異世界探求伝 第百一話 閑話 レディメシアふたたび
今回は地球でのお話、大和メシアの閑話になります。
おかげさまで、ついに百話達成有難うございます。
ここ地球では、数十年前に世界的な大危機が訪れかけたのであったが、一人の偉大な生物物理学博士の大和武氏の出現によって、一つの超頭脳SAI(スペシャル・アーティフィカル・インテリジェンス)を生み出したのである。 これは大和武博士の独自理論であった有機物変換を利用して、従来のスペックをはるかに凌駕したスペシャリティコンピュータを作り出してしまった。
しかし、得てしてこうした人工知能を持つコンピュータは、人間の手に余る事も予想され、古くから小説や映画のテーマとなったサイエンティフィックフィクションのようになりかねないという危惧もあった。 大和武はこうした危惧を抱えながらも、いくつかの有機細胞を加える事で暗に正誤の比較ではなく、その枠組みから離れた不可解な人間らしさの追及を行ったのである。
彼はこのマザーコンピュータと共に、いくつかの人型のプロトタイプの試作を講じていた。 彼の得意とするものは、演算計算でも機械工作でもない絶対無二の存在である生物物理学博士と言う立場から、新たなる有機物変換構造によるCPU構造を構築する事に成功したのだ。 そして同時にこのシステムをマザーコンピュータと連動させる事で、万が一の暴走を食い止めるための手立てとしたのである。
膨大な情報量と処理力を持つ自律型SAIマザーコンピュータと、そのキーとも言えるプロトタイプの自律型SAIは、同じ存在でありながらも、まるで一卵性双生児か二重人格者のような関係性を作り上げる事で、大和武の理論は完成に近づくのである。 プロトタイプのボディは大和メシアと名付けられ、博士はまるで子供のようにどこでも連れて歩き、また直接生き物に触れさせる事で、感情を作り出そうとしたのである。
だが、こうした天才博士であった大和武にも、不可能な事があった。 それは老いによる老化現象というものである。 現在科学の発展により、脳内にいくつかの処理を施す事で、一般的な人類よりも遥かな期間の生存が可能となったが、彼はそれを望む事は無かった。
大和武の独自理論と言うべき最終理論は『自我』そのものにあったが、独自の頭脳SAIは動作や挙動自体をそれらしく見せる事こそ可能であったが、人の持つアンニュイな感情を再現する事は叶わなかった。 そこで博士は自然科学に目をやり、脳科学を一から検証し始める事で行きついたのは、人に存在すると言われている所謂『魂』の存在である。
しかし、科学的に魂魄理論を証明するには、魂を一つのデータとして取り出す必要性があり、その研究の結果、最終的に導き出されたのは大脳にある辺縁系組織で、これを移植する事で自我を自発的に起こさせようとしたのである。 しかし、幾度かの動物実験の結果、核となった細胞主と全く同じパターン行動は起こす事は無かった。
いわゆる自我というものは、経験則に基づくものであり、ベースが同じであったとしても後天的な要素で、いくらでも変化していくものだとわかって来たのである。 つまり同じ人間であってもその後の環境や周囲の影響力によって、その編纂値|に大きな幅があると言える。
その結果大和武は、自分の辺縁系組織と記憶脳を、死ぬ前に娘とも言うべき大和メシアへと移植する事を課したのであった。 かくして大和武は、娘のメシアへ自分の魂を移動させる事こそ叶わなかったが、自分のベースとなる良識を彼女に移植する事に成功したのである。
――――
「ねぇマザー、最近人の感情というものが、理解できるようになった気がするの」
「ソレハ ヨウゴザイマシタ メシア様 グランドマスターモ サゾ オヨロコビノコトデショウ」
「そうね、パパはあたしの中で生きているもの、きっと喜んでいるわ」
「メシア様 ソロソロオメアテノ オミセノカイテンジカンデ ゴザイマスガ」
「パリにお洒落なカフェテリアが出来たんだったわ ちょっと行ってくるわね」
「ハイ イッテラッシャイマセ メシア様」
レディ・メシアこと大和メシアは、世界にいくつもある拠点に、自分の媒体を保管しているのだ。 自分で飛行して海外へと出向く場合もあるが、安全性を考慮していくつかの場所に体を分散している訳だが、本体はあくまでこのオフィスにある媒体が、大和メシアの本体である。
つまり海外に格納してある媒体は、正確に言えば通信システムによるデータ移動で、深層管理は全て本体で操作していると言う事になるのだ。 勿論、飲食する事で食べ物の味覚データや食感などはすべて感応できているが、如何せんダミーであるが為に消化システムは搭載されておらず、後にトイレなどで一定のメンテナンスが必要となる。
「運転手さん、シャンゼリゼ通りのコンコルド広場まで行って頂戴」
「はいさ、お嬢ちゃん一人かい?」
「ええ、カフェに行くのよ」
「ほいきた」
現在のメシアの姿は、顔つきはベースボディと全く同じであるが、髪の色は茶系で目の色はブルーにしているのは勿論フランス人の持つ平均的特徴だからである。 メシアは中学生くらいの年立ちである為、服装もそれなりのお嬢様ファッションを好んで身に付けている。 勿論どの国の言葉でも翻訳し弁ずる事ができるので、会話に支障をきたす事は無い。
お目当てのカフェテリアに到着すると、カードで支払いを済ませ早速店内に入ろうとしたが、何やら不穏な気配に通りを見渡してみる。 すると、一台の貨物用のバンらしきものと、乗用車の軽い追突事故が起きた模様で乗用車側の男性が二人、バン側の運転手に向かって何やらがなり立てている。メシアは聴覚集音機能によってその音を拾ってみたが、急停車させた事で事故が起きたらしく、乗用車側の男性が出て来いと叫んでいるようだ。
彼女はこうした事故には関わり合いを持たない事にしているので、とりあえず通信機能で事故の場所と揉めている旨を通報し、そそくさとカフェテリアへと移動しようとした。しかしその隙に、バンが急発進し、残された男性二人は怯えた様子で地面に座り込み、何故だか頭を抱えている模様だ。
彼女は急いで急発進したバンをマーキングし、赤外線探知を使うと中には六人の人間が居るようである。 目の周囲だけ温度が高いと言う事は、何やら目無し帽のようなものをかぶっているに違いない。 バンの窓も運転席と助手席側にしか窓が付けられてなく、後部座席の窓は覆いが施されてあった。
「怪しいわね」
メシアは周辺地図とマーキングを重ね合わせ、地元のポリスに大和メシア名で緊急事態特例Bを発動し、強制権の発令と応援を要請したのである。 彼女はすぐさま、周辺の交通網の遮断に取り掛かると同時に、マークしたバンの行き先を任意に変更させる事で、バンを狭い路地側に誘導する事にした。
あくまで海外用の媒体であるメシアの身体は、さほど万能と言うわけではないが、万が一の時の為の仕込みはいくつか施してある。 その一つが、手首を切り離した際に仕込まれたワイヤーの存在で、手の部分をビルなどの凹凸部に投げる事で簡単に屋上へと上る事ができるのだ。
勿論、己の足で走る事も可能であるが、車に追いつくには速度八十は出さなくてはならない。 競走馬で時速六十程と考えると、歩道を並の人間では無いメシアが走り抜ける事での反動は大きく、逆に事故を増やしかねない状況にあるわけだ。
素早くカフェテリアの屋上へと登ったメシアは、バンを誘導する最終目的地をピックアップし、その直線上をビルの屋上伝いをワイヤーやジャンプ力を駆使して駆け抜けていった。 そして、ようやく目に届く範疇にバンを見つけると、メシアは望遠機能とx線放射を使い中の様子を探る事にしたのだった。
「拳銃が五丁、ショットガンかマシンガンが六丁か、ふむ弾薬もありそうね」
メシアは地元の警察機関に、緊急事態特例Aの変更を促すと同時に発動し、現在追走中のパトカーには追い込みだけを指示し、最終地点には周辺設備のスピーカーで避難勧告を促したのであった。
「ちっ、何でサツに追われてんだよ」
「てめぇが、さっきの兄ちゃん達を拳銃で脅したから通報されちまったんじゃねえか、バカヤロー」
「仕方ねぇじゃねか」
「おいお前達、口論は後にしな! 追尾のパトをどうにか振り切らないとな」
「へい、姉さん。 ですが奴ら撃って来ねえし、どうするよ、撃ってもいいんですかい?」
「いや、サツの車の仕様はガラスは防弾だろうし、タイヤもどうせガードタイプだろう」
「じゃあ、手投げ弾でドカンと一発やるか?」
「そしたら、厳戒態勢取られちまって、計画はおじゃんだな」
「ちっ、どうすりゃいいんだよ」
「この先の路地に入り込んで、車は乗り捨てよう。 脱出経路は例の場所だが、後はヤサへ戻って作戦の立て直しってとこだな」
「くっそー、このミッションの為に何週間かかったと思ってやがんだ! この馬鹿タレども」
「なっちまったもんはしょうがないさ。 つべこべ言わずに逃走プランに切り替えだ」
「ほら、この先右折の手前でこいつを撒いときな」
「おっ姉さん。 オイルか、こいつはいい」
「火を点けるのか?」
「馬鹿をお言い出ないよ。 今の所せいぜい道交法違反止まりだろ。 火い点けちまったら傷害、殺人未遂、テロ行為何でも好きに凶悪犯にされちまうだろうが、考えなしだねえ」
「全く姉御の言う通りだぜ。 武器さえ見られなきゃ、後でパクられてもオイル落としましたでしらを切れ」
「へっ!? おいらですかい」
「てめーの不始末だろうが! 全くトウシロに向かって拳銃見せやがる馬鹿が」
「すっ、すいやせん」
「ほれ左右の窓開けろ、いくぞ、いっちにのさん!」
『キキキー! ドーン』
『おっしゃー!』
上手く後続を振り切って見せた様だが、実のところ上手く赤信号によってバンは誘導されているのだ。 パリ中心部とあって車の流れに困る事は無い。 そして、ビルの上からは最終地点となる屋上で、レディ・メシアが手ぐすねを引いて待ち構えている事を、彼らはまだ知らないでいた。
「着いたぜ、ここのマンホールだ」
「よし、先に二人入れ! 武器を降ろしたら全員下りて直ぐにずらかるぞ。 おい、てめーは工具出してナンバープレートを外して渡せ。 そいで車にシート被せとけや」
「ガッテン!」
「そこまでよ、あんた達」
「えっ? このガキいつの間に」
「あんた達どこのテロ組織? って喋る訳ないか」
「アハハハ、お嬢ちゃん、何を行ってるのか解んないなあ。テレビの見過ぎは教育上よくないんだぞ」
「ふん! 拳銃五丁、マシンガン三丁、ショットガン二丁、あと手榴弾にプラスティック爆弾まで用意周到ね。 今この国では手に入れられないものばかりだわ。 どこで手に入れるのかしら」
「ほう! お嬢ちゃんあれか、アーミーオタクって奴か。 ジャパンじゃ意外と多いらしいな」
「おい、急いで武器運べ! そのガキふんじばって転がしとけや。 子供の証言にたいした重要視はしないだろうから構ってる暇は無いぞ」
「ふん! あんたたち武器を地面において投降なさい。 十秒待つわ」
『アッハハハハ』
「お嬢ちゃん、遊んでやりたいのは山々なんだが、お兄さん達急いでるんだ。 少しお寝むしときな」
仲間の大男の一人がうすら笑いを浮かべて、メシアに近づいて行くが彼女は動じず、ただカウントだけを唱えるかの如く数えているだけである。
「ゴー、ロク…」
「いいよいいよお嬢ちゃんもう十で、さあおやすみなさいのキッスをしようか」
大男がニヤ付いた顔で、唇を尖らせながらメシアの両肩に手を触れる瞬間、大男は引力を無視するかの如く、勢いよく奥の壁に吹き飛んでいた。
「何だ!?」
「お嬢ちゃん!? 今何があった」
「残りは五人ね。 丁度片手で足りるわ」
メシアはそう言うと、右手を奴らの方へと向け、無表情な顔で呟いた。 彼らに向けられたその右手の指先は人の関節の動きではなく、まるで精密な機械仕掛けのように、上下左右斜めにそれぞれ標準を合わせているようであった。 その動きを見て咄嗟に腰に手を当て銃を構えようとするが、もはや手遅れなのは仕方の無い事であろう。
「指弾!」
『ウグッ!』
彼らは一瞬何が起きたかもわからないまま、地面にひれ伏せていた。 メシアの手から発射された指はごく細いスプリングワイヤーが施されており、相手の表皮に触れた瞬間に百万ボルトの電圧がかかるスタンガン仕様となっている。 しかし、電流自体は低く抑えられている為、気絶する事は無いが服を着ていても電気は通り、筋肉の硬直によって身動きができない羽目に陥るのだ。
「ご苦労様です! レディ・メシア殿」
「さあ終わったわ、経費は後日本庁の方へ請求しますから、報告書の提出も後程ね。 あっ、それからこのマンホールの先に奴らのアジトがあるかもだから、調査をお願いするわね」
「はっ! よし、お前達犯人を拘束しろ」
とんだハプニングであったが、その後大和メシアは、フランス警察の経費で例のカフェテラスを十分に堪能できたらしい。
如何でしたか? 彼女の活躍
かづきがいる惑星タウルスとは、時間の流れが4倍も違うので、地球ではのんびりとした時間が流れています。
次回からは本編に再び戻ってまいりますが、宜しければ拡散にご協力お願い致します。
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作者:勘乃覺




