失意と光明
グラドを失い、妹のエダすら失った俺は、自暴自棄極まって戦の終わったその晩のうちに軍を抜け、二つ先の町まで逃げた。
これで俺も晴れて脱走兵というわけだ。
当座必要な備品は軍から拝借していたので、生活にはしばらく困らないだろう。
だが、生活に困らないからどうしたってんだ?
大体、俺は何故生きてる?
この先、何のために生きるってんだ?
生きる目的とやらをきれいさっぱり無くしちまった俺は、まさに抜け殻そのものだった。
逃げてきた町をただ当て所無く彷徨いながら、自ら死を選ぶべきかとばかり考えつつ、いたずらに足を動かしていた。
ところがどうだろうな。
世の中っていうのはほんとに不思議な巡り合わせで出来てやがる。
俺は元来下戸なんだが、ご存知のようにこの有様だ。どうにか酒にでもすがって気を紛らわしたいと考えて、一軒の酒場に立ち寄ってカウンターでビールを一杯注文すると、そいつを薬でも飲む気分で無理やり口ん中に流し込んでいた。
すると左隣に座った二人組みのおっさん達の話が自然と聞こえてきたんだ。
「知ってるか?あの不信心者のジジイがまた戻ってきたらしいぜ」
「へぇ、俺はてっきり神前裁判でいよいよ有罪食らったもんだと思ったがな」
「どうやらまだヴァルキュリアを倒す方法を探ってるって噂だぜ」
「ありゃあ絶対悪魔崇拝者だせ。今にオーディンの罰が当たらぁ」
(ヴァルキュリアを倒す)…他の客達が起こすあらゆる雑音をものともせず、その言葉が耳に飛び込んできたとき、俺の心を絶対的な確信が支配した。
俺はまるで飛び上がるように椅子から立つと、二人組みにその老人の居場所を尋ねた。