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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
砦村編
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異世界探求伝 第四十三話 新たな案件

毎日暑いですね。

体調には気を付けてください。

 ハグネットの彫金工房では、カヅキとモモ、ゴルモスアゲイも混ざっての四人で、馬をモチーフにしたデザイン画を借りていた。

かづきは動く動物が苦手なのか、かなり苦戦している模様だった。 普通に書いた馬はなかなかうまく描けてはいるが、これをデザイン画にするには、かなりのテクニックも必要のようであった。


「はぁうー」

モモがあくびをしていたので、覗いてみるとなかなか上手く描けている。 ついでに他の二人の絵を覗くと、俺の目が一点に集中したのだった。


「ゴルモス、これはお前が描いたんだよね」

「そうざます。 カヅキ殿の絵を参考して躍動感を描かせていただきました」

おれは、そのハグネットの描いた馬を見て、即座に決断した。


「ハグネット、これで行こう」

「は、はい」


ゴルモスアゲイの描いたものは、簡素に描かれているが要所に馬の筋肉の特徴が良く描かれており、本物の馬よりもリスペクトされているので、より躍動的だったのだ。


さらに、飾り葉っぱののデザインをねじれた葉や、木から落ちるような角度で描いたものを見せて、描かせるとやはり上手く俺の指示通りに描いて見せたのだ。


「よし、ゴルモス、お前はこれからデザイナーの仕事をやって貰おう」

「おーっ、ミーにもようやくお仕事が頂けるのですね。 カヅキ殿いえ、ボス殿、感謝ざます」


ようやく、この道も見えて来たので、これからの指針を話す事にした。

「ハグネットは、このデザイン画で五組のフルセットを頼む」

「はい、畏まりました」


「出来たら、これを伯爵家の贈り物とするから、そこから仕事は増えるはずだぞ」

「はっ」

「ゴルモスは、貴族の印章のデザイン画を書いて行ってくれ」

「わかったざます。 ミーにおまかせを」


「おにぃちゃん」

「ん、どうしたモモ」

「おにぃちゃんの印章も必要よ」

「あ、ああ、そうか、確かにこれからは必要だな」


黒川家の家紋は足利家と同じ二つ引両である。 丸に二つの横の線があることから、二つ引両と呼ばれている。 チーム龍で作ったハッピコートにも、背中の龍のマークの上に、この家紋をデザインしているのだ。 かづきはメモに黒川家の家紋を描くと、モモに渡した。


「ああ、このマークね。 これは印章が作りやすいわね」

モモはそう言いながら、ハグネットにも見せていた。

「それから、この砦に名前付けてあげないとね」


あ、言われてみれば確かにそうだが、何とつけよう。 悩むところである。 まぁ、名前何てどうにでもあるさ。 などと先送りにして、食器の話の続きをハグネットに話す事にした。


ナイフは切れ味を良くする為に、刃に鋼を使用する事にして、スプーンも魚料理に使うフイッシュスプーンと、同じ様にデザート用のスプーンも作る様に指示しておいた。 


貴族と言うものは格式にこだわる為に、こういったアイテムが斬新に感じるだろう。 売る方も品数が増えれば増えるほど、それが儲けと連動するのでいい流れになるのだ。


食器自体の製作は、もう一人の鍛冶職人親方であるバーグハムの仕事なので、こちらにもガスドの製作した鋼を回して貰う事になるだろう。 ナイフ製作の続きもあるし、そう考えたらガスドの所へ行く方が早いと考えた。 俺は後の事を任せて、ガスドの元へ向かう事にした。


ガスドの工房へ行くと、既に最初に作った一本が完成していた。 刃渡り二三㎝、幅七㎝というサバイバルナイフは、この世界では特に異質な武器であろう。


「おう、ちょうどさっき出来上がった所だ。 見てみな」

「ふむ、いいな」


俺は手に取ると、ナイフを握ってその感触を確かめていた。

「切れ味はやはりいいぜ、それに錆びにくい。 刃が硬いから手入れは大変そうだがな」

「試して見たのか」

「ああ、カヅキのカタナだっけ。 あれと比べられると困るが、これまでの武器じゃ切れ味は最高だな」


俺はナイフをガスドに返すと、この材料となる鉄鋼の生産を進める様に指示して、この場を後にした。 俺のやるべきことは、ベアリング製作だが、無重力で溶けた鉄を扱うのも危険だし、無理だと判ったので、ガラスでA玉作りに励もうかと悩んでいたら、いきなりハッと考えが浮かんで来たのだ。


それは、商工ギルドでの事を思い出しての事だった。会頭のシュタインじいさんが、銃の試射の時にそれは見事な水球を作っていた事を、突然思い出したのだ。 ようはあれを凍らせれば、型を取る事が出来るはずだ。 よし、と思ったのもつかの間、モモから時間があるなら、機織職人のミルンの元へ行くように言われてしまった。


「糸の材料も取りに行かなくちゃいけないし、ミルンさんの工房へ行きましょうよ」

「あ、うん、そうだな」


ミルンの工房に行くと、魚人族のダンブンが必死に編み物を習っていた。 いや、正確に言うと編み物では無い。 魚を取る網をこしらえていたのだ。 機織器は縦織のタイプだったもので、これはかづきの知っている機織器とは違っている様だ。 まぁ正確に言ってしまえば、初期の機織は縦型だったことを、かづきは知らないだけである。 調整用に木工の職人さんもいたので、ついでに提案を持ち掛けたのだった。


「なぁミルン」

「あっ、クロサワさまでねぇけ」

「ああ、少し聞きたいんだが、機織の機械ってそれかい?」

「んー、機械はおら わがんねぇけんど、機織器はこれだべ」

「そうか、縦で織ってるんだな。 俺の知ってる機織って横向きで織るんだが、どうだろう?」

「ん、おらたちはこれで慣れてるけんど、良い方法さあればおしえてけれ」


俺の実家では、祖母が機織を使ってかすりを編んでいたので、その機織器を知っていたのだ。小さな頃面白くてよく見ていたが、その機織器は木製でかなりの時代物だった。 たまに足ふみとか糸口の修理も手伝っていた。 俺は縦型の機織をテーブルで横向きにすると、その構造を身振り手振りも交えながら、ミルンと木工職人に、詳しく説明していた。 座って機織が出来る方が楽だろうし、良く見ると縦織だと、出来た反物というか、布が下に下がりっぱなしで不便そうだ。


「なるほど、足も使う事が出来て、出来た布は巻き取るんだべか。 使いやすそうだべ」

「俺は機織なんかやった事は殆ど無いから、後は織りながら改造していってくれ。 ゆくゆくはゴーレムを使って、自動編みをやって行くつもりだから、よろしくな」


木工職人は、もうその場で図面を引いている位だから、後は任せても大丈夫だろう。 俺は帰ろうと腰を浮かせると、モモからすかさず注意を受けた。


「おにぃちゃん ミルンさんから糸の場所聞かないと」

「おお、そうだったな。 ミルン、使う糸を集める場所と魔物の種類を教えてくれ」

「へぇ、ズナンの町の南にあるズナン山の森に、ブルモスワームがいる場所があるんだべ」


聞くと、オリザニン・オバールという木に住み着いている様だ。 この木も魔獣のような魔植物だが、ランクは低く脅威は感じない。 美味しい木の実がなるようなので、これも採取しておこう。


俺は手元に地図を出すと、初めてズナンの町に来た時に、この辺りを通っていた事を思い出していた。 初めてこの世界の魔物と出会った場所でもあるのだ。 俺は必要な情報を貰うと、早速明日にでも向かってみる事にした。


――――

―ブルモス・ワーム― ランクE

刺激すると強力な糸を吐きだして絡め取るが、動物は食べない。

身動きできなくなった動物は、そのまま幹に吸い寄せられるように貼り付けられ、オリザニンオバールに吸収される為に、共生関係にある。

成虫は魔獣虫のブルモス

体長は30cmほどで、肉は食用になる。


―オリザニン・オバール― ランクE

魔植物だが、自身で獲物を取る事は無いのだが、山ぶどうのような甘い実がなる木で、それに釣られて幹から登ると、幹から小さな棘が出て来て、獲物を突き刺し体液を吸い取る。

葉の勢いは旺盛でブルモス・ワームの餌になる。

高さは10m程になる常緑樹で、葉の繊維には鉱物を含んでいる。

――――


「さてモモ、今日の用事は終わったよな」

「うん、夕ご飯に行く? それともお風呂?」

「風呂? ああ、サウナか、そうだなそうしよう」


モモに聞くと、蒸し風呂は北と南にあるらしい。 工房自体が火を主に扱う北工房と、工芸が主な南工房とに分かれている。 この区画は意外に広いので、工房の設置場所に一つづつ作ったらしい。 入浴は混浴だが、男女ともに湯浴み着を着用して入る様になっている。


この南工房には、ジュリナの薬草工房とミシェータの魔道具工房もあるので、全員にイヤーカフで声を掛けておいた。 抱えている仕事優先だが、明日の狩りに行くメンバーも決めておきたいのもあるからだ。


工房の作りは外周に対して、ニ列に並んでいて外側の工房は、間を置いて3つづつ工房が組んである。 つまり外周は、9つの工房があって蒸し風呂は真ん中にあった。 蒸し風呂の入口は男女とに分かれていて、湯浴み着も置いてある。 


着替えだけは各自持って来て、洗濯物は自分の名前入りの袋に入れて、かごに入れておけば、後でクリーニングされた下着が、エアーシューターを使って送られるシステムだ。 


中に入ると嬉しい事に大きな湯船があった。 水風呂ももちろんあるが、お湯だとはっきりわかる程湯気が出ているし、リクエスト通りかけ流しにしてあった。 リザードボアの肺で、作ったボディタオルもちゃんと出来ている。 


毎日寝る前に書き殴った製品と、説明文を良く把握出来たものだと、感心すると同時にクラークの行動力には脱帽だ。 体を一通り洗い終わると、湯船に浸かった。 「あぁ、いい気持ちだ」とまどろんでいると、お嬢さんたちも(ようや)く入って来た。


「カヅキ、お風呂どう?」

「ああ、ミシェータ、気持ちいいよ」


俺はそう言いながら、一旦湯船から立ち上がり、湯船のヘリに腰掛けた。 ついでに入り方を教えておく事にする。 


「なるほど、湯船に入る前には『掛け湯』するのね」

「ああ、なるべく中のお湯を汚さないようにするんだ。 軽く温まったら、垢が落ちやすくなるから外で洗って――」

「うん、洗ってからゆっくり入るのね」

「ああ、ジュリナ」


俺は一人づつ、洗ってやりながら、明日の糸の採取の仲間を決める事にする。

「ミシェータの作業は進んでるのか?」

「ええ、ゴーレムコアの設計は、ミクも手伝って貰ってるし上手く行ってるわ。 後は起動テストね」

「ジュリナはどう?」

「うん、工房はあらかた出来たし、必要な薬草で傷薬とか回復薬を作っているわ」

「明日、糸の材料を取りに行くんだが、ジュリナとモモに着いて来て貰おうかな」

「えっ? わたくしは?」「わたしも行きたいです、おにぃ様」

「んと、二人は大事な仕事が残ってるから、済まないがそっちを優先させてくれ」

「うーん、つまらないわね。 でもゴーレム優先なのはわかっているわ。 気を付けていってらっしゃい」


ミクはまだ不満顔だが、ミシェータがごねないで素直に受け入れているのを見て、我慢の様だ。 ミクはミシェータの大事なサポート役だから、外す事などは出来まい。 糸採取の面子が決まったので、風呂から上がって食事に向かう事にする。


「ねぇ、ネコはあれからどうなったの?」

「あら?何かしら、ジュリナ」

「うん、ミシェータとミクは知らないかもだけど、昼間にネコが迷い込んで来たの」

「あら? 魔獣よね。 始末したの?」

「カヅキが助けたいんだって」

「助ける? 意味が判らないのだけれど」


「魔獣と言っても、小さな動物だろ。 可哀想じゃないか」

「でも、魔獣は小さくても危険だわ」

「ミシェータのいう事は、ジュリナたちと同じなのは判っているが、出来れば助けてやりたいんだ。 それにあいつは俺の言う事が判るみたいだし」


「アハハ、ばっかじゃないのカヅキ、魔獣に言葉は通じないわよ」

「はい、わたしも学校でそう教わりましたわ、おにぃ様」

「まあ、俺に任せてくれ」

「おにぃちゃんに、出来ない事は無いのよ? お嬢様たちも判って無いわね」


モモが理解してくれているのは有り難いが、ハッキリとした確証がある訳でも無い。 只の勘だが人にもそれぞれあるように、魔獣にも知恵のあるものはいるはずだ、進化の過程で魔力を使いこなせる動物が、魔獣と呼ばれているはずだと、かづきは理解していた。 


「ミシェータ、念のために防御と治癒のスクロールを用意しておいてくれ」

「ええ、後で渡すわ」

「ジュリナは薬の準備を頼む」

「ええ、わかったわ」


後はクラークに明日の出発の報告と、残った作業を片付けるだけだ。 先に夕飯を済ませるのもいいし、厨房にもお弁当を作って貰わなければならないから、忘れないうちにクラークへの報告を先に行う事にした。 


ミク:いいなぁ、私も行きたかったのに。

モモ:あまり強い魔物が出ない森だからね。

ミク:それでも行きたかったのに。

モモ:うん、ゴーレム終わったら、おにぃちゃんにおねだりすればいいわよ。

ミク:そうね、おにぃ様、ちょろいものね。

モモ:そそ、ちょろいもん、アハハ。

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