第49章 魔法使いのしゃっくり騒動
初夏の爽やかな風が、ふわもこ村を優しく包み込んでいた。木々の葉は鮮やかな緑に輝き、その間を縫うように飛び交う蝶や蜂たちの姿が、まるで自然が織りなす生きた絵画のようだった。村の空気は、新緑の清々しい香りと、遠くの野原から運ばれてくる花々の甘い芳香が混ざり合い、深呼吸をするだけで心が躍るような不思議な力を秘めていた。
ふわもこ茶屋では、ミアがいつものように愛らしい仕草でハーブティーを淹れていた。その姿は、まるで妖精が舞っているかのように優雅で、見ているだけで心が和んでいく。
しかし、突然……。
「ひっく!」
小さな音が茶屋に響いた。ミアは驚いて自分の口を押さえた。
「あら? ……ひっく!」
モフモフが、不思議そうにミアを見上げた。
「どうしたの、ミア?」
ミアは少し困ったような、でも少し面白がっているような表情で答えた。
「しゃっくりが……ひっく! 出ちゃった、みたい」
その瞬間から、ミアの可愛らしいしゃっくりが茶屋中に響き渡り始めた。
「ひっく! ひっく!」
ミアは頬を赤らめながら、何とかしゃっくりを止めようと努力した。深呼吸をしたり、水を飲んだり。しかし、どれも効果がない。
「も、モフモフ……ひっく! どうしよう?」
モフモフは、困ったように首をかしげた。
「う~ん、魔法は効かないの?」
ミアは、自分の杖を手に取った。
「そうね、試して……ひっく! みるわ」
ミアが杖を振ると、淡いピンク色の光が彼女を包み込んだ。しかし……。
「ひっく! ひっく!」
しゃっくりは止まるどころか、さらに激しくなってしまった。
その様子に、ミアは思わず吹き出してしまう。
「あはは……ひっく! どうしよう……ひっく!」
ミアの笑顔としゃっくりが交互に現れる姿は、とても愛らしく、モフモフも思わず笑みをこぼした。
そんな中、茶屋のドアが開き、リリーが入ってきた。
「ミア、今日のハーブ……あら? どうしたの?」
ミアは、頬を赤らめながら説明しようとした。
「リリー、私……ひっく! しゃっくりが……ひっく!」
リリーは、驚きつつも微笑んだ。
「まあ、可愛いしゃっくりね。でも、困っているみたいね」
リリーは、自分の持っていた花籠からラベンダーを取り出した。
「これを嗅いでみて。リラックス効果があるから、しゃっくりが止まるかもしれないわ」
ミアは、感謝の笑顔を浮かべながらラベンダーを受け取った。
「ありがとう……ひっく!」
ミアがラベンダーの香りを深く吸い込むと、不思議なことが起こった。茶屋中に、ラベンダーの香りが広がり始めたのだ。それは、ミアのしゃっくりに合わせて、紫色の小さな波紋となって空中を漂っていく。
「わあ、綺麗……ひっく!」
ミアのしゃっくりと共に広がる香りの波紋は、まるで小さな魔法のショーのようだった。リリーもモフモフも、その美しさに見とれてしまう。
しばらくすると、ミアのしゃっくりは徐々に落ち着いてきた。そして最後の「ひっく!」と共に、大きな紫色の波紋が茶屋中を包み込んだ。
「あ……止まったみたい」
ミアは、ほっとした表情を浮かべた。その安堵の表情があまりにも可愛らしくて、リリーとモフモフは思わず笑顔になった。
「ミア、あなたのしゃっくり、とても可愛かったわ」
リリーの言葉に、ミアは照れくさそうに頬を赤らめた。
「もう、からかわないで」
しかし、その表情はどこか嬉しそうだった。
窓の外では、小鳥たちが楽しそうにさえずっている。その声が、まるでミアのしゃっくりに合わせて歌っていたかのように聞こえた。
ミアは深呼吸をして、もう一度ラベンダーの香りを楽しんだ。
「ねえ、モフモフ、リリー。この香り、新しいお茶のアイデアになりそうじゃない?」
二人は、にっこりと笑ってうなずいた。
「『しゃっくり封じのハーブティー』なんてどう?」リリーが提案した。
三人は顔を見合わせて、楽しそうに笑い合った。ミアのしゃっくり騒動は、こうして新しい魔法のお茶のアイデアを生み出すきっかけとなったのだった。
ふわもこ茶屋には、ラベンダーの香りと共に、温かな笑い声が満ちていた。それは、まるで魔法のように村全体を幸せな空気で包み込んでいるようだった。




