第13話「鮮やかな世界」
学園祭が終わり、冬が訪れようとしていた。
キャンパスの木々は色づき、冷たい風が吹いている。
けれど、湊の世界は以前よりもずっと暖かく、鮮やかだった。
「湊、遅いぞ」
大学の門の前で、マフラーに顔を埋めた蓮が待っていた。
あれから二人は付き合い始め、半同棲のような生活を送っている。
「ごめんなさい! ゼミが長引いて」
「……罰として、今日は鍋な」
「えー、如月さんが作ってくれるならいいですよ」
「俺が切って、お前が煮るんだろ」
何気ない会話をしながら、並んで歩く。
自然と繋がれる手。
すれ違う人が振り返るほどの美貌を持つ蓮だが、その視線は隣にいる湊だけに注がれている。
「そういえば、来週の撮影旅行、場所決まりました?」
「ああ。海に行く」
「冬の海ですか? 寒そう」
「冬の光は綺麗だ。それに……」
蓮は少し言葉を濁し、それからそっぽを向いて言った。
「温泉、予約したから」
「えっ」
湊が驚いて蓮を見る。蓮は視線を外したままだが、耳が赤い。
「それって、つまり……」
「露天風呂付きの部屋だ。……二人で、ゆっくりできるだろ」
それはつまり、そういうことだろうか。
湊は顔がカッと熱くなった。
付き合い始めてから、キス以上のことはまだ進んでいない。
蓮が大切にしてくれているのは分かるが、そろそろ次のステップに進みたい気持ちもあった。
「……楽しみですね」
湊が照れながら言うと、蓮も耳を赤くして頷いた。
「あと、これ」
蓮がポケットから何かを取り出した。
小さな鍵だった。
「俺の合鍵。……いつでも来ていい」
それは、事実上の同棲の申し込みだった。
「絶対零度の王様」と呼ばれた彼の、最大のデレ。
湊は鍵を受け取り、胸に抱きしめた。
「ありがとうございます。……大好きです、蓮さん」
名前呼び。
蓮は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに破顔した。
その笑顔は、かつて河川敷で猫に見せたものよりも、ずっと幸せそうで、甘やかだった。
「ああ。俺もだ」
二人は寄り添い、冬の街へと歩いていく。
これからも、たくさんの写真を撮るだろう。
ピントがずれたり、露出を失敗したりすることもあるかもしれない。
けれど、二人なら何度でも撮り直せる。
ファインダー越しではなく、隣に並んで、同じ景色を見て生きていくのだから。
世界は、こんなにも美しく輝いている。
最高のハッピーエンドは、ここから始まる日常の中にあった。




