異世界探求伝 第五十一話 嵐が過ぎて
皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
現在台風シーズン真っ盛りとあって、各地に甚大な被害が出ています。
万が一の為に、周辺の地形を把握しておきましょう。
俺とモモは洞窟から外へ出て、様子を見ていた。 辺りは木々がなぎ倒されており、まるで台風が通った後のようであるが、台風一過のお陰で空は雲一つの無い青空が広がっていた。
ジュリナとザジオは、食い比べをするかのように張り合って食っていたが、他の連中は食いすぎなようで、出発をしばらく待つ事にした。
ついでに、砦村の様子をミシェータに聞いてみたが、何も問題無いようだったので安心したが、砦村にまた新たな五人を連れて行くと言うと、ミシェータはそれを察したように、クラークに報告しておくと先に言われてしまった。
俺はモモを膝の上の乗せてから、周りの景色をスケッチしていた。 何でも書き残しておくと、使える時があるかもしれない。 ついでに、剣のスケッチも頭で思い出しながら書き綴っていくが、途中で盾の事を思い出し、西洋風の盾のデザインもいくつか描き足しておいた。
モモは、服のスケッチを描いていたので、俺にいた世界の服を思い出しながら、書き足してやると素敵と喜んでいた。 ついでに、下着のデザインも描いてあげると、黙って顔を赤らめていたが、もっと描いてとせがまれたので、紐パンやふんどしなども描いておいた。
思えばブラジャーも無い世界なので、ブラジャーを描いたら、これは何かと逆に質問されてしまったので、詳しく説明しておいた。 この世の女性は、布の帯を旨に巻いているだけなので、胸も苦しいだろう。 しかし、俺は作り方を知らないし、自分で見に付けた事も無いので、それ以上は無理なのだ。
ついでに学校の話もしておいた。 最近学校に行ってない様だが、どうしているのかと聞いてみると、月謝はこの前のお金ですべて支払って来たので、特に問題は無いそうである。 二人とも初級の魔法は、全て出来るようだし賢いので、問題無いとは思うけれど、一度は学校とやらに様子を見に行くべきであろう。
外でくつろいでいると、洞窟内で動きがある様だ。 ぞろぞろ出て来た連中は、既に準備万端の様で、ジュリナも戦闘服に着替え直している。 俺とモモは既に着替えているので、問題は無い。 直ぐに出発だが、昨夜の話通りに、飢狼衆が先行してくれる筈だ。
嵐の過ぎ去った後なので、魔物の気配もほとんどない様だが、辺りには霧が立ち込めている。 一旦来た道を戻るようにして慎重に進み、森の中を順調に歩いて行った。 やがて霧が晴れて、三時間程進むと目的の地点に付いたようだった。 全員地面をしきりに探していたが、やがていくつかの白い塊をたくさん抱えて来た。
「あれ? ブルモス・ワームだよな、 えっと、何とかに木の上にいるんじゃなかったっけ」
「昨日の嵐で、まゆが落ちてるみたい。 だから、拾ってるのよ」
「そっか、言われてみればジュリナの言う通りだな」
俺も一緒に探す事にした。 まゆの中のワームは、生きているので探知は容易い事なのだ。 俺は50㎝ほどあるまゆを見つけ出しては、ジュリナに放り投げる事を繰り返していた。 そう言えば、中身が生きているから収納出来ないので、どうするかと考えていたら、二手に分かれて片方は木に投げつけている。
「ジュリナ、あれは?」
「あの木が、オリザニンオバールの木よ」
「あー、あれがそうなのか、まゆが面白いように張り付いてるのな」
「オリザニンオバールは魔植物なのよ。 幹に触ると細かい棘で体液を吸い尽くされるわよ」
「へぇ、聞いてはいたけど、見ると怖いもんだな」
「ええ、知らずにうたた寝してて、もたれ掛かるとそのまま夢の中ね」
「ハハハ、気を付けるよ。 現物見たから以上だけどな」
「二、三時間程で体液が吸い尽くされると、勝手に落ちて来るから、それを集めれば終了よ」
「へぇ、それまでの間に何やってよう」
結局、待ち時間の間は全員で自己紹介を始めてしまった。 言い出しっぺの俺は、子供の頃から武道を祖父にしごかれていた事や、町で不良に絡まれた話を面白おかしく聞かせる事が出来た。 この国では武道は無いので、格闘技とは説明しておいたが、ほぼ全員がこの話に夢中になっていた。
俺の居た世界では、電脳社会だったので、世界の格闘技に俺自身が精通している為に、多彩な流派を会得していると、勘違いされている様だが、コンピューターの話をしても通じない訳で、そのまま流すしか他無かった。 取り敢えず、俺自身も技は教えて行こうと考えているので、砦村に行けば教えてやると、軽口をたたいてしまったが、それはそれで仕方の無い事だろう。
どのみち砦村が大きくなると、守備を固めなければならないので、戦力強化の方法を模索しなければならないだろう。 砦の規模は大きくなってはいるが、資金は十分に賄えることは承知しているので、後は戦力と食糧補給の道を開かねばならない事も解っている。
ジュリナも学校時代の話を聞かせてくれた。 お転婆で、嫁の貰い手が無いと随分言われたそうだが、今は宛てが出来たと、こっちを見て笑う姿がとても眩しかった。 俺の半生を恥じるつもりは無いが、この娘は大事にして行きたいと思っている。 勿論ミシェータもそうだが、モモやミクも入っている。
モモはまだ年若いので、わらべ歌を披露してくれた。 自分は親から何も与えてもらえないのに、他人の家の子守をしながら、親を慕うという素朴な歌だったが、何故だか涙が止まらなくて、全員に笑われてしまった。
「モモぉ、いい歌だっぞ!」
「もうわかったから! 離しておにぃちゃん、痛いよ」
「ハハハッハ」
「クロカワ様も、人のお子だったのですね」
「ぐすん、お前達この歌の良さがわかんないのかよ」
「はいはい、カヅキ、わかったから」
代わりに、ジュリナに抱きしめてもらったら、何故だかすっきりした気分になった。 こうして甘えるのはいつぐらい前だったろう。 人の優しさがいとおしく感じたのも、かなり久しい気がする。 そうこうしていると、オリザニンオバールの木から、ぼとぼとまゆが落ちて来た。
俺は収納袋から、木箱を取り出すとまゆを潰しながら、次々と押し込んで行った。 丁度時期的にまゆになっていて良かった。 それに嵐が来たおかげで、木に登る必要も無かったし楽が出来た。 まゆの数を数えてみると、千個を超えていた。
こんなに取って大丈夫かと心配したが、飢狼族の一人からまゆから落ちたら、どうせ助からないと聞かされて、ある意味ホッとしていた。 まゆは木箱三つに上手く収まったので、これを収納するとようやく帰途につく事にするが、昼時なので飯にするかと尋ねると、ほぼ全員が結構と言い放っていた。
やはり、サンドイッチを残しておいて良かった。 食べる者は歩きながら、サンドイッチをパクつく事に決めた。 帰りは小隊を先頭にして、後は自由に行動させる事にする。 サジオはジュリナにくっついて離れようとはしない。 サンドイッチのかごを片手に持って、ジュリナの世話を焼いている。
モモはこれ幸いに、口元にサンドイッチを持ってきたリ、飲み物を差し出してくれて、俺の世話をしきりに焼いてくれるが、本人は俺の肩に乗っかり、ちゃっかり肩車をしているのだ。 帰る道中でジュリナが、飢狼衆にあれこれ皆に指示を出し始めた様だが、モモに聞いてみると、ブラドリース仕掛けを回収しているのだそうだ。
血吸いヒルの事だが、何かと便利な材料らしい。 まるで、手下を従える女盗賊のように見えるが、怒られそうなのでモモだけに言ったが、モモは腹を抱えて笑い転げていた。 落ちそうになりながら、俺の髪を引っ張るのは止めて頂きたい所だが、モモだからいいや。
順調に下山すると、馬たちの様子が気になってはいたが、結界を外してみると、五頭とも無事であった事に胸をなでおろす。 黒龍号がしきりに、自分のお陰と言わんばかりに鼻を擦り付けて来るので、丹念にブラッシングして、労いの言葉をかけておいた。
馬達は、青草を沢山食んでいたので、水と岩塩を食わせると、このまま帰途に着く事とするが、大事な事に気が付いたのだった。 馬が足り無いな、小隊が五人、飢狼衆が五人と俺たち三人を合わせると、合計一三人だ。
小隊は小柄な獣人だが、飢狼族は至って普通の背丈があり、馬に三人乗りはちときつい。 手が無い訳では無いが、所々崖もあるので危険を伴う事は確実であった。
「クロカワ様、我々は大丈夫でございます」
俺が、馬を見ながら考え込んでいる姿を見て、飢狼衆のリーダーであるヤズリオが、気を効かせて話し掛けてくれたのである。 聞くと人狼はタフが売り物なので、馬の後を走るぐらいは何も問題は無いそうである。 俺も、こいつらの実力が見てみたい気もあるので、言うがままに任せてみる事にする。
「帰途は一,二回休憩を挟む予定だが、決して無理はするなよ」
「はっ、承知いたしました」
こうして、飢狼衆は自力で走る事になるが、帰りは上り坂なので速度も余りでないはずだし、追いつけるだろう。 しかし、襲撃してくる者も、それは同じ考えであった様だ。
「敵襲」
「ん? なんだ、状況を説明しろ」
「ドラゴンが、空から襲って来るようです」
「モモ、視認できるか?」
「うん、大きさは十m超えてそう、口ばしがあって鋭いカギ爪の足が二本、かな」
「ふむ、二本足ならドラゴンでは無いな」
「あれは、ワイバーンです、クロカワ様」
「ふむ、翼竜だな、崖沿いの細い道を狙ってきた訳か、下がることは出来ないな。 このまま前進して、全体弓を構え対処せよ」
=ワイバーン= ランクC
大型の翼竜、全長4m~5m
攻撃方法は鋭いくちばしに、二本のかぎ爪。
肉食で獰猛だが、卵から孵した個体は人に慣れて、空を飛ばせる事も出来る。
風魔法を操り空を自由に滑空する。
素材部位:皮、尾、羽
可食部位:筋肉
――――
ワイバーンは急降下でこちらを目指している。 走っている最中なので、土壁は出来ないので風の障壁を使えと命じた。 弓の一斉射撃は効いていないようで、ワイバーンの体の前で弾かれているようだった。 同じく風を纏っているのだろう。 奴は白く目立っている、ジュリナに目を付けているようだった。
「ジュリナ狙われてるぞ」
「わかったわ」
俺にも言える事だが、馬上での戦闘は慣れてはないない。 その証拠に片手で持つ「ヘシキリ」の威力は乏しく、相手の攻撃を防ぐのに精一杯のようである。 飢狼族もジュリナを守ろうと、必死で攻撃して見るが、剣先も届いてはいない。
「モモ、グロッグを使え」
「はーい」
そう言えば、改良後のグロッグの威力を、まだ確かめてはいないので、実地訓練には丁度いいだろう。 奴はジュリナにご執心で、風の鎧に絶対の自信があるのか、全体に隙だらけである。 モモは俺の膝の上に乗っているので、片手でしっかり抱きしめて固定しておいた。
「バシュッ、ドン!」
あっけなく、頭が吹き飛んだワイバーンが、そのまま流される様に、こちらへ向かって来たので、かづきは片手でワイバーンを触ると、直ぐに収納してしまった。 周りから見ると、まるで消えたと見えるだろう。
「え? ワイバーンはどこへ、クロカワ様」
「全員に告ぐ、敵脅威は消え去った。 このまま帰路へ着く」
「へ、は、はい」
皆こちらを向いて、不可解な顔を浮かべていたが、一列縦隊なので聞く術も無く、そのまま砦村へ急ぐしか術は無かったのだが、人狼達は違っていた。 走りながら俺の周りに集まり、今の攻撃はどうしたのか、根掘り葉掘り聞いて来たので、後日説明すると言いくるめて先を急がせたのだった。
砦村へ着いたのは、日の落ちる前であった。 前もって連絡しておいたので、出迎えの住人達で広場は混雑していた。 特に凱旋と言うほどでもなかったのだが、小隊の連中はやけに誇らしげで、住人や仲間の出迎えに手を振って答えていた。
ほぼ全員が居るようなので、今回の収穫である木箱を出して、蓋を開けてやるとその量の多さに、やけに驚いていたが、機織職人のミルンの喜びようは大層なもので、眼を輝かせて何度もお礼を言って来た。 早速、これを糸に仕上げるのだそうで、明日にしろと注意をしてみたが、鮮度が命なんですと逆に窘められてしまった。
ワイバーンもついでに出すと、その大きさに驚く連中だったが、人狼の連中は頭の部分をしきりに触りながら、実況見分をしていた。 ついでにこいつらの紹介もやっておくとする。
「えー、新しい仲間だ。 自己紹介させるから皆聞いてくれ」
「はっ! 本日付で白、いえ、ジュリナデリカお嬢様の護衛を務めます。 飢狼衆、ヤズリオ・ライトにございます」
「右に同じく、ジビエ・マーズと申します」
「御光栄の至りです。 ズルカ・マーズと言います」
「ユゾウス・ライトだ、宜しく頼む」
「おいら、ザジオ・マーズです。 白巫女様、いえ、ジュリナ様は何があっても必ず、おいらが守り抜きます」
盛大な拍手に、照れ笑いを浮かべながら、飢狼衆はこうして村の住人となったのである。
モモ:オリザニンオバールって魔植物、じっとしてても怖いんですねお嬢様
ジュリナ:そうよ、木に貼り付けられたら死んじゃうんだからね。
モモ:あの木にどうやって登るんですか?
ジュリナ:ふふっ、普通に登れるわ。
モモ:えっ!体液吸い取られるんじゃないのですか?
ジュリナ:少し脅しただけよ、もたれ掛かるだけじゃ反応しないわ。
モモ:なぁんだ。




