第48章 星に届く想い
晩秋の静かな夜、ふわもこ村を優しく包み込むように、柔らかな月光が降り注いでいた。木々の葉は、ほとんどが落ち、その枝だけが月明かりに照らされ、繊細な影絵のように夜空に浮かび上がっていた。村の空気は澄み切り、一歩外に出れば、星々の煌めきが肌に触れるかのような錯覚を覚える季節となっていた。
ミアは、茶屋の掃除を終え、今日一日の仕事を終えようとしていた。そんな時、突然ドアが開き、見知らぬ老婆が入ってきた。
「あの、すみません。もう閉店時間なのですが……」
ミアが声をかけると、老婆は優しく微笑んだ。
「ごめんね、お嬢さん。少しだけ、お話していいかしら」
老婆の目には、何か深い悲しみと、同時に強い決意のようなものが宿っていた。ミアは、不思議と老婆を断ることができず、うなずいた。
「はい、どうぞ。お茶をお出ししましょうか」
老婆は、ゆっくりと席に着いた。その動作には、長い人生を生きてきた者特有の落ち着きがあった。
「ありがとう。でも、お茶はいいの。私には、もう時間があまりないから」
老婆の言葉に、ミアは不安を感じた。しかし、老婆はまるで孫に語りかけるような優しい表情で続けた。
「お嬢さん、あなたは魔法使いなのよね。この村の人々を癒す、素晴らしい魔法の使い手だって聞いたわ」
ミアは少し驚いて頷いた。
「素晴らしいはちょっと大げさだと思いますけど……はい、魔法を使うことは間違いありません」
「私には、お願いがあるの。私の想いを、星に届けてほしいの」
老婆の言葉に、ミアは困惑した。星に想いを届ける? そんな魔法、聞いたことがない。しかし、老婆の真剣な眼差しに、ミアは何か特別なものを感じた。
「星に……ですか?」
「そう。私の夫は、もう星になってしまったの。でも、私には伝えきれなかった想いがあるの」
老婆は、ゆっくりと懐から一枚の古い写真を取り出した。そこには、若い二人の笑顔が写っていた。
「これが、私と夫の若かりし頃の写真。彼は、私のために星を摘んでくると約束してくれたの。でも、その約束を果たす前に……」
老婆の目に、涙が光った。ミアは、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
「私からのお願い。彼に伝えてほしいの。『約束は果たされたわ。あなたが星になって、私を見守ってくれているから』って」
ミアは、老婆の想いの深さに心を打たれた。そして、不思議と自信が湧いてきた。
「わかりました。必ず、あなたの想いを届けます」
ミアは、老婆と共に外に出た。満天の星空が、二人を優しく包み込む。ミアは深呼吸をし、両手を空に向けて広げた。
「星々よ、この方の想いを聞いてください」
ミアの体から、淡い光が溢れ出し始めた。その光は、まるで北極星に導かれるように、空へと昇っていく。
「あなたの約束は果たされました。奥様はいつも、あなたの光に包まれています」
ミアの言葉とともに、光は一層強くなり、夜空全体を覆うほどになった。そして突然、一つの星が特別に明るく輝いた。
老婆は、涙ながらにその星を見上げた。
「ああ、あなたね。ちゃんと聞こえたのね」
その瞬間、老婆の体が淡く光り始めた。ミアは驚いて老婆を見た。
「あの、大丈夫ですか?」
老婆は、穏やかな笑顔を浮かべた。
「ええ、大丈夫よ。むしろ、とても幸せなの。お嬢さん、ありがとう。あなたのおかげで、私は安心して夫のもとに行けるわ」
そう言うと、老婆の姿はどんどん透明になっていき、やがて光の粒子となって夜空へと昇っていった。その光は、先ほど輝いていた星のもとへとたどり着き、二つの星が寄り添うように輝いた。
ミアは、涙を流しながらその光景を見つめていた。悲しみではなく、深い感動と温かさに包まれての涙だった。
「ねえ、モフモフ。私たちは、素晴らしいことを目撃したのね」
モフモフは、静かに頷いた。
「うん、二人の永遠の愛を見たんだね」
ミアは、もう一度夜空を見上げた。二つの星は、これからもずっと寄り添い続けることだろう。その想いは、きっと村中の人々の心も温めてくれるはずだ。
ふわもこ村の夜空は、いつもより美しく、そして温かく感じられた。ミアは、自分の魔法が人々の心を繋ぐ架け橋になれたことを、深く幸せに思いながら茶屋へと戻っていった。
この夜の出来事は、ミアの心に深く刻まれ、これからの魔法の在り方に大きな影響を与えることとなるのだった。




