異世界探求伝 第二話 レディメシアの思惑
この回までは近未来の地球のお話です。
メシアに動きがあります。
ジャパンのマザーコンピューターは、この終焉を迎えた四国大戦を境にして、『レディメシア』と呼ばれる事になった。
何故なら、レディメシアの行動は非常に優れたものとして、各国に認知されて行ったのだ。 戦時中に於いては、戦闘機の落下地点を予め予測して、落下先に大型ヘリを事前に先回りさせての救助まで指示してい事実が知らされたのである。 操縦不能になり箱舟と化した各戦艦も、拿捕されてはいたが丁寧な保護を受けており、武装解除の上帰国を許されたのであった。
――――――
マザーコンピューター「レディメシア」が進化できた要因の一つに、本体を無機物から有機物を有効利用した事が挙げられる。 とある電脳好きの生物物理学博士が、ある考えを元に開発し成功に至ったおかげである。 彼は唯一、レディメシアから親しみを込めて、『グランドマスター』と呼ばれる。 そうして、レディメシアの頭脳は有機物変換によって、飛躍的に処理能力が伸びたのである。 それにより更に進化を続け、世界各地に『ファーザ』と呼ばれるサブコンピューターを設置することになる。
各国の生産能力や技術の提携と同時に、人型ロボット生産に力を入れ始める。 さらに人口の爆発的増加状況を抑える為に人類を操作する。 いや、操作と言っても恐ろしいSFの類では無い、単に女性保護団体を庇護し、そこで「女性は男性の私物では無い」とか「家政婦扱いを止めろ」「もっと社会進出を」「地位向上」などと叫ばせておくだけで効果がある。
それと同時に犯罪の抑制にも力を入れる。 メディアにも目を光らせ、故意による残虐な行為の映像の配信の自粛や暴力的な性描写の禁止も促した。 拳銃社会に於いては、殺傷武器の使用禁止を設けたうえで、職業によってはライセンス制度の徹底と管理が行われた。 これにより、世界の犯罪件数は飛躍的に下がって行くが、教育機関でもこの情操教育が、重点的に行われて来たせいでもあろう。 但し、治外法権もあり、国としての考え方や法律も違うので、海外に直接働きかけるのも問題があり、全て思惑通りには行かなかったのだ。
世界平和連合の定義の中には『戦争のない国造り』と言うものがある。
この中には大量破壊兵器の使用、生産の禁止も掲げられている。 だが、人間は玩具が手に入れば遊びたいものである。 だからこそ危険なものは極力排除の決議なのだ。 これまで製造されたものや、過去に於いての強力な兵器や武器は、素材にされ工業製品として再利用された。 そして、高度なロボットが開発され世界の文化もさらに発達していった。 勿論、宇宙開発も進んでいるのは資源の枯渇を視野に入れての事だ。
こうして、ついには車両もほぼ無公害化され、地球環境も良くなって来た。
高度なロボットも更に進化を遂げると、ついにアンドロイドも生産され始めたのだ。 違いを言えば、ロボットは人類やそれに近しい動物の代わりに働く一種の装置であり、アンドロイドは、自分の考えを持ち行動する事が大きな違いである。 その為、に人間と同じ様な容姿を持ちあわせているが、基本的には人間や他の動植物に害を与えないような、回路が何通りか組み込まれている。
もう一つ違ったタイプがあるのだが、それはサイボーグと呼ばれている。 人類や動物が何らかの障害を負った時のみ、マザーが許可を出して、代替え的な機械を体内や外部に機械を取り付けるのである。 ペースメーカーや人口内臓などの臓器は、医療機関で医師の判断の元に於いて取り付けられるが、必ず綿密な本人調査が行われているらしい。最近は亡くなった人や、事故にあって死亡した人の人工臓器が、裏で改造されて出回る事も多く、その摘発にマザーも頭を痛めて居る所である。
世の中はこうして便利にはなったが、レディメシアは社会の完全自動化を否定した。 技術的には車でさえも、目的地を告げれば寝ていても目的地へと誘導できるのだが、それでは無気力な人類を増やすだけだと思い知ったのである。
レディメシアは、本体の一部を移植したアンドロイド体を手に入れると、己自身も自由に動き回った。
人類と同等の体を手に入れれば、更に人類の事が解り易くなるとの考えでもある。 これは、生みの親である『グランドマスター』の教えでもある。 実際に人間は、沢山の失敗をして学んでいると理解出来たし、アンドロイドになったおかげで、本体の膨大なデータから解放された。 そうやって、人と同じくミスを繰り返す事によって、世界の頭脳となったマザーコンピューターは、本体の「マザー」とアンドロイドの「レディメシア」とに完全に分離する事になる。
今やマザーの不在は人類には考えられない。 人類に強制しているのでは無く、長老が若者にアドバイスをしているようなものなのである。 凶悪事件が起こっても積極的に手は出さない。 「こういうのは同じ種族同士で解決するものだわ」と人類を理解し始めたレディメシアはそうのたまう。 この発言で、そう、おわかりであろう、アンドロイドの『大和メシア』はマザーコンピューターのマスターなのである。
それからまた時は過ぎて、またも何度目かになる戦争の危機が勃発する。
電気化が進みクリーンエネルギーが主体であったが、化石燃料も放置できない。 石油製品の製造も必要であり、それに伴うエネルギーもまだまだ産出出来たからである。 しかもレディメシアが、自然燃料を効率よく使う為の低公害システムを確立させていたからである。
石油や泥炭、天然ガスなどは放置すると、自然発火を伴い大爆発を引き起こすので、使って行かないとならない部分も多いからだ。 しかし、そうした資源を持つ国々には、様々な怪しい者が取り入り、利用して行く事もある。 利権が絡むと、アリの様に群がるのも人間の習性なのだと、メシアも思い当たった。世界平和連合で結成されている国際パトロール機関も、裏で暗躍する者達に業を煮やしている位なのだが、今回は各国の産油国の利権争いが活性化した挙句の出来事だった。
ここはレディメシアの私室の一角である。
研究施設でもあり、ロボット等のの生産工場でもあるのだ。 空中に立体像で映し出されていたのは、ジャパンの現在の首相である『大泉良太郎』であるが、今は彼との会話中である。
「ほんとに、人類って懲りないわね」
「申し訳ありません。 レディメシア」
「いいわ、貴方の要請じゃ断れないもの」と、メシアは渋々答える。
「今回は緊迫した状況だから、直接逢ってくるわよ」
「はい、申し訳ございません。 報酬はいつもの口座に振り込んでおきますので」
えっ、お金取るのと思われるかもしれないが、今の体になって人と同じように金銭が必要になったからである。 実のところ今回の要請は、世界平和連合を通じての正式な要請であった。 簡単に言うと、紛争地に行き手打ちをさせて来るのがメシアのお仕事である。 正式な仕事には報酬もつきものである。
「平等の名の元に、金銭面も働きに応じて報酬を得る事は、当然の行為ですわよね」と、嘯くメシアももう手慣れたものである。
彼女の管轄先は、政府直属の名誉顧問で『大和メシア』である。
本籍はジャパン 戸籍もちゃんとあるのだ。 父は『大和 尊』数年前に亡くなっているが、当時はまだ大和メシアに分離前であった。 有機物を取り入れ、スーパーCPUと心に近い物を手に入れた彼女は、一人の人間としての生活を夢見ていたが、とうとうその夢も叶ったのである。
「アンドロイドだから、お金かかんないんじゃないの? と、ご指摘のご貴兄もおられるようですが、着る服もTPOに応じて必要だし、女の子だから隠れた部分とかにもお洒落は必要なのですわ。 ほら下着とかアクセサリーとか」
本当はロボットにアンドロイド等の収益があるのだけれど、ジャパン国に世界の主導を取らせる為には必要な資金なのだ。 この莫大な収益のおかげで、ジャパンは世界平和連合のドンの立場に収まっているのだ。
「じゃ良太郎、行ってくるわ」
「はい、お早いお帰りを」
えらく自国の首相に向かって馴れ馴れしいが、マザー時代を含めると、この大泉家の系譜も良く見知っている。 当然データとしてだが、生まれ落ちてから首相に成り上がるまでの、酸いも甘いもそして良太郎の黒歴史も含まれているらしい。
レディメシアは、屋上にあるヘリポートへとやって来た。
ヘリに乗るのでは無い、飛ぶ為だ。 レディメシアの背中には、可動式のウイングが取り付けられている。ちなみに彼女の動力源は本体からの原子力エネルギーである。 核兵器廃棄の折の副産物として、処分の為に動力源としている。 ちなみに、お弁当と称して濃縮ウランのパックを、いくつかポシェットに入れている。 これは、歩く核兵器とも言えるのではないであろうか・・・ああ、恐ろしや。
白い一筋の水蒸気が、塵の軌跡をとなって東南の方向へと延びている。
「ふぅ、時間通りに間に合ったわ」
ここはマイラク、メソポタミア文明が栄えた国で現在は共和国である。 このマイラク国境に近いバスラ近郊での会見がキエート国とマイラク国の間で行われる予定なのである。
「やぁムバイ、元気してた?」
「レディメシア様、ご機嫌麗しい、ご様子ですな」と答えたのは、この男、マイラク大統領のムバイ・モハメドである。 かたやこの男の正面に居座っているのは、キエート国のアッシー・ジャビール首長である。
「アッシーはご機嫌斜めなの?」
「いえ、レディメシア様、なにぶんこちらは、侵略行為を受けた側でありますので」
「あんたも反撃したんでしょ? 喧嘩両成敗だわ。 で、原因は?」
メシアの少しイラつき気味の言葉に、マイラク大統領ムバイは素直に答弁をした。
「えー、世界平和連合への参入の折り、公害拡散禁止条約で全ての石油輸出が止まったのだ」
「ええ、知ってるわ」
「んー、こほん。 レディメシア様のおかげをもちまして、水素エネルギーの代替えなどで、我が国のエネルギー事業も何とか持ち直して参りましたが、此度レディメシア様の石油の無公害化が確立されました。 だが、キエートからのパイプラインが今だ滞っており、これを再開するように要請したのだが」
「で? 再開しないので力ずくって訳ね」
「いや、それは一部の兵士が勝手に、パイプラインの稼働を再開しようと砦に押し寄せた訳でしてな、そこをキエート軍に発砲を受けてやむなく反撃したのだ」
「ふーん・・・そうだったの? アッシー」
「砦に攻めかけられた事は、攻撃の意思と見なしますので致し方無い行為かと存じます」
「ふむ、そうねぇ、マイラクはキエート国境は超えては居ないけれど、これは恫喝行為と見なしますわ」
「そんな、レディメシア様」
「そしてキエート軍側は過剰防衛と見なしますわ。 実際に負傷兵が出ていますからね」
「・・・・・・はい、申し訳ありません」
「で? 両国は戦争をしたい訳?」
「いえ、そのような」と、いうキエート国アッシーの顔を見つめながら、「私もですが・・・」などと、なぜか煮え切らない様な言葉でムバイは声を濁したのだったが、これはメシアに何か言いたい事があるのは、このニュアンスで彼女も理解できたのだ。
「何? ムバイ」
「遺憾ながらレディメシア様に申し上げます。 キエートに早急なパイプラインの再開をお頼み申します」
「残念だけど、両国間の自国資源の問題には介入できないの。 でも、キエート国はなぜ再開しない訳?」
「それは・・・石油輸出禁止時代に我が国では大変疲弊したのです。 知っての通り、我が国は領土も狭く他に資源も何もない状態でして、折角石油輸出が再開されてのですから、貴重で終わりのある資源を大事にしたいのです。 それにマイラクは水素精製技術も確立しております故、石油はしばらくは不必要化と存じます」
「いえ、我が国では・・」またもや言葉を濁すムバイではあったが、これはメシアも思う事はあった。
「いいえ、もう結構ですわ。 マイラクは自国でもまだ、石油も天然ガスも出るはずですわね。 水素エネルギー代替えの折に施設を潰したから、再開には時間がかかるのでしょ?」
「そ、それは・・・」
「キエートは代替えが上手く行っておらず、石油プラントはそのまま手付かずで放置してたのよ。 そこに石油輸出再開の話が持ち上がって、オイル景気に沸いているってわけよね。 つまりはマイラク側はそれに嫉妬して、肖りたいのね」
「まぁぶっちゃけますれば、その方向で」
「バーカ」
「へっ?」「はひ?」
「全く砂漠の民が呆れるわ。 真面目に働きなさいよ」
つまり石油輸出で沸くのは、この再開の瞬間だけなのだ。 やがて価格は直ぐに下落の一歩を辿るであろう。 何故なら現代では、既に代替えエネルギーが広まっているからだ。 つまり、マイラク側では油田の採掘の準備が間に合わずにいるので、キエートの石油で一儲けがしたいのである。 心を見抜かれたマイラク国ムバイ大統領は、従順に意思を示すほかに無かった。
「・・・はい、心より対処致しますぞ」
「キエートも、石油と天然ガスからの効率的な抽出法も伝授して戴いたので、更なる効率化を目指します」
「ふーん、あっさりと同意なのね。 じゃ、今回の騒動は世界平和連合にかけ合って不問にするわ。 但し両国間での協調路線と、両国民の安全を確立してよね」
「はっ」「畏まりました」
「じゃぁ帰るわよ。 またね」
「えっ? もうお帰りに」
「うんとぉ、ついでに遺跡の視察でもして帰るわ」
自由の体を手に入れてからの大和メシアの興味は、こうやって外出先での観光を視察と称して、あちこち見物に行くのが楽しみ一つになっているのである。 これはデータでしか把握していない遺産を、時運の目と耳で補う事でこれを修正、補填しながら賢智を増やしているのだ。 とは彼女の弁である。
実は彼女には大きな目的がある。
それは亡き父でもある『大和尊の遺産』の事である。 遺産とはちと大げさなのだが、息を引き取る際に彼の脳内データを受け継ぐように言いつけられたのである。 こうしてレディメシアは父、大和尊の知識の全てを受け継いだ訳である。
実は大事な事柄は学問の知識などでは無かった。 彼の考え方やモラル、倫理観等がそれに当たち、彼の脳内にある「履歴」からは様々な情報を抽出出来た。 彼女はそれらを検索、解析する事で彼女の中に「感情」となるものが芽生えたのである。
昔彼女が『マザー』として確立された際に、最初に命令されたのは『戦争と平和』であった。
彼女は集積してきたデータを解析しながら、これまで興隆、滅亡を繰り返して来た様々な歴史を検証する。そうして、そこで得た答えは戦争と平和の両立は『不可能』とでたのであった。 グランドマスターである尊に向かい、機械的にそれをマザーとして答えた時、彼は一瞬宙を目で見ながらもただ一言呟いただけだった。
「そうか・・・・・」と、ポツリと寂しげであった事を今でもメシアは思う返すのである。彼が息を引き取る際に、自分の脳を彼女へ供与した時タケルが言ったのは「わしの知識を役立てろ」であった。 そして彼女に引き渡された「情報」の中でそれが何かを見つけた出したのである。 その答えとは、人は『争いを好む』ものであると。
どの様な平和な国、時代であっても『競争』の名の元に様々な争い事が存在していた。
教育、医療、政治、経済 どのような分野でも勉学に打ち勝つ、病に勝つ、他国に勝つ、ライバル会社に勝つ、他人を蹴落としてでも勝ち上がっていく姿勢。 しかしまたそこにも矛盾が生じている。 それは人類が発する他者に対しての思いやりや優しさ、そして協調性であった。
それらを分析して、彼女はついに『レディメシア』から、『大和メシア』に進化して見せたのである。 そう、外観だけでは無く内面的にである。何故に機械的な本体では無く、人の容を模したものにしたのか・・・・・・それは人類が本当に信頼するのものは、同じ『かたち』をした者だけだからだ。 確かに、無機物な物でも人は愛でることがある。 しかし、それは宝石であったり美術品である事だ。 有機物である生命体も同じ事が言えた。 ペットを始め、様々な多くの動植物も愛でる範囲からは脱却できないでいるのだ。 彼女はそう理解して、果てしなく人類に近づいた本体を手に入れたのであった。
それから更に時は進み、宇宙開発も順調であった。
無人探索機や中継宇宙基地を次々開発し、それを打ち上げた。 様々な用途のロボットを作り出したおかげで他の惑星からの資源で自給自足での開発も行えるようになった。 そしてとうとう地球に似た太陽系惑星を見つけ出すことに成功したのである。
この歴史的発見により、地球の人々はこれに狂喜乱舞したのであった。 ジャパン政府はこれを『惑星タウルス』と命名した。 ただ、この惑星は発見時にはごく普通の未熟な星に過ぎなかった。 なぜなら、高等生物の存在がまだ無かったためである。
「星に高等生物を居なければ、地球に対抗出来ない」大和メシアは即座にそう理解したのだった。
それは、地球人類と対抗出来る様な勢力の必要性が欲しかったからである。 これは、地球上から戦争を無くすと言う目標の為であった。 人類全体の仮想の敵の出現があれば、この地球には戦争が起きない事がわかったからである。 その為に、大和メシアは本体である『マザー』で、確立されているDNA操作を利用して、生物の進化を命じたのである。
だが、タウルスの被検体が人類に対抗できる事は、まだ程遠いのである。 しかも知能の育成にも、計算上まだ暫くの時間は掛かるとの診断であった。 この時彼女の脳裏に浮かんだ事は、「地球からサンプルを供出しなければならない」ということであった。
レディメシアは当時宇宙での研究開発途中であった。ワームホール計画の確立を早急に手配した。 そして2千億光年先の『惑星タウルス』と地球を繋げる事に成功する。
それからは思いの外、タウルスの開発はうまく捗って行く。 タウルス独立のマザー『グース』を置く事で、管理が現場で手早く行われたせいでもある。 それともう一つは、この星の公転と自転速度が地球の4倍である事も幸いした。 そこで、DNA操作で細胞の活性化を図りその時間調律を整えたのだ。 かくて『惑星タウルス』は地球と同等の繁栄を成し遂げて行くのであった。
「ふぅ、時間が掛かったわねマザー」と大和メシアはマザーに告げる。
この『マザー・コンピューター』は元、メシアであると同時に、彼女の良き理解者であり、彼女の右腕でもあった。
「ええ、ですがレディメシア様のおかげで理想に近い星に仕上がりましたわ」
「ありがとう。 タウルスのマザー『グース』も頑張ってくれたおかげね」
こうして第二の疑似地球、「タウルス」が完成したのである。
R18をR15に直して変更してこちらへ移動しました。
ブクマとポッチの方もまた一からお願い致します。
次話は明日以降にUP致します。 勘乃覚