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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
練兵育成篇
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異世界探求伝 第七十八話 ブートキャンプ後半ー天敵現る

ミクとの連絡で、敵はサキュバスだと理解したジュリナ達であったが、ミクが牢獄に繋がれたままという事は、かづき達が無事では無い事意味していた。 果たしてかづきの貞操はいかに。

 かづき達は白隊班を追って森深くに入り込んだまでは良かったのだが、赤隊班の連中を始めミクも捕まってしまい、魔法を使えなくされたあげくに、牢獄へと閉じ込められてしまった。


しかし、機転の利くミクは動じずに、イヤーカフでジュリナやミシェータたちに救援を依頼したのだった。 魔法が使えなくとも、魔道具であるイヤーカフは問題なく使えたのである。 それを知っていたミクだからこそ、冷静に対処する事ができたのであろう。


さて、敵陣近くまでやって来たミシェータ一行は、隊を三つに分けてそれぞれの陣に配置が完了した模様である。 全員準備が完了したとの合図がミシェータに送られ、ミシェータはなるべく声を立てないように、魔法のルーティ-ンを唱え始めたのであった。


『澄み渡る夜空一面に輝き渡る・汲めども果てることのない無限の星々よ・汝が指さす獲物の頭上に極光の球を示せ 』『フラッシュ・ボール』


敵陣の頭上には、閃光弾のような光が輝き渡り、辺りを一瞬にして暗闇から真昼のような明るさに照らし出したのであった。


「黄隊班構えッ」「緑隊班構えッ」

「撃てっ!」

『ドシュッ』


左翼右翼に広がった両隊は、合計十二名と相対する兵力と同数であり、その各々のもつ風筒銃から放たれた弾は、全てが敵を沈黙させる為に作りだされた、しびれ薬のたっぷり処方された注射針であった。 モモの判断の距離まで近づいていたお陰で、ミシェータの放った閃光弾によって昼間のように明るい場所では、誰しもが外しようもない距離だったのである。


「両隊二名ずつ四名で、確保終了後は周辺警戒に専念よ」

『イエスマム!』

「残りは二手に分かれて館へ突入よ。 黄隊班はモモに付き従ってミクの探索、残りは私たちと一緒に行動よ。 ジュリナ、先頭をお願い」


『イエスマム!』

「行くわよ、ミシェータ、ディアンヌ」

「はい」


「ローズ様、大変でありんすぇ。 敵の捕獲に出した男はんらが、全員倒されてしまいんした。こなたの まんまでは館へ侵入して来んす。」

「まあ、どうしんしょう。」


「その男はん、あの方々の頭目なんでありんしょう? ほなら、為留めてもろうては如何でござんすか?」

「それはいい考えでありんすぇ。 ではやってもらいんしょう」


「くっ、ミシー、この扉丈夫な石で出来てるわ」

「ジュリナも全員扉から離れてて」


大地に根差す灼熱の焔よ・彼の地に集いし・巨大な(ふいご)にて・怒涛の勢で彼の門を蹂躙(じゅうりん)せよ

『メルト・フレーム』


「ねぇ、ミシーあれって石の門よね、しかも相当丈夫よ。 石に火の魔法って効かないんじゃないの?」

「まぁ、見てなさい。 カヅキに教わったのよ」

「ん? 魔法をカヅキが?」


「違うわ、理論よ。 かがく、ってやつ」

「ああ、かがくね。 いつもカヅキが言ってるもんね」


見ている間に石の門は、豪炎に吹き付けられてみるみる間に赤く熱せられていく。 こちらにも熱気が肌に絡みつくようで、とても近くに寄れるものではないだろう。 ミシェータは、門の様子を見ながら、計ったように次のルーティーンの詠唱を始めたのだった。


氷雲がどんより低く垂れ込め・雪に覆われし大地と空の間に・石のように固く凍てつけ

『ブリザード!』


「さぁ、ジュリナ出番よ。 思いっきりぶん殴っちゃいなさい」

「う、うん」


ミシェータに促されるままに、門の前に立ったジュリナは皆が見守る中、顔面を強張らせながら神経を集中させていた。 彼女はかづきに特訓して貰い、ようやく会得する事ができた強化魔法を、両の足腰と左の拳に注ぎ込むと、力の限り門にその拳を叩きつけたのだった。


『ドーン! パラパラパラ』

『おおっ、凄い素手だ』


「あれっ? 手ごたえ無かったわ。 何でなんで」

「ホホホ、だから、か・が・く、だってば」


何やら、不可思議そうな顔をしていたジュリナであったが、門が無ければ後は突入するのみである。 当初の計画通り、二手に分かれてモモ率いるミク探索隊と、カヅキの探索を行うミシェータ達と別れて突入する事になった。


「ミシー、こっちからカヅキの匂いがするわよ」

「わかったわ、男たちは危険だから、少し離れなさい。 ディアンヌは、少しでも危険と判断したらアロンとお逃げなさい。 後の事は頼んだわ」


「わかったわミシー、段取り通りやるから任せてくださいな」

「ジュリナ、魔物の強い気配は無いから、罠だけに気を付けて頂戴」

「わかった、この先だわ」


館の中は案外広く出来ており、そのほとんどは迷路状に入り組んでいる。 派手な仕掛けこそないが、こうした迷路は匂いを頼りにしているジュリナには、非常に厄介なものだった。


「うーん、この先の筈だけど、行き止まりよね」

「途中の部屋は入らなくていいの?」

「うーん、匂わないし仕掛けがあったら一網打尽だわ」


「ん? 白巫女様、あっジュリナデリカ様。 この石の隙間からにぃちゃんの匂いがするよ」

「でかしたわザジオ、よーしっ! ハァッ」

「ちょっとジュリナ、お待ちなさい。 何でも力じゃ駄目よ、頭使わないと。 んと、ほらそこの(くぼみ)み押してみて」


ジュリナはミシェータの言われるまま、その石を押してみると少しばかり、その窪みが押し込めるようになっており、同時にゴトッと何かの外れる音がした。 押してもびくともしなかったが、あちこち触ったはずみで扉が現れたのだった。


「なるほど、横にずらすのね」

「さぁ、ジュリナ行きましょう」

「あっ! あの赤い豪華な扉、間違いないわ。 あの部屋にカヅキは居るわ」


見ればジュリナの言う通り、真っ赤な漆喰であろうか、所々に金の細工や銀の細工が施してある。 何やら紋章のようなものも見えるが、ミシェータが見る限り、魔法の罠は無いように思えた。


「男たちはとデァンヌは、部屋の前に待機してて頂戴、先に私たちが入るわ」

『イエスマム』


ジュリナが恐る恐る扉のノブを持ち、ゆっくりと開けると、奥には女性が数人と、お目当てのかづきが満面の笑みを讃えて出迎えてくれていたのだった。


「カヅキ・・・」

「やぁ、ジュリナ、ミシー、よく来たね。 お入り」

「カヅキ、無事だったのね!」

「ちょっ、ジュリナ! お待ちなさい」


ジュリナはかづきを見るや否や、ダッシュで駆けだしてしまったのだ。 ミシェータの心配をよそに、ジュリナはかづきの旨に思いきり飛び込むと、普段ミシェータ達には見せない笑顔と猫なで声で、かづきに甘えて見せたのだった。


「もぅ、カヅキったら心配したんだからねぇ。 どこもケガしてないぃ?」

「ああ、いつもの俺さ」

「でもさ、こいつら懲らしめないとね」


「ジュリナ、この人達なら大丈夫だよ。 優しくし過ぎて誤解されただけなんだ」

「でも・・・兵を使って私たちを攻撃しようとしてたわ」

「ああ、それは魔物が来ないように見張ってただけなんだよ」


「そう? なーんだぁ」

「ジュリナ! 騙されないで、いつものカヅキと違うわ」

「何言って、はぅ!」


首横の頸動脈を一閃されたジュリナは、会話を終える事無く足元から力無く、滑り落ちる様に倒れこんだのだった。


「ジュリっ! ちっ、全員カヅキを捕縛しなさい」

『イエスマム!』

「カヅキ殿、あのマスクでは、までありんすから、はずしておくれんませ」


カヅキは、その言葉に反応し、部屋に押し寄せてくる男どものマスクを、全て外してしまっていた。 ミシェータは即座に障壁を張ったのだが、どうやら間に合わなかったようだ。 しかし、お陰でカヅキをシールド内に閉じ込めることは出来た。


連れてきた兵士たちは皆うつろな目で、淫魔の前に付き従っている。 彼女らが口々に兵士に話しかけているのは、何かの暗示のようなものなのであろう。 兵士らは大人しくそれを聞いているようであった。


「ディアンヌ、ここまでよ。 カヅキの前じゃ障壁なんかあってないものだわ。 逃げ延びて頂戴」

「そ、それは」

「デァンヌ! 約束でしょ」


「わ、わかったわ。 アロン、ミシェータを助けてあげて」

「ンガー!」 


こう見えても、アロンは頼もしい助っ人である。 訓練生たちの教官が務まるほどの力量を持ち、かづきの微調整で身軽になったアロンは、頼もしき助っ人と言えるであろう。 だが、それもかづきの前では、それもただの楽観視に過ぎなかった。 ミシェータの起点のスクロールで、アロンの体はシールドに包まれて強固なものにはなったが、いかんせん相手がかづきでは、パワーが違い過ぎる。


「ディアンヌ、隙を作るからお逃げなさい」

「ミシェータ、あなたはどうするの?」

「指示通り動きなさい、でもアロンは連れていけないわ」


「わかりましたわ、でも必ず逃げて来て」

「ええ、そのつもりよ」


強気な言葉で返したミシェータだったが、かづきはドア側に場所に位置しており、場所を移動させる必要がある。 アロンはというと、かづきの攻撃に耐えてはいるが、最初から押されている。 ミシェータは、自分の収納袋から剣を一振り取り出すと、魔力を込めてアロンに渡したのだった。


「アロン、剣をお使いなさい、戦闘不能にするのよ。 ディアンヌは機会を逃さないで」

「ンガ!」「はい」


一振りの剣を渡したジュリナは、直ぐに魔法のルーティーンを唱え始めていた。 流石のかづきでも剣を持つアロンでは、攻撃できないようで回避をしながら様子をうかがっている様だ。


「クルス、俺の袋を返してくれ。 武器が入っている」

「あら、気づかずに、それは申し訳ありんせん事をしんした。 投げんすから受け取ってくんなまし」

「いくわ」


澄み渡る夜空一面に輝き渡る・汲めども果てることのない無限の星々よ・汝が指さす獲物の眼前に極光の球を示せ

 

『フラッシュ・ボール!』


袋を投げられた方に、かづきが目線を送った先には、ミシェータの極光が眩しい光を放ち、この場にいる全員の目を(くらま)ましたのだった。 ディアンヌは、その真意と呪文をあらかじめ聴いていたので、直前に目を(つぶ)って待機していたのだ。


「今よ、逃げて」


アロンはその瞬間かづきに切りかかり、渾身一撃を与えた・・・はずであった。 しかし、次の瞬間アロンの体は吹き飛ばされて壁にのめり込んでしまっていた。 カヅキの右手には、そう、愛刀セセラギが青白い光を怪しげに放っていたのだった。


「きゃっ!」


同時に、逃げようとしたディアンヌの腕を左手で掴み、拘束してしまっていた。 まさの万事休すの状態であった。


「カヅキ様痛い、その手をお放しくださいませ。 もう抗いませんので」

「そうか、彼女たちの誤解が解けたと言うわけだな」

「ええ、勿論。 その代わり命だけはお助け下さいませ」


「ちっ! ディアンヌこの期に及んで見苦しいわ。 おやめなさい」

「ミシーあなたこそ黙りなさいな! カヅキ様の御寵愛を受けながら、何たる失態ですか」

「くっ」


「ところでカヅキ様、私はカヅキ様からの御寵愛は受けておりませぬ故、せめてお願いの儀がございます」

「うん? 何だディアンヌ」

「思い出にカヅキ様の、口づけが欲しゅうございます」


「うん? そんな事で良いのか、お安い御用だぞ」

「では、体を低くして、お顔をお向けになって下さいまし」

「ん、こうか」


「恥ずかしゅうございますので、目をお瞑りになって」

「ん、わかった、これでいいか」

「ンギャー!」


次の瞬間、かづきは後ろに大きく反り返ると、そのまま後ろに転倒してしまった。 さらに大量のよだれと共に、涙が吹きこぼれているようであった。


「カヅキ様、お立ちになって悪者を懲らしめて下さいまし」

「あ、あぁどうなってる? 状況は」

「あそこの者達を拘束して下さい。 話はそれからだわ」


「う、うん、よく判らんがディアンヌの言う通りにしよう」

「くっ! おとかむろよ、あの者を成敗してくんなまし」

「そうは行かないわ」


デァンヌは、まだうつろであった男たちの口に、先程の丸薬のようなものを放り込むと、直ぐにミシェータの元へ戻って行った。


「ディアンヌぅ、よくやったわぁ。 貴方の事、誤解して御免なさい」

「そんなことはいいのよ。 アロン、ジュリナさんをこっちへ連れて来て」

「ンガ」


アロンは、ミシェータの掛けてくれた障壁のお陰で無傷だったようだが、先程の衝撃で完全に術は途絶えている。 アロンがジュリナを連れて来ると、縄をほどくと同時に、ディアンヌからのきつい気付け薬を見舞われ、直ぐに飛び起きたのであった。


「ンプ! 寝てた? あたし」

「もう大丈夫よ、ジュリナさん」

「大丈夫? ってカヅキ! ちょっと」


「ジュリナ、怒るのは後だわ。 サキュバスを先に拘束してしまうわよ」

「え、ええ。わかったわミシー」


そうは言っても、既にサキュバスたちには既に抵抗などの意思は無い。 反撃して来るものと思われたミシェータ達は、何やらあっけなく敵愾心(てきがいしん)を削がれてしまったようであった。



ジュリナ:ねぇねぇ、事の顛末は判ったけど、カヅキ酷くない?

ミシェータ:そうね、でも死ななかったから良しとしましょ

ジュリナ:ディアンヌがいてくれたから助かったわ

ディアンヌ:わたくしは皆さまみたいに、力がありませんのでお恥ずかしいですわ

ミシェータ:まぁ、ご謙遜ね。 私まで騙す位にキツネ女のくせに

ジュリナ:ぷっ

ディアンヌ:・・・

ミシェータ:あら? 誉め言葉よ

デァンヌ:ふふっ

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