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5/1 羽間 仁 (ハザマ ジン)
ミニチュアに見える車が右から左へ飛んでいく。
「あれは、脊椎動物門、鳥綱、SUV目、SUV科...」
自身の口からとんだうわ言が飛び出ていたことに羽間 仁は気づいたが、
ふっと笑い飛ばすことは出来なかった。
名古屋-東京間の新幹線車内は、旅行シーズンの割にガランとしている。
いつもなら居合わせた家族連れの大きな声を過敏にキャッチする耳が、
今日という日の車内ではレジ袋のガサ音一つ聞き取ることが出来ていなかった。
山景色を見て、羽間は気を紛らわせることにする。
何百mクラスの緑が目に入ってくるが、圧迫感を覚えることはない。
寧ろ、山の稜線を辿るたびに、
脳内にはじんわりと優雅なニュアンスが届いていた。
つかの間。
結局、羽間は目指す先の研究施設から電話がかかってきたときのことを思い出してしまっていた。
プロの捕獲屋がやっとのことで捕まえた、ある新種の生物の解析を協力するよう依頼が来ていたのだ。
過去の同様の数件を振り返って、今回も自身の研究者としての知見は塵程にしか役に立たないだろうと予見する。
羽間は窓の冊子をおろし、今度は車内前方をじっと睨み始めた。
捉えるのは前の空席では無い。
もっと先の苦痛の未来の中にある。
飛行機は移動手段として選ばなかった。
2075年5月1日
見解が正しければ、空には脅威が住んでいる。




