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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
始動編
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異世界探求伝 第四話 やくざな男-2


作品はR15禁指定しておりますが,性の凄い描写などは出て参りません。

期待してきた方はごめんなさい。

 ようやく、脱出口を確保したかづきは用心深く窓下を眺めていた。

ベルベットの、丈夫な布で()りあげたロープをつたって降りて行ったのだが、いかんせん長さが足りず、残りの五mほどは仕方なく手を放して、潔く地面へと落下した。 足をひねる事も無く、運が良かったのは地面が土であり、そこに草が生えていたせいでもある。 月明りで周囲が見渡せるのも幸いしたのだろう。


しかし程なくすると、人の声や足音が聞こえてくる。人数はさっぱり判らないが、十人以上は居ると思った方が良いだろう。 周りを見渡すと外周がコンクリートで囲まれており、裏の出口らしきものが見えるが、人もちらほら見える。 モップの棒も、一応投げて落としておいて良かったのかもしれない。 棒を使えば、外壁の壁を登る事も出来るかもしれない、とかづきは思っていた。


 かづきは月明りの影になる北の壁を目指した。

息を切らせながら、棒を突き立てて登ってはみるが、やはり全く長さが足りないようだ。

「うーん、やはり出入り口どちらかを使うしかないのか」 棒の先で少し考え事をしていると、そこへ一人の黒服の男が現れた。 例の幹部風の男の部下だった奴だ。


「貴様! 生きていたのか」と呟く男の声に内心で、「ヤバい見つかった!」と背中に冷たいものを感じながら、かづきは考える余裕も無く、登りかけていたその高さから棒を高跳びの様に使い、思い切り壁を蹴り上げて男の方へ飛び出した。 仲間を呼ばせない為に必死であったせいで、ここぞとばかりにナイフを男の喉笛に突き刺した。 躊躇などしている暇も無い。 拳銃を持つ右手を見て、すかさず引き金の指に差し込み発砲不能にすると、そのままナイフを持つ右手で横に()いだのだった。


「ズルッ」と硬いゴムを切る嫌な音がしたが、次の「シュー」と言う何かが噴き出す様な音で、これで終わったのだと、かづきは男の胸に縋り付くような体制のままただそう思った。

男の頸動脈からは血が良く勢いよく地面に噴出し、心臓の鼓動が始めは勢い良く、そしてその噴出は弱々しくなって行った。 まるで金魚が餌をねだるかの様に口元が動いていたが、まるで海に沈みゆく廃船の如くそれも無くなったのだった。  かづきは男の膝頭を両脇に抱えると、近くの低木へと引きずった。


何も考えられない、考えたくないの事が、逆に妙な自分を冷静にさせているようであった。

人を殺めたのは初めてだが、それは直接的な意味である。 簡単に言えばゴミを投げたとして、運が悪ければ巡り巡って死に至る事もかづきは知っているのだ。


逃げ延びる、ただそれ一点に考えを(まと)めて冷静に、冷淡に事を進めて行くだけだ。 「それだけだ」かづきは呻くように、自分に言い聞かせていた。


男の上着を剥ぎ取り、はおりながらあちこちのポケットを(まさぐ)ると、見付けたモバイル携帯を取り出して、国際ポリスの緊急連絡にアクセスすると、そのまま地面に埋めた。 こうしておけばこの施設を調べてくれるだろう、そう思ったのだ。


 男の持っていた拳銃はグロッグのようだった。

その昔、警備兵や兵士たちがよく使用していたタイプだ、かづきは弾倉を確認して右手に取った。 辺りを見回すと納屋らしき木造の倉庫が見えたので、低姿勢で見つからない様に納屋へと忍び込む。


中を探っていると、つーんとした油特有の嫌なにおいがしているが、辺りを見てみると揮発油が入った缶が見つかった。 こいつは化学燃料と言う奴だ、今は殆ど電気エネルギー化してはいるが、古い納屋などの建物には残っている事が良くある。 横の古びた機械に使っていたのだろう、揮発油が金属の丈夫な缶であったのが幸いしたし匂いは大丈夫そうだ。 かづきは辺りにばら撒くと、お腹とズボンの間に挟み込んでいたボンベを取り出した。 ハギレの残りを取り出し、油をそれに染み込ませ火を点けると、かづきは離れた木陰に走り込み潜んだ。


「ボーン!」

破裂音と共に勢い良く火の手が上がり、向こうの建物の両側から黒服が飛び出して来るのが見える。 前方あらかた人が通り過ぎたのを確認すると、急いで壁に近い木々に隠れながら、表門方向へと走り出した。 


門前には二人の黒服が居た、連絡を取り合っているのであろうレシーバーを使って「玄関先、未だ見えず」と言っている声が聞こえる。 かづきは近づけるだけ近づいて、手前の男の頭を狙いその引き金を絞った。


「パン、パン」 

二発の銃弾は男の頭部にしっかり着弾した。 もう片方の男は、突然の襲撃に驚いた様子で、レシーバーらしきものを取り落とし拳銃を構えようとしていたが、かづきはゆっくり狙いを定め冷静に引き金を引いた。 「パン、パン」


頭部を狙うのは勿論確実に沈黙して貰う為だ、命中は難しくはなるが、ほかの部位だと致命傷にならず反撃を食らう事になる。 グロッグは引き金を抑えたまま連射できるので、ある意味楽な銃だ。 かづきは空の弾倉を外し、それを遠くに捨てると倒れた男の銃を拾い、弾を確認して門柱の鍵を外した。


門前にべた付けしてオールドカーが停まっているが、中には誰もいない様だ。 キーも付いていない、タンクをこじ開けるとやはり思った通りガソリン車であった。 オールドカーマニアの俺にとって、こんな仕様の車はある意味アーティファクトである。 「祖父が大事にしていたっけ・・・・・」


だが、今はそんなことを言ってはいられない。 発砲の音を聞きつけてであろうか、騒めく音と共に灯りが近づいて来るのだ。

「おいこっちだ! 居たぞー」


かづきは車体を前後に揺らして、給油口をナイフでこじ開けるとオイルライターを着火し、それを投げ込み遠ざかれるだけその場から離れた。 車体を揺らすのは、燃料タンクの中身を揮発させやすくする為だ。


「ボーーーン!」

大音量と共に大爆発が巻き起こり、門柱を始め辺り一面は火の海だ。 他に車が見えたが、それらは新式の現代カーである、つまり、キーレス認証タイプで登録者以外は乗る事が出来ない。


しかし裏道を知るかづきは知っている。 裏技がある事を――

それは、災害時における『緊急マニュアル仕様』の事だ。 これは災害が起きた場合に道路を封鎖しないように回避行動を起こさせるプログラムであった。


「緊急マニュアルの始動開始、コード○○○○○○○○」

「緊急コード認証シマシタ 運転席の開放オヨビ 移動先ノ指示ヲ」

俺は直ぐに指示を出す。

「現場火災の為、緊急移動この場から一キロ以上の離脱せよ、リスタート・オン」

「了解シマシタ リスタート」


続けて、同じ様にもう一台の車も現場から遠ざけた。 そうしている間に、探していた獲物を手に入れる事が出来た。 車のトランクから見つけ出したもの、それは「エアバイク」だった。 タンクシートに座り、ジェット噴射で走行するバイクである。 これは特別認証を必要としないし、子供も同じもので遊んでいるくらいだ、「キュルル}と音がし、セルもかかった。


「パン、パン、パン! 急げ、逃げるぞ!」

銃声と追手の声が聞こえて来た。 タイムリミットだ。 かづきはエアバイクにまたがると直ぐに逃走開始だ、捕まれば命が無い事は本人も承知している。 俺は敷地を抜けると道を外れて、裏口方向へと移動する事にしたようだ。  ――――思った通り誰も居ない、恐らく奴らは道路沿いに逃げたと思って追いかけるだろう。 

かづきは裏を抜けて雑木林に入ると、草木を避けながらバイクを走らせる。 森に入ればもう逃れられるであろうか、獣道をエアバイクは草木を分けながら、注意深く突き進んで行った。


しばらくすると、ようやく夜が明けた。 かづきは木々の間を抜けながら、自販機を見付けて飢えと喉の渇きを癒した。 ストアもあるのだがそこに寄っては見つかる可能性も高い。 彼はモバイル携帯で方位を定めると、一つの街を目指してエアバイクを走らせた。 途中、通りすがりに盗品屋を見付けてバイクを売り払うと、知り合いに緊急連絡を入れる事にする。


暫くすると、直ぐに折り返しの連絡が入った。ダチの部下であろうそいつは、一軒のバーを指定した。

「ちゃんと間違えずに表から(・・・)入るんだぜ」そう言うと音信は途絶えた。

バーは繁華街の表通りから少し入り組んだ箇所にあった。 何度か来たことのある場所なので、見当はついていたのだ。 その店は敵排除専用のバーだろうと察して、裏口へと移動しながら見付けたドアを叩くと、小さな小窓が開いた。


「何か用かい」と小窓から鋭い眼つきの男が尋ねる。

「ああ 仕事にあぶれちまってね」と、俺はそう答えた。

「へぇそうかい でもうちは間に合ってるぜ」

「どぶ掃除が上手いんでな」

「・・・ふむ」男は頷くと、もう一度小窓から一瞥(べつ)をくれながら裏口から出て来た。

「着いて来な」


男は痩せた小男であったが、歩いても足音一つ立てずに前を進んだ。 少し歩くとビルとビルの狭間にある隙間に入った。 左のビルの壁をまさぐりながら進んでいたが、男はある地点で足を止めたのだった。


小男がその外壁の部分を押すと、掌に収まる位の開け口を開いてそこにキーを差し込んだ。

「ギリギリギリ、ガコン」

その音で、何か隠し扉らしきものが開いたと思ったが、それは予想を上回るものであった。 小男はそのビルの反対側の壁を押したのである。 壁を押して横にスライドさせると、そこには四角い通路が現れた。


腰をかがめて(ようや)(くぐ)れる入口だったが、小男に顔で促され入った。 中へと入ると、直ぐに入口は閉ざされ少し驚いたが、かなり巧妙な仕掛けである。 恐らく、脱出口の一つである事は間違いのない事だが感心した。 「ビルの外周は二重壁なんだろうな」と考えながらも着いて行くと、同じような仕掛けを何度か潜らされ、小男のホッとした仕草でここが漸く終点だと理解したのだった。


――――――

「兄貴、元気そうだな」

「ハハハ、ああ生きてる」


かづきと和んだ挨拶を交わすこの男は、ここ一帯を取り仕切る裏社会のドン『ラビ』こと『羽川 誠』と言い、若かりし頃の縁で兄弟の契りを交わしたのである。俺は奪った黒服の上着を脱ぎながら、カウンターにその服を置くと、胸の社章らしきものを指し示しながら『ドンラビ』に話し掛けた。


「こいつらに的をかけられた」

ドンラビは部下に目をやり、かづきに腰かける様に促すと熱いコーヒーを入れてくれた。 そして、そのまま彼に事の経緯を告げ終わると、思考を巡らせていたようだったが、暫くして入って来た部下に耳を傾け、納得のいった表情でかづきに話し掛けた。


「なるほどね、相手が悪そうだな、裏で武器商もやってる奴だしな。 暫くは隠れた方が良いだろう」

「そうか・・・暫くラビの仕事を裏で手伝うかな」

「兄貴はむかし、俺に教えてくれたよな。 頭は決して表舞台に立つもんじゃないと」

「ああ? そうだったかな」

「ハッ、何で自ら率先して、危険なシノギかけてたんだ?」

「あー、うんその・・・面目無いな」

「焦りも禁物って、教えてくれたの兄貴だぜ?」

「うーん、喉元過ぎればって・・・かな」

「ハッハハハ、まぁ、調子に乗ってた事を理解してればいいや」

「ハハ・・・」


ドンラビの辛口な意見に、返す言葉も無いかづきだったが、いつもよりもいっそう苦みを感じるブラックをすすると、意を決して彼に思いを吐き出した。


「なぁラビ、俺は業界の足を洗おうと思う。 今思えばやり過ぎた感はある」

「足を洗ってどうするんだい?」

「そうだな、貯めるもんはそこそこ貯まってるし、外国で余生ってもんでもいいな」

「ケッ、老け込むのは早すぎだろ。 それに人生のやり残しは無いのか?」

「・・・どうかな」

「まぁ何年か大人しくして、それからまた考えればいいさ」

「ああ・・・・・・そうかもな」

「で、隠れる場所だがいい場所がある」

「なにっ」


俺は飢えた魚が「疑似餌」にでも食いつくように話を聞き込んだ。 しかし、話は余りにも突拍子過ぎたのである。

「へっ!? 地球外? 別の太陽系惑星? 話が飛び過ぎてるぞ、何の冗談だ!」

ドンラビが言うには、この星のマザーコンピューターが地球と同等の惑星を発見したんだと、それで試験的に移住してデータが欲しいそうな。 しかし、以外にも二人はこの話題で盛り上がっている様子だった。


「お試し冒険体験って訳? えっ? 怪獣も出るのか」

「だからちげーって、モンスターって奴はいるらしいが、この世界と生活は余りかわんねって話だよ」

「死んだらどうすんだよ?」

「さぁ・・・でもよ、魔法も使えるらしいぜ?」

「へ?」

「だから魔法さ。 実は俺も興味があるんだが、その・・・何と言うか」

「尻込みしてんのか」

「何か、こえーよな」

「そうだな・・・・・・確かにな、で期間は、いつ帰れるんだ?」

「五年だな、報酬はその地で得た地位とか、実績とかが加算されるらしい」

「行く!」

「えっ? 兄貴」

「いくっ! つったんだよ、だって成り上がりだろ? 貴族とか王様とかになっちゃったらさ、ウハウハだぜ? 酒池肉林!」

「ま、まぁそうだろうが、モンスター居るんだったら、魔王とかも大丈夫か? 兄貴」

「なぁに、いくら格闘家上がりでも闘う必要は無いんだろ。 逃げれば問題無いし、現地は普通に人が暮らしてんだろ? じゃ、最低限何もしなくても問題無いだろ」

「そうだな、最低報酬でも二千万出るらしいし」

「最適年俸四百万ってとこか、いいんじゃね? 稼ぎにいくんじゃねーし、話進めてくれ」

「ほい、分かったよ。 取り敢えず部屋を用意してあるから、そっちで大人しくしててくれ」

「あー、ゾンビとか出て来ちゃったらどうするよ? ラビ」


勇者様とか呼ばれちゃってよ、お姫様をバシタにできんだぞ。 うーん、良いねぇ・・・・・とか、妄想で頭がいっぱいになったかづきは、引きずられる様に部屋を出されると用意されているヤサへと誘導された。

シャワーを浴び、シャンパンを瓶ごとあおりながら煙草に火を点けると、またもや妄想に浸り始めるのであった。 その部屋では、何やら妖しく妙に乾いた笑い声が続いていたそうな・・・

毎度お読みありがとう。

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