異世界探求伝 第八十話 ブートキャンプ後半ーいざ!境界の森へ
サキュバス達の生態を調べてみると、意外な事がわかった。 つまりは彼女たちの生まれ持って持っているスキルを有効に使う為に、オスの蛋白を摂取していたようなのだ。 恐らく同時に魔力などのエネルギー供給も得ていたようだが、当座のところはこれに対処できる方法があると確信したのだった。
「さぁ、みんな起きて顔洗え。 飯食って出かけるぞ」
「あ、うん」
「おはよ」
「おきたぁ」
「おはようございます。 カヅキ様」
「おにぃ様、おはよう」
「ドアの前に居るから、着替え終わったら言ってくれ」
「別にいいのに、居ても」
「馬鹿、ディアンヌがいるだろ」
「ああ」
「わたくしは気にしませんわ」
「うーん、でもこっちが気にするよ、ハハハ」
こうして、着替え終わった女性陣を引き連れて、サキュバス達のいる食堂へと赴いた。 男は俺とムチンだけだが、ムチンには可愛そうだがマスクをして貰っている。 やはり、自分の作った食事の評価を直接見たいというのは、料理人の心理なのでかづきは気を利かせたつもりでいるのだ。
かづきは、サキュバス達淫魔族を集めて試食会を開くつもりでいる。 彼女たちが食事を普通に摂れる事は理解したが、いかんせん好みや味付けは未知数であるからだ。 取り敢えず、カヅキの持っている食材で、色々と作ってはみたが、口に合うのかは未だ不安で、これはムチンも同様の様で少し緊張しているように、マスクの上からでも感じ取る事ができた。
女性陣を連れてきた訳は、万が一の事が無いように、セーフティーガードのつもりである。 あの丸薬の衝撃の辛さは特筆するべきものがあったし、効果のほどは十分すぎるほどに理解していた。 おかげでかづきは、マスク無しでもチャームに対する耐久力が、異様に上がったような気がする。
元々かづきが、魅了に対して耐性が高いのには訳があり、それは地球での生活環境に端を発している。 ジャパンではある程度の規制はあるが、過去にあったエロデータがこれでもかという量で、裏取引が行われており、それらを見聞きする事もあり、自分で体感していなくともそれなりの見識力が高いのであった。
サキュバス達の為に、用意できた食事は次の通りであった。
・白インゲンのポタージュ
これは昨夜のスープの残りのオオマメを集めて細かくし、ミルクを入れて調整したものだが、味は豆の味だけでかなりの薄味である。
・洋風茶わん蒸し
洋風茶わん蒸しはコンソメロワイヤルがあるが、本来はスープに浮き実として入れてあるので、茶わん蒸しとは別物だ。 この洋風茶わん蒸しは、昨夜のスープがベースになっており、春雨を入れてオダマキ風にしてみた。
・ミルク豆腐
これは白いんげんで作ったでんぷんと、ミルクを水で割ったもので練り上げて作っているものだ。 くずもちよりも柔らかく豆腐のようにきめ細かいのが特徴で、冷まして固めた後にスープで作った餡をかけてある。
・トロトロテール焼き
これはスープの出汁取りに、骨と一緒にブツ切りしておいたワイバーンの尾の輪切りである。 スープでうす味が染みている為、そのままフライパンで焼いて焼き目を付けた後で、香り付けに強い酒をフランベしてある。
・極平パスタのカルボナーラ風グラタン
小麦粉を練って寝かせず伸ばして平切りの面に仕立てた。 ベシャメルはバターと小麦粉、そしてミルクで仕上げチーズでコクを出して、平麺と絡めた後にソースを上から掛けて、パン粉を散らして焼き目を付けたものだ。
・餡かけタコぬき焼き
小麦粉とスープ卵で練り上げた衣で具無しのタコ焼きだが、魚粉を振りかけスープで薄めたウスターソースベースの餡を乗せて、マヨネーズを化粧掛けして完成。
・紅スグリのムース
昨夜の残りものだが、ジャムは薄めて甘さ控えめで完了。
「さぁ、淫魔族の皆さんどうぞお召し上がれ」
「ここにいるムチンとで作ってみたんだが、口に合わなかったら言ってくれ」
「旦さん、有り難うございんした。 では過分なきお計らいに甘えまんして、含味させてもらいんす」
こうして、サキュバス達の試食が始まったが、我が女性群はムチンが用意した正規の食事を食べている。 物珍し気に欲しそうにしてはいたが、これらは淫魔族の特別料理で、柔らかくそして味も繊細な味付けがなされているので、彼女たちの口にはとうてい合うまい。 丁重にお断りして、普通の食事を食べてもらったわけだ。
「こなたの白インゲンのポタージュでありんすか? 美味しい味付けでありんすね」
「洋風茶わん蒸し! えらいわっちの口に合いんす」
「如何なる仕口でありんしょうか こなたのミルク豆腐」
「トロトロテール焼きでありんすが、口に入れると、とろけるような食感で、甘美な味わいでありんすぇ」
「いえいえ、こなたの極平パスタのグラタンでありんすが、口にした事もありんせん」
「いやはや、タコぬき焼きも侮りゃんせん」
「わっちは、こなたのムースがとろけんして、気に入りんした」
サキュバス達の食事風景はかなり優雅なものである。 各自利き手の逆手には、大きな葉を持っており、利き手には木製の長いスプーンを持っている。 スプーンの柄の部分はこれでもかというほど細く、スプーンも小さじほどの大きさしかなく、かなり薄手であるので、肉など硬いものなどは抑えるだけで折れてしまうであろう。
この薄手のスプーンを三本の指で持ち、上手に料理を掬って食べているが、パスタなどは切ってあげないともたついてしまっている。 スプーンで口に運ぶ仕草はかなりお上品で、逆の手に持った葉は小皿のように上手く利用している。
恐らく彼女たちの食べられる基準は、このスプーンに依存しているだろうという事が安易に予想できたが、それはムチンも同様だったようだ。 テーブルにあったスプーンを手に取り、しげしげと観察している。
「どれもこなたも初めて口に入れんしたが、わっちらは気に入りんした。 あの者を置いて行ってくんなまし」
「えっ! 僕ですか?」
「いや、クリス悪いがそれは出来ん。 彼は俺の大事な料理人だからな。 その代わり料理のレシピを置いて行くからこれで作ってくれ」
「あい、わかりんしたが、材料がどれもこれもここでは手に入れられんせん」
「あっ、そっかまずいな。 それは考えておくからニ.三日待ってくれないか? 俺達は大事な用事を済ませなくてはならんのだ」
「必ず戻ってきてくんなまし」
「ああ、約束だクリス」
こうしてようやく彼女達から解放されたかづき達は、本来の職務である境界の森へと進む事になった。 サキュバスの件は、クラークに話を持って行く事にした。 婚約予定のクラークに仕事を押し付けるのは、多少引け目があったが、かづきと考えが同じであればきっと有効活用するに違いない。
キャンプ場を撤収し、いよいよ境界の森へと入るかづき一行だったが、ここからは当初の予定通りに、3つのグループに別れての行動をする事になる。 方向で言うと、砦村からは西側に位置する境界の森なので、進行方向は西側から入り、東へと抜ける事になるのだが、この先は右側を迂回する組と左側を迂回する組とに分かれる。
かづきはここで、白隊班、赤隊班をまとめ、白赤隊としてビームスを隊長とすると共に、犬族ベベリを副長に指名し左翼を任せる事にした。 さらに黄隊班と緑隊班をまとめ、黄緑隊とすると共に隊長をバーミヤンに副長をネコ族ブルグにし、右翼を任せる事になった。
かづき達六名は、これらとは別行動を取り中央突破で突き進む事になるが、これは万が一のトラブルに備えて、左右どちらにでも応援に行けるようにした為であった。 各自連絡は煙玉による連絡のみだが、その合図も真ん中に位置する事で、見やすい位置であり左右に連絡を取りやすくなるとの算段であった。
「では諸君、あくまでも周辺探索ではあるが、冬場の食料を確保する任も含まれている事を忘れずに行動するように」
『サー! イエッサー』
「では各自、出立!」
かづき達は立場的には、訓練兵たちの監査役なのだが、ディアンヌを除く紅班隊のメンバーは、それぞれ自分達の得物を手に取り狩る気満々である。 かづきは彼女たちのやる気に任せ、万が一の為後方に待機し援護をする予定である。 ディアンヌは戦闘能力は無いがなにぶん物知りで、道すがらキノコや木の実と薬草らしきものを採取している。
彼女の護衛には、ゴーレムのアロンが付いているので何も問題は無いが、直ぐに道を外れてしまうので、目を離す事は出来ないのだ。 かづきは砦村へ帰ったら、彼女に護身銃を持たせる事を決めていた。 ディアンヌは戦闘経験さえないが、魔力は普通に持ち合わせているので、特に問題無く力を振るう事ができるだろう。
狩り組となっている四人は、順調に狩りをこなしているようだ。 この森には特に厄介な魔物などはいないと聞いているので、特に問題は無いであろうとかづきは考えていた。 先行した四人は道中で確保した獲物の喉笛を切り、太い木の枝に吊るし血抜きをしながら先へと進んでいる。
かづきはそれを、次々に収納していく役回りとなっているが、獲物の種類もかなり多く見た事も無い得物ばかりだ。 しかし、そのつどラビに説明して貰いながら、収納を繰り返していく。
実は、ラビとは収納袋との間で、コミニュケーションを図る事ができているのだ。 かづきの収納袋に入ると、データとして納められているわけだが、このデータは全てラビとリンクしており、例えば冒険者ギルドで手に入れたガイドブックも、すべてラビの情報に入る仕組みが確認されている。
つまり、書類もまとめて袋に入れておく事で、ラビの計算能力で全て把握し管理ができる事がわかったのだ。 簡単に言えば、ラビは情報収集や管理能力のエキスパートと言える立場で、かづきのいいガイド役や秘書役にもなっている。
かづきにはとても便利なガイド役で、これから行う作業などもあらかじめ書いておくだけで、作業の手はずも整えてくれる有難い機能とも言える。 しかし、ラビの情報に無いものは利用できないので、かづきはとにかく未体験の動植物や鉱物など、ありとあらゆるものを袋に仕舞い込んでは、ラビに認識させるという作業も引き続き行っている。
特に書物のたぐいは、情報の詰まった頼もしい収集源で、現物と照らし合わせる事でかづきの足り無い知恵を、ここから吸収する事ができている。
「カヅキ様、この薬草も預かって頂けますか」
「うん、乾燥させてまとめておくよ。 確かこいつは火傷に効くんだっけ」
「ええ、さすがですわ。 いつ覚えているのですか?」
「うん、ディアンヌから借りてる薬草本を見てるからな」
「それはそうでしょうけど、見ている所をお見掛けしないので」
「うん、暇を見てみてるのさ」
かづきの袋は、すでにラビの手により、インデックスも出来上がっている。 現物を袋に入れる度に、薬草であればどのような効能があるのか即座に把握できるのだ。
この大陸の様子も、すでに大まかではあるが把握済みである。 この惑星では、この地はバショット大陸に含まれている国で、ズナンの町は、ニショルクサ王国内にある。 他に国と呼べるものは五つもあり、それぞれ特色のある国づくりが行われているようだ。
当然、戦争状態にある国も含まれてはいるが、このニショルクサ王国も北部には、その紛争地帯があるのだそうだ。 場所はこの大陸では、一番に大きいナカス大河が流れている地区だというが、そのうち出向く可能性もあるのだろう。 まぁそんなこんなで、かづきは道すがらラビとの会話で情報収集しながら、歩みを進めていた。
――――
ここは境界の森、左翼を担う白赤隊の仲間達である。 隊長は、クラークのいとこであるビームスで、同じくヒューマンである。 年齢は十九歳で一応独身だが、ヴァレンチノ家ではクラークの手下のまとめ役であった。 腕っぷしはクラーク譲りでパワーはあるが、世話役をしていたせいか妙に人懐っこい性格で慕われるタイプなのだろう。
クラークに憧れて剣術を習いたがっていた為、警備兵にしていたらしいが、クラークもその素質を期待して、ズナン山ふもとの絹糸回収のおりにもうこうさせたのだろ同行させたのだろう。 また、この度のブートキャンプで訓練があると知り、参加したがったのは本人の意思で、ともかく強くなりたがっていたようだった。
「ビームス隊長、少し急ぎ過ぎじゃないのバウか?」
「うん? 普通だろ」
「グゥ、罠を仕掛けながらって、強行軍じゃないのガウ?」
「いや、問題無いだろう、任務の優先順位は判っているだろ?」
「んっと、第一は境界の森探索で魔物の生態を調べるガゥ、第二は鬼人族の発見だガゥ、第三は食料の確保だガゥ」
「いいか、ベベリ最大の目標は境界の森探索で間違いない。 しかしな、探索では人が怪我する事は前提として無い訳だ。 ましてや死人などは出せない」
「がう」
「ということはだ、第一は境界の森探索、第二は隊の命の安全だ。 次に鬼人族の確認、つまり食料の確保は最後でいいんだ。 それに合流地点の確保も大事な作業だろう。 つまり、こうして罠を張りながら、先に進むのが一番って事だな。 獲物は罠でも帰りに獲れるし、合流地変の確保が済めば周辺で狩りをやればいいのさ」
「なるほどガゥ、さすがビームスだガゥ」
「ああ、あの大木の根元にも、穴と網の罠を仕掛けておいてくれベベリ」
「おい、お前とお前ついて来るガゥ」
こうして白赤隊は、所々で罠を仕掛けながら先を進むのであった。 合流は明日の昼過ぎを予定している。
ようやく本格的に教会の森探索が始まった様ですが、次回は閑話が入ります。




