異世界探求伝 第三十ニ話 一仕事を終えて
けが人も出ずに何とかやり切ったみたいです。
俺は馬車に一味を詰め込んで、女子組四人を御者に乗るように指示を出す。
「ボス! 馬っこ一頭で、こんだけの人数引っ張れるんですかい? 俺たちゃ走って追いかけますぜ」
「ああ、詰め込んで悪かったな。 後は任せろ」
「本当に大丈夫ですかい?」
「ああ、その前に注意事項だぞ。 舌を噛まないように口をとじて、ロープを全員縛って置け、掴んで決して離すなよ。 落ちて怪我をするぞ」
「へい! ボス」「はい、ボス」
俺は、馬車と御者に重力操作グラビティとライトを発動、重さ軽減の魔法だ。 そうして馬に跨り、たてがみを優しくなでると、大人しく待機していた馬の労をねぎらう。
「帰ったら、美味しい飼い葉と水をたっぷりやるからな。町まで頼むぞ」
「ブルルルッ」うん、なんか判ったと言った様な気がする。
「出発する! しっかり掴まれよ!」
「ブヒーーン!」「う、うわぁー」
「喋るな! 舌を噛むぞ」
俺は前方に『ライト・オン』の魔法で道を照らして、粗末な街道を思い切り馬に駆けさせた。 そんなに乗馬が得意なのかって? いや勝手に走ってるだけさ。 俺も馬の首に縋り付いてるだけだからな・・・ハハ
すっ飛ばしたおかげで、一時間も掛からずにズナンの町の篝火が見えてきた。 直前で馬の足を止めると、全員の重力を戻し門口先まで引き連れて行ったら、待ち人が既に待っていた様子だった。
クラークと、キンダイン商会の頭取 マウリルクが外で待っていた。
この商人には見覚えがあるが、そうだ、この町に来る時乗せて貰った馬車の主だった。
「クロサワ様、無事のご帰還でなによりで御座います」
「クロサワ殿、お久しゅう御座います」
「ああ、その節は世話になったな」
「いえいえ、こちらこそ今後ともご贔屓にお願いいたします」
これは予めクラークと相談しての行動だったのだ。
新参者の俺が、十二人もの奴隷を連れて帰ったら、それだけで騒ぎが大きくなる。 一つ間違えば此奴等は捕らえられ、俺は取り調べで時間を費やされるであろう。 しかし、クラークはこの町の『顔』であり、冒険者としても実績がある。 キンダイン商会のマウリルク頭取を連れて来たのは、奴隷を運んで来たと見せかける為である。 受け取った奴隷を町に入れるという行動は、至極当然な行為であるのだから。
「マウリルクさんも、いきなりで悪かったな。 これは駄賃だ」
「いえいえ、クロサワ殿お代は必要御座いません。 商いで十分取引させて頂いておりますので」
「そうか?」
「ええ、それにヴァレンチノ家の御用人ですので、延いては貴方様の御用人でもあります」
「悪いな、じゃ後は頼むぞ」
「畏まりました」
一味の連中が、何やら戦々恐々としている。
商人の登場で、奴隷で売り飛ばされると感じたのであろう。 俺は、奴らに勘違いさせない様に諭す事にする。
「お前ら安心しろ。 この人は商人だが、お前達を安全に町に入れる為に頼んだ人だ」
「そうなんですかい? 親分」
「ああ、隷属の主は俺のままだし、町へ無事に入れば旨い飯と酒を振る舞ってやる」
「おおー」「うおー」「おー」
「ハハハ、現金な奴らだな。 安心してマウリルクに付いて行け。 だが、武器だけは回収するぞ」
「へい! 親分」「へい」
こうして、無事に町へと入る事に成功した俺達は、再合流して酒場へ向かった。
酒場に入ると中は活気で溢れ、大男共が飲みあいへし合い・・・して居なかった。 店内は閑散としており、客が全く居なかったのだ。
「さぁ中へお進み下さい。 クロカワ様達は、こちらのテーブルへどうぞ」
「ああ、クラーク。 貸し切りか?」
「はい、余り素性を知られたく無い者が、多御座いましょうから」
「そうだな助かる。 お前達適当に座ってくれ」
「へっぃ! ボス」「へい」
此方のテーブルには俺達狩り組の五人に、商人のマウリルクとクラークの七人が腰かけた。
一味の連中も、それぞれに不安に思う所はあるだろうが、今日は忘れて羽を伸ばして貰う事にしよう。
ここはクラークの経営する酒場の一角である。
俺達が連れてきた一味の労をねぎらう振る舞い酒の場でもある。 俺はクラークとキンダイン商会の頭取マウリルクとで、今後の奴らの方針を決めようとしていた。
料理や酒が一斉に運ばれて来て、大きな歓声が上がる。
ここはヴァレンチノ家の所有する店の一つらしいので、話は大っぴらでかまわないのだ。 皆で食事をしながら、今回の状況を説明する事にした。 追剥ぎに逢い十二人を捕縛し、盗賊になって行った経緯を説明。 誓約に基づき隷属させた事。 軍警に差し出すより、新天地でやり直させる事と、労働力の確保にしたいとの俺の希望を述べた。
「と言う事で、砦村の住民として受け入れてくれ」
「うーん、それは難しいのでは無いでしょうか?」
「そうですね。 私は商人ですが、一般人と同等と言うのは、虫が良すぎるのでは無いでしょうか」
「じゃ、軍警に引き渡せと言うのか?」
「罪は償わせるのが、この国の決まりで御座います。 カヅキ様」
「そうですな、償いながら普通の生活が出来るとなると、法の根本が揺らぎますな」
「罰は隷属での、奴隷身分だけでは駄目なのか?」
「駄目ですな。 ただし、この国では、ですが」
「クラーク殿? 砦村で匿えば、貴方の身に災いとして降りかかりますよ?」
「そうだな、ヴァレンチノ家には迷惑は掛けられない」
「迷惑などは掛かりませんぞ」
「ク、クラーク殿!?」
俺もそうだが、マウリルクもクラークの発言に、虚を突かれたようだった。
「いえね、砦村はここから遠く離れた国境の外です。 それは逆に言えば、どこの国にも属してないと言う事ですな」
「そうですが、逆に言えばどの国でも侵略可能ですよ? クラーク殿、捕まれば其方も只では済ま無いでしょう」
「ふむ、確かに、しかしながら、砦村は私有地で御座いますぞ」
「ふむ、つまり?」
「カヅキ・クロカワ様の所有する、私有地で御座います」
「何!? 聞いてないぞ」、俺は突然のクラークの世迷言に正直驚いていた。
「まぁまぁ、独り言で恐縮ですが、どの国にも所属されていないカヅキ様が、御自分の領地で使用人をお使いになる。 これのどこが後ろめたい事が有りましょうや」
「うっ、それは確かに・・・領主であれば刑罰の執行は許される事。 つまり隷属により、罪の裁きを終えたとしても極自然で御座いますな」
「うーん、いまいち吞み込みが悪くて済まんが、俺に砦村の領主になれと?」
「左様でございます」「ですな」
「もし、この国が攻めて来たら?」
「それに対抗する知恵と知識をお持ちと存じますが? 違いますかな」
「そ、それ・・・」
「それに暫くは、砦村の内情は秘匿致します」
そうクラークは言うが、言われてみればそんな知識を俺は多少は持ち合わせてはいる。 だが、持ち合わせては要るが如何せん、足りないものが多すぎる。
「確かにクラークの言う通り、それなりの知識はあるが、荷が重いし無理だぞ」
「何が無理なので御座いましょう」
「うーん、金は事業を進めて行けば何とかなるが、如何せん人手不足に人材不足だから無理なんだ」
「ほう、ではその二つが解消されれば可能なのですな?」と、クラークは畳みかけて来る。
上手く、クラークの誘導に引っかかってしまった。 隣のマウリルクと話しながらも頷いている。
「判ったよ。 その代わり、と言うか手伝ってくれるんだよな?」
「当然でしょう。 ワッハハハ! 然しながら、暫く砦村が立ち行くまでは、この事は外部には内密で参りましょう」
「どれ位、秘密に出来そうなんだ?」
「左様、二ヵ年がギリギリかと存じます」
「そうか・・・余り働きたくないもんだがな」
「決まった所で、祝杯と行きましょうか」と、マウリルク頭取が乾杯の音頭を取るようだ。
「では、カヅキ・クロサワ様に幸あれ」
「トオーースト!!」って、乾杯の掛け声なんだな、へー、とか思いつつ思考を巡らせる。。
「もう少し、資金調達を考えないといけないな」等と考えていたら、突然の話がクラークから出る。
「おほん! ではついでに、今週の収益が出ましたのでご説明致します」
「えっ? もう」
俺の驚いた顔を見てクラークは、したり顔でそう答えるのだった。
話は急展開を見せ、俺が砦村の領主となる事になった。
国の庇護を受ける受け無いは今後の成り行き次第だが、経済力とある程度の戦力確保は必至である。 ここで、クラークからの報告を受ける事となる。
「昨日までの、生産分を本日出荷致しました。 ついては収支報告で御座います」
「収益って、もう出たのか」つい、もう一度聞き返してしまった。
「庶民用のスプーン、ナイフ、フォークのセットが二万セット 貴族用の銀製スプーン銀貨、ナイフ、フオークが各銀貨二枚 デザートナイフ、フォークのセットを合わせまして百セットが出来ました」
「ふむ」
「一般人のセットで計銀貨八百枚に貴族のセットが銀貨千枚、エンピツの生産が薄い色が五千、濃い方が五千が出来まして、売値銅貨1で銀貨百枚。 しめて合計、銀貨千九百枚が収入として計上されました」
「凄いな、四日間の売り上げで金貨三十八枚か」
「来週からは六日間売り上げとなりますので、銀貨二千八百五十枚の売り上げが見込めます」
「ふむ、だが一般人用のフォーク等は頭打ちになるな」
「国外の輸出も行いますので、今暫くは大丈夫かと」
「我々、キンダイン商会も精一杯の努力を惜しみませんぞ」
「それに、銀製皿の数々も製作中ですので、更なる売り上げが見込めますな」
「そうか、でも現金がそんなに直ぐ手に入るものなのか?」
「いえ」
俺の疑問に即答したマウリルク頭取は、胸元から小さな紙束を見せてこう言った。
「もちろん、手付は払いますが、現金即払いと言う訳にも参りませんので、手形を出しております」
「そうか、判った、ご苦労だったな」
「いえ」
「で、こいつらの護送はどうする? 昼間は不味いんだろ」
「いえ、この宿の裏から荷馬車で運びますので大丈夫ですぞ」
「そうか、それから、食品の加工場みたいな物はあるかな?」
「何か生産ですか? あぁ、獲物の話ですな」
「ああ、取り敢えずな。 今回の狩りの獲物を砦村の備蓄にしたいんだよ」
「成程、助かりますな。 で何頭ほど狩りを?」
「うん、ミク、今回の討伐在庫リストを出せるか?」
「はい、おにぃ様」
『ストレージ・ドロップ』
ミクは自分の収納からメモ帳を取り出すと、一つ咳払いをしてもったいぶる様に、クラークに向かってその報告を始めた。
「ラビホーン十五羽、デアホーン十一頭、リザードボア五頭、ロンガムベア一頭、ウッディフログ一頭になります。 えっとー、素材の方も言いますか?」
「何と!」、マウリルクは驚愕の表情で目を見開いていた。
「いや素材の方は良い。 剥ぎ取りもしてない奴は置いといて、それ以外を出そう」
「これはまた、リザードボアが五頭もですか?」
「そうだな、大きかったから精肉だけでも十tは超えると思うぞ」
「いやはや、そんなに一度には加工は無理です。 ハハハ」
「全くですな、クラーク殿。 うちは素材は扱っておりませんが、その素材だけでもかなりのお値打ちかと」
「ですな。 さて、加工方法ですが、ラビホーンとデアホーンは干し肉か燻製に加工出来ます。 リザードボアは美味ですが、脂が多いので塩漬けですな」
「明日は、午前中にギルドに依頼完了報告をするから、その後で砦村へ向かう事にしよう。必要な分だけ卸すよ」
「そうですな、職人も三十人超えましたので、顔見世とご指導の方を宜しくお願い致します」
「ああ」
話はここまでにして、ゆっくり食事と酒を堪能する事になった。
俺もゆっくりと、うちの女子連中の労をねぎらうとしようか。 しかし、先に口を広げたのは彼女達であった。
「カヅキ、馬車であれはないわ」
「そうよ! どれが一番辛かったかって聞かれたら、あの馬車の帰りよ!」
「はい、おにぃちゃん酷すぎ」
「おにぃ様はサドです」と、まぁ散々の言われようだった。
「ごめんな、次からは気を付けるよ」
「しかし、初めての狩りは楽しかったな」
「そうねぇ、まさかリザードボアを六頭も狩るなんてね」
「そんなに凄い事なのか?」
「何言ってんのカヅキ、 専門のリザードボア狩りの奴らだって、十人以上で狩るって言ってたでしょ」
「うーん、そう言えば言ってた様な気がする」
「あらら、殆どカヅキが倒した様なもんでしょ」
「いやいや、トドメだけだろ。 皆が居なかったら俺だけでやれるわけねぇだろ」
「うふふ、そう言う所が好きだわ。 でもジュリナデリカ、一頭どれ位で売れるのかしら?」
「そうねぇ、一頭売れば、銀貨四百枚は行くわよ」
「えっ? そんなに行くのか?」
「討伐依頼の報酬は? 何だったの?」
「えっと、証明部位はリザードボアの耳で金貨十ニ枚、アイアンビートは顎か尾で金貨八枚ですね」と、モモが教えてくれた。
「そっか、一人頭銀貨二百枚で、金貨四枚づつだな」
「すっ、凄いわね」
「大金だよね?」「うわぉ」
「そうねぇ」
うーん、いきなり大金渡すのもどうなのかな? 俺はしばしここで悩む事になる。
マウリルク:クロカワ殿はやることが、並外れているようで・・・
こんな事ならあの時に、うちに引き入れてしまえば良かったのではないだろうか。
さすればキンダイン商会ももっと・・・お、おっとこのような事をクラーク殿に聞かれては・・・
さて、商いに行くとしますか。




