異世界探求伝 第五話 タウルス発着
ここからが中心となる本編の始まりとなります。
お楽しみください。
ここはジャパンの特殊工場のあるビルの一室。
レディメシアこと「大和メシア」は、最近では日課となりつつある「お見送り」の準備だ。
地球から様々なタイプの人類を送り付け、惑星タウルスの文化の発展や、進化の具合を促そうと起こした在る種の「事業」であったが、それが着々と実りつつある様だ。
「レディメシア様、惑星タウルス行きのお客様の準備が整いました」と、被検体管理ロボからのお知らせに、レディメシアこと「大和メシア」はマザーから促されて返事をする。
「そう、じゃ「始まりの間」に誘導お願い。 すぐ行くわ」
―――――
黒川かづきは、ドンラビに打診された地球外惑星『タウルス』行きを喜んで快諾した。
しかし、本人はこれを冒険のお試しコース位にしか考えては居ないのだ。 前準備とタウルス研修に三日程の教練が行われ、彼はナビゲータからある程度の世界の予備知識を得る事になる。
「なぁナビゲータ、最初にどんな街に行くんだ?」
「一応ランダムト ナリマス」
「何で地球じゃ大量殺戮兵器は禁止なのに、惑星タウルスじゃ禁止じゃねーんだ?」
「魔物ノ存在ヲ 加味シテ オリマス」
「どんな魔法が使えるんだい? どうやって使う?」
「初心者マニュアルハ タウルス側ノ ナビゲータニ ゴ指示クダサイ」
等と適当に聞いていたのだが、いかんせんかづきはそういう世界の事は詳しくないので、行き当たりばったりでやるしかないのかなと考えつつ、聞けるだけは聞いていた。 そうしてふと、ここに来た時の事を思い出していた。
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ここはタウルス移住計画施設内研究所、研修施設の宿泊施設の一角である。
訓練研修初日の朝、俺はナビゲータに突然起こされた。
「身体環境ヲ 整エル為ノ 手術を施シマスノデ ゴ案内シマス」
「手術だって!? そんなこと聞いてねぇよ」
「地球人ノ肉体ハ 非常に脆弱な為 身体ヲ整エ 環境ニ順応シタ 体ニスル事ガ 不可欠ナノデス。 ソレニ隠レタ病状ハ コノ検査 手術ニヨリ治癒サレ 健康体ニ戻ス事ガ 可能トナリマス」
「ちょっと聞くが、外見が変わったりするのか?」
「基本的ニハ変ワリマセン タダ被検体ノ パフォーマンスヲ体現頂ク為 ソノ肉体ノ活性状態ヲ ベストニスルノガ目的デス 要望ナラ外見ノ 施術ヲ施シマスガ 時間ガズレ込ミマス」
「いや、親からもらった体だしいじる事はしない。 だが、最高パフォーマンス状態にするって事か?」
「ヒト類ノ身体運動能力ハ 二十代前後ヲ境ニ 急激ニ落チル事ガ 知ラレテオリマス コノ施術ニヨリ 外見ハ現状ノママ 内面ダケ ソノ当時ノ状態ニ 身体能力ノ引キ上ゲヲ 行イマス」
「ほう、俺の細胞を弄るって訳だな」
「正確ニハ デオキシリボ核酸ノ 改変ヲ行イマス 五年以内ニ起コルデアロウ 病変ガ見ツカリ次第 コレヲ除去致シマス 惑星タウルスにオイテ 発症スレバ不治ノ病トシテ 致命傷ニナリカネナイ為デス」
「そういう事なんだな。 何か古いヒーロー物に改造人間ってのが在ったからな。 少しビビっちまったぞ。 成程判った、好きにしてくれ。 すぐ終わるのか?」
「施術自体ハ ニ十分程度デス」
俺はナビゲーションに言われるまま、衣服を剥ぎ取られて消毒させられた。
――――――――
こうして、いつの間にか気が付いたらベッドの上に転がされていたって訳だ。
現地での服装は要望に応えられると言うので、グレーの上下のWスーツにロングコートにして貰った。 生地はカシミヤだ、靴はブーツを頼んだが、かづき愛用の鉄板入りは必須条件なのだ。「チャカ」を用意してくれと言ってみたが、弾の補給が出来ない事と技術がそこに達していない事が判り断念。 現地で武器は調達するしか無いらしい。
現地で使う通貨を貰うと、ナビゲーションに連れられるまま、次の部屋に案内された。
そこには一人の少女が、ロボット達と共に待ち構えていた。
「貴方が黒沢かづきね」
「お嬢さんは?」
「私は大和メシアよ。 最終確認とタウルスとの航行を司ってるの」
「ふーん、まぁ、たのんます」
「用意はいい?」
「ああ、五年後にまた逢おう」
「そうね、逢えるように生き抜いてね。 良い旅を――――」
「惑星タウルス行キ オス被検体ラット一体 ワープ航法始動」
「えっ? ちょっ」
頭がグニャリとねじれた気がした。
ワームホールを通って行くと聞いてはいたが、初めての感覚だ。 特に息苦しくは無く、周囲の漆黒の闇に光の筋が流れているのだが、噂に聞く「臨死体験」のようにも感じる。
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気絶すると言う事無く、俺は惑星タウルスに着いた?・・・・・・様だ。
辺りを見渡すと草原で、田園風景が見える。 街道? みたいな道が見えたのでしばらく歩くと、近くに農民が居たので道を尋ねる事とする。
「おいちゃん、ここから一番近い町はどこだい?」
「ああズナンの町だな、今来た道を逆だぞ。 あんちゃん、どっから来なすった?」
「ああ地球からだが、ここら辺の地理に疎くてね。 ズナンってあと何キロ位あんだい?」
「チキュウ? ふーん知らねぇな。 ズナンは十キロくれぇ先だな。 歩きなら三、四時間ってとこかの」
「そうかい助かった。 ところで途中魔物とかは出るのか?」
おじさんはかづきの足元から顔を見上げて、不思議そうに答えてくれた。 恐らく場違いなWのスーツを着こなした俺を、どこかの金持ちと誤解してるに違いない。
「あんた、防具とか武器は持っているのかい?」
「いんや、なんもねぇ」
「そうかい、魔物は余り見ねぇがコボルド辺りはたまに出るぞ?」
「そりゃ魔物か?」
「いんにゃ、追いはぎだな」
「そうか、武器はどこで手に入る?」
「一番ちけぇ所で、ズナンの町だな」との、おじさんの言葉にガックリと肩を落とす。
ここで会話がループすんのか・・・・・・まぁ、進むしかねぇな。
「ありがとうよ。 所であんたは武器もっちゃいねぇようだが?」
「ほれ!」
手を後ろに回して鉈を見せてくれた。 成程と返事に満足したかづきは、農民に別れを告げ、街道を南へ向かった。 そう言えば、現地でナビゲートしてくれっるって話だったよな。
「オヨビデスカ 黒川カヅキ様」
「おお、居るんじゃねぇか。 もっと早く来いよ」
「オヨビ頂ケナイト 顕現出来マセン」
「そうだったのか、すまねぇな。 で? お前がここのナビか」
「ハイ 黒沢カヅキ様ノ 専用ナビゲータデス」
「かづきでいいぜ。 お前の名前は?」
「主ノ呼称変更確認 ハイカヅキ 私ハタダノ ナビゲータ デスガ」
「はーん、何かあれだな。 情緒が無いってか、安易だな。 何か名前付けてみるか」
「ジョウチョ? デスカ」
「ああ、俺でも人間とか呼ばれてもピンと来ねぇし、名前で呼ばれるだろ? だからおめぇにも付けてやんよ。 愛称と考えれば良いんじゃねぇか? んと・・・俺のマブダチの名前に肖ってラビってのどうだい?」
「ラビ 私ノ名前ハ ラビ・・・・・・呼称ノ許可ヲ得マシタ」
「気に入って貰えたようだな ところでこの会話って脳内だよな? てぇ事は他人には、おめぇの姿が見えていないと理解すればいいのか?」
「ハイ カヅキ ソノ通リデス」
「そうかい、じゃ間違って口に出さない様に気を付けなくっちゃな。 頭が可笑しいと思われちまう」
「マズハコノ 周辺ノ概要ト 知識ヲ ゴ説明シマス――――」
「ふむふむ、で? 一番大事な事なんだが、死なねぇ様にするにはどうすんだい」
「ラビニハ カヅキヲ直接守ル事ハ 出来マセン デスカラ自分ノ身ハ 自分デ守ル事ニナリマス 手段ハ身体強化及ビ 魔法ノ行使 武器 道具ノ使用トナリマス」
「ふむ」
「サポート開始―――― マズハ身体強化デス カヅキノ身体ヲ 活性サセマス 体ヲ硬直サセル イメージヲ持ッテ下サイ」
「ふむ、息吹みたいなものかな? 武道やってたからお手のもんだぜ。 丹田に力を集中させるように・・・・・・ハァーーーッ!」
その時体が一瞬息苦しくなり、何かが弾けた様な感覚が起きた。 内面から力だ沸き出す様な心持がしたのだ。 俺は両手を見つめながら、その場で「ピョンピョン」飛んでみる。 軽い、体がとても軽く感じるのだ。
「ソノ感ジデ 右手ニ ソノチカラヲ 集中サセル」
「うん? こ、こうかな」
少し時間が掛かったが、何とか右腕までは集中する事が出来た。 傍らの石を掴んでみる。「グシャッ えっ!?」
驚いた拍子に身体強化が消えてしまったが、そのままもう一度石を拾ってみる。 今度は普通に拾えたが、反対の手で叩いてみる、まぁ・・・普通の石だ。
「コノ身体強化ヲ 各部位ニ集中サセルト パフォーマンスノ 向上ガ見込メマス」
ラビの言う通り、もう一度両手をニギニギしながら確かめる。
「これって、防御にも応用できんのか?」
「可能デスガ 相手ノ攻防ガ 己ノ近似値ダト ダメージノ差ニ 変換サレル事モ アリマス」
「そうかい、これって本人の素の身体能力に依存するのか?」
「ハイ カヅキ ソノトオリ」
「じゃ筋トレすれば、もっと強くなれるって事だな」
「否定デキマセン」
なるほどな じゃぁ両足を強化で走れば―――― 「ハァアアアーッ!」よし、町までぶっ飛ぶぜ。
「ド、ド、ド、ド、ド!」あっ、「ズゴゴゴーン ドサッ・・・・・・」
「いてててっ」
かづきは使い慣れない体で思いっきり走った為、大きく道を踏み外して林の奥へとぶっ飛び、大木に体を打ち据えられてしまった。
「ちぃーっ、死ぬかと思ったぜ、クルマってのは慣らしが必要だったんだよね」
本人は、古のオールドカーを頭でイメージしているつもりなのであろう。
「背中ニ 多少ノ打撲ガ 認メラレマスガ 瞬時ニ 防御移行シタ為 軽傷デス」
「ああ、人間の自己防衛本能って凄いってのが体感出来たぜ、ハァァァーッ!」
「カヅキ マダヤルノデスカ」
「ああ、これも修行だぞ。 行くぜ」
次は、何とかスキップ走行を駆使して、上手く走る事が出来た。 「トーン、トーン」とリズムを刻みながら歩み? を進めて行く。 途中でぶつかりそうになったら、木や岩を軽く蹴ったりして移動修正して行く。
しばらく走り、山道に入り急なカーブに差し掛かった時にそれは現れた。 目の前には荷駄を繋げた馬車である。
「おっ! ととと、わっ!」「ドッスーン! バキバキバキ」
慌てて回避したかづきは、またもや林の中に突っ込んでしこたま体を打ち据えた。
「あいっ・・・たた」
「おーい、大丈夫か?」
馬車が停まり、数人が周りを用心ている様だった。 恐らく何かの襲撃かと思ったのであろうか、各自武器を携えている。
「あー、すまねぇ、驚かせちまった」と謝りながら、俺は武器を持って無い事を両手で示して、馬車へとゆっくり向かった。
「大丈夫かお前? 随分ぶっ飛んで行ったが、魔物に襲われたのか?」と、護衛らしき武器を持った男がこちらへ向かってくる。
「いんや、ちょい乗り物のスピードが上がり過ぎてたみてーだ」
「そうかい、その乗り物ってのは?」
「ああ、どっか行っちまった」
「こんな深い森だ。 これからどうすんだ?」
「ああ、ズナンの町に行くんだよ。 良かったら、水と食いもん分けてくれねぇか」
「そうか、わたしは商人だから出すもん出せば、幾らでも分けてやれるぞ」
そう言って現れたのは、恰幅の良い商人だった。 商人の言葉にああ、そうかと思いながらかづきは、懐から革袋を取り出してコインを一枚出した。
「へ? 金貨じゃねぇか。 本物か?」商人は疑ったような目をこちらに差し向けて、そう言い放った。
「調べれば良いだろ」
「あ、ああ、そうだな、じゃ、少し預からせてくれ」
馬車の部下に命じて何やら調べさせて居るようだが、その間にかづきは商人から品物のリストを見せて貰う事にした。 字が読めないので、こっそり『ラビ』に翻訳して貰う。 飲み水と干し肉、パン、オレンジに似た果物を分けて貰ったが、一応武器があればそれもと尋ねた。 手頃なナイフを一本貰う事にしたが、武器一つ持って居ない事に驚いていた。
このまま、また走っても良いのだが、ラビから身体強化を使いすぎても動けなくなると脅かされたので、馬車に便乗させて貰う事にしよう。 商人は気さくに乗せてくれたが、恐らくさっきの商品で俺にボッタ食ったのからだと思った。 しかし、文句を言う筋合いでもないとも思っている。 需要と供給間の値段とは、両者が納得の上で値段がつけられる事は理解しているからな。
「ふぅー、食った食った」
お腹をポンポンと叩いて俺は一服する事にした。 モクもこちらへ来るのに、ワンカートンが配給された。 しかし、向こうの技術は持ち込めないとの事で、茶色が掛かったノーブランドのパックでの支給だった。 しかも、フイルターも無い本当に簡素な紙煙草だったが、これは仕方の無い事なんだろう。
オイルライターは俺のポリシーだからと食いついたら、何とか変な細工の施されたジッ○ーが渡された。
俺はトントントンと煙草をライターの腹で叩いて丸め、口に銜える。
「フッー うめぇ」
横に座っている護衛みたいな男が、不思議そうに見ていた。
「ん? こっちには煙草がねぇのか」
「あ、いや、これで吸ってる」
男はパイプを取り出して俺に見せてくれた。 俺は煙草を一本出してポンポン叩いて口を丸めると、男の口に銜えさせた。 ジッ○ーで火を点けてやると少し驚いていたようだが、ゆっくりと紫煙を吐き出した。
「うーん、旨いな」
「そうかい、俺はかづきってんだ。 町まで宜しくな」
「俺は、ダックってんだ、この馬車の護衛でリーダーだ」
互いに握手して、さりげない会話をしながら、ズナンの町の様子を教えて貰った。 ラビからは、最初にギルドって場所に行けば、身分証が貰えると聞いていたのだが、俺は特に優先事項にするつもりは無い。 本物の情報ってのは、いつの世も決まった所に集中するものだ。 したがって俺は、町を裏で取り仕切っていると言う一味の情報を聞き出していた。
突然ラビから警戒を受けた。
この辺りは魔物が出没するらしいのだ。 俺は荷駄から立ち上がり辺りの様子を眺めながらも、少し思いつきで身体強化を目に施して見た。
「見えた! あれは何だ? コボルドって奴か」
「カヅキ アレハ ゴブリンデス 知能ハ極小 集団デ襲ウ 人間トハ 敵対シテイマス」
俺は馬車の連中に危険を促した。
「ダッグ、馬車を止めろ。 ゴブリンだ! 十匹は居そうだ」
「えっ! おい馬車を止めろ。 斥候を出すぞ」
ダッグの斥侯が二人道を外れて森に入って行く。 暫くして戻って来たが、俺の言った通りゴブリン発見の報だった。 こちらの護衛は六人居たが二人は馬車に残り防御で、四人で殲滅して来るそうだ。 俺は四人について行く事にした。 初の魔物に遭遇だな、なんだかワクワクする。
ブックマーク、評価ともに付けて下さった方々、有難うございます。
続きをお楽しみください。