異世界探求伝 第十五話 発明の代償
かづきの仲間が増えるようです。
俺はようやく完成した「鉛筆」を手に取り、ガスド親方とジュリナにその書き味と、使用感を確かめて貰っていた。 元居た場所では、子供の頃以外は殆ど必要のないものだったが、出来てみると感慨深くそして、とても便利の良いものに思えた。
「おお、これはすげー、書ける書ける」
「凄いわねこれ、エンピツだっけ? ああ、もう、どうしよう」
「これって水でもにじまないな、感動もんだ」
「そうだろ」とニヤリ顔で親方とジュリナの顔を見るが、親方がやけにご執心で声を掛けて来る。
「なぁ、なぁ、カヅキ、こいつの生産はどこでやるんだ?」
「うーん・・・・・・考えて無いな」
「なぁ、俺にやらせてくれよ」
「お前は武器屋だろ」
「いや、別口で立ち上げればいいだろうが、こいつは売れるぞ」
「うーん、おっさんには別件で儲け口を探すよ。 いいだろ?」
「何でだ! 俺はやりたいのに」と、ガスドはムキになって言うが、どうやって逸らすか考えてみるか。
「こいつを作る工場を新しく作るにしても、器具とか部品の受注がこっちに来るぞ」
「まぁ、忙しくなりそうだな」
「だろ? それに出来たら、幾らでも手に入るんだからいいだろうが」
「ま、まぁな、でもよう、金儲けも好きなんだがな。 ヘヘヘ」
「ほら、これで飲んでくれ」と、俺は袋から銀貨を五枚程、親方に投げてやった。
「おっ? いいのか」
「ああ、またアイデアが出来たら開発の手伝いをやってくれ。 良いな」
「お、おう、任せろ。 優先でやってやる」
「フー」、漸く親方の矛先を苦る事が出来た様だ。
俺は残りの「エンピツ」数本を親方にあげると店を出たが、濃い薄いの四セットはジュリナに渡して、モモ達のプレゼントにしてくれと渡すと、文具屋に向かう事になった。 きちんと包装して渡したいのだそうだ。 ついでに俺も紙を数種類買って帰る事にした。
「図面書くのに机が欲しいな」と、ジュリナに言ったら、備え付けじゃダメなの? と聞かれたので、訳を話す。
「うーん、部屋の机じゃ書きにくいんだ。 専門の物を作りたい」
「机を改造するのかな?」
「うん、多分」
「使わない机なら、屋敷にいくつかあるよ?」
「ん、じゃそれ貰う」と言う事で屋敷へ戻ると、改造してもいい机をゲットした。
製図台は至って簡単である。
上蓋を外し角度を付け直すだけで、終わりである。 定規に板を張り合わせてT定規も完成。 出来た鉛筆とパンをこねて、消しゴム代わりに使いながら、何とか「銃」の分割図面も書き終わった。
必要な枚数を書き終えて、一服しながら「銃」の事を考える。
誰でも使えるようにすると、世界が混乱し戦が絶えないであろうし、正しく使わせるにはどうすればいいのだろうか。 かづきは目を瞑り考えを纏めてみる。 銃自体に契約魔法を使い、所持者を固定する。 威力を制限する。 改造や分解が出来ないようにする。 射程も短くしないとな。 魔法は何を使うか・・火、土、風辺りが早いかな 雷、岩、氷とかは複数魔法で複雑だよな。 本人の感性で出来た方が、多様性があるかもな。 攻撃方法は自衛でのみ使用可能・・・・・・
いやいや、先手必勝でやられるな。 キーワード『動くな』とか『止まれ』でセーフティ解除が良いかな。 いや駄目だな、俺なら喋れないようにして、封じる対策を取るな。 自分で使用する分にはより強くなりたいが、それを使用されるとなると途端に尻込みしてしまうカヅキであった。
取り敢えず、試作で作ってしまって後で考えようかな。
昼食にと持たされたサンドイッチを頬張りながら、考えは先送りにする。 図面を携えて魔道具屋のミシェータの元へと向かって歩いた。 彼女は店内で赤髪を後ろで束ねた格好で、素材を集めて作業をしていた。 図面を見せると、彼女は店を閉め、奥の作業場へと向かった。
「Φって何ですの?」と、図面を見ながら彼女はあれこれ聞いて来る。
「Φファイは直径だぞ、数字の右上に○が付いてるのは角度だ」
「成程ね、判り易いわね。 貴方、学者さん?」
「いんや、一般人だ」
「ふーん・・・やけに高度な図面なのね。 いいわ、トレースしておくわ」
「トレースって、コピー出来るのか?」
「ええ、特殊な紙があるの。 ほら、これよ」
「厚めの上等な紙だな」
「ええ魔石の粉が入っていて、ここに感光させて写すのよ」
「へぇ、良かった」
「オーブを加工した魔石の粉末は沢山あるしね」
「オーブ?」
「うん?オーブよ。 魔物の体内で取れるのよ」
「魔石じゃないのか?」
「ああ、オーブを素材として扱う時の名称が魔石なのよ」
「ほう、オーブの使い道は?」
「加工して宝石扱いになるわ。 魔法陣を組み込んで、魔力を使わずに魔法発動なんか出来るわね」
「魔道具だな」
「ええ、それから魔石には、魔力を込める事が出来るわよ」
「どれ位?」
「うーん 魔力を込めすぎると暴発するわね。 ある程度込めると吸収が止まるのよ。それを更に魔力を込めると、過剰供給に耐えられなくなって壊れちゃうの」
「やったことあんのか?」
「あ、まぁ学生の時に小さなもので・・・・・・」
隣に座るジュリナがジト目をしている。
「あの時は大変だったわ」
「ちょっ、言わないでよ」
「何だ ミシェータとジュリナは接点があんの?」
「・・・王都学園の同級生だわ」「ええ・・・・・・」
「へぇー、じゃぁ仲いいんだ」
二人は押し黙ったので、何か禁忌に触れてしまったのだろうと思ったが、契約仲間でもある。
それに、二人は綺麗で可愛いしそれぞれ腕が経つ様だから、ここは一気に近づけちゃおう。
「お前ら 仲が悪いのか?」と言うと、とうとう俯いてしまった二人。 俺はここで演技に興じて見る。
「そうか、じゃ仕事はできないな」と、言いながら図面を掴もうとすると、ミシェータが凄い勢いで両手で抑え付ける。
「契約違反になるわよ」
「そうだな、しかしこの三人の合意が認められれば、解除できるんじゃ無いのか?」
「そうだけれど、私は同意しないわ」
「いいぜ、敵対するならしてくれ」
「・・・いいわ 判ったわよ。 私が折れれば良いんだわ」
「それじゃ駄目だな」
「えっ?」
「まずは、どうしてそうなったか教えてくれないか?」
「だってジュリナデリカは、私を目の敵にしてボコボコにするんだもん」
「ちょっと、大袈裟。 それは剣技の授業の時だけでしょ。 私だってミシェータに魔法実習で散々辱められたわ」
「成程、ミシェータは魔法が得意で、ジュリナは剣技が得意だった訳だな」
「ちょっとだけよ」 「劣っていないわ」
「ふむ、で得意な授業で対戦すると、何方かが一方的に遣られたんだな」
「・・・・・・」「・・・・・・」
「良いか二人とも、ここは学校じゃないんだぞ。 仕事としてお互いやって行くには、何が必要なのかを理解しろ!」
「だから、私が折れれば良いんでしょ・・・」
「ミシェータ、それは間違ってるぞ、お前が足り無いものをジュリナは持っている。 そうだな?」
「まぁ、そうね」
「ジュリナに足りないものをミシェータは持ってる。 どうだ?」
「ええ」
「それって二人が組めば最強って話だろ? 違うのか」
二人は顔を見合わせているし、理解できたのかな。
「俺には二人が必要だ」
「どうだ? ここから新たな関係を築くのは」
「え、ええ! 手を取り合って進むのね」
「そうね、言われてみれば、何で対抗意識を燃やしてたのか不思議よね」
二人はどちらかとも無く、手を差し出して握り合った。
そしてゆっくりと抱き合った。
二人に目には涙が溢れている・・・・・・うーん眼福だな。
「そうだな、チーム名を考えないといけないな」
「チーム?」 「ギルドのパーティみたいなの?」
「ああ、そうだな同じ目標を掲げて進む仲間の事だ」
「何か素敵ね」
「チーム名は、カヅキで良いんじゃない?」
「ダメだな、良いチーム名は無いのか?」
二人は人差指を顎に付けたり、頭にしたりで悩んでいる。 うん、可愛いな、この仕草男には無いものだ。
「大きい紙か布切れは有るか? それからインク、墨みたいな水で落ちる物があるかな?」
「材料がイカ墨のインクがあるわよ。 ペンも要るのよね」
「あ、ああ、筆とか無いのか」
「フデ?」
俺は二人の髪の毛を見ながら ふと思いついた。
「ジュリナの尻尾はいつもどうしてるんだ? 出して無いよな」
「ああ、獣人にとって尾は弱点なのよ。 だからいつもは隠してるの」
「どこに?」
「お腹に巻いてるのよ」
「出してくれないか」
「えっ! 嫌よ」
「必要なんだ」と、頭を下げると渋々出してくれた尻尾は、とても書き易そうだ。
俺は椅子にジュリナを腰掛けさせると、布に一気に殴り書いた。
尾っぽを握りしめ、泣き出しそうなジュリナを洗面所で、洗い流してから丁寧にブローしてあげた。
「これ呪文?」
「古代の文字なんじゃない?」
「うん? 俺の故郷の文字で『龍』って読むんだ。こっちだと『ドラゴン』だな」
「S級の伝説の魔物だわね」
「そうね、でもこの国の知識は殆ど無い癖に、何で博学なんですの?」
「俺の国では龍は水辺から立ち上がって、天に昇って行く伝説が有るんだ」
「運が上昇するって事ね」
「縁起がいいわね。 それに字体がエキゾチックだわ」
「お揃いのマントに書くの?」
「うーんそうだな。 マントに近いコートの様で・・・・・・やっぱ着物かな」
「キモノ?」
「ああ、今デザインがを書いてやろう」
俺は横、正面、背面から見たラフスケッチを三枚描いて見せた。
柔らかい方の鉛筆が、とても書き易いし、何しろ鉛筆だと擦ってグラデーションも自在だ。 二人は目を輝かせて見ている、気に入ったのだろう。 ジュリナが早速ブティックに、注文しに行きたいと言うので頼む事にした。
「ねぇ、それはペン? 見せて」
「ああ、紙に書くエンピツさ、水に塗れても大丈夫だし、パンで消せるんだ」
「はぁー 書き易いわね。 魔石の粉を混ぜたら魔方陣も書けそうね」
「あー、そう言えばこの生産工房も作らないとな」
「と言う事は、まだ世に出て無いのよね。 作り方教えなさいよ」
まぁチームだし、良いかと思いながら紙に製造工程に、器具等細かな注意点と配合を書いて渡した。
「へーっ、こんな方法でね。 それに材料もお手頃ね」
「ああ、この世に無ければ、安価な筆記用具として広まるだろうね」
「任せられる人材は居るの?」
「うーん、クラークに投げちゃおうかと」
しばし考えて、ミシェータは吐き出す様に口を開いた。
「ヤバいわね。 カヅキが狙われるわ。 少なくとも拘束は確実ね」
「ジュリナと似たような事を言うんだな。 それ程か?」
「まぁね」
ブティックから注文を終えて帰って来たジュリナを連れて、三人でジュリナ邸へと向かう事になった。
執務室に向かうと、クラークを含め四人で今後の対応を図る事になった。 こう言った話はクラークが詳しいらしい。 俺に噛み砕いて、解り易く話をしてくれた。
「で? 命の懸念って」
「そうですな、話の流れを承るとまず王都では、新星の発明者として持て囃されるであろう事が予測できます。 次に販売の拡散で多大な収益が発生し、それに群がる貴族の登場と王家としても招へいを考えるでしょう。 税収増加が見込めるので、利権の収拾の為にこの地の領主をも動かしますな」
「ふむ、魑魅魍魎が集まるってか」
「領主は王家に対して、絶対の忠誠を持っておりますので、クロサワ様に近づき利益供与を提案するでしょう」
「知らんおっさんに、タダで恵んでやるとか無いわ。 まぁ見返りによるけどな」
「その見返りに、欲するものは何ですかな?」
「うーん、自由に暮らせればいいかな」
「ふむ、爵位などは如何ですか? 女性やお宝など」
「その地位って、保証される代わりにお上に束縛されるって事だろ? 女には餓えて居ないし、お宝は見て見ないとな」
「仮にですが、何も欲する物が無ければ、如何致すつもりですかな」
「取引出来なきゃ何も渡す物は無いな。 商売の鉄則だろ」
「ふむ、商売と同等に考えなさるか」
「おかしいか?」
「いいえ、商売の範疇でなら正論で御座います。ただ」
「ただ?」
かづきはクラークのその先の語りを聞いて、青ざめるのであった。
「では私はこの国の重鎮となったつもりで、その考えを述べましよう」
クラークの話にゴクリとつばを飲み込みながら、それに聞き入るかづきであった。
領主は傀儡になり得ない存在である貴方に困る。 しかし、王家の命令は絶対である、ここであなたと仲違いをしては入る物も入らなくなり、領主はの愚か者レッテルを張られる事になる。 最悪爵位の剥奪に至るか領地替え。 ここで領主は考える。 武力で拉致、監禁だと、ここまでは理解できた。
「次に狙われるのは ジュリナデリカお嬢様にミシェータ様、わたくしやメイドのモモとミクも狙われるでしょう」
「無罪でも捕まえられるって事か」
「むろんですな、恐らく罪状は『不敬罪』でしょう」
「俺はともかく、関係の無い者が何で捕まる」
「関係は御座います。 この屋敷に住んでおりますから」
「ミシェータ?」
「契約の相手でもあり、利権を有しておりますので」
「で、拷問か」
「貴方はお強い しかし、目の前でこのお嬢様方が目を潰され手足を千切られ、蹂躙されるのを見ていられますかな?」
「くっ! 貴様いったい何の権利があって」
つい興奮してしまった俺は、クラークの胸ぐらを掴んでしまっていた。 クラークはゆっくりと俺の手を解き、胸元を正した。
「そうならない為の話し合いですよ。クロサワ様」
「す、済まなかったクラーク」
「でも、国に縛られないって、どんな事出来るのかしら」
「そうですわよ、どの国でも貴族社会では地位があるし、その頂点の王も居るわ」
それからかづきはこの国の成り立ちや、社会制度全般を聞いていた。 たまに脱線して全く関係に無い事も言っていたが、彼にとってこんな情報も凄く貴重な時間であった。
ジュリナ:あとがき任されちゃったわ
キッ、忌々しいミシェータだったけど、仲間になってみると心強いわね。




