異世界探求伝 第五十六話 ブートキャンプ初日終了
訓練初日はどうだったのでしょう。
ブートキャンプ初日なので、ハードなトレーニングは科さなかったかづきだったが、風筒銃の射撃訓練が終わっても、まだ明るかったので今後の為にも、実践訓練前に行うストレッチと、基礎体力作りを行う事にした。
「いいか貴様等、明日から実践訓練に入るが、ここで気を付けることは判るか?」
「・・・・・・」
「そうか、ならば言おう。 それは体の柔らかさだ。 獣人が丈夫と言われるのにも、これによるものが大きいぞ、特にヒューマンは体が硬い奴が多いから、怪我の原因になり易いんだ」
「はい、教官殿、うちのじっ様も腰痛がひでぇと言ってました」
「アハハ、それは年のせいだ、仕方がないぞ。 あれれ? お前ムチンじゃないのか?」
「はい、クロサワ教官、ペンネコック長から料理人も戦場に行く事もあるから、経験して来いと言われまして」
「アハハ、それは災難だったな。 まぁいい、それで体の柔軟性を作り出す為に、ストレッチを実践前にやるんだ。 解ったな」
「イエッサー」
「では、パートナーと向かい合わせに組め」
こうして、みっちりパートナー同士で、ストレッチの開始だったが、俺の相手がむさいベルミしか居ないので、仕方なく相手にする事にした。 モモだと小さすぎて相手にならないせいもある。
ついでに基礎体力作りもパートナーと組みながら、腕立て、腹筋、側筋、背筋、スクワットと一通りやっていたが、ベルミが直ぐに根を上げたので、回数を少なくしてセットでやらせる事にした。 訓練生は全員若いので、問答無用で体力を搾り取ってやったが、これも将来の糧になるのは間違いので、しっかりとやらせたのだった。
ヘロヘロに体力を奪われた彼らは、俺が風呂場へ案内してやった。 一応大浴場のつもりで作らせたが、タイル張りでないのが少し残念だった。 それでも大理石で作られており、銭湯のイメージはある。
十名づつしか入れないのだが、今回は風呂の入り方を教えておかなければならないので、全員湯あみ着に着替えさせ、見本を見せる事にした。
「プハーぁ、いい湯だな、ベルミ」
「へっ、あっしは良い思い出が無いですがね・・・」
そうだった、こいつが元盗賊だった頃に、散々こいつで拷問したんだっけか。 ベルミには、笑って肩を叩いただけだったが、風呂自体は言うほど満更でも無く気に入っていた様だ。 石鹸もあるので、清潔に出来るし、毛の流れない湯あみ着には、獣人達もおおむね好評だった。
夕闇迫る頃、全員で分担しての夕飯作りが開始されたのだった。 勿論、こいつらの飯は食堂で用意されているのだが、夜間は涼しくて気持ちが良いし、バーベキューを楽しみたくなった俺のわがままでもある。 キャンプであれば、定番であるカレーを堪能したいところではあるが、問題は重要な「米」が手に入っていない事である。
どこかにある筈なので、クラークに言って探させてはいるが、未だ連絡が来ない所をみると、まだ探し出せていないのだろう。 小麦粉はあるので、いざとなったらカレーうどんでも作るかと考えるかづきだった。
野菜と肉を適当に分担したら、網に置いて焼くだけだ。 パンは沢山あって喰い放題なので、皆適当にやるだろう。 しかし、アルコールは禁止してあるので、ベルミは物足りない風だったが、雰囲気は素晴らしく。 全員で和気合いあいの晩御飯となったのである。
このブーストキャンプには、俺の障壁が張ってあるので、誰も来る事が出来ない。 魔法は阻害していないので、用事があればイヤーカフで連絡は来る事になっている。
食事を終えたら、全員自由時間を申し渡しているので、何でも自由にやってもいいが、喧嘩は禁止なのは言うまでもないだろう。 規則は緩いが夜更かしすると、明日はハードな練習が待っているので、それはそれで自業自得である。
夜間演習もやりたいところだが、時計が無いので指示する時間の特定の出来にくい、開発はまだ先の事だろう。 簡単なものならば作れそうだが、せめて懐中時計位のものは必要である。 構想はあるが、なんせ精密機械なので、一朝一夕にはなかなか行かないものだ。
明日の予定スケジュールは、早朝に基礎訓練、武技訓練があり、午後から歩行訓練や魔法訓練を行うと、講義がいくつか行われる予定だ。 スケジュールは、各部屋の内側ドアに貼り付けておき、講習室の廊下には本日の成績表も貼りつけておく事にした。
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【本日の風筒銃射撃訓練成績表】
一位ネコ族ブルグ 二位ネコ族パル 三位イタチ族テンテン 四位アラリオ 五位バーミヤン
六位ビームス 七位バルグス 八位コトトラ 九位ウルグア 十位ドラウト
以下
小熊族ボピ、魚人族デゴブ、ベスクド、狼族ズグロウ、犬族ベベリ、ムチン、ジャベ、デスパイヨ、ギズリ、犬族ビビル、チップ、人狼族ザジオ、熊族ギルル、魚人族ガンダ
※但し、これらの成績に、日頃の生活態度や行動により、様々な要素が加味される事を記しておく。 カヅキ・クロサワ
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建物自体は、寮としてのイメージで造られている為に、ベルミ教官の部屋は入口の場所にあり、ここで出入りの管理を行って貰うつもりだ。 一応、夜間でも時計はあり、ランプの脂の減り具合で時間を確かめているのだという。 就寝時間は九時で、それまでは自由行動だ。
俺はベルミに後の事を任せると、ゴーレムのアロンに出入り口の警備を任せる事にした。 俺の不在中の命令権限はベルミにある。 俺はモモを連れて、結界の外へと一旦出る事にしたが、明日以降の予定の為に一旦、砦村へ打ち合わせに行く為だった。 それに、俺とモモの泊まる部屋も無いので、帰らざるを得ないというのもある。
「ただいまー」「ただいま帰りました」
「パタパタパタ」
「お帰りカヅキ」「カヅキ、モモお帰りなさい」「お帰りなさいませおにぃ様」
ミシェータ工房に帰宅したかづきは、今後の予定を全員に説明したのだが、何やら不満げの顔である。 どうやら新式銃である「風筒銃」を、知らない内に完成していたのがその理由らしい。 隠すつもりは無かったのだが、構造が簡単であった為にモモと二人で出来てしまった事が、逆鱗に触れている様だ。
どうせグロッグに比べると劣化版なので、チーム龍としての利用価値は無いのだが、一通りの説明はしておいた。 しかし、まだ彼女たちの機嫌を直すには至らなかったので、ここはひとつ餌で釣る事にする。
「解った、カツサンドを作ってやろう。 それで機嫌は直るか?」
「キャー、直るなおる」「しっ、仕方がないですわね」「ミクは最初から機嫌は良いですわ」
これで、明日からのスケジュールは、何とかこなせそうだが、ミシェータには、ゴーレムのアロンの小型β版を作って貰い、各工房に置いておくように言いつけておいた。 思ったより学習能力が高い為に、色々な事を沢山学ばせるより、技術に特化させようという狙いの為だ。
本来はそうした使い方が理想なので、暇なうちに情報を吸収させておきたい。 ついでに、ミクの作成中であった人形も見てみる事にした。
外郭は軽さを重視した為に、甲殻類の樹脂で出来ている。 中は空洞でこれも軽量化の為らしい。 関節部分は凹凸を利用した、嵌め込みによってなされている様だが、構造が単純すぎてもろくなっていそうだ。 足の部分重く重心が取られており、起き上がりこぶしの発想で立たせるようにしているのだという。
「ミク、人形の発想はおいて置いて、人体の構造を理解して行こうか」
「はい、おにぃ様」
「人体の基本構造は、骨にあるんだ。 骨は関節同士て繋がって複雑な動きを可能にしているが、これを繋げているのは、『腱』」という組織なんだ」
「けん?」
「ああ、肉に煮込みに使ってるだろ、肉とは違った食感の弾力のある部分」
「カヅキ、それってすじだよね」
「そうだな、『筋』とも言うな」
「煮込み過ぎたら、溶けちゃうのよね」
「ハハハ、そうだな、長時間の熱で溶けるが、程よい時間なら柔らかいな」
「ミシェータは蕩けそうなのが好みだわ」
「ハハハ、食い物の話は置いておこうか。 で、骨は腱でつながっているんだが、関節の部分は骨同士だと、摩擦で削れるんだな」
「あーん、おにぃちゃん、それで困っているの。 暫く動かすと、ギシギシ音がするのよ」
「うん、そうだね、その関節部分には、軟骨と言う部分があるんだよ」
「なんこつ? 柔らかい骨だよね」
「あー、そこも好き好き、コリコリしてて美味しいよね」
「もう、ジュリナは食い物の話ばっかだな」
「ごめーん」
「で、骨がその軟骨でスムーズに動いて、衝撃とかのクッション代わりにもなるんだ」
「へー、なるほど、ゴーレムの動きがぎこちないのも、その部分が欠けているせいなのね」
「そうだな、ミシェータ」
「これで、考えは纏まったわ。 おにぃちゃん、ありがと」
「ハハハ、全く気が早いな。 まだこれからだぞ」
「えっ? 後は魔力で動かせるから、大丈夫よ」
「そうなんだが、それだけじゃパワーは出せないぞ」
「えっ? そうなのミシェータ様」
「そうねぇ、ゴーレムのパワーは、大きさに依存するから、小さな人形だと何か必要だわ」
「人体のパワーの源は解るだろ?」
「ふふふ、『きんにく』よ。 小さな頃からクラークに言い聞かされてたわ。 力を付けたいなら筋力を上げろって」
「その通りだジュリナ、筋肉がヒトの力の源なんだ」
「えっと、きんにくって、お肉だよね」
「そうだな、モモ。 俺達が一般的に肉を食うっていう組織が『筋肉』そのものなんだ」
「きんにく、パワー、みなもと、きん・・・すじ・・・えっと、おにぃちゃん?」
「どうしたモモ?」
「さっき『けん』は『すじ』とも言うって言ってたよね」
「ああ」
「じゃぁさ、きんにくの『きん』って何?」
「うーん、モモ君良い質問だね。 筋肉のきんというものも、腱やすじと似たものなんだ」
「でも、柔らかい」
「じゃぁさ、魔物で考えてみようか。 森で一番強い魔物は?」
「ロンガムベァだわ」
「比較的弱い魔物は?」
「ウサギとか山鳥とかかな」
「肉質はどうだい?」
「ウサギとか鳥肉はは柔らかくてジューシーだわ。 でも私は歯ごたえのあるロンガムベァが好きだわ」
「ハハハ、ジュリナは食いしんぼさんだね」
「えへへ」
「解ったわ、おにぃ様。 肉が硬い方がパワーがあるって事なのね」
「そうだな、一概には言えないが、同じ種類の生物の場合は、その理屈で正しいよ」
「でも、そのお肉が、すじって言うのが良く解らない」
かづきは、木の棒を二つ用意すると、そこに沢山の糸を繋げて見せた。 ゴムがあれば理解しやすいと思うが、ここには無いので、紐で説明する事にする。
「さて、出来たっと」
「それは?」
「これは棒が骨で、この紐の束が筋肉と思ってくれ。 この棒を直角に立てると紐はどうなる?」
「うんと、上が緩んでるね」
「そうだな、上のひもが緩んで、下の紐がピ―んと張ってる。 これが筋肉の働きだ」
「うーん、よくわかんない」
「筋肉は、『伸ばす』と『縮む』を交互に行っているんだ」
「ふーん、単純なのね。 これがパワーを生み出すの?」
「ここからは、実際に実演して見せよう」
「何々!」「カヅキ、こんなところで」「きゃっ」「ひゃい」
「すまない、実際に脱がないと、筋肉の動きが理解できないんだ」
かづきの筋肉に、ボーッとしているモモやミクに、恥ずかし気なジュリナ、そしてうっとりしているミシェータであった。
「腕を曲げる、この時に縮んでいるのは?」
「力こぶだわ、また少し大きくなったんじゃない? カヅキ」
「ずるいわ、ジュリナ、わたくしにも触らせて」「わっ、わたしも」「私にも」
「アハハ、で、この力こぶの真下はどうなっている?」
「伸びているのよね?」
「良く触って確かめてごらん」
「う、うん」
「・・・・・・」
「解らないか、じゃ今度は伸ばしてみよう。 パンチで力を開放した状態だぞ」
「伸びてるのよね? でも筋肉は固いわ」
「じゃぁ、もう一度縮めるから、触って比べてごらん」
「う、うん」
「あら? 伸びてるはずなのに、柔らかいわ」
「筋肉が柔らかいという事は、この筋肉が使われていない証拠さ」
「え、えっと、動きによって使う筋肉が違っているって事ですわね、おにぃ様」
「そうだね、ミクの言う通り、動きによって筋肉の動きがそれぞれ違うんだ。 その動きによって、ユニットごとにその筋力が使われるって事なんだよ」
「凄い! 凄い発見ですわ、おにぃ様」
「もう少し種明かしをするとね。 この筋肉の中には、素早い動きが得意な『速筋』と持久力が得意な『遅筋』があるんだよ」
「えっと、そっきんとちきん? ですか、おにぃ様」
「ああ、モモやミクの素早さは、ジュリナでも付いて行けないだろ。 これは速筋の働きが強いんだ。 逆にジュリナは体力があって、長時間動き回っても息を乱さないだろ。 これは遅筋の効果なんだ」
いつの間にか、講義に変わってしまっていたが、これが人形作りに生かされて行けば、今後に期待が出来るだろう。
モモ:本日の班別順位の発表~♪
1位:赤隊班90点
2位:黄隊班80点
3位:緑隊班50点
4位:白隊班40点
モモ:でした~♪ お疲れ様です。




