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ヴァルキュリア  作者: 花街ナズナ
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核心


ある意味で、本題はここからだった。

ヴァルキュリアを追うのはいいが、果たしてそれをどうやって倒すのか。

なにせ相手は神の使いだ。

大いなる神オーディンの使いを相手にすることへの背徳感はとうに捨て去ったが、問題はそれ以前にある。


「人間がヴァルキュリアに勝てるのか」

俺の疑問を言い当てるように一言、手前の本の山から一番上の一冊を拾い上げながら老人が呟く。

「意思あるところに道ありじゃよ若いの。不可能は無精者が十八番の言い訳じゃ」

言いながら手に取った本を開いてテーブルに置いた。

開かれたページは明らかに何度も読み返されたらしく癖がついているようで、その形が自然とでもいうように、綺麗にぴたりと開かれ、留まった。


「解決すべき問題は考え始めれば山ほどあるさ。まず、ヴァルキュリアは人間とは比べ物にならんほどに敏捷で力も強い。おまけに神の加護を得た装備で身を固めておる。しかしもっとも重要なことはひとつじゃ」

「もっとも重要なこと…?」

「最大の問題じゃよ。奴らはな、普通の武器…正確には物質では傷つけることさえ出来んのよ」

ああ、と心の中でうめく。

実際想像していたことではあった。戦場で見たときですら、えらく曖昧な存在に見えた奴らをどう倒せばいいのか。例えるなら幽霊を相手にするような感覚が俺にはあった。

「じゃがな、先ほども言うたが若いの、どんなことにも探せば答えは必ず存在するもんじゃ」

そう言うと、テーブルの上に開いた本を指で軽く叩く。

「この本は訳書じゃからお前さんにも読めるじゃろ。ここを読んでみるといい」

促されるまま、俺は老人の指す本の文字を目で追った。確かに国語に訳されたらしきその文章は俺にも読めた。そして読み進みながら、俺はじわじわと胸の辺りが熱くざわめくのを感じた。


(清きは天の光を映せし銀)

(汚れしは天の光を模せし金)

(されば、邪なるもの 銀にて浄され 聖なるもの 金にて汚るる)


学の無い俺にもこの意味はすぐに理解できた。

何のことは無い、奴らにとって金は汚れた存在であり、同時に弱点てことだ。

俺は金で煌びやかに飾り付けてある神殿のオーディン像を思い出し、腹を抱えて笑い出しそうになった。

仮にも神に仕える神官どもが、こぞって神を冒涜しているってわけだ。

こんな笑える話がそうあるもんかね?


「その様子だと話は理解できたようじゃな」

満足そうに老人がうなずく。

「残念ながら金が具体的にどのような害を奴らに与えるかまではわしにも分からん。だが、少なくともなにがしかの形で傷を負わせることが出来るであろうことは確かじゃ。となれば、後は兵士のお前さんのほうが得手の領分じゃろう。金を使って如何に戦うか、時間は無いがよく考えることじゃて」

言われ、はっとして椅子から立ち上がると、俺は無い知恵を絞って考えを巡らせた。


金の入手方法。

金を使った武器の製造。

それらを同時に行いながら目的地に向かう手段。


しばらく考え、それなりの算段をつけたところで老人への礼もそこそこに、俺は部屋を飛び出そうとした。

すると、


「おい!」

老人が後ろから怒鳴った。

(しまった!)

一喝を受けて首がすくんだ。

気分を悪くさせてしまったかと思い、恐る恐る後ろを振り返ると、突然目の前へ何かが飛んできた。

とっさにそれを手で受け止めると、それはぎっしりと詰まった皮袋だった。

中身が貨幣であることは瞬間的に察しがついた。受け止めた手の平がじんじんと軽く痛み、

手首にこたえる重量がその推測を後押しする。


「少ないが足しにせい」

老人は穏やかな笑顔でこちらを向いて立っていた。

俺は目頭が熱くなるのを感じながら、深く低頭すると、足早に老人の家を後にした。


家を出ると、不覚にも涙がこぼれた。

グラドとエダを失った時とは違う涙。

それは拭うことさえ惜しいほど、心地の好い涙だった。


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