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第七章:時間という次元

 銀河航法を習得した私は観測船のクルーに加わった。任務は知的生命体を持つ惑星の調査——地球のような世界を探すことだった。


 我々が訪れた惑星の中に地球に似た環境の世界があった。恒星ケプラー452の第三惑星。大気の組成は地球とほぼ同じで海と陸が存在する。


 だがこの惑星の知的生命体は既に絶滅していた。核戦争による自滅。廃墟となった都市にかつての文明の痕跡が残っている。


 『これは珍しいケースではない』調査チームのリーダーが説明した。『知的生命体の多くは宇宙に進出する前に自滅する。我々はこれを「グレート・フィルター」と呼んでいる』


 「地球も同じ運命を辿るの?」


 『可能性は高い。地球人は現在核兵器と環境破壊という二つの自滅要因を抱えている。統計的には今後200年以内に自滅する確率が73%』


 冷徹な数字だった。だが私は感傷に浸らない。これがハードボイルドの思考法——感情を排除し現実を受け入れる。


 私は廃墟の中で興味深いものを発見した。航空機の残骸。この惑星の知的生命体も空を飛ぶことに憧れていたのだ。機体の設計は地球の航空機と酷似している。


 物理法則は宇宙の普遍的原理。重力があり大気がある惑星では飛行原理は必然的に同じものになる。揚力、推力、重力、抗力の四つの力の均衡——これはどの惑星でも変わらない。


 『君は感慨深そうだな』ゼリアが言った。


 「同じ夢を見ていたのね。空を飛ぶという夢を」


 『そして同じ結末を迎えた。技術の進歩が知恵の進歩を上回ったとき文明は終わる』


 廃墟の中で私は一つの美しいものを見つけた。女性用のアクセサリー。おそらく宝石でできた精巧な装身具。緑と青の混合色で地球のエメラルドに似ている。


 この星の女性たちも美しさを愛していた。文明が崩壊する最後の瞬間まで美しくありたいと願っていた。私はその装身具を持ち帰った。失われた文明への追悼として。


 その後私たちは数百の惑星を調査した。知的生命体が現存する世界、絶滅した世界、まだ進化の途中にある世界。パターンは様々だが共通点もあった。


 どの種族にも芸術への欲求があった。音楽、絵画、彫刻、建築——表現形態は異なるが美を創造したいという衝動は宇宙共通。特に女性型個体にその傾向が強い。


 私は様々な惑星の女性たちと交流した。テレパシーで意思疎通する種族、発光で感情を表現する種族、香りで情報を伝達する種族。コミュニケーション方法は違っても女性同士の共感は成立する。


 ある水の惑星で私は特に印象深い出会いをした。海洋民族の女性プリマは人魚のような姿で水中で生活している。彼女の美的感覚は水の動きと光の屈折に基づいていた。


 プリマは私に水中舞踊を教えてくれた。重力のない宇宙空間での動きに似ているが、水の抵抗が独特のリズムを生み出す。これは宇宙バレエとでも呼ぶべき芸術形態。


 『水は生命の源であり美の源でもある』プリマが水の中で踊りながら言った。『あなたの星の海も同じ美しさを持っているはず』


 私は地球の海を思い出した。太平洋の青い広がり、大西洋の荒波、カリブ海の透明な水。それらは単なる水の集合体ではなく美の表現だったのだ。


 私たちの調査は続いた。時間の感覚が曖昧になっていく。地球の暦で計算すれば数十年が経過しているはずだが、私の身体は変化していない。細胞レベルでの老化停止技術により実質的に不老不死状態。


 だが永遠の命は必ずしも祝福ではない。時間が無限にあるとき一瞬一瞬の価値は限りなくゼロに近づく。これは永生のパラドックス——時間の無限性が時間の意味を無化する。


 私は次第に変化への渇望を感じるようになった。永遠の航海者としての新しいアイデンティティ。地球人でもあり宇宙人でもある存在。過去と未来を結ぶ橋。



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