これは勝手な自己満足でしかない
実はこんな結果。
「おおよくぞ。魔王を倒してくれた。勇者に聖女。そなたらの功績は」
「その前に聞きたいんだけど」
カンパニュラはたぶん王様だろう人の言葉を遮って、視線を神殿関係者の方に向ける。
「ねえ、カザンクラス神父っている?」
聖女であるカンパニュラに名前を呼ばれて、カザンクラスは勝ち誇った顔を一瞬だけ浮かべ、すぐに神妙な面持ちの顔を作った。
聖女を見出したのは自分。おそらく聖女直々にお礼でも言われるのだろうと――。
そんな思惑が感じられたのがカンパニュラには不愉快だった。不愉快で不快で、許せないので。
「――貴方に聞きたいんだけど、私の恩人であり、婚約者であるルドベキアはどこにいるか知らない?」
貴方が聖女ですと言われた瞬間。
「間違えてます」
と言った私は、勇者と共に魔王を討伐し終わった後ですら間違えているとしか思えなかった。
「お前はただ笑っていればいい」
そんな風に父に言われて幼いころからいろんな場所に連れていかれた。
女性の多くいる場所。
綺麗な物がたくさん置かれている場所。
父よりも年齢が上の男性が値踏みするような視線を向けて触ってきた時は怖かったが、笑っていないと叱られるので頑張って耐えた。
物心がついていくうちに、父は私をあちこち連れて行き、いかにも父一人で子供の世話をして大変だアピールをして飲み歩いていたり、子供に食べさせてあげたいので助けてくださいと借金の返済を長引かせていたり、自慢の娘なんですよとその手の趣味の人に高く娘を売りつける算段をしている。
そして、その娘を利用して賭け事やお酒。あらゆる娯楽に湯水のごとく資金を使い、私は常にひもじい想いをしていた。
「笑って同情を誘え。お前は、母親に似て器量よしだからな。それで男を引っかけろ」
そんな私の母は物心ついた時にはすでにいなかった。死んでいるのか逃げて行ったのかは分からない。
私の人生ろくなものではないなと判断した。
いつか父の手で売り飛ばされる未来しか見えない時点で、それを避ける選択を必死に考えていた矢先に、私は商会に勤めているルドベキアに会った。
「そっか、大変だったな」
神様が聖なる存在を地上に送り込んでいるというのなら彼こそそうだったのだろう。
彼は私と婚約をするからという理由で私の父が作った借金を引き受けてくれて、まともな教育を受けていなかった私に文字や計算を教えてくれた。
難しいのは分からないが、文字が読める。明らかにおかしい計算も違うことだけ理解できる。それがなんて心強かったか。彼が教えてくれなかったらとっくの昔に詐欺の手段に引っ掛かっていたか、どこぞの愛人として売られていただろう。
そんな聖人のような婚約者に守られていたある日。
「貴方が聖女です」
と新手の詐欺にあったとしか思えなかった。
詳しく話を聞いていると魔王という存在を倒せるのは勇者と聖女だけで、力を貸してほしいという内容だった。
「賃金は?」
「はい?」
「そんな危険なことさせるのをまさか無償というわけないでしょうね? 危険手当を少なくとも半分は前金で出してもらわないと怖くて引き受けられない」
半ば脅して、前金を貰い。婚約者に渡してほしいと手紙を一筆添えた。
――私のことを忘れて幸せになってください。ありがとう
たどたどしい字。ルドベキアが教えてくれた文字を思い出して必死に書いた手紙は一筆のはずだったが、かなり大きな字で紙をたくさん使ってしまった。
「魔王を倒す旅は険しく何年もかかると思いました……もしかしたら帰れないと……借金を押し付けて、迷惑しかかけていなかった私を待たないで欲しいと借金分のお金と共にシナプス神父に預けたのですが、私が旅に出た後にシナプス神父が事故に遭われて亡くなられたと聞きました……」
最初に聖女だと教えてくれた神父はどこか胡散臭かったので、何人か神父を直接確認して5人目に面接した神父のシナプスに託した。
けして、父親に渡さないで欲しいと懇願して。
「なのに、その連絡もなく、ルドベキアの反応も知らせてくださいと頼んだのに何もなかったので怪しいと思っていたのですけど、まさかあんな父に……」
彼は父の子供想いな外面にあっさりと騙されて、ルドベキアは娘を騙した悪党だと伝えて、返すはずだった借金を自分の贅沢のために費やした。
それを魔王討伐で戻ってきて知らされたこちらの想いを無下にして、
「落ち付いて、聖女」
「勇者」
「俺の取り分が無くなるから」
庇ったのではなく、もっと問い詰めるために、勇者が口を開く。
全然関係ないけど、勇者と聖女はラブラブという変な噂があるのを新聞で知った時は意識が遠のくかと思った。なんで互いに役職名でしか呼んでいないのにラブラブなんてことになるんだろうか……。
これってあれでしょう。聖女の護衛という名前の見張りが流した捏造でしょう。魔王討伐の旅を逃げ出すと思われていたのか常に数人に監視されて自由時間もなく、互いに励まし合っていたのをラブラブなんて言い出したのだろうか。勘弁してほしい。
「なあ、俺がポーチュラカに会いたいと言ったのに一刻を争うからと会わせないで、常に俺らを見張っていたよな」
勇者から湧き上がってくる覇気。それにこの度の式典を見に来た貴族が腰を抜かす。中には気絶をしている者もいるが、元凶と言える存在は気絶させられないような調整された覇気に晒されるという器用な行動をされているので気絶も腰を抜かすことも出来ない。
「お袋。俺はお袋にポーチュラカを頼むと手紙を出したよな。なんで、ポーチュラカを苦しめる側に回っているんだ」
幾多の貼り紙。近所に悪女の噂を流した勇者の母は知らないとばかりに首を横に振る。
「れ、レックス……これは……」
「お袋。そう言えば結婚に反対していたよな。上品ぶって可愛げのないとか。……最終的には認めてくれたから結婚式をしたつもりだったんだが……」
「だ、だって、レックス。貴方は勇者になったのよっ。あんな、小娘よりも聖女さまの方が相応しいわ。それにあなたが望めばどんな女性も選べるのよ!!」
「俺は、ポーチュラカがいい」
その唯一だった人を奪われてどれほど怒り心頭なのか。必死に説得して結婚を認めてもらったのにこんな形で中断されたことを責め立て、愛する妻に待っててくれと手紙を出したのに届いておらず。手紙には5年で片を着けると書いて実際は4年で終わらせた男の悲願が自分の母親のせいで潰されたと知った時の衝撃は。
自分だったらキレる。
私は借金を返して手放すつもりだったけど、勇者は待っててもらいたかったからなおさら。
「勇者。勇者」
ああ、いかん。これでは勇者が暴走する。
――殺すなんて生ぬるい手段を取るわけにはいかないのだ。
「そろそろ私に主導権を返してくれない?」
「ああ。――そうだったな。頼む」
「任せて」
告げると共に聖女の力全開でこの国全てに、
「聖域」
聖女のみ使える神聖魔法を放つ。
銀色の光が国を包むと、人々の身体から黒い靄が抜け出ていく。
「あっ……わたくしは……」
「私は……」
「俺は……」
呆然としたように呟いて、やがて顔色が真っ青になって自分の罪を告白し始める。
魔王を倒せるのは勇者と聖女だけ。
それは、魔王に恐怖を与えられるほどの力を持つのは勇者だけで、魔王が恐怖を与えた瞬間に精神攻撃を放てるは聖女だけだから。
聖女のみ使える聖域は人の常識内の欲望を奪い取る魔法。
魔王がいくら魔族としての正義があっても人間基準で考えたら悪というものに関して罪の意識に目覚めて、自身の消滅。自身の犯したことに耐えられなくなって自殺をする。
それと同じことをこの国全部にしてやった。彼らは苦しむだろう。欲の皮を被った者たちほど、自分たちの行いを、しかも場合によっては現在進行形の欲望の結果を目の当たりにするのだ。
勇者と聖女は結ばれるべきという恋愛小説の読み過ぎのお花畑で苦しめた人たちのことを思い出して一生苦しめばいい。
「終わったな」
「そうね」
「聖女はこれからどうするんだ?」
「そうね……。取り合えず聖女認定した宗教と別の宗教の所で一生を終えるわ。その方がこいつらにとって永遠に苦しむ結果になりそうだし。――勇者はどうする?」
「俺は……、ポーチュラカが幸せかどうか確認して、暮らすかな。こいつらの一番欲していたものは奪ってやったし」
どこか悲しげな瞳。
私はルドベキアの幸せを祈って離れる覚悟をしたけど、勇者はそうではなかった。旅の間も妻を想っていたのを見ていた。
「じゃあ、元気で」
「ああ」
阿鼻叫喚の空間にそぐわない挨拶。互いに仲間意識はあった。それだけだった。
せめて、勇者にささやかな幸せがあればいいとだけ祈っておいた。
結局どっちも愛を手放した。




