異世界探求伝 第三十七話 砦村都市計画
かづきは本拠地を構えるつもりのようです。
砦についたかづきは、早速各工房の責任者である工房主を集めての、指示出しである。
優先事項はあるのだが、とりあえず大まかな指示を出しておく事で、方向性を指し示しているのだ。
「最後に、ウンデルクは陶器職人だったな。 これを渡すから、まずは陶板を作って欲しい。 そして釉薬の開発だ。 赤、黄、緑、青、茶、紫を基本に色違いをいくつか頼む。 別に灰、白、黒もだ。 俺の知っていて、使えそうな鉱石や素材を記してあるからこれを使ってくれ。 くれぐれも配合は細かく、軽量して書き記してくれ」
「はっ、はい」と、ウンデルクは渡された紙をひとしきり見ると、大事そうに懐に入れた。
「それから土だが、これを使ってくれ。 このまま使える筈だが、使う際には更に練り込んで使え」
そう言うと、俺は粘土の塊、一m四方のブロックを出してあげた」
「こ、これは灰色のつち・・・」と、ウンデルクは粘土を一掴みすると、指で弄って感心していた。
「熟成土だからな、良い焼物が出来るぞ」
「う、は、はい、とても滑らかで粘りが凄いですやん」
「まだ、大量にあるから後で工房に持って行ってやるぞ」、それを聞いた硝子職人、鍛冶職人達が大いに沸き上がっていた。 ああ、そう言えばそっちも使うんだな、と思いながら更に一塊づつ出しておく事にした。
「じゃぁ、最初に指名した三名残して解散してくれて良いぞ。 みんな、頑張ってくれ」
話の終えた親方衆は、一斉に返事をすると目の色を変えて飛び出して行った。
残った土木技師ゴドルボルグ、上下水道管理ダンブン、石工カッパーの三人はこの地の地図を広げ始め、話を進めるらしい。 ゴドルボルグが責任者で、これまでの造成経過と建設経過を教えてくれるらしい。
「おほん、えー先ずは無事にここまで着工出来た事をお祝い申し上ぐる。 ではこの砦村のここまでの経緯を押し述べますわい」と、誠細やかに話をして貰えた。 ゴドルボルグが言うには、この工房地の真下には強固な岩盤で出来ており、地下一階が存在するらしい。
確かに俺は、下水道を作る様に指示したが、地下道建設までとは思ってもみなかった。 この小高い地形と、岩を掘りぬいた都市作りは大いに利用価値があると素直に思った。
「えー、ここが上下水道の分岐となりますわい」
今居るのは、地下一階の通路である。
押し述べて言うには地下は居住区も有り、食品の貯蔵庫も完備されているとの事だ。 いざと言う時には籠城出来る様にと、此方に降りる通路も狭くしており、扉も石造りで頑丈なものだ。
「ここが下水処理をして、先へと流す場所になりますヨ」と、説明してくれたのは水設備担当のダンブンである。 彼は親子でこちらへと移住しており、皆魚人らしい。 凄く興味が沸いたので色々聞いてしまった。
「ダンブンって魚人だろ? 陸で住むって大丈夫なのか」
「アハハ、いえボス、笑って申し訳ないヨ。 魚人と言ってもエラがある訳じゃねぇんヨ。 水に浸からなくても生きていけるし、魚ばかり食ってる訳でもねぇヨ」
「そうなんだな、俺初めて見るから判らなくてな。 魚人の事を教えてくれると有り難いな」
「うーん、そうヨな、ヒューマンと違うとこは鱗が在るって事ヨ。 毛はあるけどヨ頭部の真上から尾っぽに掛けて生えてんだヨ」
「おっ、尻尾あるんだ。 泳ぎに長けてるんだろうな」
「アハハのヨ、泳げねぇ奴もいる事はいるヨ。 でも覚えてる奴はヒトの何倍もの速さで泳げるしヨ、ながーく潜れるヨ」
「そっか、泳ぎってヒトでも教えないと泳げないのと同じだな」
「そういう事ヨ、でも指に水掻きの名残はあるんヨ」と、見せてくれたが確かに水かきがある。 指の根元から第二関節までついてはいるが、指そのものは至って普通の指である。 そうこう言いながら下水処理の場所へと案内された。
「へぇ、これがプリアスライムか。 うじゃうじゃ動き回っているかと思ったら、意外とじっとしてるんだな」
「特にここは、汚物がある訳じゃないからヨ、餌が無くて余り動きが良くねぇヨ」
「ふむ、汚物とか残飯はどうしてんだ?」
「それはヨ、エアシュートを改良して汚物部屋に投げ込んでいるんヨ」
「そこに行けるか?」
「えっ? ボス自ら行くんですヨ?」
「ん? わりぃか?」
「アハハのヨ、ボスって変わり者だヨ。 この先に隠し通路があるから行くヨ」
恐らくは汚物だから、下賤の者に処理をさせるのが普通なのだろうから、そう言う言葉を口にしたんだろうと理解は出来た。 しかし、俺の思っている通りならば、避けては通れない道でもある筈だ。
処理所から続く道は、真ん中に浄水した水路が流れており、そこよりまだ先だった。
灯りが青白いのは、これならプリアスライムを刺激しないのだそうで、何処の便所でもこの灯りを使うのだそうだ。 言われてみれば、屋敷のトイレはやけに暗く感じたものだったな。
随分と歩いたが、途中の通路の左壁を押したかと思ったら、そのまま壁を押していた。 そのまま開くかと思ったら壁の厚みを押して、今度はそれを横にずらせて漸く、その扉は空いたのだった。 この構造は確か依然見た事がある。 ダチのラビが根城にしていたビルだったか。
「ボスヨ、この先ですヨ、匂いは大丈夫ですかヨ?」
言われて覚悟はしていたが、次の扉を開けて入ると、そこには何十ものプリアスライムが生息していた。
匂ってみるが、そこまでひどい匂いはしない。 まぁ、きつい温泉の匂い位なのかもしれないな。
部屋はプールの底の様に深く掘り下げていた。
「随分と床を掘ってるんだな。 匂いも左程酷くは無い」
「へぇ、ボスは意外と肝っ玉が据わってなさるヨ。 賤民以外は嫌がるんヨ。 堀を下げてんのは、廃物が出るからなんヨ」
「そっか、やっぱり思った通りだな。 白い粉みたいな土とか見ないか?」
「おっ、何故そんな事しってるんですヨ? 市場の残飯処理じゃ見かけないが、便所の溜口場所じゃ良くあるらしいですヨ」
「ん? それはさっきの話に出てた貧民街の奴に聞いたのか?」
「へぇ、よくお判りですヨ、奴がそう言ってたんですヨ」
「そうか、じゃそいつに話を付けてくれ。 その白い土集めてくれないか」
「へ? 肥料にもならないらしいですヨ?」
「ああ、良いんだ。 試したい事が有るから・・・そうだな一k銅貨十枚でどうだ」
「何だか判りやせんが、喜びますですヨ」
「おう、頼んだぞダンブン」
こうして、地下への視察も終わったかづきは再び上へと戻り、この先の建設内容を語るのであった。
――――
砦村でのこれまでの施設経緯を統括責任者のゴドルボルグ、ダンブン、カッパーの三人から教わり、地下に案内された俺は一旦地上に戻ってこれから用事を終えたクラークと計画を話し合う事になった。
戻ったクラークからは、この人数でやるなら執務室へ行きましょうと言うので、六人で臨時の執務室へと向かうことしなった。 暇そうにしていたジュリナには、工房をひとつ与えてそこを薬草の研究室にするからと、段取りを頼んだ。 モモには、俺と一緒に付いて来て貰い、秘書役をやって貰う事にした。
少し歩くと、砦村中心部にその執務に使っている建物はあった。
「皆さんここまで本当に良くやって来られました。 まずはお礼の言葉に代えさせて頂きます。 つきましては、今後の計画の内容を引き続きお話します」
そう言うかづきの言葉から始まり、全員にモモが香りの良いハーブティとお茶請けを配り終わると、早速会議が始まったのだった。
「先ずこの界隈は我々の生産拠点となります。 言わば生活基盤の肝なので、その安全と秘匿を強化したいと考えていますので、仮称『工房地区』とします」
「ふむ、わいはクラーク殿からは事の重要性は十分に教えて貰ったが、わいらも施設時に多くの技術を教わったから話は良く判りますわい」と、統括責任者ゴドルボルグが実直な感想を述べたので、俺も忌憚のない意見を述べるとするかな。
まず会議の必要性と、週に一度の休みに違和感があるとの指摘に俺は答える事にした。
会議に付いてだが、これは綿密、俊敏にに事を推し進める事の重要性を解いてみた。 俺の居た世界でも毎日行う会社もあったものだが、俺はそこまでの必要性は感じてはおらず、此処では基本週一の会議を暫くは進めると言明した。
「会議は週末の金曜日に行うものとする。 主だった者は各工房の責任者と言う事になるが、これは前もって召集連絡をしよう」
「そりゃ、週一で休むとはどう言うお考えですかの? 特に生産工房での一日の休みは年間では大きな損失になるわい」
「それは高品質の物を作るのには欠かせないんだ。 つまりその一日は魔道具や器具のメンテナンス、つまり補修点検を行うのに必要なんだ」
「そりゃあ、その都度行うのが正しいんじゃがの」
「うん、確かに簡単な物はそれで済む、だが心のケアはどうだろう?」
「心? ですかの」
「ああ、ここで言うメンテナンス、は働く者達のリフレッシュを兼ねているんだよ。 確かに君達は文句も言わず良く働いてくれているが、それでは心を休める暇も無いし、頭を空にする事も出来ないぞ」
「ふむ、心を休めると言う理屈は判りますわい、だが頭を空にする必要は無いんではのお」
「いや、頭を一旦空にする事で、新しい発想や技術が生まれてくるものだぞ」
「ふむ、そう言うものなんだのぉ。 意義は理解でき申したわい」
判って貰えた様なので、計画を話し始める事にした。
「砦の中心部には塔を建てて貰う事にする。 ここは司令塔と思ってくれ、執務室や総務、警備も入る。 ここには俺の居住スペースもお願いしたい」
「ふむ、言わば城ですのぉ。 この周辺の岩盤で良い石材は豊富ですけの、直ぐに取り掛かりますわい」
「ああ頼む。 次はコークス生産と板ガラスのプラントの増設だ」
「プラントですか?」と、クラークが目線を鋭くさせる。
「まぁ大きな工房と考えてくれ、工場とも言う。 板ガラスは生産して販売予定だが、鏡も作れるぞ」
「ガラスですか、良い品質の物はかなり高値で取引されておりますが、庶民には高根の花ですな。 クロカワ様」
「そうだな、しかしこの工場生産が軌道に乗れば、庶民の物になるだろう」
「そんなにですか?」
「ああ、綺麗な鏡も自由に誰でも手に入るだろうさ」と、行っては見たが、俺の話にはまだ疑心暗鬼の様だ。 しかし、話を更に進めていかなければならないのだ。
「外周の堀も完成はどうなってる? ダンブン」
「へぇ、石工のカッパーがやっておるヨ」
「はい、石材の切り出しが忙しく、現在利用し易くする為に加工を急いでおりますです」
「漆喰はどうなってる?」と、ゴドルボルグの兄でもある石工のカッパーに目線を向けると、直ぐにその返答は聞けた。
「おう、石灰を大量に買い付けて倉庫にしまっとるの、同時に麦わらを刻んで用意しますわい」
「漆喰には、麦わらを使ってるのか?」
「おう、それが普通だの」
「ダンブンの故郷は川か海だろ?」
「へぇ、サワーク大河近くに郷里がありますヨ、良くお判りになってるヨ」
「ハハハ、魚人だからな元々水辺リに住んでた位は察しが付くさ」
「へぇ、そうなんヨ」
「で、ダンブン、ふのりって海藻は知ってるか?」
「陸地の人は食べませんヨが、わしらは海藻は食べやすヨ。 でも「ふのり」は判んねぇヨ」
ふのりが判らないと言うので、先ずは絵を描いてみた。 色は様々あるだろうからあえて言わない事にしよう。 古来日本ではふのりの利用価値は高かったと聞く。
「糸より太い紐状の海藻だが、これをしっくいの材料にすると、より強固な石造りの建物にも使えるぞ。 他にも使い道があるしな」
「ほう、そのようなものが・・・」と、カッパーとゴドルボルグも食いついて来た。
「それと、ダンブンの一族は貝も好物じゃないのか?」
「へぇヨ、何でそんな事しってるんですかなヨ」
「コークスの製造プラント熱を利用すれば、その貝殻で石灰が作れるぞ。 どうせ海岸に捨ててるんだろ」
「へえ、貝殻の山の捨て場で問題になっていましたんヨ」と、言うのでふのりと貝殻も頼む事にしたのだが、ついでに他の海藻もいくつかサンプルとして、採集をお願いしておいた。
「それから、この中心地は砦塀を六角形水路も同じ形にして欲しい」
「六角・・・・・・ふむ」
「そうだな、ハニカム構造ってんだが、明日までに試作を作って説明するから待ってくれ」
一応都市計画図も書いてはいるが、色分けして説明した方が良いし、このハニカム構造を建築にも活用してもらう予定だから、模型でも作ろうと思い直して話の続きを明日にして貰い、この場はこれでお開きにしてもらったのだった。
かづきは、しばらくは砦建設に力を注ぐようです。
次回は、あれを作るみたいですよ。粉もんの、アレ。




