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第5話 砂月ちゃんに、そんな陳腐な役、似合わない!


脚本の内容を簡潔に言うと―― 昔々、大きな城に、仲の悪い継母と、かまぼこ姫が住んでいた。ある朝、二人は、赤い蒲鉾と白い蒲鉾、どちらが美味しいかで大喧嘩をした。そこで、かまぼこ姫は、アンケートを取る旅にでた ――らしい。


(どうして誰も反対しないの?一人だけ反論して、悪者になりたくないって事?さっきの拍手は、どうなった?)


 砂月が、心中で嘆いていると、右隣の女子、草野くさの 蒼花あおかが、顔を覗き込んできた。


「砂月ちゃんは、どの役やりたい?」


「え?」

 

『この劇自体、やりたくない!』と即答できたら、どんなにいいか。

 はっきり言えない内気な性格ではなく、単に面倒臭がりなので、当り障りのない返答をした。


「私、人前で話すの苦手だから、動かない役がいい。喋らなくてもいい役、かまぼこ板とか?」


 微笑んで本音を告げると、蒼花が、両目をくりくりさせて大声を上げた。


「ええええっ!!嘘でしょ!?砂月ちゃんに、そんな陳腐な役、似合わない!この美貌は、主役系、メイン役でしょ?」


 砂月は、思わず口の端が引き攣った。


(陳腐……なかなか毒舌。かまぼこ板になる人に対して、随分と失礼ね)


 美貌と褒められて嬉しくなかったのは、人生で初だった。

 急に教室がしんとして、砂月は非常に嫌な予感がした。


 一番後ろの席から恐々教室を見渡すと、皆が一斉に後ろを振り向いたので、ぎょっとした。彼らは目を細めて、うんうんと頷いている。


「じゃあ、かまぼこ姫は、砂月さんに決定!」


 パンダ顔の坊主頭が言うと、又もや全員が一斉に頷いた。

 加えて拍手までしてきた。先生まで!


 アイドルなんか目じゃないさ!というくらい美顔の副委員長、茅野かやの かなでが、やる気ゼロの三上に代わって、赤いチョークで黒板に名前を書いた。


        かまぼこ姫 砂月


(嘘でしょ!?この歳で、かまぼこやるの!?)


  砂月は、呆然となった。


  帰り道、この災難を、幼馴染の夕子と佐助に愚痴っていた時、なぜか口をついて出た。


  「ねえ、私の初恋の相手、覚えてる?」


  「うん、もちろん。保育士さんでしょ?あのイケメンの!その次は、小学校の校長先生ラブだったね、あのダンディな!」

  

  夕子が即答すると、佐助が、不機嫌な顔で突っ込んだ。


  「保育園児や小学生の恋なんて、恋に入らねえだろ」  


  「……恋に入らない?」


   砂月が、呟くように言うと、佐助が、顔をしかめて言った。


  「当り前だ!第一あれは、友達に聞かれて、適当に言っただけだったろ?覚えてないのか?おまえは、誰にも恋したことなんかねーよ!バカ言ってないで、ちゃんと宿題しろよ。単位やばいんだから!」


  「えー、なんかお母さんみたーい」


   夕子が唇を尖らせると、佐助が、夕子の額を人差し指で突っ突いた。


  「うるせー、おまえも勉強しろ!」


  砂月は、さきさき歩く楽しそうな二人の言い合いを、後ろで黙って聞いていた。


(そっか、私、初恋もまだだったのかあ……いつ大人に戻れるんだろう……私、戻りたいのかな………)


  ふいに、ピーヨピーヨと鳴く灰色の鳥を見て思い出した。

  小学生の頃、図鑑で調べた事がある。

  「ヒヨドリって、言うんだって」折角だから、弟に教えたが、「ふーん、やかましい鳥だね」の一言で片付けられた。


  いつでも何かを見つけていた、あの頃を急に懐かしく思えて、空を見上げた。


  (私、未来に帰りたくない)


  夏の風に、秋の匂いが少し混じった。

  空き地を横目で遣ると、秋を待つ白い山茶花の木が、記憶の端をつついた気がした。


  「……白いサザンカの花言葉は、「あなたは私の愛を退ける」だっだよね?誰に、教えて貰ったんだっけ?」


 砂月は、不思議に思って首を傾げた。


 「俺だよ」


 「え?」


  振り向いた先に、金髪の美男子が立っていた。


「三上くん?」


 「おまえも、過去に来たんだな、ミハル」


  懐かしい名前を呼ばれた気がした。


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