第8話「すれ違いのシャッター」
西園寺の出現以来、蓮の様子がおかしい。
どこか焦っているような、ピリピリとした空気を纏っている。
撮影の指導も厳しさを増し、湊が少しでも納得のいかない写真を撮ると、容赦なくデータを消去させるほどだった。
「違う。こんなんじゃない。もっと内面を出せ」
「だから、やってるじゃないですか!」
部室で二人の声が響く。
湊も連日の厳しさに疲弊していた。
「如月さんは、俺に何を求めてるんですか? 俺の写真が撮りたいの? それとも被写体としての俺がいいの?」
「……どっちもだ」
「じゃあ、俺の気持ちも考えてくださいよ! 人形じゃないんです!」
湊はカメラを置いて、部室を飛び出した。
追いかけてくる足音はなかった。
数日、湊はサークルを休んだ。
蓮とは連絡も取っていない。
冷静になろうと思えば思うほど、蓮の言葉や態度が気になってしまう。
彼は湊のことをどう思っているのだろう。
単なる「良い被写体」として独占したいだけなのか。
それとも、湊自身を見てくれているのか。
大学の図書館で時間を潰していると、西園寺が現れた。
「やあ、湊くん。浮かない顔してるね」
「……西園寺さん」
「蓮と喧嘩でもした? あいつ、言葉足らずだし不器用だからなぁ」
西園寺は隣に座り、囁くように言った。
「蓮の過去、知ってる? あいつ、昔付き合ってたモデルがいたんだけどさ、束縛しすぎて逃げられたんだよね」
「え……」
「写真家としては天才だけど、愛し方を知らないんだよ。対象をガラスケースに閉じ込めようとする。君も気をつけてね、壊される前に」
西園寺の言葉に、湊の心が揺れる。
蓮の独占欲。強い執着。
それは愛なのか、それともエゴなのか。
不安が黒いインクのように心に広がっていく。
その夜、湊は久しぶりに蓮にメッセージを送ろうとした。
『会って話したいです』
そう入力したが、送信ボタンが押せない。
もし、「お前はもう必要ない」と言われたら?
もし、西園寺の言う通り、ただのコレクションの一つとして見られていただけだったら?
臆病風に吹かれ、湊はスマートフォンを投げ出した。
暗い部屋で一人、膝を抱える。
会いたい。
あんなに厳しくて怖い人なのに、今は彼の不器用な優しさが恋しかった。




