異世界探求伝 第五十七話 ブートキャンプ二日目ーモモの実力
順調にキャンプ二日目が行われましたが、何もトラブルが無い事を祈りましょう。
昨夜の講義が終わってからは、ミシェータ、モモ、ミク達が人形制作に夢中になり始めたので、手持ち無沙汰になったかづきは、ペンネコック長の元へ行き、カツサンド作りに励んでいたのだった。 ペンネも大量に食パンを作っていたので、パン粉も大量ゲットである。
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翌朝、かづきとモモはブートキャンプへと向かっていた。
戻ってみると、丁度ベルミが大あくびをして、外へ出ていた所だった。 ゴーレムのアロンも何事も無かったようなので、魔石の交換補充を済ませておいた。 二m程の大きさならば、一日動くのに充分であったようだ。
「さて、ベルミ朝食前の朝練だ。 やるぞ」
「はっ! クロサワ教官」
ベルミは風魔法を使い、声が響き渡るような大きな声で訓練生を叩き起こすと、グラウンドへ集合するように指示していた。 一番遅れた班は罰を与えると脅してやると、それがよほど怖いのか一斉に集まって来た。 先ずは、柔軟体操から初めて基礎訓練の体力作りから始める。
「一、二ィ三・・・五十 やめい、次腹筋だ!」
基礎体力は腕立て、腹筋、屈伸からなるが、百回をめどにワンセットで、これを増やして行く予定だ。 筋肉は、疲労が蓄積していくものなので、効率よく行う為に回復魔法は禁止してある。 その代わりに回復効果のある薬湯を、紅茶と混ぜて飲ませている。
お茶の効能はポリフェノールやカテキン、そしてカフェインが含まれており、運動機能が増す作用がある事で知られている。鎮静作用もあり、冷静な判断も生まれてくる訳だ。
いつものように朝食を済ませると、早速「剣技」の実地訓練から始める事にする。 俺はこの地の剣技はほとんど知らないので、「黒沢流」の剣筋を教えて行く事になるが、この中でも剣技に自信のあるものは多く、最初に鼻っ柱を折っておく必要があった。
かづきの考えをモモに伝えると、モモはやる気満々で装備を整えて来た。 「おい、モモがやるのか?」と聞こうとしたのだが、聞くまでも無いのだろう。 一応モモには日ごろの鍛錬で、俺の剣技を教え込んではいるが不安が一杯だ。 しかし、娘を嫁に出す親は、この何倍も不安なんだろうとかづきは思うのだった。
「おにぃちゃん、重いの外して頂戴」
「あっ、そう言えば、せがまれて重力魔法の『グラビション』効果を、常時かけていたんだっけ」
俺も普段から掛けていて、忘れがちだったが、この間の洞窟内での訓練騒ぎでモモに見られていた。 あの技を繰り出す為には、『グラビション』魔法の取得が条件だが、その概念を知らなければ掛けられるはずもなく、代わりにお手軽な強化方法だとして、モモに倍の重力を掛けていたのだ。
「よしお前ら、腕に自信のある奴は立て!」
「・・・・・・」
「ん? 誰も居ないのか、言っておくが俺が相手じゃないぞ。 ここに居るモモが相手をする」
「ハイハイハイハイハイ――」
「うーん、それじゃ相手が多すぎだな。 よし、班ごとに二名の代表を出せ」
こうして、出て来た者は白隊班、クラークの縁者であるビームスと、ジュリナのいとこになる狼族ズグロウ、赤隊班は彫金師ハグネット次男のアラリオと犬族のベベリ、黄隊班は、ネコ族ブルグと元盗賊のバルグス、緑隊班は人狼族ザジオと石工カッパーの息子の熊族ギルルで、合計八名の選抜であった。
「まだ多いようだし、それじゃ先に班ごとの模擬選を始めよう。 武器は模擬刀と盾のみだ。まずは白班隊ビームスと、緑隊班のザジオから始める、前へ出よ」
「はっ」「うっしゃ!」
「模擬戦のルールは、相手に致命傷を与えたとみられる攻撃で一本とする。 それ以外でも手数が多い方が勝ちとするが、降参を宣言してもいいぞ。 但し、枠線から三回出ると自動的に負けだ」
「はっ」「うす」
「では始め!」
ビームスはクラークの父方のいとこらしい、ヴァレンチノ家の仕事をこなしていたらしいが、クラークの言いつけでこの度の参加となった。ザジオは言うまでもなく人狼のちび助だが、最初にあった時は本人の言う特異体質な体で、パワーは圧倒していたはずだが、今はただのちびにしか見えない。
ビームスは盾を左で構えて、右手に持った剣をザジオの目線から離さない、中々隙のない構えであるが、ザジオは盾を前面に押し出し、そのまま突っ込んで体当たりをする様だ。
「ドーン!」
大きな音と共にぶつかり合った両者だったが、その瞬間にザジオの姿は無く、ビームスの背後を突き頭部に剣を突き付けていた。
「それまで、ザジオの勝ちだ」
「くっ、まだだ!」
「ビームス、敵に背後を取られたら、その時点で負けだぞ。 お前は頭をかち割られて死んだんだ」
ビームスは特に悔しそうな表情であったが、これは体の大きさと自分の俊敏さと言う特性を生かした、ザジオの好判断である。 それなりの場数は踏んでいるのだろうと、かづきは感じていた。
「次、赤隊班アラリオと黄隊班ネコ族ブルグ前へ」
「はっ、はっ」
「それでは、始め!」
アラリオは彫金師のハグネットの息子である。 工房で見かけているが、物静かでコツコツと作業をやっていた感がある。 ブルグはつい先日の小隊の中にいた奴だが、すばしっこい動きで相手を翻弄できる能力がある。
アラリオは剣を前方に突きだしたまま、左回りに旋回を始めた。左に持っている盾は体にしっかりと密着させている。 恐らく相手の素早い動きを封じる為に、左方からの攻撃方法を潰しているのだろう。 冷静な判断だ。
ブルグは同じ左回りを強いられていたが、右手に武器を抱えている為に、攻撃がやりずらそうだ。攻撃は頻繁に繰り出してはいるが、攻撃した後の間延びした瞬間に、腕を剣で何度も切られている。 アラリオは件を大きく振りかぶり、ブルグに切りつけたが、ブルグは盾で攻撃を防いだようだったが、下から蹴りを入れられそのまま地面に剣と盾と共に押さえつけられた。 同時に首筋には剣が突きつきられていた。
「それまで、勝者アラリオ」
「はっ、うーん」
「ブルグは、その単調な動きが課題だな。 小柄な自分の特徴を生かせ」
「イエッサー、クロサワ教官」
「次、赤隊班犬族のベベリと緑隊班熊族ギルル、前へ」
「がぅ、おう」
「それでは始め」
石工カッパーの息子のギルルだが、やはり大柄だ。 パワーは並々ならぬものがあり、この参加者の中でも上位なのは間違いの無い所だろう。 方やベベリは小柄な犬族であり、戦いは不利かと思われた。
しかし、ベベリの動きは尋常では無かった。 左右に上手くフットワークを使いながら、上下左右に上手く剣を振るって、盾を誘導しているように見える。 そのうち焦れたギルルが突進して来るが、その隙を狙って足元に攻撃を細かく仕掛けていくベベリだった。
さすがにギルルは大柄の割には、俊敏な動きでベベリに対して背後を見せる事は無かったが、いかんせん大ぶりな攻撃が多く、すべて盾で受けられる事も無く、空振りさせられている。 攻撃が当たらないのが悔しかったのか、両手を大きく広げ、左右のフットワークを殺す作戦に出た様だ。
にじり寄られたベベリには跡が無い。 場外へは三回出てよい事になってはいるが、心証は良くは映らないだろう。 しかし、ベベリはこれを待っていたかのように、これまでの左右のフットワークを止めると、ギルルのがら空きになった正面に猛然とダッシュを仕掛けた。
次の瞬間、倒れていたのは熊族のギルルであった。 剣の攻撃で倒されたというよりは、足の関節を狙っていたのである。 ベベリは正面攻撃をするかと思いきや、そのまままた下を掻い潜って、ギルルの膝裏を攻めたのである。 要するに「膝カックン」であったが、大きなギルルはあっけなく倒されてしまった。
素早く突き立てられた剣筋は、ギルルの首筋の地面に深く埋まっていた。 これでは文句も何も言えないであろう。 ベベリのセンスは中々のものである。 先日の特訓で注意した事が、生かされているのには驚きだった。
「勝者ベベリ、旨い攻めだったぞ。 ギルルは態勢が悪いな、相手に合わせて腰を低くしろ。 動きの素早い相手には、漉しの動きが重要だぞ」
「はっ、クロサワ教官の教えの賜物です」「腰、大事わかった。 イエッサー」
「最後は、白隊班狼族ズグロウと黄隊班バルグスだな。 前へ」
「おう!、はっ」
「では、始め」
バルグスは元盗賊の一味だった奴で、弓が得意だった。 ズグロウはモモに聞くと、ジュリナの母方のいとこらしい。 同じ狼族だが、こちらは灰色の毛並みで、体格も良い。
合図をするかしないかの瞬間に、ズグロウは盾を構えて猛然とダッシュをしていた。 「あっ」と思った瞬間には、相手のバルグスは場外に吹き飛ばされていた。
「両者、対角線に戻り再開せよ」
「はっ、おう」
何度行ってもこの結果は変わらないであろう。 圧倒的なパワーで技さえ見せずに三度目の場外で、あっけなく事は終わった。 モモには、少し荷が重いのではないかとかづきは思ったが、殺される訳では無いのでとにかくやらせてみて、これを判断材料にしようと思うのであった。
「勝ち抜け勝者、緑隊班ザジオ、赤隊班アラリオ、赤隊班ベベリ、白隊班ズグロウ」
「おぅ、はっ、ガウ、おう」
「お前達には二十点の加算だ。 次にモモとやって貰うが、勝者の班には更にニ十点加算するものとする」
モモは既にやる気満々になっている。 独自の雰囲気で野生の血でも滾っているのだろうか、対角線に立ってこちらを眺めている。
「最初はザジオからだ、前へ」
「イエス、サー!」
「では始める」
勝負はあっけなく決まった。 次の瞬間立っていたのは勿論モモであった。 合図と同時にモモは素早く剣を打ち据えながら、その衝撃を利用して背後に回ると、ザジオの首筋を肘で殴りつけていた。 ザジオは何が起こったか解らないままに、気絶したのであろう。
かづきは、ザジオをゆっくり座らせると、気付けの瓶を取り出して、その鼻先に嗅がせると思いっきり飛び上がって起きた。 危うく頭突きを食らうところだったが、自分の反応に感謝したいところだ。
「え、えっと・・・」
「ザジオの負けだ」
「そ、そうなのか」
「ザジオ君? 一言無いのかなぁ」
「ちっ、モモ教官殿、有難うございました」
「ふふーん」
こいつ等の鼻っ柱よりも、高くなっているモモに気付いてしまったが、最早遅かったのだろう。 次のアラリオはかなりの善戦をしたのだが、まずモモには攻撃が当たらないのだ。 後手後手に回ってしまっては、後がない。
アラリオは攻められた挙句、防戦一方で足元がお留守になってしまった所を、モモに蹴飛ばされてしまい尻もちをつかされた。 ハッとして立とうとしたのだが、その鼻先には剣が突き立てられており、最早勝負はついていた。
次は勘の良い犬族のベベリだったが、自分のフットワークを出すたびに先回りの攻撃をされ、同じく防戦一方になった所を、場外に蹴り飛ばされる。 がむしゃらに突っ込んだのは、流石に悪手だった。 気が付いたら最初のザジオと同様に、眠らされていた。
ムムム、最後は狼族のズグロウだった。 最早こいつに賭けるしかない。 最初はこいつらの鼻っ柱を折るつもりだったが、当初の予想をはるかに超えてしまった思いに、いつの間にかモモの攻略法を思い描いていた。
「最後の対戦だ。 ズグロウ一矢報いろ」
「お? おう」
「始め!」
流石のパワーを持つズグロウでも、最初と同じ様に体当たり戦法は、止めた様だ。 当然だろう、あのスピードでは、ぶつかるどころか剣が当たる事さえ怪しいほどだ。 ズグロウは盾を斜めに構え、態勢を低くして対処している。 うん、まずまずだろう。
しかし、モモのスピードは生半可なものでは無い。 軽やかなステップで左右に相手を振っておいて、隙を見せると直ぐに攻撃を仕掛けて来るのだ。 さすがのパワーのズグロウでも、じわじわ下がり始めて、いつの間にか場外に割って出ていた。
「場外だ、両者対角線上に戻れ」
「はい」「お、おう」
『ズグロウ、モモの足を見ろ。 踏み込んだ時が攻撃だぞ』
「あっ、おにぃちゃん」
「モモ! クロサワ教官だ。 では再開」
「あっ、ずるい」
モモは先程と同じ様に、左右に体をぶれさせては攻撃を仕掛けてくるようだった。 だが、ズグロウは先程のアドバイスをしっかりと聞いていたようで、攻撃仕掛けて来るモモの剣先を盾で弾くと、弾かれて無防備になったモモの背中を剣で強打したのだった。
「そこまで、勝者ズグロウ」
『うおぉーーすげぇ、大した奴だぜ、うおーー』
「いたたたた」
「大丈夫か? モモ」
「もう! おにぃちゃんずるい、アイツに何か教えたでしょ」
「見破られる弱点があったお前が未熟なだけだ。 今後とも精進するように」
「はーい、おにぃ、クロサワ教官」
「ズグロウ、一矢報いたな、お前の隊はニ十点加算だ」
『おおおお――』
ズグロウの白隊班は、喜びの一杯の歓声であった。
モモ:もう一度言ってごらんなさい。
ザジオ:くっ、も、モモ教官。
モモ:えっ? 聞こえなかったわ。
ザジオ:くっ、クロサワのあんちゃんに言いつけてやる。
モモ:何か言った? ザジオ。
ザジオ:い、いえ! モモ教官殿。
モモ:ふふ、よろし。




