第3話「仮面の裏の真実」
舞踏会は依然として華やかに続いていたが、広間には緊張の空気が漂っていた。
仮面の下で震える手、かすかな瞳の動き――澄玲はそのすべてを見逃さなかった。
「ほら、隼人。見て、この微妙な顔色の変化」
澄玲は小さく笑い、金の刺繍が光るマントを翻す。
「嘘つきは必ず、心のどこかで自分を守ろうとする。そこを突くのが私の流儀」
隼人は背後で唸る。
「澄玲様、あなた……本当に人を丸裸にする気ですか……?」
「もちろん。今日は遊びじゃない。犯人を見つけ、罪を暴く――それだけよ」
澄玲の瞳には、冷たい光が宿っていた。
広間の奥、仮面の男――先ほど毒を仕込んだと見抜いた人物――が人目を避けるように壁際へと退いた。
その動きが小さくても、澄玲には見逃せない。
「動きがぎこちない……ほら、隼人、あの男の手首。指先の震えを見なさい。毒を隠した者は、動揺を隠せない」
隼人が息を飲む。
「……確かに、少し震えていますね」
「そして表情。頬の赤みの変化、唇の微かな歪み――すべてが嘘の証拠」
澄玲は手袋を指で軽く弾きながら、ゆっくりと男に近づく。
その歩みは華やかで、まるで舞踏そのもののようだ。
「さて……あなた、毒を仕込んだ理由は?」
澄玲は静かに、しかし断固たる口調で尋ねた。
男の目が一瞬泳ぐ。だがすぐに、必死に取り繕うように答える。
「い、いや……私では……」
「嘘ね」
澄玲は笑みを浮かべる。
「私には無駄。嘘は丸見えよ。あなたは自分の地位を守るため、誰かを犠牲にしたのね?」
男は固く唇を噛む。広間の音楽と談笑が、今は異様に遠く感じられる。
澄玲は軽く首をかしげ、目を細める。
「でも、犯人はひとりじゃない――共犯者がいるはず。隼人、気づいてる?」
隼人は肩をすくめる。
「……ええ、確かに動きが不自然な令嬢がもう一人……」
「ふふ、面白い。嘘つきの連鎖、これぞ仮面舞踏の醍醐味」
澄玲は笑みを深め、再び広間を見渡す。
「さあ、仮面を外す時間よ。嘘と罪に塗れた顔を、すべて私の目の前に晒しなさい」
その瞬間、広間の隅で別の令嬢が視線を逸らした。
手首を押さえ、微かに震えている。
澄玲は鋭く睨む。
「ほら……二人目。やはり嘘は連鎖する」
隼人は思わず後ずさる。
「澄玲様、まさか……」
「二人で仕組んだのね。小さな毒、見えないように分担――でも、手の震えは誤魔化せない」
澄玲はゆっくりと歩を進め、二人を視線で追い詰める。
「罪を隠すほど、愚かになる――真実は、必ず見抜かれるのよ」
男も令嬢も、もはや逃げ場はない。
広間の光が、彼らの嘘と罪を容赦なく照らし出す。
「ふふ……やはり、人の心は滑稽で、愉快で、そして脆い」
澄玲は小さく笑った。
「今日もまた、狩りは成功ね。けれど、夜はまだ終わらない――。仮面の下に潜む真実を、すべて暴き尽くすまで」
隼人は深いため息をつき、澄玲を見上げる。
「澄玲様……本当に、やめられませんね……」
「当然よ。私の楽しみは、ここにしかないのだから」
澄玲の笑みは、冷たくも華やかで、夜の舞踏会にひときわ映えていた。




