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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
練兵育成篇
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異世界探求伝 第七十三話 ブートキャンプ後編ー渓谷の襲撃

ここまで、順調なみちのりだったが、そうは問屋が卸さないのが冒険の面白さです。

 かづき達とブートキャンプ参加の訓練生たちは、冒険者ギルドからの依頼の関係もあり、ズナンから西の場所にあたる国境の森へと赴く事になった。


これは、ブートキャンプの集大成である最終訓練を兼ねての事である。 取り敢えず全員順調に、渓谷付近まで辿り着いたのだが、あまり順調すぎる道程もかづきの不安の種であった。 前途多難の徒路(かちじ)を期待しての事だったが、まだ冒険は始まったばかりである。


「ふぅー、しかし、ディアンヌ、煙草の調合が上手いんだな。 良く薄い紙が手に入ったな、それにこのフィルターも良く出来ているぞ」

「はい、香りの調合に苦労しましたわ。 シガーを嗜む趣味がありませんので、おじいさまに試験台になって頂いたり、ホホホ。 フィルターは魔物の肺を加工して乾燥させたものですわ」


「そっか、このフレーバーがとてもいいな。 俺の吸っていたクールミントも良かったが、この甘いチョコの香りは懐かしい香りがする」

「喜んでいただけて恐縮ですわ。 フウロソウという種類のハーブですのよ。 刻んで乾燥させたものを煙り草と配合しましたが、多すぎると苦味が出るようです」


「これは売れるな。 ってか、あのじいさんならもう商売にしてるんじゃないのか?」

「あ、はい、実はカヅキ様の承諾を得ないまま・・・申し訳ありません」

「ハハハ、問題無いさ、まぁ、せいぜい儲けてくれ」


「まぁ、やはり、おじい様の仰る通りの方ですわね」

「ハハハ、キツネ女のじい様なら、化かされても仕方がないさ」

「まぁ! ひどい」


「カヅキ、吊り橋が架かったわ。 確認お願い」

「うん、今行く」


吊り橋は、細切れのユニットを繋げるだけの作業だが、いかんせん渓谷の幅が90mもある場所だ。 小柄な訓練生が、己の利を生かして上手くつなげていたが、基本吊り橋は両側だけしか固定ができない。 大柄なクマ獣人も居る事だし、安全を期する事に越したことはない。


「よしいいだろう。 吊り橋には魔力を込めて強化してあるから、少々体重の重いものでも大丈夫なはずだ。 各隊ごとに渡ったら、警戒を怠るなよ」

『イエッサー!』


ちなみに、ゴーレムのアロンは、あれからも軽量化がさらに進み、体重も100k台に収める事ができている。 その分破壊力も落ちてはいるが、魔石回路によって知能が上がっており、体術や剣技も覚えているので、プラスマイナスゼロくらいにはなっているだろう。


「敵襲来! 全員警戒態勢」

「ちっ、やばいな。 渡り始めたところで襲撃か、遠くで様子を見ていたらしいな」

「おにぃちゃん、ワイバーンの群れよ」


かづきは、既に向かい側へと橋を架けた緑隊班と合流済みだった。 現在橋を渡っているのは赤隊班の六人組で、六人は橋の中央付近で武器を取り出し構えている。 突然の襲来で綺麗に分断された訳だが、赤隊班の救護が優先事項だと全員に告げると、訓練生たちの様子をうかがう事にした。


「よし俺達白隊班でやるぞ、フアイヤーボールで狙いを付ける」

「駄目がぅ、ビームス」

「ん? どうしてだボピ」


「ボピの言う通りよ、ビームス」

「何故ですか! ミシェータ副隊長」


「みんな聞いて頂戴。 ワイバーンは風魔法を使うから、魔法配力が落ちるわ。 それに火を使うと吊り橋が燃える危険があるの。 だから風筒銃(エアプレスガン)か物理攻撃がいいわ」

『イエスマム!』


赤隊班は突然上からの襲撃で、混乱に陥っている。 吊り橋での足元が不安定なせいで、武器は片手でしか持つ事ができないでいる。 ミシェータに返事を返しているので、攻撃内容は把握できている様だが、いかんせん足場が悪すぎるのだ。


ワイバーンは、反撃をくらう事を恐れてか、吊り橋自体を急降下しながら鋭利なくちばしで突き、また上空に戻っていっている。 しかし、その行動は恐れが無い。 さながらヒット&ウエーを行っているように見えるのは、吊り橋から落とそうと試みているせいなのだろう。 前回のワイバーン戦でも感じた事だが、かなりの賢さを有しているとかづきは判断していた。


「赤隊班、少しづつでもいいから、防御体制のままこっちへ向かえ。 全員で援護する」

『イエッサー!』


「魔法兵! 上空に霧を張れ」 

『イエッサー!』


「攻撃兵! 良く狙いを定めて、炸裂弾を使え」

『イエッサー!』


『コールカヅキ:私たちはどうするの?」

『コールオール:ジュリナ達は、援護に専念しろ。 こいつらに任せるんだ。 いざとなったらモモが準備してるから大丈夫だ。 聞こえてるなモモ』

『アンサ:聞こえてるよおにぃちゃん。 準備万端だよ』


『アンサ:霧の魔法が発動したら、ワイバーンを確認しながら、モモ以外はディアンヌを連れてこっちへ来い。 オバー』

『了解、オバー』

「ねぇ、貴方達、誰と話してるの?」


「アロン! デァンヌを抱えて守りなさい。 橋を渡るわ」

『コーホー』

「きゃっ」


各自準備が整って、急降下してくるワイバーンに風筒銃で狙いを定めているが相手は風使い、上手く当たったとしても攻撃力は半減する可能性もあるのだ。 案の定、急降下して来るワイバーンに当たったかに見えた炸裂弾は、当たる直前に大きな炸裂音で、直撃は叶わなかったようだ。


しかし、ワイバーンはこの大きな音にひるんだようで、その隙に魔法の詠唱が進んでいく。

『雨粒の薄き層の向こうに・光も遮る濃い乳白色の幻影よ・辺りにたち込め視界を閉ざせ』

『ミスト・クラウド』


四人の魔法兵が息を合わせて魔法詠唱を行うと、上空一面に真っ白な(もや)がかかった。 モモは少し離れた砦小屋の屋根から上空を確認していたが、安全だと確認したのだろう、指信号で合図を送ってきた。 口を一本指で押さえた符丁が入っているのは、誰にでもわかる「黙って進め」の合図である。


赤隊班が無事に対岸へと進んだのを見て、次々に各班が吊り橋を渡って行く。 各班が吊り橋を渡り終えて、ジュリナ達が渡り始めた頃に奴らがまたやってきた。 やはり賢い奴らで、上空で霧を消そうとしていた様だが、ただ空気を拡販しているだけだと判断したのだろう。 低空飛行に切り替えると、真横からジュリナ達を襲い始めようとしていた。


「全員、炸裂弾準備、俺の合図で打ち方始めるぞ」

『サー! 準備完了』

「白隊班撃て!」


『バシュッ! バン!、ドン』

「ギャァー」


「よし、当たったな。 次赤隊班撃て!」

『バシュッ! バン!、ドン』

「ギャァー」


次々に、ジュリナ達へと襲い掛かるはずだったワイバーン達は、その目論見が全てはずれ、兵士たちの餌食となっていった。 単発では弾かれた風筒銃ではあったが、三発、四発と連射のせいで、次の防御を行う事ができなかったようだ。 しかし、その中でもとび抜けて頭の良いワイバーンがいた。 この弾激の間を縫うかのように、白い靄からすり抜けてきた一匹のワイバーンが、ジュリナに向かって急降下で突進していく。


「白巫女様はおいらが守る!」

『タッ!』

「ザジオ!」


何故、ジュリナを標的にしたのまではわからないが、上空の白い靄からのいきなりの出現で、これを回避することは難しかったのだ。 しかし、彼女に襲い掛かろうとしたワイバーンへと、果敢にも狼族のザジオが崖の側面から勢いよく飛び込んで、体当たりを仕掛けたのだった。 


このワイバーンは、上空から戦況を伺っていたようで、恐らく音や声で吊り橋を渡っていたジュリナ達を特定できたのであろう。しかも彼らとの激戦により、風にあおられていたつり橋で、身動きの取れないジュリナたちが、武器をまともに構える事すらできない事も見越しての事であったようにも見える。


『ドン!』『バスッ! ボン』

ザジオの勇敢なる体当たりで弾かれたワイバーンは、モモからの攻撃を受けて頭を吹き飛ばされると、むなしく地上へ落ちていったのだ。 崖下へ落ちていくのは残念だが、全員無事な事が何よりである。


「あれ? 下に落ちる音がしないな。 ボチャンとかドスンとか聞こえないぞ」

「クロサワ指令、緑隊班がワイバーン回収中です」

「えっ、バーミヤン?」


よく見るとワイバーンに、風筒銃で撃ちこんだアンカーが食い込んでいる。 アンカーにつないである紐は、魔物印の絹糸で編んだ紐なので、細くても丈夫なのである。 しかし、さすがバーミヤン、ズナン山の頃より一段と成長を見せている。


「そっか、バーミヤンよくやった。 四匹だったか、ご苦労さん」

「いえ、打ち漏らした一匹をモモ教官が撃ち落としましたので五匹です。 まだ居たようですが逃げたようです」

「そうか、皆ご苦労だった。 ザジオは大丈夫か?」


「そ、その勝手な行動、ごめんよにいちゃん」

「いやいや、逆だぞ。 お前の勇敢な行動は称えられてしかるべきものだ。 死を賭してまで敵に向かう姿勢は天晴だ、俺も間に合わなかったからな」


「ザジオ、有難う。 吊り橋が揺れてて(つか)まるのに必死だったから助かったわ」

「うぁあいあや、し、白巫女様、いえ、ジュリナデリカ副隊長にお怪我が無くて何よりです」

「でも、あまり無茶はしないでね。 ザジオ、チュッ!」


「あっ! し、しろ・・・さま」

「アハハ、いい褒美だったな、ザジオもう一つのお前の任務が遂行できて何よりだ。 よし、ワイバーンは血抜きで吊るしておけ、ついでに少し早いが食事を兼ねての休憩だ」

『ウオォー! イエッサー』


ザジオのもう一つの任務とは、勿論白巫女であるジュリナを守護する事にある。 人狼チームの中で、ザジオだけがこのブートキャンプに参加しているのは、何も本人の戦力アップを考えての事だけではない。 身近にいて、人狼族の象徴的存在である白巫女をお守りすることこそが、至高の任務だったのである。


「さぁ、サンドイッチだが、軽く食べておこう」

「お腹ペコペコぉ」

「ハハハ、ジュリナの分は多く入っているからな。 足りなかったら言えよ」


「うん、カヅキだーい好き」

「何よ、わたくしも愛していますわ」

「おにぃちゃんおにぃちゃん、わたしも大好きよ」


「おにぃ様、そ、そのあ、あ、好きよ」

「ホホホ、皆さんに愛されて良いですわね。 どうぞ、コーヒーですわ」

「おっ、何でディアンヌ、コーヒー持ってんだ? 気が利くな」


「あっ、わ、わたくしも・・・ だいしゅ、ですので――」

「お前も飲むのか? 苦いだろ」

「いえ、こうして、ミルクを入れて、この白いお砂糖も、うん、美味しい」


「良く知ってるな、ペンネに聞いたんだな」

「ええ、将来のだ、だん、コホン、カヅキ様のお好みは把握しておかないとですので」

「うん? そうか、料理好きは良い事だな」


「今度お作り致しますわ」

「ああ、たのむ、ディアンヌ。 楽しみにしとくよ」

「まぁ、カヅキ様がわたくしを、楽しみに待って下さるのですね」


「ディアンヌ! あ・な・たをぢゃないわ。 り・ょ・う・りだかんね」

「ジュリナ、いい加減にしないと飯抜きだぞ」


「だって・・・」

「だってじゃない、仲良くしてくれよ頼むから」

『シュン・・・』


「ジュリナデリカ、ここは耐えるのですわ。 殿方は出しゃばりの女は嫌がると聞き及びますし」

「えっ、そうなの? ミシー」

「そうですわ、今はじっとして、あの女狐の本性を暴くチャンスを待つのですわ」


「う、うん、さすがミシェータね」

「おにぃちゃん、さっきの褒めてもらってなーい」

「おお、そうだったな、モモ、急襲してきたワイバーンを一発だったな。 頭が吹き飛んでたぞ、えらいえらい」


「やぁー、ぎゅっとしてぇ」

「あー、モモだけずるーい。 ジューの改造わたくしも手伝ったのに」

「よしよし、二人ともギュイーンしてやる。 おいで」


『やったー!』

かづきは二人を交互に抱きしめながら頬ずりすると、空高く宙に舞いあげたのだった。

『キャッキャッキャッ』


『ちっ、とんだ伏兵ですわね』

「ほら見て、ジュリナ、ディアンヌが黒くなっているわ」


「あ、ああら、いやだ、サンドイッチがのどに詰まってしまったわ。 コホンコホン」

「大丈夫か、ディアンヌ」

「はい、カヅキ様」


「カヅキ、ワイバーン、バラすんでしょ?」

「ああジュリナ、アイツらにやらせるから指示してくれ。 夕食の材料にするから、肉と骨も丁寧に切り分けておいてくれ」

「わかったわ、カヅキ、骨はスープ用ね」


「ああ、頼む」

「わたくしも、こうした機会は初めてですので、見学させていただきますわ」

「ああ、ディアンヌも行って来るといい」


「さぁ、あんた達、休憩は終わりよ。 ワイバーンを片して先に進むわよ」

『イエス! マム』


こうして、ワイバーンを解体し終えた一行は、崖沿いを魔法兵が道に均しながら先へと進むのであった。 進みながら、地図作製も進めているのだが、それ専用に中くらいの気球を作っておいたのだ。 素材は前回退治したワイバーンの革を利用している。 気球はこの国でも作られているものらしい。


ワイバーンの皮は丈夫で魔法耐性もあるし、四カ所に加工した革を取り付ける事で、魔力を通すと風を操る事ができるので多少の自走もできる。 魔石を仕込んでおり、袋状の気球の内部で空気を温めているので、安定した空中散歩が楽しめる乗り物であった。 






『アオーン!』

ディアンヌ:何! 狼の魔物かしら、近くに居るわよ

ジュリナ:ああ、ザジオの定期連絡よ、気に無くていいわ

ディアンヌ:あら、良かったわ。 あっ! あなた、そこの胆のう破らないで頂戴ね。


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