異世界探求伝 第五十五話 ブートキャンプ初日ー風筒銃
今回は新しい武器の登場です。
銃はあまり広めたくないという、かづきの意思が働いています。
「おめぇ! 腕の振りが合ってないぞ」
「イエッサー!」
「ええぃ、おめーは膝を高く上げろ」
「イエッサー」
「剣ははまっすぐ片手で、きっちり握りやがれ!」
「イエッサー」
隊列を組んでの歩行訓練は、簡単そうで意外と難しいものである。 しかし、これは練兵の訓練であるので、基本をしっかりと学ばさなければならないので、ベルミにはそこら辺をきっちりと言い聞かせてある。 ベルミ自身も同様に歩いているので、自分の訓練にも役立てて欲しい所である。
「全体ぃ止まれ! 一、二、三」
『ぜぇぜぇ、ハァハァ――』
ようやく足並みが整ったところ、昼が過ぎていたのでここで昼食タイムにする。 昼食は直ぐに食べられるように、いつもの黒パンサンドイッチとドリンクだ。 場所が場所なだけに、並べておく事も出来ないので、肉、野菜の好みだけを聞いておき、個数は自己申告である。
俺は言われた数だけ、お盆に置いて行き、ドリンクは牛乳、水、果汁、紅茶の中で自分で選べるようにしてある。 手洗いはしっかりとさせて、清潔面もきっちりと教育しておいた。 これで、石鹸にも慣れてくれるだろう。
訓練内容は基礎体力作りに、歩行訓練、持久走、自然の地形を生かしたアスレチック訓練を基本にしている。 アスレチック訓練は、自然の地形で行っているが、ロープを渡る訓練、木登り、荒れ地移動、石壁登り、湿地移動を行い、その順位も記録されている。
さらにベルミの視点から、パートナー同士か班同士での手助けが行われているかも、採点されているのだ。 身勝手な行動は、隊を危険にさらすだけでなく、全体の動向を左右する事もあるので、重要な項目だと言える。 しかし、着け放す事で、ぞれが全体を守る事もあるので、細やかな視点で見る事も上官の務めなので、ベルミも逆にかづきから採点を受けている事になる。
体力訓練には実地訓練もある。 まずは装備を使っての訓練だが、的に的確に当てられるように、風筒銃の訓練は欠かす事が出来ない。 時間内に多く打つ事も重要な事なので、コースを走りながら標的五つに当てたあと、固定した標的に五回当て、更にこれを回収するコースになっている。
剣技も重要な訓練であり、毎日行われる。 得物の得手、不得手は当然あるのだが、基本的に、どの国の兵士でも接近戦は剣が中心なので、剣を習う事で、その対抗手段も考えられると言う訳だ。
接近して戦う方法には、もう一つ重要な体術を会得して貰うつもりだ。 この国の体術は貧相なものだとかづきは確信していた。 剣や魔法が使えるので、体術に関しては重要視されていないようなのだ。 クラークでさえ受け身の重要性を知らなく、基本的に喧嘩は殴ると蹴るの二本柱である。
体術にも、殴る蹴るの項目はあり、重要な事は間違いの無い事だが、これに投げ技や関節技を取り入れる事で、武器の無い場合の生還度も高まるはずだ。 かづきはこれらを技術として、弓技、剣技、体技とした三本柱に据える事にしたのだった。
魔法の実地訓練も行われるが、これは夕方に行う予定である。 基本的に、どの種族でも魔力を持っているが、使えない者も中には多いのである。 これは単に使えない者もいるが、剣の道が好きで剣技の中で魔力消費しているので、魔法をあまり必要としていないようである。
但し、基本を知っている事で、目くらましの方法も取れ、技のバリエーションにも繋がるので、基本の魔法は覚えさせる必要がある。 講師には、ミシェータに来てもらうつもりだ。 すでに魔法を使える者も多いので、魔法を教える事に長けていないかづきは、教える事が出来ないでいる。
講義も当然行われるが、戦術、戦闘講義はかづきが講師を行い、基礎魔法はモモが行う予定である。 魔法組は専門家と言えるミシェータが行い、全員が参加する演算もかづきが行う。 この国の者の計算が苦手なのは、言語が関係しているとかづきはみている。
ジャパンでも、言語での数の数え方には限界があった。 特異なジャパンでは、数え方にも色々あり、「一つ二つ三つ」に「ひいふうみい」や「いちにいさん」があるが、前者二つには十一以上の言葉がほとんど存在しない。 「はたち」のはたや、「やおよろず」の八百万というものもあるが、前者は特異な数であり、後者は数え切れないほど数が多いと言う意味合いだ。
英語でのスペルで書くと、十以上からいきなり文字数が多くなる。 elevenから百だとone hundredと長くなる。 数字が無ければ、多くの数を数えるのに難しくなるのは当然だろう。 また0の概念も無ければ、数を数える事は難しくなる。
これは、両手の指の本数にも関係しているそうで、古代の数の数え方にもその限界があったようだ。 あまり難しく考えすぎるのも何だが、数え切れないものには「たくさん」と、一緒くたにされてしまうのも何かと問題が多いのである。 せめて、足し算と引き算だけはクリアさせておきたいところだ。
言語や語学に関しても余り出番はない。 ここはジュリナを呼んでおかないと問題が起こりそう、とのモモの口添えで、彼女を急遽呼ぶ事に決めた。 モモもミクが居ないと寂しいだろうから、ミクも呼んでおく事にする。 これらの講義は午後から行う事にした。
雑学はかづきが全員を集めて行う。 雑学講義は決まったものではなく、全員の疑問や質問に応じた問答で行う予定なので、何が質疑されるかも判っていない。
今日は初日なので、余りハードな訓練はする予定はない。 午後からは、風筒銃の扱い方を学ばせる為の、講義と実地を行う予定である。 なんせ俺の国にも無かったものだから、試行錯誤も必要だろう。
昼食が終わり、多少の休憩を挟んで一階の講義室に全員集めると、風筒銃の構造や、今までの弓との違いを詳しく解説していく。 講義室の中は至って普通の教室なのだが、それは俺にとって普通であり、この世界の人達にとっては、異色のものなのかもしれない。
白墨は石灰を棒状に固めるだけなので、簡単に成型出来た。 紙はまだまだ貴重品なので、紙の生産が行えるまでは、質の悪い紙でノートを作って配布している。 鉛筆と消しゴム用のパンはあるので、ここまでは問題無い。 黒板も木の板に石の粉を混ぜて、塗られておりさらにこれを研ぎだす事で、細かい傷ができチョークが良くなじむようになった。
「えー、本日は初日と言う事もあり、新装備の風筒銃の説明をしたいと思う。 ここに本体があるが、実際に先ずはやって見せよう」
かづきはそう言うと、筒だけのものにダーツを一本入れると、そのまま背後に取り付けられた的に向かって、自分の息を吹きかけた。
「プッ! トン」
「おお――」
「これは、この風筒銃の構造を簡単に説明したものだ。 このように息を吹いて空気の圧力で、押し出される仕掛けになっている。 君たちの風筒銃には、魔石が仕込んであり、このように自力で吹く必要は無い」
「おお――」
「更に、この筒を長くする事で、その飛距離も高める事が出来ると言う訳だ」
「きよ、教官殿、質問良いでしょうか?」
「えっとー、物覚えが良くないので、名前を言って貰えると助かる」
「イエッサー、白隊班のドラウトと申します教官、館ではお世話になりました」
「うん? 館ってヴァレンチノ家のか?」
「はっ、イエッサー」
小声でモモに聞くと、何とあの怖いメイド長のサウリーネの息子だという。
「あ、ああそうか、お前もいたんだな。 悪かったな」
「いえ、教官殿」
「講義の時はイエスサーは、省略してよろしい。 実地訓練の時だけだ」
「イェッ、は、はっ」
「で、質問は? ドラウト」
「はっ、えー心苦しいのですけれど、的に正確に当てる事は解りましたが、このように小さな矢では、戦闘に使う意味はあるのでしょうか?」
「ハハハ、良い質問だ。 では実際に披露して見せよう。 モモ君、窓を開けてもらえるかね」
モモは、かづきの言う通りの窓を開け放つと、少し離れた岩を指さした。 実はゴーレムのアロンに、歩行訓練の動きを教えている合間に、モモにこの風筒銃の特訓をさせていたのだ。
「モモ君、少しばかり距離があるが、いけるかな? リミッターは外していいぞ」
「はい、クロサワ教官、お任せください」
岩までの距離は約五十mほどか、岩の大きさ自体は人の大きさ程あるのだが、距離が離れているせいで、数センチ程度にしか感じない。モモはおもむろに、収納袋から自前の風筒銃を取り出すと、筒の先端にカートリッジを取り付け、その長さを二m程に伸ばした。
さらに、シリンダーにダーツを1本入さし入れ、銃底と照門を取り付けると机に固定させ、照門を見ながら岩に照準を合わせ、その引き金に軽く指を掛けた。
「いざ参ります」
「ドーン! パラパラパラ」
『ザワザワザワ・・・ごくっ』
岩は木っ端みじんとまでは行かなかったが、上部は砕け飛んでいる。 全員生唾の音だけで、歓声もだせないほどに驚いているようだ。
「えっと、ドラウト君、納得してくれたかね」
「は、はひ・・・」
「では、続けて説明して行こう。 今のはこの風筒銃のリミッターを外した状態だが、練習用ではこれ程の威力は出していないんだ。 理由は殺傷力が強すぎるから、事故を防ぐ意味と慣れさせる為だ。 それにね、練習用で十発分しか無いから、回収して使う必要もあるからな」
「教官! す、凄い武器です。 あっ失礼しました、自分はイタチ族のテンテンと言います。 赤隊班です」
「うむ、テンテン君のように、小柄で非力な者にはぴったりの武器だね」
「はっ! 有り難き幸せです。 クロサワ教官殿」
こうして新装備「風筒銃」のお披露目と、その構造が黒板で図解され、ダーツと呼ばれる小型弓矢の構造や、その機能性が詳しく説明された。
「弓との大きな違いは、飛距離と言うよりもその威力の違いだな。 貫通力が高いので並みの革防具だと簡単に貫いてしまうし、飛距離は筒と空気圧で威力を変えられるから、高い場所から狙い撃つのには適した攻撃だろう」
「はい! 自分は緑隊班のバーミヤンです。 弓なら毒矢が使えますが、このダーツにはどの様なものを使うのでしょうか」
「うん、バーミヤン良い所に気が付いたね。 このダーツは自由度が高いんだ。 つまりね、ダーツの中に毒液を仕込んで、注射器のように相手の体内に注入する事が可能なんだよ」
「す、凄い、これなら大きな魔物でも仕留められます」
「入れる中身も変えられるのが特徴なんだ。 毒矢だけでなく、相手を倒すだけなら麻酔矢も使えるし、殺傷力を高めるのであれば、ダーツの先端を変えるだけで風筒銃をそのまま使えるからね」
「なるほど、しかも小型のダーツだから、大量に持ち運びが出来ますし、かさばりません」
「ここからが重要項目だから良く聞け! これが敵の手に渡って使われたらどうする? ベルミ教官」
「そ、そんな恐ろしい事を」
「だからこそ、皆に聞いて欲しい。 むやみに人前で見せない事と、この風筒銃の秘密を順守する事。 更に仲間へ向けてはならんぞ。 ダーツが入っていなくてもだ、これに違反したものは厳罰を下す。 いいな!」
「イエス、イエッサー!」
「では、実地訓練だ。 グラウンド横に集合!」
「イエスサー!――」
「あんな、ちゃっちいもんで、良くこさえたもんだ。 さすがボスだぜ、おっと、クロサワ教官殿」
「ハハハ、モモのおかげさ。 ベルミの分もあるから、一緒に練習してみろ」
「はっ! クロサワ教官殿」
モモは終始機嫌が良かった。 野外の射撃場では、その腕を見込まれて、「モモ教官殿」と呼ばれており、凄く嬉しそうに教え込んでいたので、俺の出番は余りなかったのだ。
訓練用のダーツは、本当にダーツのような形状をしており、針が短くしてある。 羽は使ううちに摩耗していくので、交換用の羽も用意してある。 そのうちぼろくなったら、各々で修理できるように教え込む必要もある。
「おーい、お前ら言っておくが、魔石の各人で充填は忘れずにしておけよ。 シリンダー内の弾数は五発で切れるはずだから、カウントも忘れるなよ」
「イエスサー!」
的に当たった後のダーツは、ゴーレムのアロンが回収してくれているが、情報収集能力が半端では無い。 最初は回収していたら、流れダーツに当たる事も多かったが、俺の『ダーツに気を付けろ』の一言で、軌道から察知するようになり、終いには全く当たらずに避けて、平気で移動するようになっていた。
「恐るべし、アーロン教官」
「アハハ、おにぃ、クロサワ教官どのから、言われればミシェータ様もさぞや鼻が高いでしょうね」
「しかし、機敏さが足り無いな」
「仕方ないわ、ゴーレムだもの」
「そうだな、あの角ばっている形状が問題だな」
ミクが、ゴーレム改造案に着手している事は知っているが、かづきも打開策を考え始めたようだった。
ザジオ:しっかしモモはすげぇな。
モモ:モモ教官殿ってお呼びなさいな。
ザジオ:ガッハハハ、おいらとタメじゃねぇかよ。
モモ:むっ、あんたも私の餌食になってみる?
ザジオ:モ、モモ! 待て、人に向けちゃなんねぇんだろ。 ギャン
モモ:針は付いていないわ。 ふふ




