第7話「ライバルの出現」
夏休み前。
サークル内は秋の学園祭での展示会に向けて活気づいていた。
湊も自分の作品を出すことになり、蓮の指導の下、撮影を続けていた。
二人の関係は「師弟」というよりは、「喧嘩友達」に近くなっていた。
蓮の容赦ないダメ出しに湊が言い返し、それでも結局は二人で並んで帰る。
そんな日常が定着しつつあった。
ある日、部室に見知らぬ男が訪ねてきた。
長髪を後ろで束ねた、派手な雰囲気のイケメンだ。
「よお、蓮。久しぶり」
「……西園寺」
蓮の表情が険しくなる。
西園寺と呼ばれた男は、蓮の元同級生で、今はプロの写真家のアシスタントをしているらしい。
サークルのOBでもある彼は、馴れ馴れしく蓮の肩を抱いた。
「相変わらず怖い顔してんなぁ。……で、今年の展示のエースはまた蓮か?」
「俺は関係ない」
「つれないなぁ。お前が本気出さないとつまんないだろ」
西園寺の視線が、ふと湊に向いた。
「ん? 見ない顔だね。新入生?」
「あ、東雲湊です。二年生ですけど、今年入りました」
「へえ、湊くんか。可愛い顔してるね」
西園寺は湊に近づくと、いきなり顎を掴んで顔をのぞき込んだ。
「肌きれいだし、骨格もいい。ねえ、俺のモデルにならない?」
「えっ!?」
あまりの距離の近さに、湊は硬直する。
西園寺の手つきはいやらしく、ねっとりとした視線が不快だった。
「やめろ」
蓮が西園寺の手を払いのけた。
バチン、と乾いた音がする。
「蓮?」
「こいつに触るな」
蓮の声は低く、怒気を孕んでいた。
いつもの不機嫌さとは違う、明確な敵意。
湊を背に庇うようにして立つその背中は、怒りで強張っていた。
「わお、怖い怖い。もしかして蓮のお気に入り?」
西園寺はニヤニヤと笑いながら手を引いた。
「昔からお前は独占欲強いもんなぁ。大切なものほど誰にも触らせない」
「……帰れ」
「はいはい。また来るよ、湊くん」
西園寺は手を振って出て行った。
嵐のような男だった。
「……大丈夫か」
蓮が振り返る。
その表情は、先ほどの怒りが嘘のように心配げだった。
「はい、平気です。……知り合いですか?」
「ああ。昔、少し揉めた」
多くは語らなかったが、蓮の様子からただならぬ関係だったことが察せられた。
「大切なものほど誰にも触らせない」
西園寺の言葉が引っかかる。
「……如月さん」
「あいつには関わるな。モデルの話も受けるなよ」
「受けませんよ。俺の専属カメラマンは如月さんですから」
冗談めかして言うと、蓮がピクリと反応した。
「……言ったな?」
「え?」
「専属って言ったな。言質取ったぞ」
蓮は湊の手首を掴み、グイと引き寄せた。
「他の奴のカメラの前に立つな。お前を撮るのは俺だけでいい」
その瞳は暗く、深く、執着の色を宿していた。
それは恐怖よりも、甘い痺れを湊にもたらした。
独占されたい。
この人にだけ見つめられていたい。
湊の中で、恋心がはっきりと形を成した瞬間だった。




