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第二章:選択の十字路

 脳内で計算が駆け巡る。現在の燃料残量は約300リットル。フライト時間2時間。対地速度150ノットとすれば航続距離は300海里。だが未知の島までの距離は不明。そしてそこに着陸できる場所があるかも分からない。


 一方ハウランド島までは推定200海里。計器と推測航法を信じればあと1時間20分で到達できる計算だ。だがもし計算が間違っていれば太平洋の墓場が待っている。


 私の脳は冷徹に選択肢を分析した。これがハードボイルドの思考法——感情を排除し確率と論理だけで判断する。レイモンド・チャンドラーが描く探偵フィリップ・マーロウのような冷静さ。


 選択肢A:計器を信じてハウランド島を目指す

 成功確率:60%

 失敗時の結果:太平洋上での墜落、即死


 選択肢B:未知の島を目指す

 成功確率:40%

 失敗時の結果:不明な地形での不時着、生存可能性あり


 私は操縦桿を切った。新たな進路240度。未知の島へ向かって。


 なぜそうしたのか。論理的説明はできない。だがエリザベス・コクランが言ったように——彼女はネリー・ブライの筆名で知られる19世紀の女性ジャーナリスト——「時には直感が理性を凌駕する」。私の本能が囁いていた。私の旅はここで終わるべきではないと。


 フランの手首のブレスレットが計器盤の光を反射して輝いている。彼女が意識を失っても、そのアクセサリーは彼女の存在を主張し続けている。女性の美意識は生命力そのもの。どんな困難な状況でも美しくありたいと願う心が、生きる力を与えてくれる。


 無線からはイタスカの呼びかけが続いていた。だが私はもう応答しなかった。電波を傍受されれば私の新たな進路が発覚する。私は意図的に通信を絶った。世界に対してアメリア・イアハートという物語を終わらせるために。


***


 エンジンが咳き込んだ。燃料計の針が赤いゾーンに入る。プラット・アンド・ホイットニー・ワスプエンジンの最後の力を振り絞り、私たちは白い砂浜を目指した。


 着陸アプローチ速度80ノット。フラップ全開で失速速度を65ノットまで下げる。だが滑走路はない。ただの砂浜だ。車輪を出せば軟らかい砂に突っ込んで機体が転覆する可能性が高い。胴体着陸を選択する。


 高度50フィート、40フィート、30フィート——。私は機首を微妙に上げ可能な限りソフトタッチダウンを試みた。


 衝撃。金属の悲鳴。砂が舞い上がりコックピットの計器が踊る。機体が砂浜を滑り左翼が珊瑚に接触して折れる。ガラスが粉砕され私の意識は暗転した。



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