異世界探求伝 第六十二話 来訪者
新キャラ登場です。
この先どう絡んでくるのかは微妙な所です。
分数を教える前に、特殊な数の数え方を教える事にした。 十進法であるが、最初の列の奴は四つしか数を数えられないので、四進法で数えているとも言える。 キリの良い十進法で暗算しながら計算していく方法は、効率よく数字を把握できるので教えやすい事もある。
ここから掛け算も教える事も出来るので、後々楽である。 勿論掛け算の出来る者もいたのだが、その辺は個別に教え込む事にする。 十進法は直ぐに理解して貰ったので、かづきはある道具を配る事にした。 「ソロバン」である。
ソロバンは基本的に、上段の二進法と下段の五進法を組み合わせた十進法だから、数が数えやすい。 ソロバンの名手ならば、電卓より計算が速い事は有名な話でもある。 かづきは黒板に、備え付けたソロバン模型を動かしながら、足し算と引き算を丁寧に教えていった。 この組はどうやら優秀らしい。
あっという間に算術の授業は終わり、十分程休憩を入れると武術講義を行う事にする。 こうした事は体系的に覚える事で、中身を今は理解しなくとも、その内理解していくはずだ。 ここでは基本の剣術と体術の勉強であるが、多少生体学も織り交ぜて行かなければならない。
今日は初講義なので、剣の実技特訓で教えた水の構えの中段、土の構えの下段、火の構えの上段の三つに陰の構えである八双の構えと、陽の構えの脇構えも教え込み、その利点も教えておく。 競技ではマイナーな陰陽の構えであるが、それぞれ特徴をを持った利点もある。 それぞれの利点と欠点もおしえこむことにした。
「土の構えは接近戦や乱戦には向かないので、注意しろ。 基本的に距離を取って相対する様子見には有効な構えだ」
「白隊ビームスであります! 確か防御に特化していると仰っていましたが」
「特化ではないぞ、向いているというか、剣先が下にあるから上に振り上げるだけで、全ての攻撃をカバーできるんだ」
「なるほど、それで様子見に向いてるのですね」
「ああ、左右どちらにでも素早く対応できるからな。 しかしな、この構えの真骨頂は突きにある」
「土の構えからの突き技ですね」
「ああ、ここから腹部、首に渾身の一撃を行うんだ。 相手の足元を払う事も有効な攻撃手段だな」
「なるほど!よく解りました。 では最上段に構える火の構えは、防御には不向きなのですか?」
「うーん、そうだな、足元ががら空きだからそういわれるが。 ヒトの構造上、上から下に振り下ろす時が一番力が入るから、攻撃自体が防御としての役割を担う事もあるぞ」
「なるほど、では攻撃力が一番高いのですね」
「そうなんだが、構えが大きい分これも接近戦や乱戦、多人数を相手には不利になるな」
「ふむふむ」
「その点中段の構えである水の構えは、上下左右どんな方向にでも対応できる『王道の構え』と言われている」
「王道ですか」
「ああ、攻守に対応できるほか、ここからの攻撃や防御は、複数を相手取る時にも有効だからな五輪の書にも『構へのきわまりは中段と心得べし』とある」
「ゴリン・・・ですか?」
「ああ、剣豪と呼ばれた人の言葉だから、受け売りだ」
「ほぅ」
「次に、この三つの構えの他に、もう二つの構えがある」
「まだあるのですか!?」
「ああ、まずは陰の構えの『八双の構えだ』
かづきは教壇で、剣を取り出し実際に構えて見せる。
「右利きは右側に、左利きは逆向きに構えろ。 これは疲れにくいから乱戦に向く構えで、攻撃もやりやすいが、致命的な攻撃は難しいから、急所を良く狙え」
次に陽の構えである脇構えも、実際に構えて見せる。 剣先を後方に向けているので、剣の全体が相手には見えない構えである。
「その構えは剣を隠す様な構えですね、クロサワ教官殿」
「ああ、その通りだ。 相手に武器を見せるという事は、相手にその間合いを教える事になるな」
「はっ、確かに」
「それに剣筋も見えないから、相手は対応しにくいんだ。 しかも防御に徹する事も可能だから、この構えも様子見として使えるし、一撃必殺の攻撃にもなるぞ」
「この五つの構えを『五行の構え』という。 皆把握しておくように」
『はっ! イエッサー』
次に『目付』も教えておく。 相手の構えでも目付の位置は変わってくるが、とりあえず相手の目を見ながら、全体をぼやかしてみる武道の目付を教えておく事にした。 さらに大事な事は、急所である。
人体の急所も教える事で、どこを狙えば有効かも理解してもらえるからだ。 攻撃に役立つことは、逆に防御にも役立つ。 取り敢えず、この授業は詰め込み作業になるだろうが、実戦で理解して行けるだろう。 足さばきも、足形に線を引きながら書いて行くが、実戦の後で自分たちで復習すればいい事だ。
しかし、40分はあっという間に終わってしまった。 続きは次回に持ち越しとする事にしよう。 最後の雑学講義は自由講義なので、訓練生たちに好きに質問して貰って、それをお題とした授業内容にするつもりであった。 だが、思ったより多くの質問があり、俺も俺も状態になって収拾がつかなくなり始めたので、順番を決める事にする。
現在成績のいい順で、赤隊班、白隊班、黄隊班、緑隊班の順番で行う事に決めた。 まずは赤隊班班長の犬族ベベリからの質問であった。
「武器に関してですが、我々はそれぞれ自分に見合った武器を使っています。 しかしこの訓練では手持ちの武器は長剣のみ。 これでは剣技が上達するとは思えません」
「ふむ、なるほどベベリの言う事はもっともだな。 しかし、逆に考えてみないか?」
「逆? ですか」
「ああ、このニショルクサ王国の兵士の武器は何だ?」
「はっ、長剣であります。 クロサワ教官殿」
「では、相対するのは長剣が主になるわけだな。 この長剣の動きをすべて把握できていたら、お前の攻撃は対処しやすい訳だろ?」
「はっ、確かにおっしゃる通りです」
「それに、ここは訓練所なんだ。 一人一人の武器の特性を生かした訓練をやっていては、時間が足りなさすぎる」
「なるほど、クロサワ教官殿の思惑を見抜けず、申し訳ありませんでした」
「ハハハ、大袈裟に考えるな。 その為の自由時間があるからな、各自その時間帯で己の武器の研鑽を図ってくれた良いぞ」
『イエッサー!』
この後、水車の概要について、知りたいことを適当に質問してきたリ、作物は何が取れるかなど、かづきは訓練生達との世間話でこの時間は過ごしていったのだった。 これで今日一日の全課程修了。 後は夕食時間まで自由時間だ。
少しして、クラークからイヤーカフで連絡が来た。 俺に面会人らしいのだが、詳しい話をしないのだそうだ。 本人に直接逢わないといけない様だ。 後の事はベルミに頼んで、女性陣と共にクラークの元に向かう事にした。
「やぁ、クラークはいるかい」
「はっ、はい、少々お待ちをクロサワ様」
通された先は応接間だった。 ここへ来る時はいつも執務室へ直に行っていたので、応接間は初めて見る事になる。 応接間は調度品に溢れ、中々の豪華な造りになっている。 かづきが通されて中へ入ると、クラークとその客人が立ち上がり、こちらへと向かってきた。
中肉中背で赤毛の髪を肩まで伸ばしており、毛先はカールして可愛い感じになっている『コットンカール』という髪型だろう。 眼は茶色で鋭いまなざしは、かづきの目を見据えていて目線をずらせようともしない。 性格は勝気な様だが悪くは無い、こうした女性は芯が通っており、味方であるならば信頼できる人物である事も多いのだ。
「えっと? アベルボ-グさんかな」
彼女はかづきのいきなりの発言で、面白いように目を見開き驚愕して見せた。 かづきの先制攻撃は女性であってもゆるぎないものである。 まずかづきの判断だが、この時期に直接会いに来るのは、かづきの知り合いの関係者が考えられるが、知り合いが多い訳でも無いので、自ずと範囲は限られてくる。
さらに近づいて、直ぐにわかる程の薬品特有の残り香は、彼女が薬師に近い職業であることを物語っている。 指先には剣だこも見られないし、筋肉の発達も通常だ。 更に手紙のようなものを携えているという事は、紹介状の可能性が高いと言えるだろう。 アベルボーグの名前で心を揺らいで見せたという事は、彼の身内である可能性が高い、年齢的には孫という感じではないだろうか。
「へぇ、じいさんのお孫さんに、こんな素敵な女性がいたんだな」
「な、なぜ?」
「君は俺とシュタインじいさんとの約束を果たしに来た。 そうだろ?」
「あ、貴方は魔法でも使ったの!? で、でも魔力の気配はないわ」
「ハハハ、サイコメトリーって奴だな。 心理学と統計学の応用さ、魔法ではないよ」
「サ、サイコメト」
「まぁいいさ、で、『ブツ』は持参かい? それとも君自身かな」
「そ、そこまでお判りに?」
「まぁね、じいさんは君をスパイに送り込んだようだけど少し力不足だね。 そんなに顔色をコロコロ変えてちゃ、丸わかりだろハハハ」
「くっ、貴方の能力は、おじいさまの仰ってた通りのようだわ。 降参よ」
「ハハハ、それで君はここに住むのかい? それなりの手順を踏む事になるけど良いのかな」
「ええ、承知しているわ。 ディアンヌ・アベルボーグよ」
「・・・そうか、君自身が秘伝の書の主なんだな。 カヅキ・クロサワだ宜しく」
「そこまで!? おじいさまに聞いたのではないわよね?」
「ああ、サイコメトリーだぞ」
「はぁ、では手紙をお預けするわ」
手紙にはこう記してあった。
『親愛なるクロサワ・カヅキ殿 貴兄におかれましては、先日のお約束通り秘伝をお渡し申し上げる。 なお、秘伝につきましては無作法ながら、その身ともどもご存分に使われたし。 なお先日の素材の程度、極めて良好なり。 願わくばその秘伝の書に書き加えられたし。 シュタイン・アベルボーグ』
「ハハハ、相変わらず食えねぇ爺さんだな」
「如何なされましたかな? クロサワ様」
「いやいやクラーク、これを見てくれよ。 ハハ」
「おや、これは!」
「だろ、笑っちゃいけないが、ディアンヌはこの事を承知してるのかい?」
「え?」
「えっと、ディアンヌ殿はクロサワ様に――」
「まて、クラーク! それをこの場で言うのか」
「あ、こ、これは失礼しました。 まぁ、つまりはクロサワ様の知恵をディアンヌ殿に伝授して戴きたいともことです」
「あぁ、それは素敵な事ですわ。 これまでの会話だけでも、私にとっては驚きの連続でしたわ。 出来れば賢者様のお知恵にあやかれれば、幸いに存じます」
彼女の先ほどまでの強い眼光は消え、赤みを帯びた頬からは女性特有のいじらしさまで、見て取る事ができる。 うん、とっても可愛い・・・しかし、他の女性陣のまなざしがかえって鋭くなって来たのを感じ、自重するかづきであった。
「ジュリナ、薬草工房はディアンヌに明け渡して貰えるか?」
「ええ、もちろんよ。 私も勉強させていただくわ」
女性陣も各々このディアンヌと挨拶を交わすと、歓迎も兼ねての食事会を食堂で行う事になった。 ディアンヌもこんなに大きな規模の食堂は、あまり見た事が無いのだろう。 その大きさもだが、好きなものが自由に選べるとあって、システム自体もお気に入りのようだった。
「とても清潔な食堂だわ」
「ああ、食中毒は怖いからな」
「それに、食材もふんだんだわ」
ディアンヌは、好みで好きなものをチョイスしてご機嫌な様だ。 デザートも、かなりの種類が用意されてあるので、彼女のお気に召すものもあるだろう。 工房には寝泊りできる場所もあり、その辺も心配ない。 食事が終わってお風呂に誘われたが、さすがに初対面の女性と混浴は、道徳的にもはばかられる為に、ご遠慮しておいた。
それに今は、男性用と女性用が出来ているらしく、男性用の風呂に入る事にした。 たまには男同士の風呂も良いもんだ。 風呂に入ると鍛冶職人のガスドと、その弟子たちが入っていた。
「おお、かづき、忙しいなぁ解ってるが、ベァリングの磨きも終わってるぜ」
「あぁ、バーグハムから受け取ったんだな」
「おうさ、他の備品も準備万端だぜ」
「そうか、昼間は時間無いから、この後試作してみるかな?」
「おう、こっちはいいぜ。 おめぇら、居残りたい奴だけ来な」
「へっ、親方だけってずるいですよ、俺達も見学ぐらい行きます」
話が決まったようなので、風呂上りに試作してみる事になった。 そう、もちろんグラインダーを作るのだが、基本構造は他の工具も同じなので、ここから小型の研磨機や、大型のタービンまで様々なバリエーションが作れる。 現在は技術の共有も行われている為に、全員を集めて説明しなくとも勝手に共有しており、週一での集まりでその研究課程の発表も行われている。
かづきは、その報告書を読んで確認しているだけで済むので、『英雄の過労死』は免れそうだ。
「さて、いくか」
かづきたちは、風呂上りに冷えたエールを一気に飲み干し、その喉越しを味わうとガスドの工房へと足を進めるのだった。
次回ようやく、かづきの待っていたものが完成予定




