異世界探求伝 第六話 始まりの町ズナン
いよいよ、かづきの始動です。
お楽しみください。
ゴブリン発見の報を受けて、タッグ達護衛は急襲を決める。
各自の装備を見ると意外と軽装である。 革鎧は着ているが後はバラバラの様相だ。 俺は弓を手に持ち先行する二名に黙って追随する。
傾斜のある森を進んで行くと、戦闘が立ち止まったが指信号だろう、合図を盛んに行っている。 何か戦争映画で、こういう場面は見た事があるが、これは現実の実戦である。 俺は気を引き締め、何とか探れないだろうかと気配を探ってみる。 目を瞑って、ゴブリンをイメージしながら気配を感じ取って行く。
――――――
「カヅキ カラ魔法ノ行使ヲ検知シマシタ」
「ドキッ! はうっ!?」
「いきなりビックリするじゃねぇか、ラビ」
「申シ訳アリマセン 初魔法ナノデ 報告シテミマシタ」
「そうなのか、俺は魔法を使った覚えは無いんだが・・・これは、イメージで発動するんだな」
「イメージト 本人ノ意識デス」
――――――
なるほどと思いながらも、同じ様に意識して探索してみる、前方に6匹居るな、木に登ってる奴が3匹か、弓持ちなのかね。 道を挟んで反対側にも五匹居るのが判るし、知恵があるのだろう、ちゃんと戦略を練っていやがる。 こちらの先頭の一名が合図を送ると、二人が弓を持ち出し矢を番え即座に放つ。
「ドサリ」と、木の上に居た二匹が落ちて来たのを眺めると、もう既に他の者は盾を携えてゴブリンに向かって走りこんでいる。 先に走り出した盾持ちは、器用に盾でゴブリンの顔を打ち据え、剣で胸を貫いた。
「ギャッ、ギギー」
何か凄い声だが、反対側にいる魔物の仲間にもその様子が伝わった様だ。 蔦を上手く使ってこちらへ向かって来る。 背後を取られそうだと危機感がしたので、俺は直ぐにポケットを弄って小石を取り出した。 えっと、右肩から先を強化して・・・ピンポン玉程の石を木の上に現れたゴブリンに投げつけて行く。
「ゴスッ、バスッ、ビシッ」
頭を狙うのはいつもの事だが、何か凄くないか? 脳味噌爆発しちゃってるよ。 かづきは気にしても仕方がないとばかりに、残りの石を使い果たした。 「六匹? やったかな」どうやら掃討に成功した様だ。
仲間の一人は戻って馬車に報告するのだろう、駆け足で道へ戻り後方へ去って行く。 最後のゴブリンを倒した仲間達は一カ所に死体を集めだしたが、俺は気持ち悪いので傍観者として見守る事にする。 見ていると防具や武器を纏めて敷皮に包んで行く。 そして、ゴブリンの右耳を切り取って、針金のような物で刺しているようだ。
何か実際見るとかなりグロイな まさか解体して食わねぇよな?
穴を掘るようで、護衛の一人がステッキを出して何やら呪文を唱えている。 唱え終わると、その地面が隆起して横には大きな穴が出来ていた。 「呪文唱えてたな、魔法って感じだスゲエ」俺が不思議そうに見ているとダックがやって来た。 さっきまで話をしていて、世間知らずなのを見抜いたのだろう。
「穴を掘って埋めるのはマナーなんだよ。 こいつらを食って魔物が増えるからな。 武器と防具も剥ぎ取っておかないと、他のゴブリンがそれを持ち帰って使うしな。 耳はギルドに持って行くと報酬が貰えるんだ」
「へー、そうなんだ」 つい素で言ってしまったが、こいつは悪い奴じゃない。 うん、そうだ、俺の感がそう言っている。 埋め終わって他の護衛も寄って来る。 半数以上のゴブリンを殺った俺に、寄ってたかってさっきの石投げの事を、根掘り葉掘り聞いて来たのには少し閉口したのだが、取り敢えず投石が得意な事を説明しておいた。
「珍しいんかな?」
「いや、カヅキそうじゃ無い、投石は立派な武器で投石機もあるが、人の手であんなに遠く正確に敵を射抜く奴は見た事が無いぜ」
「ああ、少年野球でピッチャーやってたし肩は強いんだ」
「ヤキュウ? ピッチャ?」
「ああ、すまない忘れてくれ、投げるのが得意ってやつだ」
馬車へと戻りしなに煙草を銜え一服を楽しむ。 ついでに物欲しそうなダックと、その仲間にもおすそ分けしていった。 少しして、ゴブリン退治の詳細を聞き商人はお礼をしたいと言ってきたが、山の中を拾って貰えただけで十分だと言ったら、何かあったら力を貸そうと屋号と名前を教えてくれた。
――――それから一時間ほど馬車に揺られると、目的地が見えて来た。
ズナンの町だ。
かづきは商人達一行の一人として数えられ、無事に入る事が出来た。 本来俺は身分証も無く、門兵に止められて根掘り葉掘り聞かれた上に、捕らえられていたかもしれないからラッキーだっただろう。 彼は丁寧にお礼と別れを一行に告げ、町中へと歩みを進めた。
中心街を抜け、飲み屋街らしき場所を歩いていると、娼婦らしき女が誘って来る。 女に向かって、「ここらで怖そうな酒場はあるかい?」と尋ねて見ると、一瞬目を向けて一瞥するだけで、それ以上は関心の無いようにその場を去って行く。 俺は女が顔を向けた方向へと足を進め酒場を発見する、見ると石造りで立派な建物だ。
俺はドアを開け入って行った。 危険があればラビが教えてくれるだろうと、気安く考えてこちらを伺うように物見な視線を掻い潜り、バーテンのいるカウンターに腰を掛けた。
「何にするかい」
「ビールを貰おう」
「・・・ここにはねぇな 何だそれ?酒か」
「ああ、黄色でシュワーッとする冷たい飲み物だ」
「はん! エールならあるぜ」
「ああ、それだ」
バーテンが動かずじっとしてるのを見て、俺はハッとした。 ああ、ここは異国だった、ジャパンじゃ無い。 俺は袋から金貨を一枚取り出すと、カウンターにそれを置いた。
「両替を頼む」
「ああ、手数料は五パーだ。 そいつが本物だったらな」
男は金貨を手に取り、見つめながら裏へと入って行った。 やはり、こっちでは金貨はなじみの無い硬貨だった様だ、商人の時も珍しがっていたしな。 五パーって恐らく五%の事だろうな、とか思いながら、辺りを見回していると男は戻って来た。
「この町は初めてかい?」
「ああ」
バーテンは両替した貨幣をテーブルに山積みすると、俺にエールを入れてくれた。 硬貨を一枚手に取ると、先程の商人に貰ったおつりと同じ硬貨だった、数えると合わせて銀貨が四十七枚と、銅貨が四十七枚積んであった。 手数料の五%引き・・・銀貨が五十枚で金貨一枚かエールが銅貨三枚て・・・ふむ、銅貨一枚が百円、銀貨が一万円で金貨が五十万ってとこか。 俺は取り敢えず、銀貨を三枚と銅貨を残して袋に仕舞い込んだが、少し腹が減っている事に気が付いた。
「食いもんは何か出来るかい? 腹の溜まるもんがいい」
「ああ ちょっと待ってな」そう言うと男は、裏口に顔を突っ込み一言二言話し掛けている。
バーテンが顔を戻したので、一杯どうだい? と声を掛けてやるとニヤリと笑い、で目の前からコインを三枚握ると、ショットグラスを出して透明な酒を注ぎこんだ。 機嫌の良くなった男に俺は話を続ける事にする。
「ここは泊まれるのか?」
「ああ 素泊で銅貨十枚だ。 湯は手桶一杯で銅貨ニ枚 貸しタオル付だ」
「飯は?」
「ハハハ、ここは宿じゃねぇぜ、朝食食いたきゃ適当に屋台で食うんだな」
「そうか、初めてで良く判んないんだ」
「冒険者なのか? にしては装備がねぇな。 旅行者ってとこか」
「まぁそんな所だ。 でだ、ここの町の事を色々聞きたいが」
「ふん、何が聞きたいんだ?」
「出来れば色々だ。 と言っても世間話程度で良い」
「ふーん・・・あんちゃん女はいるかい?」
「知性のある女なら欲しいな」
俺の答えに満足したのだろうか? バーテンは裏口へと向かい料理を持って来ると、銅貨四枚を取りテーブルに並べた。
野菜の添え物付きのトリモモのソテーらしき皿に、ブラウン系のシチューとパンだ。 腹が減っていたのでパクついてしまった。 モモは鶏とは違っていて肉色が濃い、フォークとナイフが付いてあったが、これはかぶりつくのが正しいだろう。 横には手洗いのボウルに手拭きが備えてある。
食感は鴨に近い歯ごたえだったが、脂身は少ないパサついた感じか、味付けは香辛料と塩が効いている。 白い芋を潰したようなものを食ったが、やけに脂っぽい、脂身のようだ。 肉に乗せて食ったらジューシー感が出て、丁度良い味になった。 付け合わせの酢漬けの紫キャベツみたいなのとも相性はいい。
シチューは酸味の無いビーフシチューかな、肉がプルプルしているが何だろう。 聞くと森で取れる芋虫だと言ったので、噴き出しそうになったがルーだけすする事にする。 パンは黒い固めのパンだった。 全粒粉だろう、温め直したのか香ばしくはあった。
ワインは有るかと尋ねたら、本物のワインは貴族達が飲むから高いぞと言いながら、銅貨を二枚取り「カース」と言う安いワインを出してくれた。
「ごくっ、ごくっ、プハァー、食った食った」
食べ終わると、男は銀貨一枚を拾い上げ顎をしゃくった。 ん? と後ろを振り返ったら妙齢の女性が立っていた。 「コスプレ? 白いウイッグ? ネコ? 犬かな」彼女はケモ耳付きだった。 バーテンは銀貨を一枚取ると、残り一枚は女に渡せと言いながら部屋の鍵を渡してくれた。 椅子から立ち上がると女は俺を下から上まで眺め、鍵をひったくる様にして階段を進んで行った。 二階へ上がるとドアを開けて中へ、さっさと入ってしまったので、俺は急いで後を追った。
暗い部屋がいきなり明るくなった。
ドア付近にスイッチらしきものは無かったので、ランプの類かと光源を見たが、ガラスの瓶が光っている。 コードが無いので電池式? いや、これは魔法何だろうと納得してみる。 女はベッドに腰かけてこちらを見ていた。 俺は周囲をひと眺めすると、一つあった木の椅子に腰を掛けた。
「ぷっ」と女は何故か笑い、「何か飲み物飲んでもいい?」と聞いてきたので、好きな物を頼むといいと答えたら、ベッドに備えてある金属のパイプを叩いてエールを注文していた。 喋り口が漏斗状だから、潜水艦の伝声管みたいなののかな、スピーキングチューブだっけか、俺はシガーに火を点け心を落ち着ける事にした。
「ぷはー」
彼女が灰皿を渡してくれると、良く顔を見たがえらい別嬪さんだった。 何でコスプレしてるんだろうと、思いながら見ていたら彼女から話し掛けてくれた。
「なーに? 獣人が珍しいの?」
「獣人!? えっ、初めて見るんだけど」
つい子供に帰ったような喋り方をして恥ずかしくなり、俺もエールを頼んでくれと話を変えてみた。 少しすると「トントン」とノックされ、同時に女が俺の顔をじっと見るので、「ハッ」として小銭の入った方の革袋を渡してやると、エールを持って来てくれた。 ドアには小さな小窓が付いており、こちら側にお金を置いて回すと品物が此方に渡る仕組みだ。 成程、プライベートサービスなんだなと一人納得した。
ついついチラ見している俺の意図を感じたのか、彼女は俺に話し掛けてくれた。
「触ってみる?」
「あ、はぁ、お邪魔します」
彼女が少し腰をずらしてくれたので、俺は横に座った。 さっきウイッグと思っていた髪の毛は地毛だった。 髪の質感とは違い、まさしく獣の毛並みだ、耳を触るとピコピコして何とも可愛いい。 顔をまじまじと見つめるとやはり綺麗だなぁ、ドレスの胸が開いているので自然と目が釘付けだ。 ドレスの裾の太ももが見えているが毛は見えない。
「はぁー、かわいい」
つい、声が出てしまった。 女性はようやくニッコリ笑って、名前を教えてくれた。
「褒めてくれてありがとう、ジュリナデリカよ」
「あ、かづきです。 はい」
「ふーん 変わった名前ね カヅキって呼んでいいのかしら?」
「あ、ああ勿論 ジュリー・・・ナ」
「いいわ、それで」
俺は銀貨を二枚渡して、この町は初めてだから、色々世間話を聞かせてくれないかと彼女に頼んだ。
彼女は快く、このズナンの町の事を色々教えてくれた。 この町の領主とか大きな事件に、人種の事、職種も教えてくれた。 小一時間ほどで、粗方この町の概要が判って来たので、大事な事を聞く事にする。 それは犯罪に関してだ。 この世界の刑法は、恐らく地球とは様相が全く違うであろう、普通に農民が魔法だとか武器必須とかありえん。 奴隷も居るそうだし、地球でもガムを捨てただけで、逮捕とか普通にあったからだ。
「そうねぇ、強盗、殺人、放火、貨幣の違造は重罪ね。 良くて強制労働か奴隷、悪くて監獄かしら」
「悪くて監獄って、死刑とか無いのか?」
「ああ、監獄ってね。 死ぬまで入れられるのよ。 朝起きて、魔力を搾り取られてからも動けなくなるまで強制労働だわ。 寝る前にもまた魔力を吸い取られるのよ。 それが一生ね」
「うはっ、それは死ぬより恐ろしいな」
「ええ、それにこの世は死刑が無くても、いつでも死ねるし殺せるから・・・・・・」
彼女のニヤリとした表情に、顔色を取り繕いながらも内心ヒヤリとしながら会話を続ける。
「それから、フェーデには注意をしてね」
「フェーデ?」
「決闘の事よ」
「やっぱり決闘もあるのか」
つい、また知識の無さを披露してしまったが、ここまで来れば毒を喰らうまでだ。 俺は素直に彼女の話に耳を傾け従う事にした。
「フェーデを申し込んだら、受けるかは相手が決めるのだけど、協会に申請が必要だわ。 立会人と監査役が選ばれるの」
「受けなかったら?」
「そうね、自分に非が無ければ可能よ。 非があれば無理に決闘になるわ、審査は教会での審問会で決定されるのよ」
「ふむ、でも強ければ負けないよな」
「ええ、でも決闘は本人同士が行うとは限らないのよ」
「代理人か?」
「そうね代闘士ね、他には決闘人同士には一人ずつ、介添人を付ける事が出来るわ。 でも代闘士は、女性、聖職者、病人にしか認められていないわ」
代闘士とは、代わりに決闘を引き受ける者の事だそうだが、勿論お金が必要だそうだ。
「ふーん、負けたら?」
「それは、事前の取り決めの契約で決まるわね。 財産没収とか、身売りに権利の委譲、勿論死ぬまでとかも可能よ」
話を聞いているが、やはりここは恐ろしい世界だ。 フェーデ(決闘)は受けるより、逃げるが勝ち戦法だな。
「次に、一番怖くて気を付けなきゃいけない事を教えるわね。 これは子供の頃から教えられる事よ」
何か、彼女の話を聞いてみて、こちらへ来る前のウキウキ感が一気に喪失してしまったが、五年も耐えられるんだろうか? 俺。
惑星タウルスでは、地球の重力より弱いので、かづきの筋力が異常値になっています。
まるで、すっぱーいマンになったようですね。