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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
練兵育成篇
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異世界探求伝 第六十四話 おまつり

やはり、秋祭りはつきものですよね。

 ブートキャンプも順調に事が進み、訓練生たちの実力も目を見張るように(たくま)しくなっていった。 そんなさなかに、クラークから一つの提案があったのだ。


「クロサワ様、収穫祭はどういたしますか?」

「あぁ、大麦の収穫が終わったんだっけ」

「いいえ、今から撒き始めるのですよ」


「えっ、今から冬じゃないのか?」

「ハハハ、麦は冬を越すんですよ。 クロサワ様も知らない事がおありだと、安心いたしました」

「いやいや、知らない事の方が多いさ。 所で何の収穫祭なんだ」


「白オオマメですよ。 食べたことあるでしょ」

「あのシチューとか、スープに入ってる奴かな」

「左様、夏場は白オオマメを植えて、秋には麦を植えるのですよ。 麦は初夏に収穫いたしまして、初夏からは白オオマメを植えるのが通例となっております。 大麦と小麦は隔年で植えているのですよ」


「なるほど、連作障害防止のための知恵だな」

「ふむ、やはりご存知でしたか。 さすがはクロサワ様」

「ああ、祖母が畑をやっていたからな。 確か根粒菌って言ってたな、草花にも虫が付かなくなるとか、言ってた気がするな」


「ほう、それでこの白オオマメが今年最後の収穫なので、毎年これをお祝いする収穫祭をやるのです」

「でも、この村にはまだ畑は無いだろ」

「ええ、毎年ズナンの町で収穫祭を、ヴァレンチノ家が取り仕切っております」 


「主催はグランダム伯爵だよな。 これって俺に聞く必要もないんじゃないか?」

「いえ、食べ物屋などの出店を出しますので、これにご協力いただけたらと思いまして」

「ああ、屋台か、その事ならペンネが張り切っていたはずだぞ」


「ハハハ、そうですが、クロサワ様はまだアイデアがおありなのでは?」

「うーん、あるにはあるが、祭りの概要を先に聞いておこうかな」

「左様ですな、確かに所変われば祭りの内容もガラリと変わりまする」


 ズナン収穫祭の概要は、こうしたものだった。

豆を積んだ荷馬車に、花輪で着飾った乙女たちが乗り込んで、パレードをするそうで、思い思いに着飾った大道芸人も街に繰り出すのだそうだ。 町中活気に溢れ、この時とばかりに飲めや歌えの大騒ぎとなるらしい。 それに夜のお伽の方も盛んになり、娼館も稼ぎ時と言う訳らしい。


「なるほどね、楽しそうだな。 豆だから女性を表してるのかな、それで娼館が忙しくなると」

「左様ですな、ズナン収穫祭は昔から女の祭りと言われております。 それにこの国は女性の方が強いのですよ」

「アハハ、確かに控えめな女性にはお目にかかった事は無いな」


「ええ、婚姻につきましても男には決定権はありません」

「へえ、そうなんだ。 じゃ家を仕切ってるのは女性が多いのか」

「まぁ、典型的な女性主は、うちのサウリーネ女史を見て頂けたらお解かりかと」


「ああ、あのメイド長こわいもんな」

「あ、あの、目の前で仰らないで頂けると有難いですな」

「ハハハ、クラークも相当やられた口だな」


「ハハ、まぁヴァレンチノ家の経緯から、その生き様まで事細かに・・・」

「まぁ、教育ってもんはそういうもんだ。 ところで豆を見ることは出来るかな」

「はい、こちらに。 まずは、これが収穫された白オオマメと乾燥の保存用オオマメです」


「ふぅん、これは白いんげんだな。 生じゃ毒があるよな」

「ええ、加熱しないと食べられません」

「スープやシチュー以外の食べ方は?」


「特にございません」

「そうなのか。オオマメって言うくらいだから、コマメとかあるんだろ?」

「はぁ、これがそうです」


「おっ! 大豆じゃないかこれ」

「皮が黒いので乾燥したものは、あまり好まれては食べられていません。 小さいですし、クロマメと呼んでおります」

「これって若い豆を、湯がいて食べてたりするんじゃないのか?」


「この国では大体そうやって食べています。 サラダに混ぜたりスープに入れたりですな」

「そっか、豆腐が作れるな。 大麦もあるし味噌も作れるかもしれん」

「トーフ? ミソ」


「ああ、にがりは手に入ったのか?」

「海からの物は来週中には送られるかと、祭りに使われるのですか?」

「あ、いや、豆腐と味噌は開発予定の品だ。 それに先にやりたい事もある」


「先に? このクロマメを、ですか?」

「ああ、ペンネの厨房へ行こうか」


小走りに食堂へ向かうと、その横にあるペンネの厨房へ飛び込んだ。 むしり取るように乾燥したクロマメを鍋を勢いよく入れると、そのまま火にかけて煎り始めたのだ。 ペンネもクラークも黙って見守り、その出来上がり具合を見つめていた。 


辺りに少し焦げ臭いにおいが漂うと、かづきは満足げに中身を鍋に移して連木で潰し始めたのだった。 潰し始めるのと同時に、焦げ臭かった香りから香ばしい香りへと変わっていくのが分かる。 かづきはコーヒーを作りたかったのだった。 厳密にいうとコーヒー豆ではないので、コーヒーではないが限りなく近い代用品の完成である。


かづきはスプーンで計量しながら、分量の水を量って小鍋で煮始めた。 作り方はトルココーヒー風だ。 本来は砂糖も入れて煮るのだが、素材の風味を確かめたかったために、あえてそのままに出してみた。 ネルに汁を越すと、黒に近いこげ茶色の汁が抽出出来た。


鼻をかざしてみると、確かにコーヒーの香りがする。 かづきは目を瞑り『ズズッ』と音を立てながら、その味を深く味わってみた。


「うん、苦味の中にほのかな酸味だ。 これは硬度のあるこの水にぴったりなようだ」

「味見をしてもよろしいですか?」

「ああ、まずは素材の味を確かめてくれ。 ペンネコック長、甘い菓子があれば持って来てくれないか」


「はい、こちらに御座います」

「それはブラックという味だ。 この甘いビスキーと一緒に食べてみてくれ」

「ふむ、苦味の中に酸味があるので、口の中がさっぱりといたしますな。 では、お菓子をひとつまみ」


「おお、これは良く合いますな」

「ふむ、眼も冴えるような気がしますぞ」


二人は固いビスキーを、交互に食べながら満足そうだった。 しかし、まだこれからだ。 かづきはペンネからミルクを貰うと、次は砂糖と鍋にかけそこに豆の粉を入れたのだった。


「こっ、これは!」

「これが先程のコーヒーと同じもですか!?」

「ハハハ、やっぱりこっちの方が気に入ったみたいだな。 これは『カフェオレ』って飲み物だ」


「カ・フェ・オレ・・・なんとも絶妙な」

「コーヒーは社交界の出会いの場で、よく飲まれていたらしいぞ。 本来は違う種類の豆を使うんだがな」

「ほう、しかしこれは凄い飲み物ですな。 早速このクロマメを集めます」


「俺の国では、専門店がある位の人気だったぞ。 デザートやお菓子もそこで出すんだ。 コーヒーを飲めない奴の為に紅茶やジュースも出すといい」

「これは屋台ではなく、お店レベルのものですな」


「店かじゃぁ、ケーキとかも置かないとだな」

「レシピを教えて頂けますか?」

「ああ、そうだな、ベーキングパウダーってあるかな? 小麦粉に入れて膨らませる粉なんだが」


「えっと、先日開発した『コウボ』のようなものですか?」

「うーん、性質は似てるが、発酵させる手間が無いものなんだよ。 えっと、どこで取れるんだっけ」


かづきは勘違いしている様だが、ベーキングパウダーというものは、地球にでさえ自然には存在しないものなのだ。 これは重曹の効果を食品用に高め、色々調合したものをベーキングパウダーと呼んでいるだけだ。


『えっ、そうなのか』

『はい、発明者はベーキングと言います』


さっそくラビ先生に注意を受けている様だが、利用法には気が付いたらしい。 それに本来ケーキにはベーキングパウダーを使用しなくとも膨らませることは出来るのだ。


「ああ、済まなかったな。 自己解決してしまった。 『重曹』があれば色々使い道があるから、探しておいてくれ。 ケーキは色々試作してみよう」

「はい、では屋台の方から先に決めますかな」


「そうだな、お好み焼きを出そう。 屋台だから早く作れるように材料は簡単なものが良いな。 四角い鉄板を作って欲しいが、これはフライパンのように炒めるものなんだ」

「なるほど、焼きながら売るのですね。 ソースは仕込んでありますので、材料はお任せください」

「クロサワ様、屋台についてはアイデアは御座いませんか。 今ある屋台を増やそうと考えておりますので」


屋台は、普段営業を行っている屋台とは別に増やすのだそうだ。 屋台の仕組みはジャパン国の伝統屋台と雰囲気が違うが仕組みは同じである。 組み立て式のプレハブ方式で、木製の屋根付き屋台は軽食を売りさばいている。 おもちゃやアクセサリーの店もあるが、これはリヤカーを改良したものが多く、小物や薬草売りに団子の様なものを売っていたりする。


干し肉の屋台も多く、ヘビやトカゲなどの爬虫類や、羊やウサギなどの干物も多く売っているが、ここは冒険者も多く立ち寄る店で、意外に繁盛している。 元々商店街にある露天なので、商店街にある品物と被らないのが基本的なルールらしいが、少しくらいは大目に見てもらえるらしい。


元々ヴァレンチノ家は、この街の治安維持をしているので、屋台を出しても文句を言う奴などは居ないのだが、屋台を出す権利を売っているのだそうだ。 まぁ治安維持とは言っているが、いわばやくざの縄張りと同様の物だと、かづきはみているがそれはそれで、間違いはない。


基本的に、商店も何を売りにしても良いのだが、規制はあるようだ。 毒物は売ってはいけないだとか、人の売り買いはNGで、色を売るのも禁じられている。 これらは裏通りの目立たない所で、ひっそりと行っているのだが、彩町街は当然のことながら華やかで、商店街とは別の町並みで独特の雰囲気を持っている。


かづきは露店や出店のアイデアを、祭りの体験を思い出しながら、こちらで可能な商売を一通りクラークとペンネに教え込んでいた。 軽食で可能なものは、お菓子のクレープ、アイスキャンディーに綿菓子、重曹も手に入れられそうなので、カラメル焼きも可能な様だ。 串焼きは元々あるので、イカ焼きなどの海鮮焼きを取り入れると良いと言っておいた。 


醤油は無いが魚醤はあるので、これを使えばタレも作れるので、みたらし団子もどきや一銭焼きに焼きうどんも作れそうだ。豆もあるので餡が作れるのであれば、回転焼きなどのお菓子も作れる。ただし、白いんげんなので餡は白いのだが。 


「鉄板に続いて、回転焼き用の鉄板に、たい焼き用の鋳型も頼む。 あと、個人的にたこ焼きの鋳型も作って貰おうかな」

「はい、屋台と鋳型は直ぐに作らせましょう。 しかし、味の方は・・・まぁペンネも居ますし、楽しみに待つとしましょう」

「で、祭りはいつからなんだ?」


「はい、来月ですので1か月半と言う所でしょうか」

「屋台一つに付き、2、3人の人出も必要だな。 その前に砦村でも試運転を兼ねてやろうかな」 

「はい、しかし人集めも大事ですな。 まさかズナンの町から全員呼ぶわけにも行きませんので」


「ああ、そうだな。 いきなり人口が減れば、領主も黙っていまい。 人集めは他の土地から集めてくれ。 俺も集めてこよう」

「えっ? クロサワ様が人集め、ですか?」

「ああ、少し当てがあるからな、でクラーク、居住地の確保は出来たのか?」


「ああ、人狼ですな。 はい、砦村の段下を居住区にしていますので、今のところ五十名であればすぐにでも生活が可能です」

「そうか、それは安心した。 それから食糧問題も解決しないといけないな。 あの場所も農地にするんだろ」


「はい、兵舎はすでにありますので、その訓練地も必要ですな。 兵舎の隣接地には厩舎と武器庫、倉庫を建てていますが、訓練場はやはり隣接地が良いのですよね」

「そうだな、射撃場と訓練場は必須だな。 思い切り暴れても大丈夫な、石造りにして欲しいところかな」

「畏まりました。 訓練の様子も見たいところなんですが」


「ああ、クラーク、いつでも見に来てくれ。 実質の軍事責任者はお前になるのだから、戦力の把握はしておかないとな」

「ハハハ、それは恐縮でございます」

「それから、色々な素材も見てみたいから頼んでおくよ」


「はい、現在各地から素材となるものから、鉱石まで集めさせております。 来週からはぼちぼち集まって参ります。 それから工場の方も来週には完成予定だとか」

「そうか、国は人なりって言うからな。 人材が欲しいな」


「その件ですが、ペンネとも話しましたが、クロサワ様の知識はかなりのもので御座います。 ゆえに教育の場もお作り頂けたら、この砦に住む子供たちも遠くの学校へ行かなくても済むのですが」

「学校か、うん、その発想もあったが、教師の問題はどうするんだ?」


「教師はその道に長けたものが、臨時で行えばいいのです。 クロサワ様は、そのサポートをしていただけたら」

「そんな簡単でいいのか。 じゃ、建物を頼む、カリキュラムは、こっちで考えてみよう。 但し俺も不得手な部分も沢山あるからな。 期待はするなよ」

「ガハハハッ、そんな謙遜を」


クラークとペンネの熱いまなざしを浴びながら、かづきは期待に応えなければならないのだろうと思うのであった。


  

さて、どんなおまつりになることやら、お楽しみに!

ブートキャンプもまだまだ続きます。

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