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こちらは台本を小説に書いたものです。
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婚礼の歌が聞こえる
なんと 懐かしい調べよ
嗚呼 我が婚礼の甘い夜を思いだす。
彼方に見える王宮に灯る篝火
なんと暖かげな
なんと眩く輝いておるのか
それに引き換え、妾の館はどうじゃ
暗く冷たい
うち捨てられた者の溜息で満ちておる
だが口惜しい事に
こうして両の目を瞑れば、浮かんできやる
あの日々
懐かしいことよ
異国よりやってきた船
長い航海を経て辿り着いた男は、若く美しい甘い果実
可愛い男と逃げるため
父を捨て、故郷をも捨てた
背の君と添い遂げる
二度と帰るまじと誓った証に
恋しい男の船を逃すため
愛しい弟の身体をこの手で
引き裂いて海に投げた
罪深い
いいや
何の罪な事か
持て得る全てを懸けて愛に尽くす
悔やむものか 惜しむものか
だが、どうだ
妾に背の君は
妾はいったい何を得たのだ
望みを叶え 命を助け
二人の息子まで 産んでさしあげた妾に
何処へなりと
消えてしまえと
唯一人の女よ
運命の者よと囁き
変わらぬ心を誓った夜をお忘れか
冷たい寝台に 何度悲しみの涙を流し
その名を呼んで焦がれた事であろう
哀れと思う事さえも もう無いとおっしゃるのか
王宮の婚礼
あろう事かあの方の傍らには
新しい花嫁が座しておる
若く
美しい
甘い乙女
コリントス王の娘
富と名誉をもたらす娘
妾には
もう帰る所など無いというのに
毎夜一人寝の寝台で見る夢は
懐かしいコルキスの事ばかり
やれ愉しや
嬉やのぉ
この地は コリントスは
今宵 呪われる
忌まわしい婚礼の宴で
花婿はその腕に抱かんとする花嫁と
父となろう国王を失うのだ
そうら
慌てふためいて駆けて来やる あの方の馬のひずめが聞こえるよう
来やれ 来やれ 戻って 来やれ
嗚呼 心が躍る
あれあのように
息を切って 妾の元に戻っておいでだわ
お帰りなさいませ
よう戻られました
背の君
そなた様に 妾から素敵な贈り物がございます
心を込めておつくりさしあげた
さぁ
この二つの小さな
小さな
愛らしい
生首
どうなさいました
さぁもっとこちらへ
手にとってよぉく御覧なさいませ
何を呆けていらっしゃる
さぁ
さぁ
ほうれどうした
冷たい床では可哀相じゃ
妾が投げて進ぜよう
イアソン
裏切り者よ
受け取るがいい
そなたの息子じゃ
可愛かろう
ほうら
貴方様にそっくり
そうそう
そうやって
大切に抱えておざれ
転げて獣に喰われぬようにな
なんというお顔じゃ
何を泣かれる
そのようなモノ もういらぬのであろう
捨てたのであろう
今度は妾がお前を捨てるのだ
イアソン
息子の首はお前にやろう
だがこの身体は 妾が貰って行くぞ
呪われた残りの日々を
たった独りで過ごすがいい
さようなら
貴方