異世界探求伝 第十四話 エンピツ作成
エンピツ、いよいよ作成です。
製造工程は色々面白いんですよね。
俺は無理して魔力を使いまくったおかげで、行き倒れになってしまった。
運良くジュリナに無事拾われて、屋敷へ戻るが起きたら全身筋肉痛だった。 ミクが回復してくれるそうだが、俺はラビから二種類の回復、治癒魔法の存在を知らされたのだった。
「どうか致しましたか? クロカワ様」
「あ、ごめん、回復と治癒魔法は違うんだよな?」
「は、はい回復は『リカバリ』で治癒は『キュア』になります」
「違いを教わりたいんだが」
「はいクロカワ様、光魔法でが回復のリカバリで、治癒は闇魔法のキュアになります」
「うん」
「詳しくは、まだお勉強中なのです」
「そっか、じゃキュアを頼むよ」
「・・・・・・えっと、私では効果が薄いと思いますが?」
「ああ、構わないぞ、練習のつもりでやってくれ」
「はい!クロカワ様、では行きますね」
大地の影と影を結び・この者の黄昏たる倦怠の色が・全身を薄雲のように包み込め
『キュア!』
灰色の霧が俺を包み込み、やがてそれが辺りに飛散して行った。 成功なのかな? あらミクちゃん汗かいてきつそうだ。 無理させちゃったかな? しかし、長い詠唱だな、正直俺は覚える自信は無い。
「大丈夫かい? ミクちゃん。 治癒ありがとう、楽になったよ。 食事に行こうか」
俺は彼女の頭に手をやり、撫でてやると照れたように微笑んでくれた。 今回は逃げられなかったから、次回こそはその耳をモフってやるぞと、心に決めて二階へと降りて行った。 さぁ夕食だ。 食べる事は俺の楽しみの一つである。 今日のメインは魚らしいが、こんがり焼けた大きな魚が大きな皿に乗っている。
「海が近いのかな?」
「いいえ、これはナカス大河で取れるピラルサと言う魚で御座います」
「へぇ、大きいし、旨そうだな」
「まだ小さい方ですな、大きいものは鱗が竜鱗の様に防具に使われるのですぞ」
今日は魚がメインだとばかり思っていたが、肉もステーキで出て来た。
「大蛇ですな。 ルビスネイクと言い、今日戻って来た冒険者から買い取りました」
肉を切ろうとして、フォークの形が変わっている事に気が付いた。 「あっ、もう出来たんだ」
「あ、はい。 合金で銀メッキを施してて御座います」と、言うがクラークは仕事が早いな。 先が四本だし、落とさずにパクリと口へ入れる事が出来たので、使い心地はもう少し改良の余地はあるがやはり楽だな。 肉質は弾力のある鶏むね肉の様で、あっさりしたものだったが、香り油のソースが効いていて旨い。
「如何ですか?」
「ああ、旨いよ。 こいつは毒持ちかい?」
「ルビスネイクは獰猛で、獲物に組み付いて毒の牙を突き立てます。 その毒は意識を昏倒させる効果があり、取った毒腺は薬効ある物として売買されています」とのクラークの説明だが、俺はそんな魔物とは戦う気はさらさら無いのだからここはスルーだ。
「で? 如何ですか」とさらに俺に聞いて来たので、クラークはフォークの使い心地が知りたいのであって、嗜好を聞きたいのでは無かったのだと理解した。
「ああ、フォークだな」
俺は二度三度細かく肉を切っは、刺して口へと放り込んで行った。 使い心地が今一だと感じていたし、指に力を込めてフォークを曲げてみる。
うんうん、形を知っているから楽ちんだな。 もう一度、使用感を確かめてクラークに渡す。 クラークに人差し指を湾曲に添えて、刺すと良いと教えるとうんうん納得していた。 結局全員で使い回してしまったが、評判は良かったみたいだ。
「クロカワ様、本当にこれをわたくしに一任して下さるので?」
「ああ、構わないさ。 居候の身だし皆に世話になってるからな」
「では早速、生産に掛かり販売網に乗せて見ます」
「んと、庶民用には真鍮にメッキ加工で良いと思うよ。オリハルコンだっけ? 銀メッキと二色で良いかな。 厚さは2,3ミリ程度の薄めに作るといいし、金型を作って薄い合金版をプレス加工すれば、一気に大量生産が可能だな」
クラークは完全に食事の手を止め、傍らの使用人の手からインクを付けながら必死に書いている。
「貴族用には銀製食器が良いな。 彫金師が居るかな?」
「はい、居ります」
「フォークの幅は3m程度で良いが手に持つ部分を厚めで楕円にして、そこに彫刻を施すと格調高い物に仕上がるだろう。 手持ち部分を金メッキとかするとより豪華になるぞ」
「ほほぅ ならいっそ宝石でも埋め込みますか」
「ハハハ、食事に毎回使うんだからそこまで豪華にしなくてもな。 それに使用人がはめ込んだ宝石を流してしまって、罰を受けるとか寝覚めが悪いぞ」
「ああ、確かにそうですな。 しかしこれは売れますぞ。 専門の工場を作った方が宜しいですか?」
「そうだな、プレスで銀皿とかも簡単に出来るしな、それにスプーンやナイフにも応用出来る」
「成程、人手はありますので話を進めさせて頂きます」と、クラークは書き込んだ紙を使用人に渡し、何人かの名前を言いながら指示をしていた。 プロジェクトが始まるようだ。
食事を終えて涼みに夜の庭へ出た。
木刀作りを思い出して、材料を引っ張り出してナイフで削って行く。 強化を掛けながら削るが、ある程度ノコで形を整えてから仕上げて行った方が早いのかな。 ナイフを小刻みに動かしながら切ると、上手く真っ直ぐに切れるので、振動させるイメージをナイフにやってみるが・・・・・・結果失敗であった。 いや、振動させること自体には成功したのだが、ナイフを振動させると腕から全体に振動が、つまり歯がガチガチ鳴るし耐えられない事が判明。 道路工事で掘削ドリルって感じかな、ハハ
ナイフの刃の部分に遊びを作らないと無理な事が判明したので、仕方ないからコツコツやる事にすると、漸く一振りの木刀が完成した。 少し太めに作ったので、素振り用には最適だと思う。 重力を強めに掛けると、俺はすり足でゆっくりと素振りを開始した。 こちらの剣とは使い方が丸っきり違う。
剣の道は曲線の動きが主だが、クラークの剣の動きは実にトリッキーである。 薙いだり払ったり腕を持ち替えたり、回転しながら切り込んだりとより実践的であった。 俺の剣の考えとしては、トリッキーな動きを組み合わせるよりも、常に一撃必殺の技が多い。 勿論切り返しの技も存在するが、基本的に円の動きを頭に置いている。 その代わりに体は逆に常に動き回り、耐え忍びながら隙を見つけての必殺を討つ訳だ。
俺の実家は古武術道場だったので、剣を始め、崑術、サイ等の武器を使った武道と、唐手、柔術、合気道等の、無手を使った武術を教わって来た。 将来は格闘家を目指したかったのだが、プロの格闘家は体重百キロでも小さな方で、体躯が大きく無い俺は限界を感じて格闘家をきっぱり諦めたのだった。 その後、族をやっていたラビに出会い、持て余していた情熱をそこで使い倒していた。 ちなみに言うが、俺のダチである『羽川 誠』のあだ名の『ラビ』とは、可愛らしいラビットの事では無い。 「ランド・ビー」つまり蜂牙帝国という族の頭をやっていたのだ。 つまりは、ランドビーの誠からラビとなった訳だが、組織を大きくしてからはドン・ラビと呼ばれている。
祖父には説教を喰らうし、家でも散々嫌味を言われたっけかな。 明日は体術も使いながらやってみるか。 しばらくして風呂に呼ばれたので、汗を流しに行く事にする。 読み書きの練習は、その後やる事にしようかな。 ちなみにジュリナは、部屋の夜間出入り禁止を言い渡されたらしい。 俺は、男性の使用人に読み書きを教わりながら、勉強に勤しむ事になった。 寝る前の日課として、魔力を空にする事にするがこれも修行だ。 直ぐに寝れるしね。
翌朝、薄明りの中ジュリナが起こしに来た。
朝食前に鍛錬を行うらしい。 俺は元々やる気だったので庭へ出てストレッチを開始する。
「変わった剣だな」と、俺の彫り上げた木刀を見て感想を述べるが、クラークの雰囲気が昨日とはまた違う様だった。 元々鍛錬の時のクラークは一味違うらしいのだが、口調は勿論、性格も変わっているような気がする。 動きは勿論バーサーカー並みだし、野獣みたいだ。
早速立ち合いを申し出たが、クラークは自然体でただ剣を構えるだけである。
木刀を正眼に構え様子を見る。 武道の心得としては「目で見るな、心で見よ」とあるが、実際心では見る事は難しい。 本来の意味は相手の目を見て、その感覚をぼやかし全体を見る事が大切である。
クラークが動いて来ない。
昨日とは動きが変わったのを感じているのか、クラークはジリジリ左に回りながら様子を伺って居る。 左回りなのは、ボクシングと同じで利き手の逆回りをする為だ。 つまりは相手が打ちにくく、此方が交わし易い動きでもある。
構えを八双にする。
これは右に剣を移動させて、中段に据える構えだ。 すると、クラークが素早く打ち込んで来た。 木刀を下げて打ち払い、そのまま相手の懐に飛び込む。 クラークが剣を持つ右関節を決めながら、前へと出て来る所を思い切り投げてやった。 顔面に木刀を差し出すと、そのまま「参った」の声が掛かる。 勝負は一瞬で終わったが、俺は全く納得がいって無かった。
「剣が合って無いですよね」と、言うとクラークは剣を投げ捨てて、拳を構えて来た。 無手ならこっちが本家を自負出来るし有利かもしれない。 何度か投げ飛ばし、関節を決めて押さえつけたが、時間が経つにつれこちらの体力がもたない。 その内タイミングを知られ、投げようとすると腰をかがめ、関節を決めようとすると力で弾き返される様になって来た。
「ハァハァ、やっぱり強いな」
「いやいや、今は体力の差ですな」
その後、勝負がつかずにジュリナと交代しようとしたが、「カヅキ、そのタイジュツっての教えて」と目をキラキラさせて来たので、好きに殴っておいでと自由に攻撃させてみた。 彼女の動きは早かった。 やはり獣人は体力が全く違う。 俺はすり足と瞬歩を繰り返しながら、隙を見てポンポン投げてやった。
受け身を教えていないのだが、そのうち体を捻りダメージを受け無い様に工夫していた。 流石獣人恐るべし! と素直に認めて、関節技を教え込んだ。 それを見ながら、素振りをしていたクラークが手を止めて話し掛けて来る。
「やはり、強者でしたな」
「いや、武道は小さな頃からやっていたので、染み付いちゃってるだけですよ」
「染み付く程の鍛錬ですか、流石ですが持久力が足りませんな」とまぁ、いい方向に誤解されてしまったようだ。 まぁ体力が無いのは自覚している。
程なく終わった後に、軽く腕立て腹筋スクワットを軽くこなしたが、これは追々増やして行く事にするとして、風呂で汗を流し朝食を取る事にしよう。
牛乳? かなと聞いたらヤギの乳らしい。
ふむ、飲んでみると味は濃厚で旨い。 俺はこの地で取れる農産物を聞きながら、今日のスケジュールをこなす事にする。 早速、武器屋のガスドロビコフの元へ、とジュリナを連れて移動中である。
ガスドはクラークに頼まれたと言いながら、鋳型の製作をしていた。
俺のイメージではドワーフは、一日中カンカン槌を振るって武器を作っているもんだと思っていたが、「武器なんて、いちど買っちまえば頻繁に買ったりはしねーよ」と言われ、それもそうだなと納得してしまった。 聞きついでに「酒を飲みながら仕事はしないのか?」と聞いてみたが、ドワーフにとっては神聖な仕事なので、終わらないと飲まないぞと睨まれてしまった。 ふむ、確かに業務中に酒を飲む必要性は感じられない。
俺は頼んでいた、焼成済みの黒鉛芯を油に浸して貰った。
この店が、焼き入れに油を使っていたのはラッキーだった。 そのまま乾燥させながら、庭で工作をさせて貰う許可を貰った。 転がっていた丸太を貰い、のこぎりで板にして行く。 定規で寸法を測りながら溝を掘って行くが、彫りを入れた板で黒鉛芯を挟み込むつもりだ。 五十cmの木板で五十本は芯が入る計算である。 その後縦に切って行けば五十本の鉛筆になる。
いつも思うのだが、こんな時ジュリナには黙って見守ってくれている。
一人じゃ無いと言うのも、何故か心地良いものだ。 四枚作り終わったので、親方に見せながら糊を木板二枚に塗って、芯を置きながら張り合わせて行くが、長めの芯が飛び出した分は切っておく。
早く完成させたいので、板をプレスしながら熱風を送ってやる事にした。
後は芯に合わせて溝ごとに切って行く。後は布ヤスリを掛けて表面を滑らかにして、ニスを塗って乾けば完成だ。 俺はこれをニスって言ってはいるが、これは武器の柄の部分に塗る艶出しワックスらしい。 本来は更に塗りを重ねて文字入れするのだろうが、価格を安くする為には省ける手間は除いてしまおう。 六角にしたかったのだが、取り敢えず試作なので四隅の角をヤスリに掛けて、ニスを塗って乾燥させればようやく完成したのだった。
「やったー、でけた!!」とつい叫んだしまったが、上手く書けるかが心配である。 早速ナイフで先っぽを削って尖らせる。 親方に紙を貰って書き殴ってみるが、粘土が少ない方がやはり色が濃い。 俺は二種類の鉛筆を親方とジュリナに渡して、具合を確かめて貰う事にした。
まいどおおきに




