従って刑法に照らし合わせて、犯罪にあたるものだけがテロリストという概念にあたるのだ。
彼らは自由の名の下に暴力に走る。 まことに身勝手なものだが、自分の考えを押し付ける割には、他人に耳を貸さないのが彼らの流儀らしい。 いくら大和メシアがマザーコンピューターを駆使して、世界を把握できたとしてもそれはデジタルの世界だけの話であって、いくら優れたテクノロジーがあろうとも、やれない事は沢山あるのだ。
メシアはテクノロジーの氾濫は、人類の破滅を予想していた。 つまり、機械化が進めば進むほど、ヒトは不要な存在になり、存在意義を無くしたものは無力になっていくしかないのだ。 福祉も同様で行過ぎた福祉は同様に人を駄目にしていく。 人は走る事を止め、運動の意義さえ失われていくだろう。 栄養さえ取れれば食べる事さえ無駄に感じて来るのかもしれない。
こうしたことを踏まえて、行過ぎたテクノロジーの流出をあえて抑えているわけだ。 メシアのお陰で、地球にもかつてないほどの自然が蘇っている。 豊かな自然は豊かな心を産み出し、そして豊かな人間を作って行くものだ。 それはかつて彼女を創った博士の言葉でもあったのだ。
現代の人類の多くは暇を持て余していた。 職業の質も大きく変わり、仕事のほとんどはホームワークへとそのスタイルを変え、ソーホーやスモールオフィスという形態になり、人間は労働力となるヒューマノイド相手の指示が主な業務になっており、家庭用ヒューマノイドが全てを管理していると言っても過言では無かろう。
かといってこのヒューマノイドが、家事や育児を直接行うのではなく、ヒトの指示によって電化製品や機器に指示を与え、動かしているのでヒトは最低限の事は行わなくてはならないようになっています。 育児や子育てもライフワークの一つとなっており、食事もそうしたものの一つで、基本的に日常の食事は栄養価の高い固形食やパウチ食品にドリンクが一般的で、食事を楽しみたい場合に料理を作るというのが今や日常の姿であると言えるでしょう。
ヒトは余暇を楽しむ為だけに仕事をこなし、食事をし運動を楽しむ。 もちろん人間だけしか行えない昔ながらの伝統工芸なども残されていますが、廃れる事はありません。 むしろ、そうした技術を持つ人達は、人々から尊敬されそれなりの待遇を得ており、その道を志す人も多いわけです。
しかし、中には悪い方の伝統を守る輩も多く、レイシストも多くミサンドリーやフェミニズムといった概念も、多く根付いているのが現状である。 その為その対処法の多くは、教育機関によって世界規模で平等思想などの情操教育も行われているが、ヒトに個別の能力がある限り、その優劣の差が出るのは必然的で、堂々巡りの対応と一部形骸化しているのも、やむを得ない事なのだろう。
そうした理由で、同じ思想を持つもの同士で集まる事になるのも仕方のない事で、せいぜい犯罪を犯さないように見守るしかないというのも実情であった。 その為、新たなプロパガンダを産み出す必要性もあり、自由主義の名の下に大まかな線引きも行われている。
『我々人類に希望を!』
『人類本来の自然へ帰ろう!』
『近代文明なんか、クソっくらえ!』
「レディメシア様ストラリア国デ 一部住民ト デモ隊ガ 揉メテ居ルヨウデスガ」
「あー、うん、ほっときなさい。 いつもの事だわ」
「一部レジスタンスノ 動キモ活発ニナッテ イルヨウデスワ」
いつの世のデモ隊も、『解放と自由』の名の下に崇高さを主張するものだが、彼らは現在の文明を全て捨てさせ、まるで古代の文明に逆行したいかのように運動を行っている。 進み過ぎた文明は人類の役割を失わさせ、骨抜きにしてしまうと訴えかけているのだ。
レジスタンスもこれに呼応して動いているようだが、その来ている服も靴も食べている食事でさえも、全てが文明のお陰である。 本当に全てを捨てて生活をやって行けるのであろうか? それとも、最低限の都合のいい科学だけを残し、過ごしたいのだろうか?
実は裏を返せば、なんてことはない。 文明の恩恵を受けながら反対運動する事で、それを材料に無知な金持ちから資金を得ているだけなのだ。 団体名を公にマスコミに流す事によって、その知名度は上がり著名人たちもそれに乗っかる事で、売名行為をしているだけなのだ。
TVやネットで流れるCMだと具体性や主体性があろうとも、垂れ流しで人の心は打てない。 しかし、同じ事を生身の人間がやる事で、そこに悲哀や情緒が画面に映し出され、共感を得る事ができるのだ。 涙を流しながら膝から崩れ落ちる映像を見ただけで、庶民は共感しいつの間にか感情移入をしてしまう。
「それよりも計画は上手く行っているのかしらね、マザー」
「ハイ、タウルス移住計画ハ 順調ニ進ンデイマスガ 犯罪者以外ノ移住ハ 選別ガ難シク困難デスワ」
現在タウルス移住は、基本的に重犯罪者が対象である。 二十一世紀ならば死刑にもできた犯罪者も、二十三世紀では死刑は廃止され、現在はキャリッジ・リターンプログラムの名の下で、意識改革を行うのが刑務所の在り方になっている。 しかし、現実はそううまくいくものではなく、再犯率の高い犯罪者は後を絶たないのである。
結果、再犯者で無期以上のものが、タウルスへと研修目的で送られているのだが、犯罪者と言えども同意を得たうえで行わなければならず、契約もきちんと取り交わされているのだ。 「NO.9650」のラットとされている被検体、黒川かづきの例は特例で本人に死の危険が近づいていた為、緊急避難措置の特例としてタウルス行きが支持されたのだった。
他にも著名人が数人いるのだが、誰もが死期が近づいていた高齢者や、特例により贈られた者達ばかりである。 本音を言えば、それぞれの業種ごとに送り出したいところだが、誰もと言うわけにはいかないらしいのだ。
先日の著名人は、マーシャルアーツの世界チャンピオンであった軍人が、タウルスに派遣されたが、魔獣との戦いで返り討ちに合い、死亡が確認されたのだった。 彼は確かに強く、剣術大会でもハンマーを片手に優勝を飾っていたが、魔法の盛んな星で毒でも何でありの世界では、体がいくら強くても一定の知識が無ければ生還は難しいようである。
「あぁ、私も行ってみたいわ・・・」
「レディメシア様 ソレハ理解シカネマス 不可解ナ行動ハ人類特有ノモノデ SAIニハ不必要カト思ワレマス」
「実体験は、コアなデータ収集を可能にするわ」
「確カニ理解可能デスガ タウルスニハ メシア様ノ入ラレル デキャンタモ アリマセンワ」
「そうね、かづきが作ってくれないかしら」
「NO.9650ノラットヲ俗名デ オ呼ビニナラレナイデ下サイ ソレニメシア様ノ望ム 美味シイモノモゴザイマセンワ」
「まぁ、それも含めて手が無い事も無いわね。 さぁ、タウルスの続きでも見ようかしら、映して頂戴、マザー」
「畏マリマシタ デハNO.9650ノラット 黒川カヅキノ前回ノ続キヲ オ見セシマスワ」
映像はかづきが丁度、砦村を作り始めた頃に遡った映像である。 何やら工房を次々と建て始め、新しく開発された商品が次々と作り上げられている。 クラークが差配し取引商人に渡して、受取証を貰っているが、一種の手形のようなものなのだろう。
多くの商品が丈夫そうな収納袋に詰め込まれ、それを木箱に詰めて持ち運ぶ者なので、かなりの量が詰め込まれているのだろう。 馬車はいくつか分散され各地に散らばって行ったようだ。 ズナンの森の後は、その採取してきたまゆの行方をしばらく観察している。 採取されたまゆは、お湯の入った大鍋に入れられるとそのまま冷まされる。
大きな繭は子供の頭ほどあり、かなりの大きさだがこのまゆは、たった一本の糸によって作られている。 たぐり棒で引き寄せられた糸は、手動の巻き糸器でからめとられ一本の綺麗なシルクが作られていく。 その後画像は、練兵を行うブートキャンプの画像を出していたが、大和メシアはそれを興味深げに見ながら、アロンを見て目を輝かせていた。
次回はブートキャンプシリーズの、境界の森探索続きとなります。
三隊に分かれたかづき達は、それぞれの行竜地点を目指し探索を行いますが、さて、何が起こるのやら。




