第4話「嘘の代償」
舞踏会は一瞬の静寂に包まれた。
倒れた令嬢、動揺する貴族たち、そして澄玲――。その視線は、まだ犯人を逃さずにいた。
「隼人、見て。犯人たちの呼吸、わずかに乱れているわ」
澄玲はゆっくりと歩みを進める。マントの裾が床に擦れ、広間の光を受けてきらめいた。
「嘘は、呼吸や視線に出る。人は必ず己を守るために嘘をつく――そして逃げることも」
隼人は息を飲む。
「澄玲様……本当に、人の心のすべてを見透かしている……」
「見透かす……というより、嗅ぎ分けるの。隠そうとしても、心の闇は漏れるものよ」
澄玲は冷ややかに微笑み、二人の犯人に視線を固定した。
「さあ、真実を白日の下に晒す時間よ」
まずは金の刺繍の仮面をつけた男。
その指先はまだ微かに震え、唇を噛みしめる。
澄玲は一歩近づくと、指先でそっと彼の肩を突いた。
「毒を仕込んだ理由は、己の地位を守るため……ね。隠しても無駄よ」
男の瞳が一瞬揺れる。
「……私……」
「言い訳は不要。嘘は丸見えよ」
澄玲の声は甘く、しかし鋭い。広間に響き渡る。
次に視線を向けたのは、先ほど震えていた令嬢。
白いドレスの裾を握りしめ、顔を伏せる。
「あなたも共犯ね……手首の痣、そして呼吸の乱れ。すべて、逃げられない証拠よ」
令嬢の肩が小さく震える。
「う、嘘……そんな……」
「嘘ではないわ。真実は必ず見える。人の心は、隠そうとしても脆いのよ」
澄玲は鋭く睨む。
「罪を犯せば、必ず代償はある――それを忘れてはいけない」
隼人は二人の犯人を見て、思わず肩を落とす。
「……澄玲様、これで事件は……」
「まだ終わらないわ」
澄玲は視線を広間に巡らせ、舞踏会の全員を観察する。
「仮面の下には、まだ嘘つきが潜んでいる。毒を仕込む者、隠す者、知らぬふりをする者――すべて、私には手に取るようにわかるの」
男と令嬢は恐怖に震え、隠そうとした秘密を次々と吐き出した。
澄玲は冷ややかに頷き、隼人に囁く。
「見なさい、隼人。人は嘘で自分を守ろうとする。けれど、嘘の代償は必ず返ってくる――それが今日の教訓よ」
広間の華やかな灯りが、二人の周囲を優しく照らす。
しかし澄玲の瞳は冷徹で、夜の闇よりも深く、人の心の奥底を射抜いていた。
「ふふ……今日の夜は、悪趣味な娯楽としても上出来ね。犯人の顔色を眺めるだけで、十分に楽しめるわ」
隼人は小さくため息をつく。
「……澄玲様、本当に、やめられませんね」
「当然よ。私の遊びは、まだ終わらない」
澄玲の微笑は冷たくも華やかで、舞踏会の夜にひときわ映えていた。
その瞬間、広間の扉がわずかに軋んだ。
澄玲の瞳が瞬間で扉に吸い寄せられる。
「ふふ……誰かが、まだ私の遊びに参加したいらしいわね」
夜は長い。嘘と罪に塗れた仮面の街で、令嬢の狩りは続く――。




