異世界探求伝 第十六話 打開策
何やらきな臭くなったカヅキの話だが
どうやら、打開策も見付けたようです。
話し合いに夢中だったので、つい時間に無頓着になってしまっていた。
三度目の飲み物を運んで来たモモが、夕食の準備が整いましたと呼びに来て漸く気が付いた所だ。
晩餐は魚の漬物みたいな物に白シチュー、メインは大型の鳥だった。 ミシェータはフォークの使い心地に満足し、これも俺が考えたと聞いて納得していた。 骨付き肉は小分けして、後は素手でむしゃぶりついて食べるのが普通だそうで、横にある手水で脂を洗い落としながら、頬張って食べていた。 まるでバイキングの様だなとか思いながらも、美味しく頂きました。 デザートにオレンジのシャーベットが出て来て、これにも女性陣は満足気であった。
食事が終わって庭に出ると、早速一服する。
夜の帳にくゆらせた紫煙が立ち上る、至福の時間である。 一本を吸い切ると話し合いが再開されるとの事で、モモから呼ばれて執務室へと立ち戻る。 既に腰かけていた三人で会話は進んでいる様だった。
「何か進展あったかな?」等と、聞いてはみたが、「まぁー! 他人事なのね」とは、ジュリナに怒られてしまった。 俺は取り敢えず謝ると、話を続ける事にする。
「御免、そんなつもりは無いよ」
「まぁまぁ、取り敢えず再開致しましょう」と、クラークの仕切りが入った。
「そうね、一番の良策は登録をしないって事かな」
「そうだわ、でも無登録でも販売すれば、出先を嗅ぎ付けられてその内発見されるわね」
ジュリナとミシェータも危惧している様だ。
「と言う事は『ジュウ』に関して販売凍結ですかな」
「何をやるにしても、資金調達は必要ね」と、ジュリナから指摘を受けて、俺は鉛筆の件を思い出した。
「そう言えばクラーク、鉛筆の具合はどうだったかな?」
「ああ、そうでした。 使い具合は何というか、凄く便利の一言ですね。あれはどちらで?」
「あれも、クラークに任せようと思ってるんだけど」
「左様ですか、では工房を新たに増やしますかな」
フォークは特許では無く、カーブを付けた場所と葉の数を増やしているので、実用新案の権利となる。 これはこの地でも登録可能だそうだ。 ミシェータが解説してくれた。
「後は生産、販売権位ね。 エンピツに関しては正式に発表しても単価が安いから、さほど問題定義され無さそうだわ」
「ですが、利権を求めてやってきそうですね。 取り引き量も多くなりそうですし」と、クラークは言うが販売網は既にあるので、そう難しくは考えなくても良いそうだ。 俺はここでブランドを立ち上げる事を提議する。
「チーム龍のブランドで売って行こうか。 食器には文字を掘るか刻めば良いし、鉛筆には刻印を入れてしまおう」と、金属箔で文字を入れる手法を説明してみた。 金箔や銀箔等は既にあるそうだ。 彫刻や木像、花瓶等の表面に貼って使っているらしい。 俺は紙に「龍」の字を書いて、この字体を彫金師に彫らせて箔で押す事で、印字出来ると説明した。
「成程、既にブランドは個人名で在りますが、チーム龍の『龍』ですか、良い書体ですな。 それに活版印刷ですか、これで本の製作も可能ですよね」
「そうだな、インクを使えば大量に印刷が可能だ。 しかし紙質も考えないとな」と、話が広がりそうだったので、一先ずここは話を切ってクラークに食器の話を振ってみた。
「フォークの生産には、めどが立ってるか?」
「生産工程は金属加工⇒金属板製造⇒雛形プレス⇒湾曲⇒メッキ処理⇒彫刻⇒磨き仕上げとなっております」
「あー、彫刻はと湾曲は『雛形』の部分で対応可能だね。 雛形を浮き彫りにすると、掘った模様に型に刻み付けられて、浮き彫り風にする事が出来るよな」
「はぁ、流石ですね。 まだ加工途中でしょうから修正致します」と、クラークは部下を呼び出している様だ。
「高い方はどうなってるのかな?」
「一応見本用に、職人が作成中ですが」
「うん、そっちも大きさを揃える為に金型作るといいよ。 問題はその後の彫金作業だろうから」
「はい、見本が完成次第お持ちします。 良ければそれを定型にして、雛形を作成しましょう」
「そうだな、ついでにナイフ、スプーン、デザート用も」
クラークは、今までの話ををメモしているけど、急がせて悪いが話を進めさせて貰おうか。
「見込み収益は計算出来てるのかな?」
「金型の完成次第ですが、一度に五十本は行けると存じます」そう言いながら、クラークは何やら道具を持ち出して来た。 木の棚みたいなものに、色違いの平べったい石が幾つも束ねてある。
「それは?」
「これは計算する道具です。 えっとー販売はお幾らに設定されますか?」
「合金板の原価はいくら?」
「はい、一枚銀貨一枚での契約です」
「どの位の大きさかな?」
「ニm幅で長さが縦八十㎝で横30㎝ですが」
クラークはスプーンの絵図を書いた紙を持って来た。 俺はこれではいけないと思い、急ぎ修正をする。
「ふむ、ちょっとフォーク二本と、俺の部屋に残ってる粘土とボンドを持って来てくれないか?」
「はい、畏まりました」と、モモが直ぐに飛び出して、持って来てくれた。
「これは試作で出あがったフォークだが、こうやって互い違いに置くと」
「おお 沢山出来ますね」
「だろ 倍は出来るぞ」
次に木工ボンドをつま楊枝を使って、フォークに図柄を書いて行く。 輪郭をなぞった後に、麦の穂をイメージして簡単に書き、その裏側には「龍」の字を入れる。 逆字なので字を書いた紙を裏返して透かして見ながら手本にする。 そして乾かすと、粘土に押し付け、型を取りクラークに渡すがまずまずの出来だ。
「良いデザインです。 二度手間になったようで申し訳ありません」
「いやいや、大丈夫」
「では、直ぐに発注を掛けますので」
「で、収益の件だけど、この国の平民の平均月収って判るかな?」
「そうですね 宿の店員なら銀貨五枚、乗り合い馬車の御者なら六枚、兵士だと四枚程度でしょうか」
「成程、頭に入れた。 そうすると、金属板⇒雛形プレス⇒削り⇒メッキ加工⇒商品チェック⇒磨き上げの順になるな」と殴り書きをして行くが、それを見ながらクラークが必死に鉛筆を走らせている。
「そうすると、プレス、削り、メッキ、チェック、磨き、梱包の六工程が必要だ。 月給銀貨五枚で換算すると、日給で銅貨ニ十枚になるな。 六人だから日給銅貨百二十枚か」
「お早い計算で・・・・・・」
「金属板一枚が銀貨一枚で 一工程ニ十分で一時間三工程、八時間労働でニ十四工程でフォークをプレス一回百本生産して、掛けるのニ千四百本だな」
「お、追いつきません計算が」とのクラークの悲鳴で、ミクが書記を始めた様だ。
「フォークの一本当たりの単価は銅貨一枚。人件費が一本辺り小0,0五銅貨、メッキ加工と手間を考えても一本銅貨一枚半で出来上がる計算だな」紙に書きだしながら、クラークは手に持った石の手を止めてしまった。 それを見てジュリナが思わず口に出す。
「ねぇ、どうしてメモしながら計算機を使わずにそんなに早いの?」
「うん? 暗算だぞ、メモは一応覚書き程度だな」
「そ、そうなんだ」と、納得したようだ。
「で、月に二十五日生産し月に六万本生産が可能となる。 これは週休1の計算だぞ」
「銅貨五枚で売れば三十万だから銀貨で三千枚、金貨で六十枚が粗利だな」
「人頭税だっけ?三十%だから銀貨九十枚になるな。利益は月銀貨二千百枚か」
「年間だと銀貨二万五千二百枚で、金貨五十枚と銀貨二十枚だな」
「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」
「うん? 銅貨五枚は高いのか」
「い、いえ、今までのフォークは銅貨四枚程度ですので、使い心地とデザイン、材質を鑑みて良き設定かと存じます」
「そ、そうね、収益の凄さに驚いただけだわ。 いえ違うわ、その計算力に驚いたのかもしれない」
「私はどちらかと言えば武術が得意だし・・・・・・」とはジュリナの弁。
「はぁー、今計算終わりました。 合っていますな、全て・・・・・・」とクラークは少し疲れた表情で答えてくれた。 今度暇を見てソロバンを作っあげよう。
「うん、ていうか、ささっきのフォークの件だけど、ナイフとフォークもあるんだから三倍になるよ? 売り上げ」
「げっ」 「ぐはっ」 「ふぅー」
「これは確実に狙われますね」
「・・・・・・えぇ」
「本来はそういった話し合いであったのですが・・・・・・」と、周囲は呆れ顔であった。
「売り上げが多いからヤバいなら、下げればいいだけだろ」
「ええー、折角の収益を減らすのですか!?」と、ミシェータが身を乗り出して来る。
「収益は減らさずに出来るぞ?」
「どうやって?」
「各工程ごとに主を置く。 主は工程ごとの主に次々回して行くんだ。 こうすれば一工房辺りに売り上げが分散されて目立たなくなるな。 主は名義で良いんだから俺達四人で分散すればいい」
「成程、それなら目立ちませんな」と、クラークも納得顔だ。
「それから開発費と設備投資費用に運営費も、売り上げから差し引かれるんだろ」
「そうですな、良いお考えです」落ち着いたクラーク。
「少し、宜しいかしら?」
「うん、ミシェータ」
「なぜそんなに知識が豊富なのかしら? 聞いても?」
「ああ、俺は国でコンサルタント会社やってたんだ」
「コンサ・・・・・・?」
「ああ、潰れそうな会社、つまりお店を立て直す仕事だよ」
「へぇー、そうだったんですの」
「そうそう、沢山の業種の仕事に関わって来たからさ」
「ほー」
「立て直すにはその店の製造工程や販売の仕方、売上、品質の方法を知らないと駄目なんだ」
「何十件も?」
「いや、何千件だな」
「はぁー、それで何でも知ってるのね」
「まぁ知ってる事だけなんだがな。 あっ、魔法は無かったから魔法の事に関しては全くの素人だな」
「あっ! それはわたくしが得意ですわね。 私が教えて差し上げますわ」
「おお、それは嬉しいな。 読み書き出来なく本も読めずで困ってたんだ」
「うぅー、ずるぃ」
「あら? ジュリナデリカ、何かご不満でも?」
「うぅ、適任者なのは理解してるわよ」
「でしょ。 うふふ」
「あの、次の懸案、エンピツ工房の件で御座いますが」と、クラークが脱線を強制してくれた。
エンピツに関しては安価な筆記用具にしたいとの、俺の希望で単価はかなり下げさせて貰った。 しかし、長い目で見れば消費アイテムでもあり、最終売り上げは食器と肩を並べる工房に成長するであろうと俺は予想していた。
「クラークにここで会社経営のイロハを伝授しよう」
「カイシャ? ですか」
「うん、社員に目的意識を持たせて、組織の耐性を上げるのに役立つよ」
ついでにクラークに社長を頂点とする、ピラミッド型の職務体制を教えてやった。 勿論 『報・連・相』も重要な案件についてはやるように勧める事にする。 こうして更に人集めに奔走する事になるクラークであった。
今日はサウナに入らずお湯を温めて、汗を流すだけにした。
今? 今は夜風に吹かれながらの素振りだ。 頭を空にするのに最適だからだ。 結局、銃関係の登録は凍結する事にした。 エンピツ、食器の売り上げで、当座の資金調達を賄う予定のめどが立ったからである。
クラークには、工房を目立たない場所に作る事を提案したが、人里離れた場所に適地があった。 元々使われていない古い砦があった場所だが、山賊が住処にしていた場所だそうだ。
距離が離れているので、居住区としての小屋も増設するらしい。 交通の便が悪そうなのは何かしてあげたい。 案件の一つとして、俺はラビにメモらせておく事にする。
部屋に戻ると、冷たいハーブティーを飲みながらの読み書きの練習だ。
いつもの使用人の男がやってきて、集中的にやらされるのだが、スペルは殆ど覚えたので、今日は単語の練習だ。 実は書きながらも重力を掛けての特訓もしている。 紙を突き破らない程度に加減しているつもりだ。 集中して書いているので、教育係の男も何故か満足気である。
魔力を使い果たす日課も同時進行なので、効率が良いし毎日精進だ。 明日からは銃の開発を再開する予定だが、ミシェータが屋敷にお泊りしている。 早朝の訓練にも魔法も組み込んでくれるらしいので、魔法の基礎すら知らない俺は、素直に喜んだ。 魔力を効率的に消費する方法をミシェータに聞いたら、暫くして沢山のオーブを持って来てくれた。
「これに魔力を込めて頂戴」
握りこぶしのオーブに張り切って魔力の充填して行く。 四個目を手に持った時に力尽きた。 ミシェータは用意してくれていた『マズーイ』飲み物を飲ませてくれ、ベッドに運んでくれた。
「ふぅ、ミシェータ助かる。 今日もぐっすり眠れそうだ」
「あのねカヅキ、良い事教えてあげる」
「うん、何だ」
「魔力強化をするのに普通は、空になるまではやらないのよ」
「そうだな、毎回頭がガンガンするし、体に力が入らない」
「うふふ、そうね」と、言いながらミシェータが俺の胸に触れて来る。
「おい! 何をやってる、誰か来るぞ」
「来ないわ、だってドアには結界が張ってあるもの」
「おーい! 誰か」
「ふふふ、無駄よ。 このベッドには風魔法の障壁を拵えたわ。 音は遮断されるのよ」
「くっ、何の真似だ。 詠唱なんかしてなかったろ」
「ふふーん♪」
見せつけられたのは、魔方陣の書かれたスクロールであった。
「何がしたいんだ」
「うん、それはね・・・・・」と言いながら、彼女はするりと肌を晒すと、俺に伸し掛かって来た。
今の俺は何の抵抗すら出来ずに、成すがまま受け入れるしか無かったのだ。 ジュリナの鬼のような形相が目に浮かんだが、始まってしまえば男としてその行為を止める術は無かった。
俺は狼に豹変しながらも、サガである男の生理を恨むのであった。
ジュリナ:ミシェータが何でも平等にっていうから・・・しかたなかったのよね




