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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
胎動編
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異世界探求伝 第三話 やくざな男

この章の主人公になります。

始めと後では印象が変わって来るのですが

温かい目で見てやって下さいまし

 俺は『黒沢 かづき』 今年で三十一となる独身男である。

実家は由緒ある武術道場を生業として、それを営む古風な家で生まれる。 幼い頃から技を叩きこまれ、学生時代はそこそこ優秀であった。 だが、ある事件がきっかけで夢だった武術家はあっさりと諦め、高校を卒業して大学へと進学、社会に出てからは表面上は至って真面目であった。 仕事は器用さを生かし、経営コンサルト業務会社、別会社での派遣斡旋業務も社長としてこなしている。


 今現場では、新規ホテル設立の為の人材を集め回っている。

新年度新入社員はほぼ固まったが、大事なのは各部門の責任者と中堅社員の確保である。 今は支配人の肩書で奔走中の身の上だ。 だが、世の中単にきれいごとだけではやってはいけない。 そう、裏でけっこうヤバい事もこなさなければ、この業界では生き残ってはいけないのである。 会社は乱立すれども、それに伴う実際の直接戦力の絶対数が少なさすぎる。 営業、企画、経理、サービス部門は何とかなるが、調理部門は別だ。 それなりの腕になる為には、現場での実地業務で最低十年は必要なのである。 これは小さな居酒屋やファミレスの様には、うまく行かないのである。


そこで、活用するのは『ヘッドハンティング』恰好は良いが、俺のやっている事はある意味、脅迫じみた行為や弱い所を突いて行くのである。 まぁ、そのおかげで料理人の確保は何とかなりそうだが・・・・・・しかし、俺の思いとは裏腹に事は暗転して行くのだった。


「んーと、確かこのホテルの厨房勤務だったよな。 グランドシェフとその部下十名が来る予定だったな」

そのホテルは湖畔の古びたホテルであった。 早速受付に向かうと、そのGシェフを呼び出して貰ったが、今は手が離せないと言う理由で直接厨房へ向かう様に説明されたのだった。 で、そのホテル三階にあるという厨房へと急ぎ足を向けた。


「しっかし、汚いホテルだな。 調べでは腕が良いと聞いていたのだが・・まぁいい、連絡が急にこなくなった原因を問うしかあるまい」と、ぼやいた俺だったがいくら考えてみても、先に進むしかあるまい。 三Fでエレベータを降り、左を見ると突き当りにドアがあるが、厨房へ向かうドアだろう。 早急で事に対処するべく、足早にドアへと突き進むと、勢い良くドアを開けたのだった。


「すいません、Gシェフの知合いの黒沢ですが、シェフはおられますか?」

かづきは、近くにいた白衣を着たコックに声をかけた。 コックは会釈しながら、誘導するように先へと進むが、ここは調理の音もしないし料理の匂いもしない。 何か妙な胸騒ぎを覚えるが、行くしかないのだ。


「えっと・・Gシェフいらっしゃいますよね?」

「ああ、その事だが、その話は断らせて戴きたい」

ふと、前から出てきた黒服の男がそう話しかけて来た。


「えっと・・・あなたは?」

「うーん、名乗っても意味は無いと思うが」


!? ちょっと待て、これはトラブルだよな、完全に。 よし、冷静に考えよう、Gシェフはここに居ない、代わりに第三者の見知らぬ者が、名乗りは不要という事ははその必要性も無いとの事か。 てことは、俺がここにおびき出されたのか? まさか、消しちまえとかの展開はまずは無いな。 よし、ここは穏便に処理して、早く戻って次の対処法を模索って所だな。 かづきは頭の中でパズルを解きほぐすと、あえてここは冷静に対処するという態度を見せた。


「そうですか、Gシェフはうちにいらっしゃる事は出来ないのですね。 はい、こちらとしても了解いたしました。 では失礼いたします」

黒服の男に軽く会釈して、後ろを振り返ると白衣コック姿の男達十人ほどが、片手に刃物を握りしめ、にじり寄って来る。


「えっと、ご冗談ですよね? 刺されるほどの事はしておりませんよね」

前をまた振り返り、黒服の男に問いかけたが、男は冷たい口調で言い放った。

「理由か? あり過ぎて判らんと見える、お嬢もつまらん男に騙されたものだ」


「お嬢? 何の事だ」

「だから、その意味さえ判らんのだろ? だから名乗っても意味無いのだよ。 この世から居なくなる訳だしね」

「えっ? 殺っちまえって言われるような事は・・・・・・」


黒服の幹部らしき男は、俺の話を表情で(さえぎ)り、静かに話し始めた。

「一年前、ある大会社会長である孫のお嬢がな、一人の悪い男に捕まってな。 お嬢様は事もあろうに、会長の管理会社全ての情報を引き出し、その顧客名簿を含めて持ち出された。 その男は情報をネタに主要ポストにある幹部連中を根こそぎ引っこ抜き、価値の無くなったお嬢は妊娠させられた挙句、ごみのように冷たい雨の中に捨てられた。 ・・・そして自ら命を絶った」


・・・・・・確かに身に覚えがある。 しかし妊娠・・・し死んだ!? かづきはいきなりで、混乱していた。

「どうだ? おまいさんの命だけでは安いと思わんかね?」


それが本当の話であれば、確かに黒服の男の言う通りである。 悪い男が俺って奴は良く判った。 だが、腐った男でも意地があるし、それにあの娘が命を落としたのなら、墓参りくらいはしてあげたい。 と言うか素直に詫びたい、そう心に思ったが今はそれどころでは無いだろう。


意を決して、かづきはここまで来た道を振りむいた。 まさか、刃物を持つ男たちの群れの中へと飛び込んで行くとは、思って居なかっただろう。 不意を突かれた男達の足元に、滑り込むように足を差し入れて一人を倒すと、かづきはドアへと向かい走った。


「すまない! でもまだ命はやれないんだ」

大声をあげて、通路のエレベータのボタンを押すが、エレベータは一Fを指したままだ。

拳銃に持ちかえた男達は、先程のドアからなだれ出て来た。


「パン、パン」

「ちっ!」かづき毒づきながらも、はエレベータを諦め次の通路を右折した。


ドアの鍵が開いている事を祈りながら、ノブに手をかける。

「開いた」

急いでドアを閉め進むと、そこは渡り廊下であった。 向こう側には別棟が見えたので、滑り込むようにドアにたどり着き慌てて内鍵を閉める。


「あれ? 男達が寄ってこない」

此方へ駆け寄る足音が聞こえなくなり、入り込んだ場所の様子を見てみるとどこかの部屋であった。 なにやら獣臭と薬品臭がする。 電気はついておらず、辺りは真っ暗の闇である。


研究所? 男が向かって来ないのはここへ誘導出来た為? なのか・・・ふと右ポケットに何かが引っかかっているのにかづきは気が付いた。 それはナイフであった。


さっきの部屋で男に向かって滑り込んだ時か。 偶然男の手から滑り落ちたそのナイフはかづきの右ポッケに入り込んで刃先で突き破ったまま引っ掛かっていたのだ。 取り敢えずかづきはそのナイフを右手に取り、暗い部屋を進んだ。

 

「しっかし、臭いなぁ。 ネズミでも沸いてんのかよ」

その時、赤い目を光らせたそれはいきなり噛みついて来た。

「あっちー!」

慌ててかづきはその痛みの元を見つけナイフを振りかざした。

「キュー!」

「ちっ! やっぱりネズミかよ。 しっかしでけーな、ドブネズミかよ」


 手探りで前を進むと目が慣れたのか、机がうっすら見えてきた。

書類が散乱しているので、それらを適当に手に取り棒状にいくつか丸め、その内の一本にオイルライターで火を点けた。


「うはー、居る居る。 ヤバいなこれ」

ラグビーボール位のネズミが、赤い目を光らせて様子を伺っている様だった。 辺りを見渡し、モップを見つけると先端を外し棒にした。 しばし棒を見つめてネズミを突いてみるが、「チュー」と声を発するだけで逃げようとはしない。 それどころかこちらへ威嚇さえして来る。 二本目の松明に火を点け、最初の松明をネズミに向かって投げつけるが、ただ真横に逃げただけである。


かづきは棒の先端にナイフを突きつけ割れ目を入れた。 ズボンのベルトを手早く外すと、ナイフで両脇に引き裂き縦長に切るとそれを紐とした。 そしてナイフの握りを押し込むと、何重にもきつく縛り一本の(もり)を完成させた。

「ゴソゴソ」 「チュー、チュー」 「ガザガザ」

ネズミの数が増えているようだが、これはヤバいな。 灯りを照らしながら、銛でネズミを何匹か突いてみるが、いかんせん無勢に多勢か。 こういう時こそ冷静な判断だな、打開策を考えよう。


その時立ちくらみがして、足元がふら付いた。 なんだ!? 体がだるい、興奮が冷めた時の倦怠感に似ているが・・・・・・

「くそったれー!」


3本目に火を点け日本目を投げつけながら、銛で乱刺しして行く。 その時ボロボロに引き裂かれた布の中に骨を見付けたのだ。 数人が折り重なるように、倒れたいた様で骸骨の周辺を注意深く見ていく。


何か使える物は無いか? その時骸骨の右手に握られたものを見付けた。 注射器だが、何も入ってはいない様だ。 蒸発したのか? 近くを見渡すと、その近くに銀ケースがあるのを見付けたので拾い上げると、中身を確認にしてみる。

「注射器と・・・何かのアンプル、か」


だが、それが何かは判るはずも無く、とりあえずポケットに仕舞い込んだ。 机の引き出しを乱暴に引き出し、中を見てみるが使えそうな物は無い。 松明用に数本の紙の束を巻いて、ズボンに押し込むと進んで行くと更にネズミは増えて行く。


次第にかづきの足に力が入らなくなり、手が震えが、来はじめている。 こういう状態になり、初めて事の次第を理解した。 「うぉー!」と、死に近づきたく無い一心で叫び声が出る。 声を張り上げながら、次々よ(もり)を振り下ろして行くが、その時何かのドアが見えた。 WCと書いてある、考える術すべも無くそこへ向かって駆け込んだ。

「良かった。ネズミは居ない」


窓から外を見ると下には誰もいない様だが、夕闇が辺りに迫っている。 かづきは便座に座り込むと、シガーを取り出し震える手で火を点ける。 かなり古いタイプの水洗トイレのようだが、水で洗うウオシュレット付の様だった。


「フゥー、最後の一服かな、でも死にたくないな。 考えろ、考えろ俺」

薄れ行く意識の中、思考さえも停止しそうになっていく己を奮い立たせると、意を決して胸ポケットからケースを取り出す。 一か八か賭けるしか無い。


そう思ったかずきは、煙草を便器の中へ投げ捨てると、邪魔な紙の棒をポケットから投げ出して、胸元に入れたケースから注射器とアンプルを取り出した。 慎重に、注射器にアンプルの液を吸い込ませると、針を上に向け空気を押し出し、そのまま左腕に突き立てたのだった。 細い針の先から、全ての液が吸い込まれると、かづきは体が弛緩(しかん)して行く様を感じ取りながら、もの想いに(ふけ)るのであった。


思えば自業自得である。 成り上がりたいが為に人の心を弄び、散々良心を騙して来た。 ギャングを使い地上げもやって来た。 手向かう奴は薬漬けにして、無理やり従わせる事もした。 女なんて性処理の道具にしか思った事は無い。


「ああ、俺ってかっこ悪いな・・・・・・」

そう思ったかづきはそのまま意識を落として行った。 便座からずり落ちて冷たいタイルの床へと弛緩(しかん)した体がくずれ落ちた。


――――――それからどれ位時間が経ったであろうか、かづきはその音で目覚めた。

どぶネスミがドアをかじっている音であろう。 「ガリガリ」とかじっているが金属製のドアだから暫くは持つであろうが、それも何時までであろうか。


「生きてる、のか」


かづきはゆっくりと立ち上がり、窓の外を見やるがそこには、月明りだけが寂しく辺りを照らしている。 足元の紙棒に火を点けると備え棚を物色した。 あったものは、可燃性の芳香スプレーが二本にトイレットペーパー、消毒液と洗剤が一本づつ。


窓をもう一度見て、体が入る事を確認するとおもむろに上着を脱ぎ、銛からナイフを抜き出し、慎重に上着を紐状に切り始めた。 高級なベルベットのスーツであった為、縒って紐にすると五メートル位の丈夫な紐になった。 恐らく敵は、俺が生きていれば出て来るであろう位置に潜んでいるはずだ。 この部屋には人の気配が無い事は確かな為に、夜が明けて確認するまでは出入り口は見張っているはずだ。


次にかづきは配線を調べた。 ナイフの先で、スイッチを慎重に開けて配線のネジを回して行く。 取り出した銅線を、更に慎重に剥がして二本に分ける。 二本の銅線の先端をゆっくり合わせると、軽い火花が起きた。

「やった、電気は生きている」


かづきが電源のスイッチを押さなかったのは、無意味に明かりを点けては、こちらが生きている事を察知される為である。 それで慎重に事に及んだのである。 配線のステーブルを外して行くが、ステーブルとは配線を留めるホッチキスの様な留め金具の事である。 配線の元は壁の中に入っているが、これには遊びが入っている。 遊びとは余分な長さのコードの事である。 思った通り、引っ張ったら床まで十分に届く長さの配線が取れた。 配線を下に落ちない様に気を付けて次の作業に移る。


芳香スプレーのボンベに、上着の残った端切れを棒状にして、スプレー口にしっかり紐で固定する。 消毒剤が塩素系なのも良かった。 洗剤と共にキャップを外しておく。 次に、上着で作った紐は水道管にしっかり結び付けている。

「これで準備万端だ」


ドア外で、ネズ公が『バリバリ』やってはいるが、もう後は無い。 そう、無いのだ。 かづきは息を整えて、ライターオイルで濡らしたスプレー口に火を点ける。 ドアを開け、その火炎放射器をネズ公に向けて発射、怯んだ隙にトイレットペーパーを全ての投げつけた。


やはり、火が点いたペーパーにネズミが怯んでいる。 この隙を見のがさず、少し離れた机に消毒液と洗剤をまき散らすが、これで塩素ガスが発生する。 これでネズ公が死ぬとは思って居ないだろうし、敵が乗り込んで来た時に、刺激臭がすれば怯むであろう。 次に、トイレのタンクに繋がっている蛇腹の配管を外す。


そして、コインを取り出すと、ネジを緩めて水量を増やして行く。 この時初めてかづきは、喉の渇きに気が付いた。 「ガブガブ」と渇きを癒して、次第に水が床に貯まって行くのを便座の上で眺めている。 

時計を見ると、夜明けまで後二時間足らずってとこか、三十分は待機だな。 頃合いを見計らって配線を落とす。


「バチバチッ」と音が聞こえ、ネズ公の断末魔もわずかに聞こえて来る。

「これで全滅とか無いよな」

かづきは手製火炎放射器に火を点けて、窓ガラスの四方の枠に沿って炙って行く。


空になったボンベを捨て、噴き出した水道管に口で水を貯めると、勢いよくガラスの四方に吹きかけた。

「ピシ、ピシッ」と音を立ててひびが入って行く。 かづきは革靴を片方脱ぎ、それを右手にはめ込んだ。

かづきの革靴には、尖端と(かかと)に鉄板が仕込んである。 これは、いざという時の撃退方法であるが、こいつを履いて来て良かったと、かづきはつくづく思ったものである。


右手にはまった靴で、丈夫そうなガラスの中心を思い切り叩き込む。その鈍い音でガラスは枠から外れて下へ落ちていく。 音が以外にしないところを見ると、上手く草むらにでも落ちたのであろう。 かづきは様子を探りながら、紐を伝って降りていく。

見てくれてありがとう。

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