異世界探求伝 第三十五話 シュタイナルとの取引
ひょんなことから、商工ギルドの会頭と出会ったかずきは、
裏事情を探る事にしたようだが、それは高くつくのか安くつくのやら。
ここは商工会ギルド 俺はジュリナとミシーを連れて魔道具屋の店員補充をするべく向かったのだが、ひょんな事に変なじいさんに付きまとわれてしまった。
俺は、ジュリナとミシェータに用事は任せて、会頭のシュタイナルと話を進めた。
先程の危惧している話を包み隠さず、あえて率直にぶつけたのだ。 話し次第ではギルドとの関係は危険とみなして、距離を置かなければならないからである。
「ふむ そこまで見るか、しかしこれで、おまいさんが他国の間者と言う線は外れたのう」
「それは良かった」
「しかしその様子じゃと、まだ判っておらんようじゃな」
「だから聞いているんだ」
「まぁ、そんなにいきりたつな。 焦っても何も良い事は無いぞ」
「あ、あぁ、悪かったなシュタイナルさん」
「シュタインで結構、カヅキと呼ばせて貰っても良いかの?」
「ああ、勝手にしろ」
「ウハハ、勝手にさせて貰うとするか、許しも得たしな」
「早く教えろ! じじぃ」
「ウァッハハハ、ワシをじじぃ呼ばわりか」
「あぁ、済まなかった。 シュタイン」
少し興奮している自分に叱咤するかの様に、首を振り大きく息を吸ったカヅキであった。
「まぁ良い。 この国とは言わず、どの国でも政治の実権を握ってるのは誰じゃ?」
「王様? 皇帝? つまりは貴族だろ」
「左様、王侯貴族じゃ。 こやつらは血で結託しておる」
「でも名声とか英雄とか、まぁ大金を使えば貴族になれるんじゃないのか?」
「ふむ、確かに貴族にはなれるじゃろう。 しかし、それらの貴族の地位は底辺の物じゃ」
「上位貴族って奴らか」
「そうじゃ、一族の血を継いだ者にしか、実権は無いのじゃよ」
「中へ入るには、婚姻しか方法が無いんだな」
「ふむ、左様。 核心に近づいた様だの」
「ギルドの息がかかった者が、たとえ上手く近づいたとしても、その代では権力が得られないんだな」
「ふむ、更に言えば生まれた子は、既に貴族じゃ。 貴族として優雅な不便無く過ごした者に、庶民の暮らしが判ると思うか?」
「うーん、だいぶ理解が出来た。 しかし、なら何故有能な者を要所に置こうとする?」
「うむ、良い質問じゃ。 それらは楔なのじゃ」
「見張り、いや違うな・・・そう、監視だな」
「うーん、ちと惜しいのう。 じゃが監視は正解じゃな。 もう一つは導き手なのじゃ」
「悪い方向に行かない様に誘導するってか?」
「そうじゃ」
「善悪は誰が判断するんだ? 種族や考え方でそれぞれの善悪は違うと思うぞ」
「そうじゃな。 だからこそ、庶民の集まりであるギルドで話し合うのだ」
「そうか、では最後に聞こうか、国がギルドと敵対したらどうするつもりだ」
「ギルドは、この国以外にも彼方此方にあるのじゃよ。 嫌なら他へ移れば良いだけの事じゃ」
ふむ、今日はだいぶ感慨深い言葉を受ける事が出来た。 恐らく今後の指針にもなるだろうと、カヅキは心に留めるのであった。
「カヅキ、話は終わったわ。 店員を手配してくれるって」
「そうか、滞納の支払いは終わったのか?」
「もう! 言わないでよ。 終わったわよ!」
「ハハハ、すまんすまん。 さて、シュタイン爺さんに頼みがあるんだが」
「ちょっ! 老師に向かって何言ってるのよ」
「カヅキ、ミシェータの言う通りよ。 老師はここの元締めでもあるのよ?」
「構わないよな? シュタイン爺さん」
「ウオッホホ、勿論じゃともカヅキ、で何の頼みじゃな?」
「ポーション作りの秘匿書があるだろ?」
「ちょっと! カヅキ危険よ」
「カヅキ、もうここは出ましょう」
二人してダッシュして来ると、両脇を挟み込むように掴みかかる。 とても慌ててるようだから、それは秘伝書と言う訳なのだろうと直ぐに察知出来た。
「お嬢様方、ここは商いの場じゃよ。 有益な取引ならば受けぬ道理も無いじゃろ。 じゃが、確かにここではまずいのう。 奥へ参ろうか」
奥へ奥へと通された我々三人は、俺達はさらに奥まった部屋ある一室へと案内されたのだった。
しかし、意外な出来事だった。 話をよくよく聞いてみると、この老人は何とギルドの会頭であると言う。 ジュリナとミシェータが知っていたような素振りなので、はめられた感はあるが、ついでに知識の充実を狙って色々聞き出す事にしたが、先程は少し興奮してしまった。
一応俺なりには丁寧? に謝った・・・つもりである。 話は進み、俺は少しだけ触れてはいけないものに振れたらしい。 ジュリナとミシェータが慌てて引き留めたが、爺さんの考えは少しばかり違っている様だ。
「昼食には少し早いが、軽い物でも食べながら話そうかのぅ」
「コンコン」、「入れ」
「軽い食事を四人分じゃ」
「畏まりましたシュタイナル様」
メイド? と、言うよりは秘書が妥当であろう彼女は、俺達の顔も見ずに会釈して出て行った。
「少しして料理と飲み物を持って来た。
ああ、これは見た事が有る。 屋台で食べたタコスもどきである。
「食事が終わるまでは、ここには誰も近づけてはならんぞ」
「畏まりました。 シュタイナル様」
「さて、欲しい物は理解したが、それに吊り合う物は?」
「ミシェータ、販売用のエンピツを出してくれ」
「はい、カヅキ様ただいま」
『ストレージ・ドロップ』
この辺は気が利く女、ミシェータである。
俺を主風に仕立てて、厳格さを高めてくれたのだ。 出した販売用のエンピツは半ダースの六本入り箱である。 これは筆箱代わりにもなる代物でもあるのだ。 これとは別にばら売り出来る十二本入りがある。 それから別売りのエンピツ削りであるが、これは構造が簡単な為に直ぐ出来ていた。
「紙に書く為の筆記用具です。 水にも滲んだりしませんわ」
「ふむ、これは良い。 学校にでも直ぐ使えるのぅ。 いくらで販売するつもりじゃ?」
「これは、もう流通に流し始めていますが、一本銅貨半分です」
「おぉ、その設定価格は何故じゃ?」
じじい! そこは何故そんなに安いのじゃだろうか、と聞くとこだろ、なんて考えながらも、流石商人の元締めだ、足元を見られるようなヘマはしないよな。 でも俺もしないのさ、フフフ。
「それは、じぃさんの思ってる通りだよ」
「そうか・・・ふむ、確かに水にも滲まぬ」
「ミシェータ、五十箱ごと並べてくれ」
「畏まりました、カヅキ様」
「ふむ、これは?」
「学校への寄付分です。 お受け取り下さい」
「こんなに・・・ゴホン。 ああ、助かるな、しかしカヅキ、口調が違うぞ」
「ああ、これはビジネスですから。 公私は分けなくてはなりません」
「ふん、良い心がけじゃ。 但し、この販売権だけで取引が出来るとでも?」
「ハハハ、滅相も無い。 俺が欲しいのは長い時間を掛けて作った先人の秘伝ですので。 これ位では足りません」
「ふん、まだ何かを隠しておるのか。 で? この『エンピツ』は週に何本納入可能じゃ?」
「少しお待ちを。 ジュリナ、クラークに鉛筆の生産状況の連絡を」
「あっ、は、はい、カヅキ・・・さま」
「『コール』クラーク :『クラーク、今週の鉛筆の納品数教えて』」
「うんうん・・・・・・了解」
「カヅキ様、今週は一万ニ千本の予定だそうです」
「ちょっ、ちょっと待て! 今誰と話した? 魔法? どんな魔法じゃ? いや魔道具か、その耳に付けておる、おお、それそれじゃ」
「爺さん落ち着け! まずは鉛筆の交渉だぞ」
「あ、お、ゴホン。 すまなんだ、『エンピツ』であったな」
「はい、こちらへは六千本ご用意いたしましょう」
「価格は一本いくらじゃ?」
「同じ価格でお願いします。 一本銅貨半分です」
「判った、六千本じゃな。 エンピツ削りなる物はいかほどじゃ」
「取り敢えず、三百個納品でひとつ銅貨一枚です」
「わかったぞ、判ったから、その魔道具を見せてくれ」
「はて? 何の事でしょう。 では、次の商品に移らせて頂きます」
「ミシェータ、『レディケア』を出してくれ」
「畏まりました、カヅキ様。 こちらです」
「なぁカヅキ、後生じゃから、さっきの魔道具の事を教えてくれんじゃろうか」
「じじぃ! いい加減にしろ、次の商品の案内が出来ないじゃないか。 時間が無いんだから、商品回収して帰っちまうぞ」
「あ、ああ・・・すまなんだカヅキ、続けてくれ」
「では、この商品はミシェータからの説明を」
「はい、これはですね――」
会頭は、どうやら説明すら耳に入って居ないらしく、先程の秘書さんを呼んで貰った。
この商品は、例のリザードボアの肺から製作した『ブツ』で、つまりは生理用品である。 何故知ってるかって? それはその・・・昨夜ミシェータに事が終わってから聞き出していたのだ。 それを知って、完成品を地球で知っている俺は、部屋でさらに改良品を製作したのだ。
元盗賊から教えて貰ったやつは丸い物だったが、俺は紐の遊びを増やして長く筒状にすると、さらに吸収力を強く出来る仕様にした。 ミシェータに、その出来上がりを見せると感心して、商品に出来るとまでお墨付きを得た物なのだ。
結局、此方の商品はレシピと素材を渡す事にした。 技術は余りない物だし、男は使わないし、出来た物を買った方が早いとの判断である。 秘書に試作を渡すと、ひったくる様に奪い、会頭の耳元に素速く囁いて出て行った。
親指を立てて、ミシェータにウインクしてから、まずは気に入ったのだろう。 じいさんも彼女の囁きで優れた物と判断したのだろう。 機嫌は更に良くなっていた。
「うん、素晴らしい物ばかりだったな。 まぁ満足じゃよ」
「満足? 次は見せるだけだが続きは見ますか?」
「何? さっきの魔道具か」
「さて、これをご覧頂きましょう」と、会頭の質問には答えずに、話を続ける。
「剣? 変わった剣じゃな、曲刀の様じゃが太く細いな」
俺は、皮の一部を取り出して魔力を注いで見せた。
「ふむ、程度の良いリザードボアの皮じゃな。 水を纏っておる」
「では、ご覧ください」
俺は、素早く『セセラギ』に風の魔力を流し旋風を纏わせた。
「ほう! これは見事な魔剣じゃ」
「では、切りますね。 スッ」
「す、凄い切れ味じゃ。 片手で・・・しかも力を入れた様子も無い」
シュタイン会頭は、白髪交じりの茶髪を分けながら、リザードボアの皮質も丹念に調べているようだ。
「これは我が大刀『セセラギ』と申します」
「ほうぅー、見事じゃ」
「おい、お前達のも見せてやれ」
「はい」「畏まりました、カヅキ様」
ジュリナとミシェータは、それぞれの愛刀『ヘシキリ』と『ライキリ』に魔力を通して会頭に見せつけた。
「さて、次は・・・」
「待て! その製法を教えてくれるのでは無いのか?」
「次と申していますよ。 シュタイン爺さん?」
「あ、ああ、判った。 判ったから」
話のペースは既に俺が握っている。 これは俺が過去に培って来たノウハウの一部である。 俺はゆったりと、ソファーに腰を落とすとお茶を啜り、次に銃を取り出して見せた。
「これは? 見た事も無い魔道具かの?」
「じぃさんは魔法使えるよな? 窓を開けて水の玉を放ってくれ」
「なにぃ? 危ないぞ。 それに町中での攻撃魔法は禁じられておる」
「危なければ上空で止めて見ろ、抑制出来るんだろ? 小さいもので構わんぞ」
「ふ、ふむ、しかしだのぅ」
「そうか、じゃお暇しよう」
「待て! この土地の所有者はわしじゃ。 所有地ならば良かろう」
「時間が無いから急いでくれ」
俺は立ち上がったついでに、窓に近づいた。
会頭は、拳大の水球を窓から宙に放ったが、制御して宙で留めている。 流石の制御力だ、水球はゆらぎもせずに、まるで水晶玉のように安定している。
「ビシュ!」
俺はすぐさま火弾を放ち、水球を消滅させて見せた。
驚いていたが、続けてに五個水球を放ち、動かして貰ったが、同じく連続して消し去って見せた。
「ビシ、ビシ、ビシ、ビシ、ビシ」
「これは凄い。 魔弾を放つ魔道具はあるが、予備動作も殆ど無いのじゃな」
「あそこの大木に枯れ葉が見えるな? 色が変わってる茶色の葉だ」
「お? あれか、うむ、あの枯れ葉がどうした?」
見ている間に、その枯れ葉が『パン』と弾けた。
「今のは風弾じゃな! まさか威力の調節も出来るのか?」
「破壊力なら、金属鎧を着てても爆死すると言えば判るな?」
「う、うむ」
俺は、銃をしまうと『レディケア』の素材渡しを頼んだ。 つまり、リザードボアの肺である。
「ふむ、下の作業場で出して貰えるかの」
「ああ、案内してくれ」と、シュタイナル会頭に申し出たが、彼は道すがら先程の話の続きをして見せた。
「カヅキ、先程の武器の事を聞いても良いかの?」
「話せる範囲でなら」
「その口調では、売り物では無いのだな」
「まぁな、こいつはどこにも売るつもりは無い。 技術も含めてな」
「では、何故見せたのじゃ!」
「抑止力、と言えば理解してくれるか?」
「・・・どこに対してか聞いても良いかの」
「敵対者全て・・・かな」
「嗅ぎ回るな、とも聞こえるが」
「まぁ、お得意様先を無くしたいのなら、好きにやって構わんぞ」
「ふむ、その様子では、手を打てる所は打ってある様子じゃな」
「潰すより活かす方が難しいからな、まあ、言える事は権力者には決して武器は売らないって事かな」
「よぉく判った。 カヅキよ、今後とも宜しく頼むぞ」
「ああ、敵対しない限りは仲良くさせて貰おう」
「では時間も無いようじゃし、あない致そう」
俺達は、商工ギルド内の作業場へと案内されると、そこへリザードボアの素材である『肺』を取り出した。
片肺だけでも、キングサイズのベッド一つ分はある。
あの盗賊団の根城の木箱をばらして、大きく作り替えた物であった。
『ストレージ・ドロップ』
取り敢えず二箱出して置いた。 鮮度に驚いていたが、先を急ぐので何も言わず退散した。 会頭が名残惜しそうに見送っていたが、砦村が出来たら誘ってやろうと心に決めた。
ミシェータ:どうかしら、わたくしの会話術は。
ジュリナ:みっ、見直したわよ。
ミシェータ:いつでも対応できるように、精進なさい。
ジュリナ:なっ! 偉そうに
ミシェータ:カヅキに恥をかかす気なの?
ジュリナ:ぐっ! わ、わかったわ。




