表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/38

はじめての謁見

何だか穏やかじゃない会話が続いている。


「恐れながら、自身こそがこの魔界の王だと主張しております」


「……少し留守が長過ぎたか。これ以上図にのられて和を乱されるも厄介だ。……潰すか?」


ダーリンが魔王をやっています。


玉座の手摺に気だるげに膝を付き、見下ろすような横柄な態度のダーリン。跪き胸に手を添えながら謙虚な姿勢の元侍従長。

力関係が一目瞭然なこの図は、始めこそ驚いたが、まさしく王者の貫禄がでているダーリンをみて納得した。背中越しでもビリビリ感じる威圧感は上に立つ者特有のものだ。


そんなブラックなダーリンも素敵ぃー!


「にゃー!」


おっと、興奮の余り思わず鳴いてしまった。

今までの張りつめた、どこか好戦的な空気があっという間に消えてしまう。


あ、どうぞ。

あたしに気にせず続けて下さい。

今のあたしはただの猫。魔王陛下のにゃんこでございます。

だから物騒な話なんて、関係ない関係ない。


「おや、もしやそちらが噂に聞くレディ様ですかな。せっかくですので挨拶をお許し頂けますか?」


そうそう。

実は魔界でのあたしの名前は、『レディ』だったりする。

更に説明すると、付けたのはダーリンではなく宰相さんだったりする。

身体中余すところ無く傷だらけだったあたしは、ダーリンと再会して気が緩み、そのままぐっすりと寝てしまい、気が付いたらダーリンの寝室だった。

しばらくダーリンの寝室で怪我の養生をしていたのだが、どうやらその時に、ダーリンは寝室を入室禁止令を発足したらしく、疑問に思った宰相さんが乗り込んできたのだ。


「一体どんな淑女(レディ)が貴方を虜にしたのかと思えば、これは……」


ボロ雑巾のようなあたしを見た、宰相さんの第一声がそれだったのだ。

まさかそのまま名前になるとは思わなかった。


……誰もが一度は子どもの頃に親に隠れて生き物を拾い、自分の部屋で匿ったりするけれど、まさか魔王陛下にまで当てはまるとは思ってもみなかった。

そんな子供っぽいダーリンも大好きですが、何か?


あたしが軽く現実逃避しているとダーリンはゆっくりと頷き、玉座を立った。


え、なんでそこでいきなり立つの?


天下の魔王陛下を差し置いて、ふかふかかつ、ゴージャスな玉座に一人だけ座るだなんて、何て恐れ多い。

だが、まさかの魔王陛下の起立にあたしは対処しきれず、いきなり消えた温もりに身体は丸まり、いつもピンっと立った耳は情けないくらいに頭にぺちょーんとなった。

謁見の間にいるのは、ダーリンとあたしと元侍従長だけではない。

実は護衛の人やら、侍従のひとやら沢山いてるのだ。彼等の視線が一斉にあたしに集まる。

しかも、そのほとんどが角が生えてたり鱗がついてたり、一番怖いのは爬虫類の顔で舌舐めずりした人だ。一度だけだったけど、しっかり見ましたよ。美味しそうなんですか、あたし。


「……ミィミィ」


緊張で口を何度かぱくぱくし、やっと出た鳴き声が、コレだった。


ぁぁぁあああ、恥ずかしくって穴に入りたい! あたしぃっっ

いちおう、これでも成猫なのにぃ!


甲高い子猫のような鳴き声が広間に響く。

助けを求めるようにダーリンに向かって鳴いたのに、肝心のダーリンはあたしを見てるだけで助けてくれない。


あの婚約時代に、あたしを見かける度に顔を綻ばせて寄ってきたダーリンは一体どこに行った?


実際に、今の魔界でのあたしの現状は放置に近い。

たまにダーリンが気が向いたときだけ、壊れ物を扱うようにそっとあたしを撫でてくれるだけだ。

今のダーリンはあたしを見かけても、寄ってくるどころか目を細めるだけ。それも愛情じゃない。例えるのなら観察のそれに近い。

あたしが“猫”だからではない。

例え、“人”のままだとしても、恐らくダーリンは同じく視線を寄越したことだろう。

ダーリンは、何故かあたしとの愛のメモリーだけ、綺麗さっぱりと忘れてしまっていたのだから。

チクリと胸が痛む。


「ほっほっほっ、そう固くならなくとも。私は魔神六柱の一角を担っておりますネメシスと申します。以後お見知り置き下さいませ、レディ様」


猫にまで丁寧に挨拶をしてくれるなんて、さすがダンディーかつ紳士だ。お陰で少し雲行きの怪しかった心中が晴れる。でも、子どもの名付け親の権利は譲りせんよ?


「レディ様のお陰で魔界は晴天続き。穏やかな日々が続いております。僭越ながら魔界の住民を代表して、この場でお礼申し上げます」


よくわからないけど、晴れ女、もとい晴れ猫ってこと?


「今回は急な場でしたゆえ、気が利かず申し訳ない。レディ様は最近地上から来られたとお聞きしましたが、魔界の魚……、ドン・グラなどはもうご賞味なさいましたかな?」


なにそれ、美味しいの?


「ほっほっ、どうやらレディ様は気になるようですな。それでは次回に持参致しましょう」


あたしへの謁見? も無事に終わり、再びダーリンが玉座へと戻る。

玉座とダーリンの隙間はやっぱり安心する。安心するが……

助けてくれなかった怨みを込めて、ダーリンに初めて猫キックを食らわした。

ちょっと痛そうに身動いたダーリンに少し溜飲を下げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ