第12話「シャッターチャンス」
非常階段の踊り場。
学園祭の喧騒が遠く聞こえる中、二人だけの時間が流れる。
蓮は湊の手を握りしめ、意を決したように口を開いた。
「俺は、言葉にするのが苦手だ。写真の方がずっと雄弁になれる」
「はい、知ってます」
湊は微笑んで頷いた。
「でも、これだけは言葉にしなきゃ伝わらないと思った」
蓮は深呼吸をする。
「湊。お前が好きだ」
ストレートな言葉。
飾り気のない、不器用な告白。
「被写体としてだけじゃない。一人の人間として、男として、お前が欲しい。お前の笑顔を見るだけで救われるし、お前がいないと世界が色を失う」
蓮の手が震えている。
あの傲慢に見えた彼が、こんなにも必死に想いを伝えてくれている。
湊の目頭が熱くなった。
「……俺も、です」
湊は涙声で答えた。
「俺も、如月さんが好きです。怖くて、厳しくて、でも本当は優しくて甘い如月さんが大好きです」
湊が飛びつくように抱きつくと、蓮はしっかりと受け止めた。
力強い腕が湊の背中に回る。
鼓動が重なる。
「……もう逃がさないからな」
蓮が耳元で囁く。
「逃げませんよ。俺はずっと、如月さんのファインダーの中にいます」
蓮が体を離し、湊の顔を両手で包み込む。
ゆっくりと顔が近づく。
唇が触れる直前、カシャッ、という幻聴が聞こえた気がした。
それは心のシャッター音。
この瞬間を永遠に焼き付ける音。
触れ合った唇は熱く、甘かった。
何度も角度を変えて、確かめ合うように口づけを交わす。
息が上がり、視界が滲む。
でも、蓮の顔だけははっきりと見えていた。
「……愛してる」
蓮が小さくつぶやいた。
その言葉は、どんな名作写真よりも美しく、湊の心に深く刻まれた。




