異世界探求伝 第四十七話 フリークアウト
かづき達は、迫りくる嵐を前に、避難場所を探すのであった。
しかし、そこに待ち受けていたものは・・・
嵐が近づくというので、避難場所を探しているかづき一行だったが、1時間程歩いてようやく適地と思われる場所に着いた。 丁度、森が開けた場所に崖があり、偶然にも洞穴が開いていたのだった。
「よし、中を確かめてみよう。 バーミヤン、モモ、着いてこい、ジュリナは入口の見張りを、残りは2人に分かれて周辺を探索して来い」
「はっ、バゥ、ンガ、ニャ」「えぇ~、あたしだけお留守番ん~?」
「黙って言う通りにしろ、ジュリナ、団体行動だぞ」
「は~い」
「では、各自飛散せよ」
ジュリナは不服な様だが、モモは夜目が効くのでこうした探索にはもってこいなのだ。 ジュリナが入口待機なのは、洞窟探索班と周辺探索班の中間に置く事で、両方に対応できる位置だからとの判断なのだ。 俺は、『ライト』で足元を照らすとモモを先頭のバーミヤン小隊長の後ろへ置き、後方からの支援をする事にする。 今回は緊急なので、気配探知の魔法『ディテクト・ケイブ』を念じる。
これは、洞穴限定で発動させたものだが、大まかに調べるよりも場所を限定する事で、精度がより上がる事を発見した為だ。 ほとんどの獣人は魔法など唱えなくても気配探知や嗅覚、視覚に秀でているのでその必要は無さそうだが、ヒューマンは得てしてこのジャンルは苦手としている。
俺は普段でも感覚が鋭い方だが、こうしてた魔法の相乗効果でかなり鋭敏に出来るのだ。 俺は歩きながら、ゆっくりとその気配の感覚を奥へと進めていた。 「いた」何かが奥でうごめいている。 探知では数がいやに多いようだし、複数いるようだ。
「停まれ、敵が居るようだ。 モモ、銃の発砲を許可するが、強そうな者だけを狙え」
「はい、おにぃちゃん」
「クロサワ様、私はどうしたら?」
「自分の役割を遂行しろ」
「はっ、防御に徹します」
二人に注意を促すと、洞窟の先をそのまま進んで行ったが、少し行くとモモが足を止めて話しかけて来た。
「おにぃちゃん、イージーバットだわ。 問題無ければ先に進むわ」
「問題無いのか?」
「はっ、クロサワ様、人を襲う魔物ではございません」
「そうか、最奥にまだ気配がするから、この先気を付けろモモ」
「はーい」
=イージーバット= ランクF
比較的大人しいコウモリで、肉食だが自分より大きな得物は狙う事は無い。
おもに小動物や小型の昆虫を食べている。
体長はおよそ30cmで、肉は食用になる。
寄生虫がいる為に加熱調理は必須
――――
遠くに灯りが見えて来た。こちらのライトは消滅させると、ゆっくり先へと進むとモモが再び声を掛けて来た。
「おにぃちゃん、人だわ、話し声が聞こえる。 人数は4、5人ってところね。 クンクン、獣人が3人ね」
「そうか、ご苦労だったモモ、ジュリナへ伝言だ。 『探索班をまとめて合流せよ』とな」
「了解、おにぃちゃん」
俺は足早に進むと、灯りの付いた場所へと向かった。
「誰だ!」
「すまん、脅かすつもりは無かった、こっちは冒険者だ。 嵐が来ているので避難に来た」
「ああ、そういう事か。 いいぜ」
俺に声を掛けて来た男は、オオカミ族の男だがガタイがとても良い。 身長も俺よりはるかに高く190㎝はありそうだった。 俺は外見であまり獣人を区別出来ないので、モモに囁いて教えて貰っているのだ。 他には犬族が二人に、ヒューマンが二人の男だけの五人パーティーのようだった。
「俺はかずき・黒沢、チーム龍のリーダーだ。 他にも仲間が五人いるが良いだろうか?」
「けっ、いいも悪いもねぇだろ。 好きにしな」
「ああ、一言声を掛けるのはマナーだからな。 ではお邪魔させて貰おう」
奴らは名前も名乗らなかったが、そんなことはどうでもいい。 俺達は少し手前の開けた場所に陣を構える事にした。 取り敢えずテントを張って野営に備える事にする。 モモは焚火の準備と夕食の準備だ。 新鮮な肉もある事だし、こんな時だからこそ、食える時には食っておかなければならない。
「カヅキ、おまたせ」
「ジュリナ、そして皆、ご苦労。 見ての通り穴には先約が居たが、声は掛けて来た。 今夜はここで野営とする。 夕食は準備してるから各自野営用のテントを張れ」
俺の指示で、テキパキと準備を始めたので、俺はモモの手伝いをするとしよう。 サンドイッチもあるのだが、これはあくまで非常食に取っておくつもりだ。 俺の収納袋内では、腐る事が無いから安心だ。
モモは焚火を三つ作っていた。 二つは調理用なので、その一つに厨房から貰って来たシチューを鍋に小分けしてかけておいた。 ダッチオーブンに人数分のパンを入れると、軽く水を振りかけて蓋を閉じてそのまま十分ほど火にくべる事にする。 こうすれば焼きたてのパンに早変わりなのだ。
ロンガムベアの肉を早速使う事にする。 モモには肉を細長く薄切りして貰い、香辛料と岩塩で味付けだ。 村で竹貰っておいたので、ジュリナは串を作っている。 この串を塩水に漬けておくと焦げにくいので、あるだけ串を作っておいて貰おう。
「この肉を刺すの? カズキ」
「ああ、肉の端を始めに刺しておいて、後は串に沿って巻いていくんだ。 最後に刺して止めればOKだぞ」
巻き終った肉から、次々に焚火の周辺に刺してゆく、最後は全員で作り始めたので、100本程出来たがすべて焼いておく事にしよう。 余っても大丈夫だからな。
シチューも黒パンも温まったので、お疲れの意味も含めてジュリナの隠し持っていたエールで乾杯とする。モモは果実のジュースでの乾杯だ。 まだ子供だしな。
「じゃ、ジュリナ、例の奴を頼む」
「ええ、精霊の御名において、こうして糧を頂ける事に感謝と慈悲を捧げます」
「感謝と慈悲を」
「乾杯、とーすとだっけかな」「トォースト!」「トォースト」
「うん、熊肉うまいな」
「ロンガムベアの肉よ、カズキ」
「ロンガムベアの肉旨いですね、隊長」「ンガ」「ガゥ、ニャ」
ふとドピは、共食いじゃないのかと言いかけたが、ジュリナが怖い顔をして睨みつけて来たので自重するとしよう。 この手の冗談は余り通じない事が判って来た。
「パンも焼きたての様だし、シチューもイケますね、クロサワ様」
「ああ、料理長特製だからな」
俺達が食事の会話に花を咲かせていると、向こうから仲間のヒューマン一人がこっちへやって来た。 先程奴らの周りを見て来たが、酒をあおっていただけで、特に大したもの食っていた訳では無かった。 食料が欲しければ分けてやろうと思い、串肉をいくつか取ろうと腰を上げると、そいつはおもむろに声を掛けて来た。
「おいおい、お前ら旨そうなもん食ってるな」
「欲しければ分けて・・・いや、挨拶代わりだ。 いくつか持って行ってくれ」
「そうか、悪いな」
男に串肉を渡すと引き返して行ったが、どうやらこれは様子見だったらしい。 今度はさっきの大柄なオオカミ獣人を連れてやって来た。
「どうした? 食料が足り無いのなら、分けてやってもいいぞ」
「ああ、全く足りねぇな。 全部こっちによこせ」
「全部? だと」
「ガッハッハ、いや、すまねぇ。 そっちのねぇちゃんもだ」
「お前たち二人で、俺達がどうこうなるとでも思ってるのか?」
「ガッハッハ、威勢のいいあんちゃんだな。 おい! おめーら」
男が声を掛けると、さっきいたオオカミ獣人の二人とヒューマンの一人が、周りを囲って弓を構えている。典型的な悪人たちで、とても判り易い構成だ。
「なぁ、話は判ったが、今は食事中なんだ。 終わるまで待っていてくれないか」
「ガッハッハ、そうかそうか、話の判る奴だ。 女たち以外は、お前だけ生かしておいてやろう」
「皆、話は判ったな。 最後の晩餐だそうだから良く味わって食えよ」
「言っておくが、食う以外の動きをしたら、直ぐに縊り殺すから覚悟しな」
「大丈夫だぞ、うちの女性たちは優しいからな。 二人して楽しませてくれるそうだ」
「へっへっへっ、それは楽しみだな」
「ああ、それに俺は料理が得意だから、お前に特別旨いものをくれてやろう」
「そうかそうか、料理の出来る奴はいいな。 俺もこいつらの不味い飯を食わずに済む」
「ねぇ、カヅキ、話は判ったけど、殺ってもいいわけ?」
「いや、命大事にだ」
「ふーん、了解」
「何言ってんだ? てめーら」
「いや、食後の腹ごなしだぞ、全員散開!」
俺の合図とともに、ジュリナは弓持ちの三人を殲滅に掛かった。 モモは銃で敵ボスの隣にいた奴を即座に撃沈させ、ジュリナの援護に回ったようだ。 俺はオオカミ獣人のボスと対峙する事にする。
小隊長のバーミヤンとビームスが、盾を構えて俺の前に立ちはだかったが、オオカミ獣人のボスは背中にしょっていた大剣を振り回すと、二人は簡単に吹き飛ばされてしまった。 奴は身体強化を使って、ガタイの良い体を更に強化している様だ。
「へっ、生かしてやろうと思ってたが、前言撤回だ。 死ねっ!」
敵ボスは、大剣を構えると鋭いダッシュを使い、俺に打ちかかって来る。 即座に風のシールドを張って対応したが、顔の近くまで大剣が来た所を見ると、やはりかなりの怪力の持ち主と見てもいいだろう。 俺は「セセラギ」をゆっくり抜くと、正眼に構えた。
奴は大剣を上段に構えると、そのまま突進して来た。 相手の技量は判ったので手加減は無しだが、俺も実戦の経験は積んでおきたいので、あえて受け止めてみる事にした。 知らず知らずのうちに、「セセラギ」は俺の魔力を纏って、青白く輝いていた。
「うおりゃー」「ガッキーン」
こっちも、足元を中心に身体強化は施しているので、何も問題は無かった。 ついでに言えば、習慣で自分に重力を掛けているので、まるで地面に根が生えているかのように、相手は感じているだろう。
「ちっ」
正眼の構えは、中段の構えであり、俗に「水の構え」と言うのだ。 つまり、相手の攻撃を受けたり、受け流す事に特化した万能の構えである。 俺は試して見たい事があったので、 「セセラギ」を上段に構える「火の構え」に変えていく。 これは一撃必殺の構えであり、攻撃に特化した構えでもある。
「今度は、こっちから行かせて貰おうか」
「くっ」
奴が構えた瞬間に、一輪の風が吹いた。 そう見えたであろう。 俺は足元に強化を集中させ、重力を解放させて身軽になった体で、猛然とダッシュした。 いわゆる、これが本物の「瞬歩」であろうと俺は思った。 火の構えから打ち出されるその剣先は、重力を戻した体によって、その鋭さを否応なく鋭敏なものにしていた。
「パキン」「なっ! なにぃ」
奴の持っていた大剣は俗に「グレートソード」と言うタイプだ。 常人には持てない重さであり、破壊力は勿論、盾代わりにもなる代物だった。 それが俺の細い刀、「セセラギ」で根元からへし折られた・・・いや、正確に言えば切られたのだから、その驚きようは尋常なものではないだろう。
「ま、魔剣なのか?」
「セセラギと言う刀だ。 俺はこれで満足したが、お前はどうだ?」
「くっ! くそが」
奴は気力を振り絞って、ダッシュで俺に殴りかかって来たが、俺は冷静にセセラギをしまうと、男の勢いを使って、綺麗な一本背負いを決めてみた。 受け身を知らないのなら、この勢いは致命傷だったろう。
「ドーン!」
大きな音と共に、土煙が舞うほど地面が窪んでいた。 一本背負いの一種であるが、この技は関節を決めて投げるので、相手は逃げようがないと言う柔術の技である。 先程横にいたヒューマンもしびれて動けない様だから、暫くはこのまま寝ていてもらおう。
俺は小隊の連中に、この二人を拘束するように命じると、ジュリナの方へ向かって行った。 案の定既に捕獲済みで、ご丁寧にさるぐつわまでかまされている。 俺は三人を一抱えにすると、先程倒した二人の元に戻って来た。 先程の大剣も回収されているので、切り口を見てみたがやはり折れているのではなく、切っているのだと俺は実感した。
「かっ、感動したガウ」「さすが俺達のボスだニャ」「ンガンガ」
「お、見それしました隊長殿」
「しかし、このような業物まで、切り裂くような刃物をお持ちだとは」
「ああ、時間かけたのは、試したい事もあったしな。 お前たちは一人でも倒せたのか?」
「め、面目ございません、クロサワ様」
「大丈夫だぞ、足り無い分は補えばいい」
「で、クロサワ様、こ奴らは憲兵に引き渡すのですか?」
「斬首だニャ」
「縛り首だガゥ」
「そうだな、取り敢えず吊るそう」
俺は一人一人の首元に、魔力を使えないような工夫を施した。 正確に言うと、魔力を吸い取る魔道具なのだが、首に取り付けている魔石で魔力を吸い取らせているだけだ。 首輪自体には魔法陣が施してあり、勝手に外せないようになっている。 魔力を限界近くまで吸い取られると人は、運動能力に極端な支障をもたらしてしまうのだ。
「さぁ、片付けてしまおうか」
かづき達は盗族達を壁に吊るすと、食事の後片付けを始めるのであった。
ジュリナ:カヅキみたいに、なんかもっと戦闘楽しんでおけばよかったわ。
モモ:そうですねぇ、私もバキュンバキュンで、すぐ終わりましたし。
ジュリナ:私もあの大きな男とやりあいたかったわ。
モモ:こっそり、ロープ外してきますか? お嬢様。
ジュリナ:あはは、カヅキにどやされるわよ。




