異世界探求伝 第十一話 優柔不断な居候
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今居るのはジュリナデリカ・ヴァレンチノ家の実家のお屋敷である。
彼女曰く、「あんたは危なっかしいから、うちで保護してあげるわ」状態なのだ。 うん、確かに優柔不断な事は自覚し始めたところだが、女性から庇護を受けるのは初体験である。 しかし、この異世界は何が起こるかわからいという事が、はっきりと判った今では素直に心を傾ける。 そんな気持ちでお邪魔する事になった。 さっそくで悪かったのだが、夕食のシーンから再スタートである。
テーブルの肉が切り分けられ、厚切りの肉と付け野菜に、例のキャベツの酢漬けがやって来た。
「ボァハッグよ。 熟成肉だから柔らかいわよ」
「魔物?」
「そう、美味しいわよ」
俺はフォークとナイフを使い、口に入れてみた。
「おーっ、癖が無いな、この甘いベリーソース? 良く合っていて美味しいぞ。 香辛料が効いてる」
「ふふ、良かったわ。 うん? フォークをしげしげ見て珍しいの?」
「いや違うんだ。 このフォークの先が二本しかないから」
「えっ? フォークはどこの国でもおんなじよ」
「んと、二本しかないからすくう様にして取らないと落ちるよね。 これが三本,四本あれば落とさずに楽に食べられるんだけどなって」
「へー、そうなんだぁ。 当たり前と思ってたから気が付かなかったわね」
彼女はそう言いながらクラークに目をやった。
「確かに領主様の晩餐会で、柔らかい料理を落としてしまい、恥ずかしい思いを致しました」
あー、やっぱりそうなんだなと、俺は思った。
「早速作らせてみましょう・・・ですが」
彼は俺をじっと見つめているので、ああ、と思いながら
「クラークさんに一任しますよ。 権利も全て譲渡します。 あっ、契約とか良いですから、クラークさん発案者で」
「いいの?」ジュリナも直ぐに聞き返して来る。
「ああ、面倒くさいから、ハハハ」と、俺が笑うとクラークは目を見開き、次に笑い出す。
「ハハハ、これは肝の太いお方だ」
「そうよ、これって流行ればこの国、いや他国だって欲しがるかもよ? 人口が何人居ると思ってるのよ」
ジュリナは俺に気を使ってくれているのだろうか、ここはジョークで繋げて見るか。
「じゃ、儲かったらおこずかい頂戴」
「ハハハ、心得ました。 で先端は三本と四本はどちらが良いので?」
「うーん、商標登録するのを前提として、三本から五本とすれば真似されないでしょ。 六本以上だと恐らく食材が絡みついて、それを取るのに不細工な食事になりそうかな」
「畏まりました。 早速手配致します」
直ぐに使用人の一人がクラークの元へと来て、足早に立ち去って行った。
「ふーっ、食った食った」
「満足してくれた?」
「ああ、旨かった」
デザートに果実のシロップ付けと、ハーブティーがやって来た。
「ああ、これ青リンゴだね。 コンポートだ」
「ええ、お口に合うかしら」とのジュリナの返答に俺は「ヒネリ」を入れて見た。
「うん、甘酸っぱくて美味しい。 でもね、こうやって」
俺は初の氷魔法を試してみた。 おっ、一発で成功やん。
デザートォークの腹で突き刺して潰そうと試みるが、はたと考えて重力を少しずつ掛けて行く。 風刃だと辺りに飛散させそうだしな。 上手く潰れたので、かき混ぜて口に入れてみた。
「うーん、ひゃっこい」
珍しそうにしていたので、非常識とは思いつつ、モモとミクにスプーンで口に入れてあげた。
「あーん、おいひぃ」「ちべたい、おいひぃー」うん、好評だ。
「シャーベットとか、こっち無いのかな?」
「果汁を凍らせた奴はあるわね。 でも果肉をわざわざ潰すのは見た事が無いわ」とジュリナが言ったが、果実を確かに越さずに飲むと、喉越しが悪いから果汁にするんだよな。
「ついでに、クラークとジュリナの口にも持って行く。 身内だからいいだろ」
「うん! 旨い」「あー、お替り、カヅキ」
リクエストされたので、使用人に追加で持って来させると、今度はボウルに入れてやってみる。 量があるから今度は蓋をして、隙間からのエアカッターだ。
フードカッターのイメージかな? 刻みで混ぜるんだからミキサーなのか
『ミキシング!』
でけた。 結局、皆さんに好評で最後はこめかみを抑えていた。
「カヅキって変わった魔法を使うのね。 無詠唱だったし」
「そうですな。 あの潰れる魔法は初めて見ました」
「ハハハ、余り魔法の知識が薄いもので」
「えっ!」「むっ!」「??」「???」
「ああ、妖精に教わったんです。 なんせ修行中なもので」
「カヅキも妖精使いなの? ヒューマンなのに?」
あら? また、何かやり被ったかな? ラビ助けろ。
「助力ハデキカネマス」
「あらぁ、やっぱそっか」と、ガッカリしながら誤魔化す算段を講じて見る。
「あ、何かね気に入られちゃって、ホ、他の種族の血が混ざってるのかなぁ」って、ちょい苦しいか。
「うーん、獣人には妖精使いが多いのだけど、ヒューマンでは聞いた事が無いわね」
「左様ですな。 ふむ、興味深い」
「あっ、そ、そうかなぁ、ご馳走様。 一服して来る」
何か、更に根掘り葉掘り聞かれそうだったので、俺は外へ避難だ。
「複雑な目をされてしまった。 ああ、自重すると決めたのに加減が判らん」
「コノ世界ノ 魔法ヲ習得ナサレバ 良イカト存ジマス」
「おっ、ラビ先生さすが。 よし、魔法書の読破だ! うんこれが優先事項」
庭でベンチを見付けて一服していると、ジュリナがやって来た。
「やぁジュリナ、色々迷惑掛けるけど御免な」
「あはは、迷惑なんてちっとも思って居ないわよ」
「そっか、それなら良かった」
「でもね、行動起こす前に私に聞いてね。 ここでは良いけど外ではね」
「うん、それで頼みがあるんだが魔法書ってあるかな?」
「あぁ、学校で使ってた教本があるわ。 今はモモとミクが使っているわよ。 後で部屋に届けさせるわね」
「ああ、助かる」
「お風呂用意出来たら呼ぶわね。 明日の予定は? 何かするのかしら」
「うーん、寝ながら考える」
いきなり、彼女は俺の耳を引っ張った。
「いたたた」
「あのさぁカヅキ、モモとミクに手を出したら許さないからね」
「ありゃ? なんで」
「出すの!?」
「いやいや、違うっしょ。 何でその発言になるのかと」
「だって二人をジロジロ見てたじゃない。 尋常じゃなかったわよ。 あの目は」
「いやいや、性的な意味は無くってだね、獣人って、こっちに来て初めて見るんだよ」
「ふーん、そう言ってたわよね昨夜・・・・・・で? どう思ったの」
「いやー、モフモフ、ケモミミしかもメイドだし、可愛ぃー」
今度は、ほっぺをつねられた。
「い、いや、可愛いって言うよね? 可愛いのには? 普通だよね」
「ふっ、普通だけど何か気に食わない。 さっきの満面な笑み」
「性的な意味は無いから、無いから、無いから」
大事な事だから三回言ってみた。 これはテンプレだろ。 だってどう見ても七,八歳位にしか見えないし幼女やん。
「私をもっと大事になさい! 初めてをアゲタンダカラ」
「ん、えっ! だってあんなに気持ち善がって・・・・・・悦に入ってたよね」
「んー、もうバカ」
今度は優しく肩をつつかれただけで済んだ。 「ホッ」まぁ確かにお初でも感じる女性はいるもんだが、まさか初めてだったとは。 彼女を見やると俯いて頬を染めている。
ここで、責任を取るとか男気を出しても良いものか? まず、結婚なんて今まで考えた事は無いし、一生しないものと考えてたしな。 第一、女はただ抱くものだったはず。 そうだ、そうだった。 取り敢えず言質を取られないように選択する。
「ああ、ジュリナは俺にとって大事な女だ。大切に扱うさ」
「う、うれしぃ」と彼女の頭が俺の肩に寄りかかる。
今まで何十回と繰り返した言葉だ、寸分違わず言葉が出た。 ふと見ると、耳がピコピコしていて触りたい。
「お嬢様、お風呂の支度が整いました」と、モモが良いタイミングで呼びに来てくれた。
『風呂かぁ、何か久々の感だな』
建物は三階建てで、三Fは各部屋にリビング、二Fは食堂などがあり、一Fの奥まった場所に風呂があるそうだ。 四階と思った部分は、恐らく屋根裏部屋でもあるんだろう。 案内された場所のドアを開けると、脱衣所に洗面所、ブラシなど小道具も揃っていた。 葛で編んだ籠に服を脱ぎ棄て、タオルで股間を隠しながら浴場らしき場所へと入る。
石造りの小さく丸い井戸らしき物と、内部にもう一つのドアが見えた。
つるべ式の井戸から汲み上げると、それは水だった。 浴槽は無いかと、もう一度辺りを見回したがここには無い。 きっともう一つのドアだろうと、開けてみたがそこは熱気で溢れ返っていた。「サウナやん!」
逸る気持ちを抑えながら、俺は足と股間に水をかけ、さっと洗うとサウナに入った。 内部を見ると、小窓があり灯りが点いているが、床にはスノコが敷いてある。 薄暗い中見渡すと、長椅子に布が敷いてあるのでここに座るのだろう。
石焼のサウナのようで、暖炉のような場所に丸石が積んである。 一旦出て桶に水を入れ、近くに葉っぱの付いた枝があったので持ち込みだ。 葉っぱを水で浸して石に掛けてやると、「ジュー」と水蒸気が立ち込めて一瞬むせるがいい香りがする。 きっと、この枝の葉の香りなんだなと思い、ベンチに腰掛けていた。
すると物音がしたので、誰か入って来たのだろうと様子を見ていたらクラークだった。
「クロサワ様、剛毅ですな」
クラークを見ると四角いトランクスを履いている。 ああ、これを履くんだと思い知ったが話を逸らす。
「えっと、これサウナですよね? 体を温めて外で水をかぶる。 で、良いんですよね」
「ええ 結構でございます」
「冬は水風呂が寒くないですか?」
「井戸ですので凍りませんよ」
「頭や体を洗ったりするのに、お湯が必要じゃ無いんですか?」
「頭を洗う時や髭を剃られるには、使用人にお申し付け下されば結構でございます」
「この地ではこれが一般的なのですね」
「ええ、左様です」
ふむ、郷に入れば郷に従えだな、俺は熱気に飢えていたので蒸気を大量に出していたら、クラークがしかめっ面でこっちを見ている。 少しやりすぎたかな?
「暑かったですか?」
「いえいえ、滅相もございません。 垢を擦って進ぜましょう」
そう言いながらクラークは、長椅子の下から丸い椅子を取り出して、タオルを敷くと手招きした。
何やら皮で編んだようなのを手に持ち、背中を擦ってくれるが、これはこれで気持ちが良い。 代わりましょうと言うと別の皮ブラシ? を差し出して来たので成程、これは個人用なのだと理解した。 彼の背は日に焼けた筋肉が所々隆起していて、プロレスラーみたいだと俺は思った。 汗が噴き出している背中を擦ると、垢がポロポロ落ちて来る。
俺は残りの部分を自前で擦りながら、この垢をどうしようと考えて手が止まっていた。 するとクラークは、ヘラを取り出し垢を下に落としてくれた。 そしてさり気無く、部屋へ備え付けの木箒で、さっとすのこを掃くと外へと出て行った。 直ぐに彼は戻って来たが、木のカップを二つ携えている。 「どうぞ」と渡された物は何とエールであった。 気が利く奴である。 口に含むとその温度差で、やけに冷たくて美味しく感じた。
「プッハァーー!」 「ハァーーー!」
「ハハハハハ」「ウァッハハハ」と、どちらからとも無く自然に笑いが出た。
「良いですね、これは」
「左様ですな」
カップの底が見え始めると、いつの間にか小樽を抱えて注いでくれるが、いつの間に用意したのだろう。 「クッホー! 極楽じゃ」 ジャパンじゃ浴槽内には持ち込み禁止であり、家庭でも滅多にそんな事はしないもんな。 開放感に包まれながらも、取り敢えず三杯お替りしたら漸く少し酔いが回って来た。
さすがクラークは、その間に六杯のお替りをしていたので、いつもこうなのかを聞くと「恥ずかしながら」と豪快に笑い飛ばしていた。 ついでに年齢を聞くと二十八だった・・・・・・カッコビックリ+ハテナマーク物である。 俺が少し唖然としていると、クラークは不思議そうにしていたが、ここで俺の年を話すと何か負けた気がする様なので、とりあえずスルーする事にする。
「ザッバーン!」
蒸し上がった体に冷水は心地良く、体は芯までホッカホカだった。 風呂で無くとも、これはこれで良いものである。 脱衣所には、替えの下着と寝巻が置いてあったが「仁平だ!」靴もいつの間にか無くなっており、革製のサンダルが置いてあった。 俺はそれをつっかけると、熱気と酔いで少しふら付きながらも三階の自室へと戻って行った。
服出す汗を手拭いで拭いながら部屋の窓を開け、風を入れていた。 とても心地良い風をかづきは感じていた。 その心地良さは、きっと風だけのせいでは無いのであろう。
無事になろうへ移動できました。




