異世界探求伝 第七十七話 ブートキャンプ後半ー不覚
赤隊班とミクを引き連れて森へと入るかづきだが、この先に待ち構えているのは
果たして蛇か鬼か
かづきは消えた白隊班を追って、赤隊班とミクを引き連れて森へと分け入ったのであったが、予想に反して赤隊班までもが消えてしまった。
しかし、白隊班を魔法探査で追っていた時のように、今回も同じ様な消え方をして、その場所には結界が張られていたのだった。 ミクは入れなかったが、白隊班や赤隊班の者達はこの結界の中を何も遮られる事無く先を進んだのだろう。
「よし、ここも掘り出した、どうだミク?」
「うん、今度は大丈夫よ。 匂いもわかるわ、先へ急ぎましょう」
なるほど、この結界に遮られていたのは、臭いと魔力といったところなのだろう。 先にいくつもの魔力が感じられるのは、恐らく奴らと敵と思しき者がいるのであろう。 それに、ミクも入れなかったとすると、他にも結界の効果があったのだろう。
結界は障壁などと違い、精神に働きかけるものだ。 地球の感覚で例えて言うのなら、怖いやくざの事務所には足を踏み入れたくないし、人がひどく悲しんだり怒っている場合には人は近寄りがたくなる。 そうした作用が強いものが結界であり、障壁は物理的には入れなくするドアのような存在である。
「おにぃちゃん、向こうに館が見えるわ。 でも匂いが・・・きっつい」
「あ、あぁいい匂いだなぁ、行こう」
「まぁ、待ってよ」
かづきは吸い寄せられる名の如く、その館へと歩みを進めた。 その歩みは心なしか急ぎ足のようであったが、ミクには仲間を助けるために急いでいるものと彼女の目にはそう映っていたのだ。
かづきとミクが門の前に立つと、その閉ざされたいた門は軋みを立ててゆっくりと開き、そこには娼婦のようないで立ちをした女が三人立っていたが、武器を持っている風でもなく、まるで出迎えに来たかの如く踵を返し、館内へといざなったのであった。
「旦はんようこそお出でなんし、ささ、酒宴もできておりんす。 はよ、おあがりなんし」
「お? おお」
「ちょっ! おにぃちゃん」
「あぁ、ぬしは、こちのへやを、用意してありんすよ」
「いや、いやぁー」
「まあ、ほんの僅かの辛抱いただけんすか、少しだけおとなしゅうして貰いんしょう」
かづきは先程の女性のうちの一人に案内され、奥へと消えていったようだが、ミクは両脇を女たちに抱えられ、違う部屋へと引きずられるようにして連れ込まれてしまった。
「ちょっと、離しなさいよ、あんたたち」
「荷物はこちで、お預かりいたしんす」
「ちょ、袋まで取り上げないで」
荷物も全て取り上げられてしまったモモは、そのまま地下の階段を降りて、用意されていた部屋という名の牢獄へ放り込まれてしまっていた。 首には魔封じの首輪が付けられ、両手と両足にはロープで雁字搦めにされてしまっているので、思うように身動きが取れないでいる。
「開けなさい! おにぃちゃん達をどこへやったのよ、荷物も返してー、」
「ほむ、無駄じゃろ。 姉御様たちは今頃祝いの盛りの真っ最中であろうよ」
「ねぇ、おじさん、何でお祝いなの?」
「そうじゃの、今日は大漁じゃからかな」
「大漁? 何の」
「ほむ、男どもが沢山釣れたからかのぉ、お陰で姉御様たちは大喜びじゃて」
「何で男が嬉しいのに、私がこんな扱いされないといけないのさ」
「ほむ、お嬢ちゃんはメスだからの、いらんのじゃ」
「? わけわかんない、ここどこよ」
「ほむ、そんなことはどうでも良いじゃろ、後で姉御様たちのお許しが出たら、お嬢ちゃんを賜るのじゃから少し待て」
「賜るって?」
「お嬢ちゃんをわしが貰い受けるんじゃて」
「へ? 嫌よそんなの」
「なら、死ぬしかないの。 嫌でもここじゃあ、わしの嫁っこになるしか生きる道は無いわい。 おなごはここへは普通は入れんけの、わしや儲けもんじゃて」
「結界を張ってたのは、男だけを集める為のなの?」
「ほむ、姉御様らはメスは不要じゃけんの」
「何で男だけ? おじさんも男でしょ」
「ほむ、淫魔も好みがあるんじゃよ。 要らんオスは普通なら捨て置かれるが、館も人手がいるからの。 わしが来た時は、先代の召使いがおっちんじまったとかで、命が助かったところじゃわ」
「い、淫魔? それってサキュバスって事?」
「ほむ、お前さんがたが結界を破らにゃ、お嬢ちゃんは助かってたものを、まっ、わしゃ良かったがの」
「たっ、大変! 緊急事態だわ」
『コール・オール:さきゅばすからつかまったやらってらいへんらいへん!』
『ちょっと、ミク落ち着きなさい! いい? ゆっくりと深呼吸よ五秒経って話しなさい:オバー』
『アンサ:いーち、にぃ、さーん、しぃ、ごぉ、フゥー。 よし! 落ち着いたわ、ありがとうございますミシェータおねぇ様』
『いいのよ、落ち着いたらかづきから習った通りに、ゆっくりと話してね』
『あ、うん、えっと、まずは現状だね。 ぁごめ、簡潔だったよね。 私牢屋捕まったの、縛られてる』
『ちょっ、カヅキは? カヅキはどうしたのさミク! 吐きなさい! あんたのことはいいからカヅキ、カヅキ』
『どうどう、落ち着きなさいジュリナ、ミクそれで状況は?』
『えっとね、おにぃちゃんは、綺麗な女の人に連れられちゃったの、でもね相手は淫魔なの』
『何っ! サキュバス!? ミシェータ行くわよ!』
『もう! 大人しくしてなさいジュリナ、続けてミク』
『赤隊班と白隊班もいるみたいだけど、安全かどうかは判らないわ。 私が見たサキュバスは三人だったけど、他にも居るようよ。』
『うんミク、それで場所は?』
『南西3㎞位、結界で巧妙に隠してあったわ。 一応結界の装置は外したから、臭いを辿って来て。 ジュリナおねぇ様なら直ぐにわかるわ。 だって、もんの凄くやな匂いだもの:オバー』
『アンサ:ミク、今から向かうわ』
「ん? お嬢ちゃんは独り言か? すまんが魔法は使えないぞい」
「うん、わかってる。 大人しくマ・ツ・ワ」
その頃、かづきは居間と思しき館の中へと案内されていた。 武器などは全て収納袋の中へ入れているので、ほとんど手ぶら状態だったが、袋を取り上げようとするとこれに抵抗したため、ロープで縛りあげられていたのだった。
これは、これまでの男たちは無抵抗だったのに対して、かづきだけが反応が違った為、警戒して取り調べのようなものを受ける事になった様だ。
「ぬしはなんで、抵抗したんでありんすかぇ? 術が効いていないのでありんしょうか」
「んと、少し聞いてもいいだろうか? これは夢じゃないんだよな」
「はい、夢ではありんせんよ。 こなに、まつろんせん男はんは見た事がありんせんわ」
「うーん、夢じゃないのか、えっとあんたは魔物なのか?」
「ホホホ、化け物のたぐいではありんせん。 術は掛けんしたが見栄えはこなたの通りでありんす」
「えっと、名前を聞いていいかな? おれはかづきだ。 俺が来る前に十二人の兵士を見なかったか?」
「やはり、冷静で落ち着いていんす、わちきの名はクリスタル・ローズ。 男はんなら十二人? それ位はいると思いんすよ」
「クリスタル、男たちをどうするんだ?」
「男はんたちの精をいただきんす。 それがわっちたちの食べ物でありんすから、それとクルスでようざんす」
「セイってあれだよな? 子種の精だよな。 でクルス、俺達を喰っちまうのか?」
「はい、男性器からのリキッドでありんすぇ。 でもそれ以外のものはたべんせん」
「用が済んだら?」
「そうでありんすね 、家に帰る者もいんすし、ここに居残る方もいんす」
「そっか、クルス。 ところでお前はサキュバスなのか?」
「サキュバス・・・それは人が付けた名前でありんすね。 わっちたちは夢魔族、わっちがこなたの地の夢魔族の長をしていんす。 ローズは由緒ある長の名前でありんす」
「それで、クルス、お前達の捕まえた男たちは全員俺の部下なんで、返してもらえないか?」
「それは出来んせん。 三日間はこなたの場所に留まってもらいんす」
「そっか、でもこっちも急いで済ませなけりゃならない用事があるんだよな。 後日また来るって事で、勘弁して貰えないか?」
「手数でありんすね。 何せ久しぶりのお食事でありんすから、わっちたちもみんな飢えてるんでありんす。 それに数年ぶりのごちそうですし、約束を守って貰える保障もありんせん」
「ところで、外の結界は男限定で入れる代物なのか?」
「はい、ぬしが結界を破ったおかげで、直すのに人手もいりんすが、魔物も入って来んすからね。 カヅキ殿、噺はえらい愉しい徒花でありんすえ」
「ん? とばなって何だ。 おい! クル、ス」
クルスは話を打ち切ると、身にまとっていた服を、まるで舞を舞うかの如く、一枚づつ床に落としていった。 そして薄い下着を脱ぎ去ると、白く透き通るような美しい姿になって、カヅキの元へと近づいてゆく。 かづきはその一部始終を眺めながら、再びとろけるようなまなざしへと移ろいでゆき、彼女はかづきのロープの縄を顔をくすぐり様子を見ながら、ゆっくりと解いていくのであった。
――――
「ちょっとディアンヌ! なんであんたまで来んのよ。 それになんでまたお姫様抱っこ」
「ジュリナ、私も紅隊の一人だわ。 それにアロンは、こちらの方が速く走れるから仕方ないのですわ」
一方もう一人のミシェータも、運動音痴で有名なヒューマンであった。 彼女もまた恥ずかしそうにジュリナの方へとおぶさりながら、不安そうな顔をしている。 彼女が仲裁を買って出ないのには訳があり、ジュリナの激しい走りで舌を噛みそうだからである。
このたびは後方から、残りの兵も全員ついて来ている。 かづきから釘を刺されてはいたが、相手がサキュバスと聞いて、残りの全員にはマスクを装備させて、臭いをかがせないようにしているのだ。 またサキュバスは、魅了効果のあるチャームの使い手なので、あらかじめの対抗策として、ディアンヌから鎮静作用のある薬湯を飲まされている。
しかし、サキュバスの強力なチャームに対抗できるかは、定かでは無いので念の為、瞳を見ないようにとの通達がなされていたのだった。
――――
「ローズ様、外で異変がありんす。 大人数で大挙して押しかけて来てありんすようですぇ。 その数は二十名程のようござんす」
「まあ、いいところ でありんしたのに。 そうでありんすか、不測の事態に備えて男はんたちを使いなんし。 縛って捕まえてしまいんしょう」
「はい、わかりんした」
「しっかし、臭いわね。 マスクが無かったら、死にそうなくらいにひどい匂いね」
「ジュリナねぇ様、止まって下さい。 様子が何かおかしいです」
「うん? わかったわモモ、偵察を出しましょう」
「男は危険だから、モモが見て来るわ」
「気を付けて行ってらっしゃい」
「ほーい」
しばらくしてモモが戻って来た時には、後続の部隊班も全員追いついていた。 全員とは言っても、モモ達紅隊を入れてもその数はざっと16名と、ゴーレムのアロンがいるだけである。 モモが戻って来たので、現在のまとめ役であるミシェータが口を開いた。
「それで、相手の状況は?」
「はい、ミシェータ隊長。 サキュバスは見なかったわ、でも」
「どうしたのかしら?」
「それが・・・赤隊班と白隊班の連中が、武器を構えて待ち構えているわ」
「あちゃー、モモそれほんと?」
「はい、ジュリナねぇ様」
「様子は? 魅了されてるの?」
「少し近づいたのだけど、気が付いていなかったみたい。 目がうつろだったの印象的ね」
「チャームの効果だわ。 命令されていること以外は気にしないから。 それと、武器の種類が気になるんだけど」
「はい、ミシェータ隊長。 装備はしていたわ。 あと杖持ちが三人で残りは配給されたサイバーナイフ?が九人」
「サバイバルナイフね。 なるほど、夜間だから風筒銃は無しって訳ね。 わかったわモモ有難う」
「どうするミシー、私が蹴散らして来るわよ」
「いいえ、チャームで魅了されていても戦闘力は変わらないわ。 カヅキが鍛えた兵士よ、なめてかからないで頂戴」
「う、うん、確かにそうね」
「それに、やっつけても怪我させたりしても問題意だわ。 私たちの武器じゃ、下手したら死人が出るわよ」
「で、どうすんのよミシー」
「焦らないで、作戦はあるわジュリナ」
こうして、作戦の決まった部隊は、各自準備を済ませると、モモから聞いていた安全地帯へと進軍を始めたのだった。 途中からはほふく前進となり、注意深く前線を作り上げていったのである。
「これ以上は、危険だわ見つからない?」
「大丈夫だいじょうぶ、その代わりゆっくりとね」
ほふく前進は三隊編成で行われている。 左翼は黄隊班で右翼は緑隊班となっており、正面はミシエータ達紅隊が担当している。 一直線上に並んでの前進だが、各自右手には葉の生い茂った小枝を前方に出しながら、ゆっくりと手信号で合図を送って進んでいたのだった。
ミク:早く助けに来てよね
モモ:任せなさい、所でダイジョブ?
ミク:なにが?
モモ:そのぉ、純潔・・・とか
ミク:モモ、下品




