異世界探求伝 第七十六話 ブートキャンプ後半ー入念に仕組まれた罠
行方知らずになってしまった仲間を求めて、二重遭難してしまった彼らを救うべく
かづきは立ち上がるのだが、果たしてその行方は・・・
ブートキャンプの夜は静かに更けゆく・・・筈であったが、思いがけず夜間警備の二名が行方知れずになってしまったのだ。
消息を絶ったデゴブとベスクドの行方を追って、白隊班のビームス班長を始め、ボピやドラウト達がズグロウの追跡能力を頼りに後を追いかけた様だが、果たしてうまく見つけ出す事ができるのだろうか。 かづきは心配で探査魔法を頼りに周囲へ探りを入れていた。
探査魔法は、気配探知『ディテクト・ケイブ』という魔法だが、あくまでも魔力の気配を探知するもので、レーダーのようにはっきり判るものではないのだ。 特定の場所を集中し、気配を探りながらその範囲を狭めていかないと、はっきり感知できないのだ。
ちょうどカメラのレンズで、焦点を合わせているような状態なのだから、かなり根気のいる作業であり集中力が否応なしに試される。 かづきは何事にも集中しやすいタイプであったため、この魔法は向いているのだろう。 四人は川を渡って向かいの森へとはいった様だが、その足取りが素早くて集中しなければ、その足取りを見失ってしまいそうだった。
ミクもその様子を眺めていて、のっぴきならぬ感じが伝わったのだろう。 いそいそと戦支度とばかりに、着替えを始めてしまった。 かづきは探知を続けていたが、ある瞬間ぱっと顔色が変わった事をミクは見逃さなかった。
「おにぃ様、異変ですか?」
「うーん、だな。 ミク! 全員起床させてレベル三警戒態勢だ」
「らじゃ、警笛了解!」
かづきの指示で、ミクは首にかけている小さな笛を取り出すと、緊急用の警笛を吹き、ジュリナ達の元へと駆けていったようだ。 カヅキが異常を感じたのは、探索に出かけた四人の気配が途切れてしまったからだ。 探査魔法『ディテクト・ケイブ』で、気配が消えるという事は、意識を失ったか最悪死亡という事も考えられるのだ。
『ラビ、魔物の気配はあるか?』
『イイエ恐ラク 気配ヲ消シ去ル事ノデキル 能力ヲ 有シテイルカト 思ワレマス』
『狼獣人のズグロウが居てこの有様じゃ、かなり相性が悪いのかもな』
ベースキャンプ周辺では、全員が集まり始めてやや騒がしくなってきている。 かづきは戦闘服に着替えると、表に出て全員が揃うのを今かと待ちわびていた。 頭の中ではいつものようにラビとのやり取りを交えながら、思考の限りを尽くしているので特に焦っている事はない。
「指令殿! 赤隊班、黄隊班、緑隊班すべて点呼終了、全員揃いました」
「おにぃ様、紅隊班も揃いました」
「うん? ミク紅隊班ってなんだよ」
「一応、まとめて呼んだ方が良いかと思いまして」
「あぁ、そういうことか、わかった、しかし『くれない』ってよく知ってたな」
「えぇ、前に紅色の事をそう言うのだと、教わりましたので女性らしい名称かと思ったんですよ」
「ハァハァ、お待たせカヅキ。 何があったの!」
「うん、ジュリナ今説明する」
かづきは、これまでの経緯を全員に話しかけた。 最初に二人の失踪で、次に四人の失踪によりのっぴきならぬ事態である事を知らせたのだ。 二重遭難になった現実を踏まえて、これ以上の危機に陥らない為の対策を説明し始めた。
「まず、第三次探索隊を派遣するが、赤隊班と俺でその任に当たる。 班長のベベリは犬族で鼻が効くので、先頭を頼む。 ネコ族パルとイタチ族テンテンは夜目が効くから哨戒担当だ。ヒト族のムチン、アラリオ、ジャベはいつでも戦闘状態で後方支援しろ」
『ラジャー!』
「黄隊班、緑隊班、紅隊班。 以下の隊はこのベースで、警戒待機でレベル3を維持しろ! ベースキャンプの指揮権はミシェータに移譲するから頼んだぞ。 第三次探索隊と連絡が取れなくなった場合は、即このベースキャンプを離れ砦村へ引き返せ。 よって訓練も同時に終了とする、いいな」
『ラジャー! 』「嫌よ!」
「紅隊班? だっけ 私たちも行くわ」
「駄目だ! 待機しろ、何かあった時の後方支援も重要な任務だ。 もし万が一、俺達が帰らなかった場合は、クラークと相談して後日編成し直して探索に来い」
「そんなの嫌よ! カヅキが帰らないなんて思っただけで、気が狂いそうだわ」
「そうねぇ、ジュリナの言う通りだわ。 私もさっきの言葉で胸が張り裂けちゃいそうよ、それに私たちは一蓮托生のはずだわ」
『そうよそうよ』
「お前たちの気持ちはよくわかる。 俺もお前達と離れる気はないさ、だが最悪は全員が生きて帰れない事だ。 俺たち全員が消えて、砦村はどうなる? 残された者達の生活はクラーク任せか?」
「勿論わかってるわよ、それくらい! でも行かせないわ、力づくでも付いて行く!」
「うーん、わかった、じゃぁミクを連れて行く。 それならいいだろ、後方待機させるから何かあってもお前達に連絡できるだろ」
『何でミク!』
「ミクは、これまでの経緯を一番把握しているからな、適任者だろ。 譲歩はこれ以上出来んぞ、それにジュリナは俺には逆らえないはず、だろ?」
「ふふーん♪」
『うぅーっ』
「ミク! 何かあったらすぐに呼ぶのよ、わかった!」
「おねぇちゃんたち心配しすぎぃ、おにぃちゃんは私たちが束になっても敵わないよ、わかってるの?」
「確かにそうだけれど、心配だわ。 これまで二組が失踪してるし」
「ジュリナ、イヤーカフもある事だし、こっちは直ぐに対応は可能よ。 ここはミクの言う通り、大人しく引き下がりましょう」
「うぅ・・・わかったわミシー」
こうしてかづきは、とミクを加えその任に当たる事になった。 赤隊班班長の犬族ベベリを先頭に、
ネコ族パルとイタチ族テンテンは夜目が効き、ベベリの両脇を固めながらの哨戒担当である。 ムチン、アラリオ、ジャベは二列目を担当し、即座に先頭へと移行できるように準備万端だ。 ミクはかづきの首から肩車で、異変が無いか周囲の警戒を行っている。
白隊班の後続四人が消えた位置は、かづきが把握してあるので、大方の危険ポイントを作成したばかりの簡単な地図で確認作業は行っている。 何が起きても対処できるように、打ち合わせも行っているが、もともと魔物や魔力の気配がしていなかったために、かづきは罠がある可能性が非常に高いと見込んでいるのだ。
こんな暗い森の中では、落とし穴プラスねむり薬などのコンボは非常に厄介だ。 特に足元には注意するように、警戒を促してはいたがミクが気になることを漏らしていたのが、何かもやもやと心に引っかかっている。 確かにそんな罠があったとしても、そんな全員一度に引っかかってしまうのか、またその程度の兵たちなのかなのか、と。
暗い森の中には、一本のけもの道があった。 かづき達は奥へと分け入っていくと、しばらくして先頭のベベリがスックと立ちあがり、前方方向を凝視し鼻を鳴らすと一目散に駆けだしたのだった。
「おい! ベベリ待て、止まれ、伏せっ! 全員っ、ベベリを止めろ」
『ラジャー!』
「ハァハァハァ」
ベベリは何かを見つけた様だが、如何せん興奮しているようで鼻息がとても荒く、捕まえるのに班の総がかりでようやく抑えつけたようだった。 班長ではあるが興奮状態である為に、取り合えず縄で手と胴体をグルグル巻きにし、力の強いジャベにそのロープを任せる事にした。
ジャベはガラス職で、木の強そうな女職人ジャスミの弟である。 180㎝近くの高身長で、元々兵士希望であった人材である。 全員一度落ち着かせるために、ベベリの調子を観察する事にした。
「大丈夫かベベリ、わかるか?」
「ハァハァ、や、奴らはこっちだガゥ。 縄を、縄をほどいて欲しいクゥーン」
「うーん、すまんが二本足で歩いてくれ、本気で走られると一苦労だからな」
仕方がないので、ジャベに縄を持って手綱を握って貰った状態で、そのまま移動する事にした。 獣人が四つ足で走れる事は知ってはいたが、あの速さだと人族の二本足では、到底追いつかないであろうとの判断である。 思い起こせば探査魔法を行っている時に、以上に早い移動が気になっていたが、あの時の状態が先程の行動であったのだろうとかづきは判断していた。
ベベリの足取りは軽やかで、既に地面に鼻を伸ばす行為はやってはいない。 まるで番犬の散歩のようなジャベが少しおかしく思えるが、パルとテンテンも鼻を鳴らしながら、おかしな挙動をしているのが少し気になってきた。
「いい匂いだにゃ」
「んだな、ワクワクするぞ」
「ん? 獣人だけか匂いを感じるのは」
「いえ、カヅキ隊長我々も先程から・・・その」
「ん? 少しすえた花の香りのような、この匂いか?」
「はぁ、がです」
「ミクも匂い判るか?」
「うーん、やな匂い、臭い、嫌い」
「そっか、もう少し我慢な」
それは少し目を離した瞬間であった。 ジャベが手綱を取っていたはずであったベベリが、いつの間にやらロープを切りほどき脱兎の如く駆け出したのである。 武器も取り上げておくのだったとの思いが、頭の中をよぎったが、時すでに遅しの状況である。 どうやらベベリは、自前のナイフを取り出してロープを切りほどく事で、抜けだすことに成功したようであった。
しかし、後を追えと指示を出す前に、すでに全員で後を追いかけていた。 かづきはすでに探査魔法を発動しており、ターゲットはロックオン済みであったが、脱兎の如く駆け抜ける獣人は流石に脚力が達者である。 かづきは両脚に脚力強化の魔法をかけ、必死でベベリを追ったのだったが、流石に夜目が効かないという事もあり、足元を光魔法で照らしながらの移動であった。
だが、追いかける事はできたのだが、結局追いつくまでには至らなかったようである。 獣人は滅多な事では四本足走行は行わないと聞いていた。 それは、獣とは違うという自負の表れだったりするのだが、決死行わないと言うわけではない。 先程までのように、匂いを嗅ぐときは四つ足になるし、戦闘状態でも興奮してくればその限りではない。 まぁヒューマンも匂いを嗅ぐときや、地面に聞き耳を立てる事もあるので、恥ずかしい行為とは思ってはいないようだ。
しかし、班長のベベリを真っ先に追いかけていったテンテンやパルも物凄い速さで駆けて行ったが、その後に続くヒューマンのムチンやアラリオ、大柄なジャベまでがものすごい勢いであったのには、さすがに驚いてしまった。 ミクは俺の前方を手加減しながら走っているのか、距離を離されるといった心配も無さそうである。
「おにぃちゃん、匂いが強くなって来たよ。 でも、とってもやな匂い」
「ふぅん、確かに臭いはするな。 でも悪くはないぞ」
かづきは探査魔法で、六人の足取りはつかめてはいるが、少し離され過ぎているようだった。 しかし、ライトで足元を照らしながらの全力ダッシュは、森の中では無理がある。 実際は森というよりも藪をかき分けて走っているようなものなのだ。
「あれっ? 赤隊班たちの匂いが薄くなってきた」
「あっ」
その時、かづきの探査魔法に少し異変が起きていた。 ずっと追っていたはずの六人の痕跡だったが、ある境をきっかけに突然途切れてしまったのだった。 それは、その前に行方知れずとなった白隊班と、ほとんど同じ位置のようだった。
「ミク、この先真っ直ぐ100m程の場所に何か無いか探ってくれ」
「うん、でももう六人の匂いはないよ?」
「そっか、注意深く見ていってくれ」
少し速度を落としたミクは、鼻を頻繁にならしながら聞き耳と夜でも良く見えるであろう、眼も凝らしながら一直線に走り出していた。
「ぎゃっ」
「どうしたミク」
「ここから先へは行けないわ、何か嫌な感じがするの」
かづきがその場所を見ると、一見何もなさそうな感じだが、ミクが何かしら感じているのだから何かがあるのだろう。 かづきはシガーを取り出すと、火を点け煙をその周辺に吹きかけてみたのだが、紫煙の煙はそのまま吹き抜け特に何もなさそうであった。 しかし、ゆっくりと手を近づけてみると、魔力の気配が確かにある。
「結界だなミク、ここに手を入れてごらん」
「うーん無理、入れる事ができない」
「そっか、地面に魔方陣が書き込まれてないか、辺りを探ってくれ。 結界沿いに何かあるはずだ、俺は反対側を探してみる」
反対側にそって歩いて行くと、何やら魔力の強い場所があるようだ。 注意深く探ってみるとどうやらそれは地面の中からであった。 少し掘ってみるとそれは確かにあったが、どうやら陣を彫り込んだ魔石のようである。 恐らくこれが結界を形づくっているのだろう。
「おにぃちゃん、ここに何かあるわ」
「ああ、こっちも見つかったよ。 直ぐにそっちへ行く」
かづきは掘り出した魔石を袋にしまうと、急いでミクの元に駆け寄って行ったのであった。
「
ジュリナ:さぁ! 紅隊班号令よ
『いち、に、さん、しぃ、ンガ』
ジュリナ:あれっ? 一人足りないわよ
ミシェータ:貴女ご自分を数えていないわよ
ジュリナ:あっ、そうだったわ。 じゃ始めからいち!
『に、さん、しぃ、ごぉ、ンガ』
ジュリナ:えっと、ンガっていくつだっけ?
相も変わらず、おちゃめなジュリナであった。




