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日本科学第一高校の凡人と天才 ―エンタングルメント・ラボ―  作者: 逢坂巡


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1話 由津里司

朝起きると、すでに8時半を回っていた。


「うわ、やべえ⋯」


寝癖をつけたまま、急いで靴を履く。


「今日は何時に帰ってくるの?」


母さんがフライパンを片手に持ちながら俺に聞いてきた。


「今日はエンタングルメント・ラボに行ってくるから、19時になるかな。」



「あのかわいい子に振り回されてんのねー、あんたも。」


と母さんは言いながらニヤニヤと笑っていた。


「うっせえ。」


そのとおりである。


俺はあの由津里司ゆづり つかさと出会ってから、

奴に振り回されっぱなしである。


学校の階段で飯を食っていたところを話しかけられ、

その後なんだかんだ交流が続き、挙句の果てにはこの前ついに家まで来たのだ。

だから、母さんも奴の顔は知っている。 


「ずいぶん可愛い子だったわね。その上、頭がいいとか、もうモテモテなんじゃないかしら。」


⋯それもそのとおりである。


奴はなんと一ヶ月に2、3回、付き合う男を変えているのだ。


どうしてそんなことをしているのか聞くと、


「うーん。なんていうか、いろんな可能性を信じたいんだよね、私は。だから、その人と付き合うかもっていう可能性を消したくはなくて。そんなことしてるうちに長続きしなくなって、別の人と付き合う、みたいな?」


とのことだった。

俺にはようわからん。


そんなよくわからん奴と行動している理由は、

エンタングルメント・ラボで行われている研究への参加のためだ。


日本科学第一高校の中にある量子科学研究室 ー通称、エンタングルメント・ラボ。


ここでは、量子転送型交通から多世界解釈まで幅広い研究が行われている。


国立である日本科学第一高校の中にあるので、量子科学研究室も国の機関の一つであり、そもそも日本科学第一高校自体も大きな研究対象となっている。 


高校の中で優れた人間 ーつまり、Aクラスの中のさらにトップ5人は、学生でありながら「研究者」として、エンタングルメント・ラボに配属される。

今年の1年生の首席である由津里司も、もれなくそのメンバーのうちの一人になったわけだ。


才能ってやつは怖いねえ。


ここで言う才能というのは、もちろん量子力学についての、だ。


日本科学第一高校に通っている生徒は、量子力学のテストを受けさせられる。

現在、日本のエネルギーは量子力学に舵を切ろうとしているので、その才能を発掘したいわけなのだ。


テストの点数によってAクラスからEクラスまで振り分けられる。


由津里はAクラス、俺はEクラス。  


要は、住む世界が違うって言う話だ。


由津里は、そんなことは気にしないとばかりに

俺に話しかけ、何度も何度も言ってきた。


「私さ、直感がすごいんだよね。ビビビと来ちゃうっていうか。観察眼とかそういうの?まだうまく言葉にはできないけれど。君、なんかいいよね。量子力学はわかってなさそうだけど、私にはないものがきっとあると思う。ってわけで、私のお手伝いをしてくれない?」


よくわからん勧誘を受けて、俺は由津里の手伝いをすることになった。


今日も放課後、ラボに呼ばれているので行かんきゃいけないのだが。  


⋯かたやEクラスの俺と、「研究者」としてラボで働いているAクラスのトップども。


居心地がいいかと言われたら⋯そりゃもう最悪である。  


天才どもと言葉を交わすのはどうしたって緊張するし、そもそも量子力学なんて小難しい学問の何に俺が貢献できるかなんてさっぱりわからん。


俺はなんでもすぐに覚えられるような頭脳は持ち合わせていないし、直感なんてもってのほかだ。


というか普通に記憶力が悪くて何でもすぐ忘れる。

ラボに参加している奴らの半分も覚えていないどころか、未だに教室の隣の席の奴の名前も覚えていない。


⋯よく高校に受かったよなあ⋯。

努力は嫌いだが、超短期間の勉強スケジュールを組んで、何とかしのいだ。

努力できるのも一つの才能というが、本当にそのとおりだ。

普通の人間は努力なんてできないし、そもそも努力なんてしたくないのだ。

なんか、結局持ち合わせて生まれた才能やら環境やらに進む道を決められているよなー。人間って。


などとグチグチ考えているとあっという間に放課後になったので、俺はラボに向かった。


「信くん、来たねえ。」


「⋯由津里、お前来るの早すぎないか?まだ、終業時間から5分も経ってないだろ。」


「あ、私、6限の授業出てないから。ちなみに現代文の授業だった。5限目からずっと私はマルチバースのことばっかり考えちゃって、全然集中できないだろうなって思ったから、教室を抜け出してラボで時間潰してたわけ!」


⋯こいつ、もしかしてサボり魔か?


「それよりも、彼女、どこにいるんだろうねえ。」


「⋯堤下つつみしたるり子さんか?」


「そう、るりちゃん。同じクラスなんだけどねー。あんまりしゃべったことなくて。おとなしい子ではあったんだけれど。」


急に消えた生徒。堤下るり子。


そう、俺が今このエンタングルメント・ラボで取り組んでいることはーーーー


「消えた生徒を探すこと」だ。



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最後までお読みいただき、ありがとうございます。

作品の感想を、★〜★★★★★で評価していただけると嬉しいです。

今後の創作の励みにさせていただきます。

どうぞよろしくお願いいたします。

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