異世界探求伝 第九十九話 ギルマス・ロナードの思惑
キャッスルフォートが、大きく発展していく事をかぎつけたズナンギルド長ロナードは
早速この場所にギルドを敷設する計画を練り上げた。
彼にとって今回の訪問は、その為のお伺いのようなものである。
ここはキャッスルフォートから、少し離れた場所にある兵士の訓練施設である。 元訓練兵達はこの地で訓練に励み、正規のキャッスルフォート兵となったのだが、ズナンの町を取り仕切る冒険者ギルドのギルド長であるギルマスのミルフォード・ロナードは、ギルド職員二名とランクBの冒険者を伴って、キャッスルフォート兵達の技量を推し測ろうと考えている。
練兵に関しては、一通りセレモニーで見せて貰っていたが、彼が求めているのはそうしたものではなく、単純に高ランク者の確保が優先事項である。 理由はギルド支部の増強という事になるが、ここキャッスルフォートにも支部を設ける為には、それなりの技量を持つ冒険者たちが必要不可欠となる。
これは、ロナードの息のかかったギルドが増えれば増えるほど、ロナードの勢力は同じ冒険者ギルド内でもその力が増す事を意味している為だ。 しかも、ここには既に訓練された者どもがいる上に、ニショルクサ王国の外である為、他のギルド支部の影響も全く受けていない事もあり、彼の勢力図を広めるのにはまさに最適な場所とも言えたのである。
「さて、キャッスルフォートの諸君! ここに参加して貰った者達は、領主クロサワ殿の許しを得て冒険者ギルドの冒険者登録を受けてもらう事になった。 何、登録しても冒険者をやるのではないが、ランクを身に付ける事で個人の強さがわかるって訳だな。 ギルドのランクは個人の技量が推し測れるってんで、王都の騎士もたまにやってくるほどだぜ。 まあ、自分の強さがランクでわかるってんだから、自分の技量を知るにはいい機会だろうぜ」
『イエッサー!』
「い、いえっさー!? だと。 おおそうか、理解したという意味だな。 よし、じゃあ四列に並んでくれ」
こうして、ズナン支部の出張ギルドでの、アフターケアが実施されたのであった。 現在この訓練生の特訓施設の一角で行われる事になったランク試験は、実地のみが行われる手はずである。 本来は初心者講習を受けなければならないのだが、ギルド職員でもあるクラークの許嫁となったハーフエルフのカレン嬢が在住している為に、初心者冒険者用の説明会は後日、時間を割いての講義が行われる予定になっている。
訓練は防具に胸当てとヘルメットを着用の上、グローブに木盾のフル装備で固め、木剣を武器に戦闘形式で試験されるのだ。 木剣とは言え重さは一般の剣と同じく1kgほどあり、ランク上位者が本気で殴れば、生身の身体でも無事では済まないと言う事もあってか、ギルドの規定ではこうしたフル装備での実地試験が行われる。
かづきも一度、この手の試験を行った事はあるが、Cランカーの試験官だった事もあり、一撃で試験が終了したのも記憶に新しい事であろう。 しかし、今回はベテラン冒険者で上位ランカーとも言えるBランカーが試験官となっているので、前回のかづきのようにはいかないだろう。 ちなみにギルマスであるロナード・ミルフォードはギルド長と言う事もあり、ランク最高位であるSランカーである。
勿論Sランカーは強いのであるが名誉職とも言えるもので、その選考資格はAランカー以上で冒険者ギルドに寄与した者、あるいはロナードのようにギルド支部にて長の務めを果たす事でSランクとなるのだ。 つまり実際には、Sランカーよりも強者のAランカーが存在する事もありうるわけで、彼らはダブルAあるいはトリプルとも呼ばれる金色のタグを持つ資格者達である。
今回ズナンギルドから招集をかけられ、このキャッスルフォートに出向いたのは、ズナン所属の副職員であるナルム・シータとコームー・ヤーンの人族ランクBと、職員のチーブ・アメントの人族ランクC、同じく職員の魔法士ランクBの鑑定士モーリス・クリフォードの都合四名である。
このメンツに、ランクSのロナードと娘も加わる事になるので、ギルド側の試験官は全部で六名と言う事になる。 ちなみにカレンは魔法士の資格所有者で、以外にもそのランクはBと高ランク者である。 そして副職員として参加する三名だが、この三名は共に冒険者である。
高ランカーになる為には実績が必要で、その実績となるものは人望と美挙を持ち合わせており、道義心が必要不可欠の要素となる。 このうち美挙とされるものは、善い行いを積み重ねるもので手配犯の検挙やギルドなどの公共機関での奉仕がこれに当たり、国などから受ける徴兵など特別な依頼遂行もこれにあたる。 副職員とは、一定の期間ギルドの準職員としての役割を果たす事で、奉仕活動として認可されているのである。
「さあ、ルールは至って簡単だ。 勝負方法は減点制でこの四角の枠内から出たら減点、盾以外の場所で体に攻撃を受けても減点、とは言っても逃げ回ってばかりいちゃあこいつも減点の対象って訳だ。 人数が多いから一人辺り十分って事にするぜ。 何か質問は何かあるかい?」
「はっ! ロナード教官殿」
「うん? えっとビームスだっけかな、いいぜ」
「魔法の使用と体力強化の使用についてです」
「そうか、おめえら両方使えるってわけか、ふん、いいぜ接近戦じゃ、さほど大きな魔法も使えねぇし、両方有りだ。 おめーら相手の教官も軟じゃねえし、問題はねえだろ。 但し、木剣と木の盾だかんな、壊れても替えは認めねえぜ」
「はい、教官殿、了解いたしました。 少しこちらでルール説明について協議したいのですが、宜しいでしょうか」
「けっ、作戦会議か、まあ良いだろう」
「はっ、では皆円陣を組んでくれ」
ビームスは何やら作戦を考えるようだが、彼らにとってはこれは単なる試験では無いのだ。 彼らは警備隊長のベルミからの命令で、正式なキャッスルフォート兵としての初任務として、この冒険者ギルドによるランク試験を受けている。 直接の命令通達はベルミだが、ベルミはかづきから一連の話を聞かされているし、現在この兵士達を束ねているのは直属の部隊長となったビームスである。
つまり彼らにとってはただのランク試験では無く、任務としての側面を持っていると言う事もあり、無様にやられる訳にはいかないのだ。 勿論、任務の先にあるのはその遂行で、ただ単に参加しろと言われている訳では無く、最終条件は勝利と言う事にある。 彼らを勝利に導く為には、ビームスがこちらに有利な条件を飲ませた上で勝負に挑むのは、上官としての常套手段と言えるだろう。
「では、個人の特性を生かした攻撃方法で挑んでくれ。 くれぐれもクロサワ指令に恥をかかせるんじゃないぞ」
『サー!』
「用意は良いようだな、じゃあ始めるとするか。 ナルム! 手加減は必要ないみたいだぜ」
「うす! おやっさん」
キャッスルフォート組からは、黄隊班でもリーダを務めたネコ族のブルグの登場である。 猫族とは言えそのタイプは大小さまざまである、地球でも飼いネコから百獣の王ライオンまでが猫族だと言う事でもお解り頂けるだろう。 ブルグはその点、モモやミクのように小柄でとても俊敏で、斥候を主体としていた事からも攻撃力に期待できるものではない。
「始めっ!」
「ハーッ」
「フゥーッ」
教官のナルムは、全身に身体強化を施し防御の姿勢を取るようだが、ブルグは主に足に強化を施す事で、俊敏性を更に強化する目的でいる様子である。 当然強化を施したブルグは、相手のナルム目がけて勢いよく飛び出していったのである。 ブルグの攻撃の特徴は、猫族である自前の俊敏さを生かした連撃である事は間違いない。
ちなみに、このランク試験は戦闘形式で行われるが、殺傷能力の低い武器で戦う事で危険性を排除しているが、何でもありのルールである。 ただし、毒物の噴霧や命に危険性のある大きな魔法は禁止である。 とは言えこの世界の魔法は、詠唱を行わなくてはならないので、長い詠唱を要する大魔法などはほとんど使えないのが現状で、この事からも魔法士が戦闘にあまり向いていない事を意味するのだ。
魔法士が戦闘職でも人気が無く、低く見られているのはこうした詠唱魔法のおかげで、即効力の無さのせいであるが、熟練の魔法士はこうした対策の為に、常時魔力を込めたスクロールを使用しているが、魔方陣が描けるようになるまでは、長い年月の鍛錬と魔法に対しての読解力が必要となる為、やはり敬遠されがちと言えるだろう。 またスクロールは、非常に高価な使い捨てアイテムと言う事もあり、利にそぐわない事も多いものだ。
ブルグの攻撃は、ダッシュし近接での右から左、そして上下からと多彩な攻撃を行っている。 そのどれもがナルムの防御によって弾かれるか凌がれているのだが、ブルグはそれも意に介していないようで、単調にならないようにフェイントを掛けながら攻撃を行っているようだ。
ブルグによる一通りの攻撃が終わったと見ると、ナルムはじわりじわりと前進して来る。 これまで攻撃をほとんど行わなかったのは様子見を行っていたせいだが、ブルグが左に寄ると左へ、右によると右へと移動し、まるでブルグの進路を制御しているかのように見える。
そのしぐさを嫌がったブルグは、素早く突進すると周囲に土煙が舞い、ブルグが一瞬消えたかのように見えた。 その隙にブルグは素早くナルムの背後に回り込み、渾身の一撃を打ち込んだかのように思えたのだが、土煙が去った後にはナムルの背後で腕を掴まれ、喉元に剣を突き立てられている様子が見えた。
「よし、そこまで! ブルグは状況の把握は非常に良いものがあるぜ。 しいて言やあ、攻撃力の無さが致命的でナムルに主導権を握られていたせいで、複雑な攻撃も全て見切られていたな。 だが、その俊敏性は十分Dランカーとして及第点をやれるだろうぜ」
「やったな! ブルグ」
「ハァハァ、ありがとニャ」
通常冒険者は、その力の差によってランク分けが行われている。 Fランクは初心者でE・Dと上がる事で1人前となっていくものだが、Dランカーの冒険者で一人前と見られる事から、いきなりのDランク昇格は一般の冒険者から見ると破格の処遇とも言える。
次にナルム・シータと交代して出て来たのは、コームー・ヤーンという教官で同じくヒューマンである。 キャッスルフォート側は、同じく俊敏性の高いイタチ族のテンテンを出してきたが、こちらは獣人の中でも最も小柄である事から、コームーはその動きの良さに翻弄されていた。 テンテンも攻撃力の低さが難点ではあったが、持ち前の俊敏さと柔軟性を兼ね備えた身体は、コームーからの攻撃を寄せ付けない。
結果的には時間切れで終わってしまったが、実力的にはテンテンもDランカーとしての評価が与えられる事とあいなった。 こうしたキャッスルフォート側の作戦は、動きの速いものから出して行き、相手の攻撃パターンを読みとろうという戦法のようだったが、相手は流石Bランカーである。 まともに攻撃が当たるものではないのは、当然の結果だろう。 ならばせめてとばかり、体力を削ろうと翻弄していくのだが、相手は流石に用意周到で体力回復薬を常備してこの戦いに挑んでいる為、穴は全く見られない高ランカー達である。
「よし、次はおいらが行くよ。 ビームス隊長」
「おう、任せたぞ」
小柄で飄々とした体形のザジオだが、人狼族とあって見た目よりも随分とパワフルな力の持ち主である。 訳あって変化は禁止されている為に、人種としての登録でこのランク試験に挑んでいる。 人狼族は人や狼に変化するバンパイヤ種の為に、あまり国から歓迎されていない人種なのである。
その多くは噂によるものだが、人を襲い喰い殺しても変化して人と見分けがつかない姿になれる事で、妖怪変化の如く恐れられているそうだ。 人狼族も人前で変化する事は無く、世を忍んで生活している事からも、あまり一般的に知られてはいないのだ。 かづきもこうしたことを踏まえて、彼らにはあえて隠密行動をとらせている訳だ。
ザジオの相手はコームー・ヤーンであったが、相手はBランカーで歴戦の冒険者と言う事もあり、あえて力試しとばかりに正攻法で挑むようである。 小柄ながらそのパワーは、獣人族の狼獣人や熊獣人らとも引けを取るものではなく、身体強化を使ったザジオのパワーは驚くべき力強さがあるのだ。
傍から見れば、獣人よりも力の劣る人族に見える小柄なザジオの姿を見て、見くびったのかコームーは正攻法での戦いに挑んで見せた。
「うおりゃー!」
「来い小僧」
ザジオは片手上段に振りかぶり、勢いよく打ち下ろしたかのように見えたが実はこれはフェイントで、剣を打ち下ろしながらもダッシュし、切っ先とは真逆の木剣の柄頭をコームーの盾に突き立てたのだった。 コームーは頭部への攻撃を回避しながら反撃するつもりで盾を上に構えていたが、思惑とは異なり、柄頭ではあるがザジオの突きをまともに受けてしまう羽目になったのだ。 さて、勝負の行方はいかに。
ランク試験はこのまま順調に終える事ができるのか。
来週を乞うご期待




