異世界探求伝 第六十一話 閑話ーレディメシアの憂鬱
閑話入ります。
「レディメシア様、ご報告があります」
「何? マザー、またペルー沖で地震が発生しそうなの。 抑えに深海に処理船を出すわ」
「大変ですわね。 この星の地殻変動までケアしなくてはいけないとは」
「そうね、おかげでM5以上の地震対策は出来てるわ」
「ハリケーンやタイフーンは、処理しないのですか?」
「うーん、大陸で被害が出そうな時だけね」
「そうなのですか?」
「そうよ、気候に関連してるから、余り頻繁に弄ると生活環境に支障が出るのよ」
「レディメシア様、理解できません」
「そうね、雨が振り過ぎても水害になるし、少なければ干ばつが起こる。 そう言えば理解できるかしら」
「はい、メシア様肯定いたします」
「よし、これで準備は良いわ。 プレートに位置データを入力っと、後は自動操縦」
「では、ご報告宜しいのでしょうか?」
「ええ、いいわ」
「先月までに被検体ラット、『NO.9450』『NO.9453』『NO.9455』『NO.9467』『NO.9469』の死亡が確認されました」
「あら、今回は少なめねぇ」
「はい、前回は被検体ラット12体の死亡、その前は15体、その前は――」
「もういいわ、今回の報告だけで。 続きをお願い」
「畏まりました。メシア様、『NO.9450』のラットは性別オス。 アガノッポー大陸で、現地の民族との戦闘で殺されました」
「ふぅん、で、原因は?」
「はい、メシア様。 現地で高揚作用のある薬草を売りさばいていたようで、多くの村人が被害に合っていた模様です」
「こちらでのプリズン収容の容疑は、麻薬だったかしら」
「はい、例のロムビア共和国のデルタ地帯を取り仕切っていた男です」
「どこへ行っても同じ事を繰り返すのね。 懲りない奴だわ」
「ええ、それで危険を感じた村人の有志で、一味を襲撃したようです」
「ふん、いい気味だわ。 で、遺体の回収は?」
「切り刻まれて焼かれたので、骨だけの回収となります」
「いいわ、死刑執行はその日に記録しておいてね」
「承知いたしました。 次に『NO.9453』ラット性別オスは、ガンジューイ大陸で探検中に魔物に襲われて絶命したようです」
「冒険者やってたのね」
「いえ、傭兵をやっており、軍に雇われて討伐先で亡くなった模様です」
「あら、折角真面目にやっていたのに残念ね」
「そうでもありませんわ。 傭兵と言っても普段は覆面で顔を隠したうえで、盗賊まがいの行為を行っており、略奪に人さらいを生業にしていたようです」
「はぁ、プリズン出かしら」
「肯定いたします。 遺体も骨も回収できず申し訳ありません」
「しょうがないわね。 地球でのデータで骨だけ再生して、家族に引き渡しなさい」
「畏まりました。 次に『NO.9455』ラット性別オスは、ガンジューイ大陸の闘技場での死亡が確認されています」
「闘技場? 戦士が戦う場所よね」
「肯定いたします。 潔く戦って散りました」
「あら、てことは一般人の被験者かしら」
「はい、元ソーシャルアーツの世界チャンピオンだった者です」
「そいつより、相手の方が上だったって事よね」
「否定します。 相手は剣闘士のプロ、マーシャルアーツの本質は、俺の身一つで戦うのですから、武器等不得手だったのでしょう」
「ああ、つまりは経験不足で挑んじゃったのね」
「肯定いたします。 遺体は確保致しておりますが、身内の方に引き渡しても宜しいでしょうか」
「ええ、契約料の報酬を見舞金に当てて頂戴」
「畏まりました。 次に『NO.9467』ラット性別オスはバショット大陸で、死亡が確認されました。 どうやら決闘で敗れたようです」
「あら、原因が聞きたいわ」
「はい、メシア様、『NO.9467』は音楽家で、ニショルクサ王国では、音楽の革命児と呼ばれておりました」
「あら、こちらも一般人なのね。 しかも専門家だわよね」
「肯定いたします。 ルギー国の巨星と称されていました音楽家で、こちらでは70歳のご老人でした」
「あら、若い肉体を手に入れて、一からやり直したいとの希望で、いらしたのよこの方」
「はい、王国内では貴族の娘と恋仲で御座いました」
「それが決闘とどう結びつくのかしら」
「はい、上位の貴族が二人の間に入り、無理やり貴族の女性と婚約をしたのだそうで」
「単なる横恋慕じゃ無さそうね」
「はいメシア様、共和派と王党派との派閥争いに、巻き込まれたようです」
「さしずめ貴族女性側が共和派ってとこね」
「肯定いたします。 『NO.9467』の被験者を、王党派に入れる為の策だったようですが、宮中での晩餐会で奪った側の男の挑発に、はめられたようです」
「あらら、それは理不尽ね」
「結局、決闘に敗れた被験者を現場で見ていた女性は、その場で服毒自殺。 我を失った『NO.9467』は相手の男に、再び剣を振りかざし」
「それで、返り討ちって訳ね」
「はい、それで・・・本人が今わの際の言葉で『彼女と一緒の墓に葬って欲しい』と」
「現地で可能なの?」
「いえ、政情不安を助長するとの事で、禁忌にされました」
「で?」
「女性が服毒前に、侍女に託したものがございます」
「手紙?」
「否定致します。 女性の小指で御座います」
「小指? 小指を切り落としたの? なぜ」
「現地の風習で、女性が永遠の愛を誓う時に、切った小指を贈る事があるのだそうです」
「そう・・・」
「それで、その彼女の指と分骨された彼の一部を、こちらに回収して良いのかご相談を」
「そうね、彼の希望であればそれで進めて頂戴」
「畏まりました、メシア様。 丁重にこちらで葬り致します」
「ええ、そうして頂戴」
「最後の『NO.9469』ラット性別メスは、バブレモン島で衣料品の仕事に従事しておりましたが、現地のファッション感覚とは合わずに全く売れず、春を売っていたようです」
「資金は十分あったのでしょ」
「開発資金や浪費で使ったらしく、しまいには投資話に乗せられて破たんしたようです」
「馬鹿な女! メスの常套手段ね。 で、なぜ死んだの?」
「はい、金をせびる為に不特定多数の有力者と関係しておりまして、恐らくは秘密も握りスパイのような事をやっていたのではないかと、推測されます」
「邪魔者は消せってやつね」
「その可能性が高いかと、路地裏で朝方遺体で見つかりましたが、外傷はなくとても酒臭かったそうです」
「もしかして、そいつもプリズン?」
「はい、殺人事件が三件、詐欺に売春、麻薬と前科は数え切れません」
「はぁ、まぁいいわ、適当に処理しちゃって」
「畏まりました。メシア様」
「で、放送の方は始まったのかしら」
「はい、タイトルは『タウルス冒険譚』でございます」
レディメシアは、世界全国に向けて、この惑星タウルスにおける冒険旅行を紹介しているのだ。 これは、大衆の娯楽番組として放送しているだけでなく、一般人からも被検体として募集したいという一面を持っている。
現在までに数回放送しているが、これは惑星内の観光用アピールのようなプロモーションビデオで、観光案内風に流しているだけだ。 今回からは実際に現地に行って帰還した、成功者の体験談が語られるショーとしての要素が強い。
番組内容は司会者のカールとアシスタントのベッキィーが担当する番組で、基本的にはゲストを呼んでのトークショーになっている。 タウルスから帰還した成功者のみが出演するが、実際にはその数は少ない。
当初の予想では、帰還率を50%に予測していたレディメシアだったが、現地はいまだに秘境の地も多くメシアたちの把握していない環境や生態が存在している。 魔物も普通に生息している地域で、人間の文化もさほど発展していないせいもあり、普通に暮らすだけでも多くの脅威に晒される事になる。
今回はそんな中で、貴族まで登りつめた「Mr.K氏」こと、コスティ=バテンティンだ。 彼はガリシャ人で、こちらの世界でも実力のあった実業家で、ヨーロッパの伝統や文化にも詳しい人物で、御年70歳の人物だが確実に帰還して貰う為に、生体移植で体を若返らせている。
特例ではあったがその為に、身元は不詳と秘守義務を背負っている。 コスティ=バテンティンも偽名だが、これはそういう契約である。
「やぁK氏、このたびは無事の帰還おめでとう」
「ああ、えっとカールって呼んじゃっていいのかな?」
「ああ、勿論さ。 君の事はk氏でいいんだよね?」
「ああ、そうしてくれ。 実名で威張れると色々面倒だからな」
「ハハハ、そうだね。 今回の成功で君の知名度は上がるし、メデアでは引っ張りだこになるだろうね」
「まぁ、そうなるだろうね。 でも基本はこの番組だけだよ」
「そう言ってくれるとありがたいな。 じゃぁK氏、よろしく」
「ああ、早速お願いしよう。 こちらはアシスタントでナビゲーター役をしてくれているベッキィーだよ」
「ハーィK氏、ケィって呼んでもいいかしら?」
「ああ、かまわないさベッキィー、よろしくたのむ」
「ハーィ、じゃぁ早速行っちゃうわね」
「ああ」
ここから、彼のプロフィールが簡単に紹介され、今回の経緯と旅の目的を色々と聞かされる。 彼は当り障りなく軽快に応え、カールの段取り通りに番組も進んで行く。 後は惑星タウルスでの冒険話がメインとなるが、第一回目は軽く触れるだけで終わる事になる。
「やぁみんな、こんかいの『タウルス冒険譚』第一回の放送はどうだったかな、次回は来週のこの時間だよ」
「ベッキィーよ♪ みなさん、来週また会いましょう。 またねぇバイバイ」
続けて第二回目の放送は、実際にタウルスでの冒険話の前に、持ち帰ったお宝の話題に触れる事になった。 目玉となる宝石や財宝に、現地で来ていた服や衣装など、様々な物がテーブルに並べられているが、これは特別に持ち帰ったものだ。 持ち帰って来られるものには制限が掛けられている。
生物の類はNGなのはもちろん、地球上に存在していないものも駄目だ。 これはメシア側で制限を掛けているのだが、些細な微生物が地球上の生命体に、どんな悪さをするかもわからない為に、制限は掛けざるを得ないという事が実情である。
歴史上でも、一つの病原体が種族を滅ぼした例など、枚挙にいとまがないほどだ。 それに余りに大量の資源の持ち込みも許していない。 惑星のバランスが崩れる意味もあるのだが、現在では資源が他に無人惑星から入手できるせいでもある。
「凄いお宝ですね。 ひと財産はありますね」
「ええ、持ち帰ったものはほんの一部ですが、余りに貴重なものは持ち帰れない規定があるんですよ」
「へー、すごいわ。 ケィ、触ってもいいかしら」
「ああ、どうぞ」
今回の持ち込まれたものは、金銀細工に宝石などのアクセサリーや、現地で使われている工芸品の数々だ。 工芸品などは手の込んだ細工が使われており、魔獣で作られたのがメインである。 この番組の目玉とも言えるコーナーだ。
「えっとK氏は、あちらで貴族だったんだよね?」
「ああ、カール。 名誉貴族ってやつだね、一応男爵だったよ」
「あちらでは何をなしてたの? ケィ」
「うーん、メインは商売さ。 商人ってやつだね。 向こうには商人ギルドがあってね。 独禁法とかも無いから、自由に交易が出来るんだよ」
「へぇ、では貿易とかもされてたんですね」
「うーん、まぁ規模は小さいんだけどね。 お金持ち相手の商売さ」
「なるほど、ケィはあちらの王族とも懇意にされたんですね」
「うん、そうだねベッキィー。 まぁ仲良くさせて貰ってね、ヤッチモネっていう島国だったが過ごしやすかったね」
「惑星タウルスって、モンスターがいるんですよね?」
「ああ、いるよ。 こっちで居たら完全に『ユーマ』扱いだけどね、あっちじゃ普通さ」
「へぇー、見てみたいものだわ」
「ハハハ、おしっこちびっちゃうよ、ベッキィー」
「そんなもん、私の魅力でなんとかするわ」
「ベッキィーは相変わらずだね。 それでK氏は魔法も使えちゃったりするわけ?」
「あぁカール、そうだね。 最初は苦労したけど」
「へぇ、どんな魔法? 山とかぶっとばすのかな」
「ハハハ、そんな魔法なんて出来ないさ。 自己防衛が関の山だよ」
「その、えっと、モンスターもやっつけちゃったの?」
「うーん、弱い奴はね、強い奴は護衛がやってくれるから。 ほとんど戦う事は無かったさ」
「護衛って強いんだ。 そんな感じなの? 戦士みたいのかな」
「そうだね。 護衛の傭兵を雇っていたからね。魔法使いに剣士30人ばかりだな」
「へぇ、かなり儲けてないと雇えないんじゃない?」
「ああ、それなりに儲けてたさ。 貴族になれるくらいにね。 ハハハ」
K氏は指で財宝を指さしながら自慢げに、答えて見せた。 これは予想通り大反響で、番組の盛り上がりは世界各国に伝わる事となった。第二回目も無事に終了したのである。
――――
「うん、上手く行ってるわね」
「はい、メシア様、おかげでラット、いえ「タウルス旅行」の申し込みが殺到していますわ」
「うふふ」
よろしかったら、たまにぽちっとお願いいたします。
作者




