異世界探求伝 第七十二話 ブートキャンプ後編
いよいよブートキャンプの締めくくりとなる後半が開始となります。
さてさて、今回の冒険は無事に行くのでしょうか。
翌日夜が明けると、ぼちぼち砦村の正面入り口に、討伐隊のメンバーが集まり始めた。
訓練生たちは、現在ブートキャンプ中の宿舎で寝泊まりしている為に、一人も欠ける事無く集まって来ている。 かづき達はミシェータの工房に元々居るので、ディアンヌともども寝起きはいつも同じである。 かづきの屋敷は現在建設中なので、できるのが待ち遠しいのだが今暫くの辛抱であろう。
厨房へ出向き、ペンネから食料の調達を受けると、その足で全員で待ち合わせをしている砦の正面入口へと、カヅキ一行は向かった。 すでに装備の方も配布の準備が整っており、かづきも食料と丸薬の入った袋を配給所に持ち込んだ。
「クロサワ様、白隊、赤隊、黄隊、緑隊、四隊ともども人数確認が済みましたぞ」
「ベルミ、ご苦労砦の後の警備は万全か? クラークが今日戻る手はずだから、何かあればクラーク経由で連絡をくれ」
「おう、任せときな」
「全員いるな、今から装備及び物資の配給を行う、各隊班長の指示の元に行動せよ」
『サー! イエッサー』
武器の配給は、軍専用のサバイバルナイフと、風筒銃の弾丸となるダーツ弾が三種類で100発支給される。 ダーツ弾は実戦用なので、威力がかなり強いものとなっているので注意が必要だ。 雨具や防具を始めとする備品は、既に配給済みなので問題はない。
配給の品物はかさばらないように、武器のたぐいを入れた収納袋と食料などの袋に分けて配給されるのだ。食料の袋の中には、食料類のほかに緊急時の食料である特製の兵糧丸に、鍋と皿とが兼用になっている金属製の食器とフォークにスプーンといったところだ。
これに傷薬を始めとする応急処置のアイテムがあり、簡易テントに寝袋などのアウトドア用品も入っている。 持ち込みも自由にしているので、訓練前に預かっておいたものも返却済みなので、自前の武器なども適当に揃えて来ているのだろう。
「クロサワ指令、白隊、赤隊、黄隊、緑隊、四隊すべて配給確認が済みましたぞ」
「うん、ベルミご苦労、じゃ砦村を頼むぞ」
「あっしも着いて行きたいんですがね」
「ハハハ、砦村の警備の要が出かける訳にはいかんだろ、それにクラークも困るしな」
「人狼達も警備に加わってくれてるんで、心配はありませんぜ。 お気を付けて」
「ああ、頼んでおく」
今回はかづきが最高司令官で、四隊の隊長である。 副隊長にジュリナとミシェータがおり、通信班のまとめ役が耳と目の良いモモで、物資管理や雑務をミクに命じている。 ディアンヌはもちろん衛生兵扱いだが、サポート役にゴーレムのアロンに補佐を命じているので安心である。
「では出発だ! 白隊、赤隊、黄隊、緑隊の順番で二列縦隊で北へ進路を取って進め」
『サー! イエッサー』
こうして、ブートキャンプの締めとなる、最終訓練が開始されたのであった。
かづきを始め、この砦村周辺地は、まだ知られていない事が多くあるのだそうだ。 特に砦が廃砦になっていた理由の定かでは無いし、険しい山なので両脇には断崖絶壁の渓谷まであるのだ。 かづきの脳内では、これほど守りに適している土地は無いはずなのに、手付かずだったことには少し気がかりな事でもあった。
しかし、要害である事は事実で、良い物件であることに間違いはない。 国境西の森の外れには大きな湖もあるらしく、今回はそこまで足を延ばしてみる予定である。 二泊三日の行程はこうした事も加味しての日程であった。
「モシャモシャ」
「何食べてるのですか?」
「ああ、ディアンヌ、これはマシュマロだよ」
「一つ下さいませんか」
「ああ、口を開けて」
「あーん、パクッ、モシャモシャ、あら、美味しい」
「あー、おにぃちゃんなんか美味しいものまた食べてる」
『あー、カヅキずるーい』
「何だお前達、食料の入った物資袋を配給したろ。 その中に入ってるぞ」
『あぁ、本当だ』
「ディアンヌが作ってくれた兵糧丸で、卵の白身が余ったろ、あれで作ったんだ」
「いえ、カヅキ様から頂いたレシピに、体力増強の材料を混ぜただけですわ」
「そんなことはないさ、ディアンヌのお陰でみんな助かってるよ」
「そうね、ブートキャンプ訓練では、生傷が絶えなかったし」
「ミシェータ様、有難うございます」
「ミシェータでいいわ。 こっちも呼び捨てさせて頂きます」
「あたしもジュリナでいいわ、ディアンヌの薬のお陰であたしも無茶な特訓ができたわ」
「そう言って頂けると、嬉しゅうございますミ、ミシェータ、ジュリナ」
『でも、カヅキはあげないわよ』
「ぷっ、アハハお二人は仲が宜しいのですね。 でもそれとこれとは別ですわ」
『むっ』
「おい、三人とも仲良くしろよ」
「だって、このメギツネが」
「ぷっ、オオカミに狸にキツネか、いい組み合わせだな」
『おにぃちゃん、お兄様、私たちも居るわよ、居ますわ』
「ああ、可愛い双子のニャンコも居たな」
『ニャンコ違う! パクッ、モグモグ』
「マシュマロでも食ってな」
『うー、モグモグ』
「しかし、卵の白身でこんなおいしいものが作れるのですね。 カズキ様はやはり、賢者様です」
「いや、レシピは簡単なもんだぞ。 ペンネが量産して売るみたいだから、そのうち普通のお菓子になるさ」
「その脳内を一度拝見したいものですわね。 砦の工房の製品はほとんどカヅキ様がお考えあそばされたそうなのですね」
「そうよ、ディアンヌ、カズキは凄いんだからね」
「お兄ちゃんは凄いんだからね」
「お兄様は天才ですわ」
「まぁ、ディアンヌの言う通り、賢者様かもね」
「お前達、あまり持ち上げてくれるな。 落ちた時が辛いぞ」
『アハハハハハ』
「モモ様、そろそろ渓谷が見えて参ります」
「あら、そうなのね。 おにぃちゃんちょっと見て来るわ」
「ああ、気を付けて」
この周辺は、その標高が1000mはある険しい山道だ。 砦周辺は道路を整備させてあるので、道の幅はそこそこあるが崖周辺は、いまだ手付かずの場所だけあって、かなり道幅は狭くなっている。 こんな場所で魔物に襲われるとひとたまりもない為、警戒態勢を上げておく必要もあった。
「全員これから先は、警戒態勢レベル四だ。 斥候が帰還するまでこのまま隊列を乱さず前進しろ」
『サー! イエッサー』
警戒態勢はレベルに応じて、警戒体制を整える事にしている。 レベル五は近辺の通常警戒だが、レベル四になると見える範囲全てが警戒の対象となる。 視覚や聴覚を始め、嗅覚までもがその警戒の対象であり、その報告は小声か指信号で行われる手はずだ。
レベル三は、目標確認の際の警戒態勢となっているが、好戦的であるか無いかが確認される。 安全であると確認されれば、警戒レベルはすぐに元に戻る事になる。 レベルニになればもはや戦闘を避ける事は出来ない。 全員すぐ武器装備の上、敵の殲滅にあたる事になるが、現場の上官の指示の元に行動を開始する。
現在全員集まっているので、カヅキが指示を出しているが、これがばらけた場合には、各自隊の班長が指揮権を有する事になる。 レベル一は最重要警戒態勢になるが、これは撤退を考えての戦闘を行う事を旨とする。 死んでしまえば元も子もないので、生命優先の指示をしている。
「モモ様からの伝令です。 二キロ先に渓谷の幅が狭い場所を見つけたようです」
「了解した。 このままの態勢を維持して全員進むよう支持しろ」
「はっ、クロサワ指令」
しばらく歩みを進めると、向こうからモモが小さな手を振り、指信号で合図を送ってきた。 通信兵から翻訳文が届いたが、俺から見ても見える位置だったので問題ない。 指信号は『おにぃちゃーん、早く早く』との事だったが、何とも緊張感のない奴め。 まぁ、こいつらがそれを見てほのぼのしているのが、唯一の救い何だろうか。
「おにぃちゃんおそーい」
「全体で動いてるんだから、走って行けないさ」
「んと、どうかな? この場所」
「うーん、幅90mってとこかな、崖下が狭くなってるし、この先はもっと断崖がきつそうだから良しとするか」
「やったー、任務完了!」
「モモちゃんお疲れ様」
「緑隊班、架橋敷設準備にかかれ、各隊一名づつ警戒兵を出し、それ以外の者は橋頭堡を設置する為の場所を確保せよ」
『サー! イエッサー』
橋頭堡とは、橋の手元に構築する陣地の事で、橋の安全を確保するとともに、防衛の一部となるものである。 架橋敷設とは、橋を掛ける行為そのものを言い、今回はこの断崖絶壁である渓谷に敷設を行う為に、簡易的なつり橋を作る予定だ。
訓練でも同じような光景があったが、今回は木ではなく対岸の崖に杭を打ち込み、ロープを渡さなければならないが、エアプレスガンの威力も上がっている為に容易に行えるだろう。 手順は二重にした紐をアンカーとしたダーツ弾を撃ち込む事になる。
アンカーを壁に打ち込むと、紐には太いロープが取り付けられ、このロープで向こう岸へと渡る事ができるが、しっかりと固定を済ませると滑車で移動し、本格的に橋が作られる事になる。 とは言え、こうした起こりうることの事態は想定済みで、木とロープである程度の長さの橋を作成して持ち込んでいるので、これを繋げていくだけの作業となる。
「うーん、モシャモシャ」
「どうしたのカヅキ? 」
「いや、暇だなって」
「アハハ、カヅキだったら、飛び越えて橋渡してるよね」
「そうね、でもこれは訓練だから、カヅキが手を出すわけにはいかないわね」
「カヅキ様、お口に合うかわかりませんが、これをどうぞ」
「ん? なんだディアンヌ」
「見よう見まねで作りましたので、お眼鏡に掛かるかどうかわからず、今まで躊躇しておりました」
「うん、クンクン、お! これは」
「あ、かづきの吸ってたシガーってのと似てるわね」
「そう言えば、最近吸うのを見かけなかったわね」
「アハハ、切らしてたんだ。 パイプも貰ったんだが、どうもニコチンがきつくてな。 面倒くささもあるし」
「どうでしょ? おじい様に分析しろと言われて、調合は出来ておりましたが」
「ああ、そう言えば、じいさんにくすねられたんだっけ」
かづきは、羊皮紙で作られた箱からシガーを一本取り出すと、早速口にくわえて火をつけてみた。 一度軽く吸って味わって見せると、次にはおもいきり深呼吸をするように煙を吸い込んでいた。 それはまるで愛おしんでいたものに、久方で逢うかの如く味わう異香のようであった。
「ど、どうでしょう」
「うっ! あぁぁ・・・」
「カヅキ、ちょっとカズキ! モモミク、そいつをすぐに拘束して!」
「は、はい!」
「ち、ちょっと、アッ」
「ま、まて、久しぶりのニコチンで、頭がくらっとしただけだ。 ディアンヌを離せ」
『は、はい、お兄様、お兄ちゃん』
「ミシー、お前もだ! 『ライキリ』をしまえ」
『ちっ』
「ちっ、てなんだおまえら、大丈夫か? ディアンヌ」
「・・・あ、駄目ですわ、力が入りませんの。 カヅキ様肩をお貸しくださいませんか」
「ああ、大丈夫か、よしよし」
「カヅキ様、こ、怖ろしかったですわ」
『ちょ、カヅキ!』
「お前たち二人は、少し離れていろ。 ディアンヌが怖がってる」
「ちょ、ディアンヌ、そこは肩ではありませんわ」
「離れなさいディアンヌ!」
「おいおい、ディアンヌは俺にシガーをプレゼントしてくれただけだぞ。 クラッとしたのは、俺のせいだからディアンヌに罪はないだろう。 皆を驚かせた俺が悪かっただけだ」
「それはそうだけど、その女には悪女の匂いがするわ」
「わざとらしいですわ。 ディアンヌ、早くカヅキから離れなさい」
『くっつきすぎ!』
「モモもミクもそんな事言うんじゃない。 ディアンヌには戦闘能力が無いんだぞ、もっと優しく接しろ」
『はーい、ごめんなさい』
「そこのワンコトたれ目! 返事は」
『はい・・・』
「ったく、ディアンヌは大事な仲間だぞ。 仲間と仲良く出来ない奴は嫌いだな」
『カヅキぃ』
「モモは仲よくできるもん」
「ミクだって」
「偉いな二人とも、さすが俺の可愛い妹たちだ。 よしよし」
「ふっ」
「あー、そいつ笑ったぁ」
「目がキランと光ったわ」
「お前達もうやめないと、本当に怒るぞ」
『はーい、仲良くするわ。 だから早く離れて 離れなさい』
「駄目だ、ディアンヌ、しばらく俺の横にくっついてろ」
「はい、カヅキ様、ポッ」
「クッ・・・」
「ジュリナ、ここは大人しく引き下がるしかないわ」
「そうね、でもあのニヤついた顔許せない」
「クロサワ指令殿、整地完了です」
「ああ、今行く」
かづきは整地したての場所に、石塀を作るとそこに仮の拠点である小屋を建てた。 建てたというよりも、収納袋から小屋を出しただけだが、かづきの収納袋は特別製である。 従ってかなり大きなものも収納できるようになっているので、出来上がった小屋をいくつか収納しているのだった。
女狐:つかみはOKだわね
ニャンコ1:ディアンヌおねぇちゃん、黒いって何?
女狐:さぁ、何のことかさっぱりわからないわ。 それよりお二人に良いものを差し上げましょうね。
ニヤンコ2:あっ! これ、髪飾り、かわいい。
女狐:ふふ、よくお似合いよ。
『おねぇちゃん大好き~』
そっと、握り拳を握り込むディアンヌであった。




