異世界探求伝 第四十八話 しごきに耐えて
思わぬ伏兵であったが、簡単に殲滅してしまい、これでは実践の意味がないと思ったカヅキだったが
嵐の避難の為にようやく見つけた洞穴であったが、そこには先約が居たのであった。
見た目は、普通の冒険者と思っていたが、やはりそこはお約束なのか、盗賊まがいの行為を起こして来た。 かづきはやむなくと言うか、いい腕試しが出来ると、内心ほくそ笑んでいたのかもしれない。
「クロサワ様、こ奴らの監視はお任せ下さい」
「ああ、でも本当に見ておくだけでいいぞ。 起きても何も出来ないからな」
「はっ」
「この先何があるかは、解らないが休憩が最優先事項だからな」
「はっ、畏まりました。 それからこれが奴らの持ち物の全てです」
これは小隊長のバーミヤンが、部下に命じて持って来させた奴らの手荷物などである。 時に目新しい物は無いが、収納袋も回収してあるので中身を見てみる事にする。
「ストレージ・オール・ドロップ」
中から出て来たものは、宝飾が施されているアクセサリーや、宝石に、金、銀などであった。 女性が身に付ける物も多いので、これは盗賊確定だろう。 それに、金のインゴットや銀の塊は、一般人が持つものにはふさわしくはない。 中には少し変わったものがあった。 それは獣人のマスクだが、何に使うのだろう?
かづきは少し悩んだが、こいつらを更生させるのもやぶさかでは無い。 このニショルクサ王国の法に則って裁かれるのも悪くはないが、俺はこの国の法とは無関係の人間だし、法を順守しようと言う気持ちも薄い。 この国の法を無視する訳では無いが、この国の法律に則って考えると、悪を最初に捌く権利は俺が有している訳だから何も問題は無かろう。
武器の手入れを各自がしていると、小隊長のバーミヤンがやって来た。 熱いお茶を持って来てくれたので頂く事にする。 世間話をしていると、ヴァレンチノ家の関係で冒険者をやっていたらしい、とは言ってもまだひよっ子扱いされており、砦村に来れば強くしてくれると聞いたので、やって来たらしいのだ。
他の者もそういった奴が多いらしい。 期待をしてくれているのは嬉しい事だが、はてさて? 誰が強くしてくれるのやら・・・最初に浮かんだのはやはりクラークだが、彼は全体の管理で忙しいはずだし、そんな暇は無いように思える。
バーミヤンが盾の扱い方を教えてくれと言うので、俺は知らないと言う訳に行かず、基本の動きだけだぞ、と言い含めて立ち合いを行う事になった。 盾など扱った事は無いのだが、剣での体捌きの延長と思ってやってみる事にする。 俺は彼の盾を持ってバーミヤンの剣を受ける事になった。
武道の世界では重心と言うものに、非常に重きものを置く。 重心がズレていれば当たったとしても、攻撃は軽くなるし捌かれやすい。 投げ技は相手の重心を移動させなければ、大きな相手を投げる事など出来ない。
バーミヤンの剣が当たる瞬間に、盾を剣の横に当てる様にして捌いて行く。 一方方向では相手も慣れてしまうので、左右に剣を交わしながら、一つ一つ注意をしていくが、俺は両足が揃わないようにと、特に注意させる。 両足を揃えて立つ事を「棒立ち」と言うが、戦いの上ではこの形が一番最悪の形である。 重心は一番高い位置にあり、攻撃を受けたらひとたまりもない、無防備の典型的な形なのだ。
「ほらまた、棒立ちだ。 足を揃えるなと言ったろう」
「ハーハー、はっ」
かづきは盾しか持っていないが、盾も武器になる事を教えているように見えた。 バッシュやノックバックなどは、有効な盾の使い方で、足捌きもここで需要なポイントになる。インステップやアウトステップも、次の攻撃に繋げる需要な要素なのだ。 最後に疲れ始めて突っ込んで来た所を、カウンターで剣を勝ち上げると、そのまま投げ飛ばしてやった。 ジュリナから、回復薬を貰うと取り敢えず終了だ。
ふと横を見ると、ビームスが剣を持って立っていた。
「次は自分です。 いきまっす」
「やれやれ」
気合を入れた攻撃は中々ものだが、やはり足の使い方がなっちゃいない。 攻撃する意志が強すぎて、足元がおろそかになっている。 俺は避けながらこいつには、徹底的に足を攻めた。 最初は大袈裟に転んでいたが、そのうち捌かれても態勢を整える手段が解ったように、体を動かし始めた。 しかし、限界と見えて足がふら付いているので、最後は同じく投げ飛ばして終了。
「ボス、次はおいらの番がぅ」「いや、おらだぞンガ」「おれだニャ」
「はぁ~、よし、残りは全員相手をしてやろう。 ジュリナ、モモ、来い」
俺はジュリナとモモに、この三人のうちの二人を相手させるつもりだったのだが、何故だか彼女達も向こう側にいる。 「えっ?」と思ったが、この五人を相手にするには、さすがに分が悪い。 俺は待ってくれと言おうとしたが、ジュリナが先制攻撃で「ヘシキリ」で攻撃を仕掛けて来た。
ジュリナの怪力をまともに受けていたのでは、盾が持たないので、盾に風のシールドを纏わせる。 容赦の無い上段からの踏み込みを何とか交わしたが、小熊族のポビがメイスを持ってそこへ攻撃を入れて来る。 空いていた右手に闘気を纏い、メイスを受け止めるとそのまま足蹴にしてやった。 かなり飛んだが大けがはないだろう。 獣人は丈夫なのだ。
しかし、ぼっとしている暇は無い。 今度は左右からネコ族同士の連携がやって来た。 ミクとブルグの上空攻撃だった。 ふふ、空中だと防御が出来ないとあれほど注意しただろうに。 俺はタイミングを合わせて、二人の足を掴みかけたが、やばい気配が背後に二人分ある。俺は盾を離すと、ネコ族二人の片方の足を一本づつ掴み、そのままエビぞりするように、背後に投げつけた。
案の定それはジュリナとベベリの「わんわんコンビ」だった。 犬もオオカミも一色単にしてしまうと、本人たちは怒るだろうが、生物学を知っている俺にとっては五十歩百歩なのだ。 このわんわんコンビに「にゃんにゃんコンビ」をぶつけると、ベベリは吹き飛んだが、ジュリナは即座に対応して受け止めていた。
言っておくが、俺は無手の状態である。 「セセラギ」を使用するのもいいが、あの武器は恐ろしすぎる。 先程の戦闘では、いつの間にか俺の闘気を吸って蒼白く輝いていたし、まるで妖剣「ムラサメ」のようだったので、怖くて使えないし、身内には怪我をさせたくはないのだ。
俺はダッシュすると、彼女の死角になる足元をすり抜けてた。 先程の要領で、「瞬歩」を使ったのだから、死角があるとまるで消えたように見えるだろう。 俺は素早く立ち上がると、彼女の腰を掴み「裏投げ」で地面に打ち据えた。 し、死んだりしないよな?
裏投げはプロレスで言う所の、「バックドロップ」であるが、きちんとした柔術の技である。 地面に窪みが出来ているので、少しはクッションになっているだろう。 獣人は丈夫だから、大丈夫大丈夫。 そう自分に言い聞かせながら、残った四人と対峙する。
小熊族のボピにはダメージが残っており、直ぐには攻撃に移らないことを見越して考えるが、他の三人は動きが鋭敏で中々捕まえることは出来ないだろう。 しかも、三人は俺を取り囲んで、左に回り始めた。 なんだろうこいつら? 獣人同士だからか、上手く連携取り過ぎだろ。
この三人で攻撃して来て、その隙を小熊族のボピが狙っている事は明白だ。 俺はわざと棒立ちになり、隙を作って見せた。
「今だニャ!」
その瞬間に、地面で作っておいた水の輪を火の魔法で爆発させた。 一瞬で、真っ白な蒸気に辺りが覆われたので、俺の姿は見えていないだろう。 濃霧のせいで嗅覚の性能も落ちているはずだ。 俺は近くにいた、犬族のベベリとネコ族のブルグの《すいげつ》水月に、掌底を入れて昏倒させる。 茶色毛のボピは見つけ易く、同じく掌底打を入れる。
ちなみに、水月は鳩尾で、掌底とは手の平の手首に近い部分で、攻撃する打撃技だが、種類もある。 上から打ち下ろしたり、横からフックのように顎へ入れたりと、真っ直ぐ使うだけが能じゃない。 水月に入れる場合は、第一関節を曲げて指先を保護しながら掌底打を入れるのが、指を痛めなくて済む正しいやり方なのである。
霧が晴れた先には、モモが「サザレイシ」を構えて立っていた。
「モモ、良くやったな。 良い作戦だったぞ」
俺が両手を広げると、モモは即座に武器をしまい俺の懐に飛び込んで来た。 俺は軽くモモを放り投げると、ギュッと抱きしめて頬ずりをしていた。 かわええのぉ、モモもキャッキャいって喜んでいるが、後ろにヤバい気配がする、ゆっくりと後ろを振り返ると、ジュリナが片手を腰に、そして顎に指を当ててしかめっ面をしている。
かづきはゆっくりとモモを降ろすと、ジュリナの元へゆっくり歩いて行った。 ジュリナは俺に何を言う事も無く、片目をつぶってのしかめっ面だ。 不機嫌なのは間違いのない事実である。 自分が何をされたのかよく解っていない様であるが、真実を知れば怒り狂うかもしれない。
何せ愛する女性を、バックドロップで真っ逆さまに頭から落とした上に、気絶させたのだから普通では考えられない出来事だったであろう。 そうせざるを得なかったのは、彼女の戦闘能力にあるのだが、なだめる術の選択肢は限られるであろう。
「ジ、ジュリナ、 そのぉ悪かったな」
「なにがよ、私になにをしたつもり?」
「あの場面じゃ、仕方なかったんだ」
「気絶してたわ」
「一番攻撃力が高いお前を、優先的に沈黙させないとな」
「気絶してたわ」
「そ、その、ごめんよジュリナ」
「頭が痛いわ」
「あ、ああ」
俺はジュリナの手を握ると、優しく頭に触れて強く抱きしめた。 そして熱い口づけを交わすと、ジュリナのしかめっ面も解けていつものジュリナの顔に戻ったのだった。
「愛してるよジュリナ」
「ふふ、私もよ。 ねぇ、あたしどうして気絶してたの?」
「ジュリナ、皆に回復薬渡しておいてくれないか」
「ええ、わかったわ」
取り敢えず誤魔化してはみたが、後で全員に口止めしておこう。 確かに、愛する女性にやる攻撃では無かった。 モモに言っておけば、上手くやってくれるに違いない。
「あっ、一人逃げたぞ!」
「どいつだ? 小隊長」
「はっ! 奴らのボス格の大きい奴です」
「カヅキ私に任せて、 匂いを追えるわ」
かづきは少考したが、相手は武器を持っていないのだし、大丈夫と判断した。 連絡も「イヤーカフ」で取れるのだし、問題は無かろう。
「よし、ジュリナ任せる」
「わかったわ、じゃ行ってくる」
ジュリナは狼族の特性があり、走るのには特化しているし鼻も効く。 持続力などは桁はずれで、夜などは気絶するまで求めてくるなど、閉口するほどなのだ。 魔力は封じてあるから、何も出来まい。
「クロサワ様、 首輪が外れておりますが」
「なに? ロープの状態は?」
「はっ、刃物で切られた様子などはありません」
「ふむ、 見た方が早いな」
奴らをぶら下げていた場所を見てみると、成程まるで縄抜けの術を使ったように、するりと縄を抜けている様だ、結び目に不備はないし、他の奴らの首輪はしっかり嵌っている。 例の首輪もちぎれた様子はないし、嵌め込まれた魔石には魔力が十分に溜まっているので、不具合が生じた訳では無かろう。
「モモ、熱いミルクティーをくれ、甘い奴だ」
「はい、おにぃちゃん」
考えがおぼつかない時には、一旦別の事をしてみるのが一番だ。 お茶の香りには安らぎの効果もあるし、時間を置く事で目線を変えられる。
「なぁ、バーミヤン、お前の見解を聞きたい」
「はっ、僭越ながらお答えいたします。 族は関節を外して逃げたものと思われます」
「首輪はどう説明するんだ?」
「は・・・そ、それは」
「おにぃちゃん、はい、ミルクティー。 甘くしたよ」
「ああ、すまない」
甘くていい香りだ。 ミルクはヤギの乳らしいが、ちっとも臭くはない、むしろかなり濃厚でドロリしているようにさえ感じるほどだ。 俺は煮えたぎったような、熱いまま啜るのが好きだ。 獣人には、決して真似が出来ないのだそうだ。 そのうち、大好きなコーヒーでも飲みたいものだ。
「ねぇ、おにぃちゃん、そいつ小さくなって抜け出してるよね」
「モモと同じ様に、それは俺も考えたが、魔力を使えない状態でどうやるんだ? 持ち物も無かったんだぞ」
「そうねぇ、前おにぃちゃんが、「ジョウキョウショウコ」って教えてくれたよね」
「ああ、現場の状況をつぶさに見て、一つ一つ丹念に調べる事が大事なんだ」
「ほら、このロープを見て。 毛が殆ど付いていないわ」
「確かに」
関節を外したのなら、先ずは肩を外して上部の縄だけを抜くわ。 そうして両肩をはめ直して、足腰の縄を解くわよね」
「成程、縄の状態を見ると、上から下まで縄の状態が均一で乱れが無いな」
確かに、モモの言う事が理には叶っている。 この推測から考えて、正しい判断を起こさなければならないと、かづきは思っていた。 この身動きできない状態で、増援などよこされては堪らない。
ジュリナ:ねぇ、モモ
モモ:何でしょうか、ジュリナデリカお嬢様。
ジュリナ:あたしが何で、気絶してたか見てたでしょ?
モモ:い、いえ。 一瞬の事でしたので・・・
ジュリナ:嘘おっしゃい。 貴女が標的であるカヅキを見逃すはずがないわ。
モモ:い、いえ、あのような素早いワザは、目に止まらなかったのです。
ジュリナ:フフーン、今ワザって言ったわよね。
モモ:はっ! い、いえ。 技のようなものかと・・・推測ですわ、お嬢様。
ジュリナ:吐きなさい! モモ。
モモ:ぐえっ! お、お嬢さ・・・ま




